• 検索結果がありません。

非線形性の見積もり手法

ドキュメント内 sugi doctor final0313 (ページ 72-81)

第 4 章 確率的フラッシュ AD 変換器の設計理論 49

4.5 非線形性の見積もり手法

-5 0 5 10 0.2

0.4 0.6 0.8 M=11

PDF

-10

Normalized input voltage [σ] σ=0.6

σ=1.4 σ=1

4.13 オフセット電圧分布のバラツキσがばらついた場合の例.バラツキが小さくなる と影響がでるので予め間隔を狭くとっておけば問題にはならない

第2に,実際には製造の際に決まるオフセット電圧バラツキの標準偏差σだけでなく電源 電圧VDD の制約があり,無制限に分割組数を増やして入力範囲をVDD より拡大しても意味が ない.すなわち,σVDD から決まる範囲内で最大の分割数となるようにしなければならな い.したがって,実際の設計においては,これらの制約を設計指針として,必要な分割組数を 決めることになる.

を示す.次に,実際には所望の精度に対して過剰に比較器を利用して,量子化雑音を極端に小 さくすることは経済的ではないため,有限個の比較器を使用することによる歪の影響を考慮し た検討を行う.

さらに,第3章で述べたように,確率的フラッシュAD変換器の量子化雑音は入力と相関が あり,リファレンス電圧(=オフセット電圧の PDF)の線形性の改善のみでは不十分である ことを述べる.入出力の相関の影響は,線形性の指標である信号対最大高調波歪比(spurious

free dynamic range;SFDR)の劣化として観測される.問題の本質は入出力の相関であるため

これを解消する方法を提案し,その結果SFDRが改善されることを示す.

4.5.2 SFDR の見積り

非線形性を評価する方法として,入出力特性を多項式近似し,各次数の項から発生する高調 波を評価する手法が一般的である[59].この手法では非線形な入出力特性の近似に多項式を使 うため,低雑音アンプ(LNA) など小信号入力の解析に適している.しかし,多項式では飽 和のある特性を十分近似することが出来ないため,AD変換器のような飽和特性を有する系に 大きな信号を入力してクリップが生じる状況の評価には適さない.

飽和のある非線形特性の飽和付近における挙動を解析する方法として,入出力特性を正弦 級数で近似し,高調波歪や相互変調歪の解析を行うAbuelma’atti の歪解析手法が知られてい る[60].本論文ではその手法によって基本波と高次歪との入力振幅依存性を計算し,基本波と 歪の比からSFDRを見積もった.

Abuelma’attiの歪解析手法

飽和特性の飽和付近を解析する方法として,飽和のある入出力特性を正弦級数で近似し,高 調波歪や相互変調歪の解析を行う手法がある[60].その概要を説明する.

扱う系は静的な非線形特性であるとし,出力y= f(x)が入力xの奇関数であると仮定する.

次に,これを近似したい範囲T にわたって M項のフーリエ正弦級数で近似する.すなわち,

f(x)|x|≦T/2の部分を周期T で繰り返すよう,フーリエ正弦級数で近似する.

y=

M

k=1

γksin2πk

T (4.4)

ただし,yが奇関数なので,フーリエ係数γk

γk=









 8 T

T/4

0

f(x) sin2πk

T x dx : for odd k

0 : for even k

(4.5)

となり,奇数次の調波のみで近似される.

次に,x(t)=Vcosωtなる単一余弦波が入力されたとすると,これに対する出力は

y(t)=

M

k=1

γksin (2πk

T Vcosωt )

(4.6) と表せる.ここで,Bessel関数に関する公式

sin(zcosθ)=2

+

k=0

(−1)kJ2k+1(z) cos(2k+1)θ (4.7) を用いると,出力における各次数の高調波成分の振幅が次のように求められる.

y(t)=

M

k=1

γk





J0( ˆVk)+2

+

l=1

(−1)lJ2l+1( ˆVk) cos 2lωt





 (4.8)

ただし,Vˆk = (2πk/T)V と置いた.すなわち,出力の第n次高調波の振幅Vn は(符号を除い て)次のように表される.

Vn =2

M

k=1

γkJn( ˆVk) (n=1,3,5,· · ·) (4.9)

Abuelma’attiの歪解析手法を利用した見積もり結果

図4.14は以上のようにして計算した M = 1の正規分布に対する基本波成分 (Fund.)および

3次歪成分(HD3)5次歪成分(HD5)の入力振幅依存性である.同図のとおり,歪成分は全

入力領域で3次が支配的であるから,M= 1の場合,SFDR3次のインタセプト点(IIP3) 特徴付けできる.同図の横軸はσで正規化してある.

同様にして計算した M = 1 ∼ 5の最大平坦設計と近似的に平坦設計した M = 11組の場合 に対する入力振幅と出力の第3次高調波の依存性を図4.15に示す.

例えば,M = 11の設計例で6ビットのAD変換器を実現するには,SFDR6ビットの SNRである37.8 dBを下回らない必要があるので,同図から,3次のSFDRSNRを下回ら ない約8σ以下に範囲に入力範囲を制限する必要があるなどの設計指針が得られる.

4.5.3 比較器の利用効率

平坦化したPDFが左右対称形であることを利用し,利用率η(x)は以下の式から見積もら れる.

η(x)=2

x

0

fM(x)dx (4.10)

xは入力振幅を標準正規分布の標準偏差σで規格化した振幅である.

たとえば,M = 3のとき 6ビット相当の線形性を得るためには図4.14 より,入力振幅を

±2.01σにする必要があることがわかる.このときの比較器の利用効率はPDFAD変換に 寄与する範囲を積分することで得られるので,

η(6)=2

6 0

f3(x;d1, α)dx≈0.92 (4.11) となり,約92%の利用率となる.全ての比較器を利用した場合と比較してもSNDRの劣化 分はわずか0.4 dB程度に留まる.一方線形化しない場合は利用効率はわずか40%程度である からSNDR換算で3 dB以上低い精度しか得られず,全比較器の60%LSI上に無駄に存在 することになる.

以上のように提案手法による線形化は線形性の改善とともに比較器の利用効率も改善し回路 面積の観点からも効率が良い.

4.5.4 数値シミュレーションによる有限個の比較器を用いた場合の検討

前節までの検討の結果,オフセット電圧分布が標準正規分布に従う場合についてSFDR 値を設計する方法がわかった.しかし,実際には比較器を無限個使用することは不可能である し,回路規模や消費電力の観点からできる限り比較器の総数は少ない方が良い.さらに,比較 器の数が有限である場合,オフセット電圧の分布は統計的変動により必ず正規分布からのバラ ツキを含む分布となる.すなわち,提案手法で設計できるのはSFDRや最大入力範囲や比較 器の利用効率に関する「期待値」であって,そのバラツキがどれくらいの範囲に分布するかを 知ることはまた別の問題である.

そこで,バラツキを設計することは困難であるため,次の課題としてオフセット電圧分布が 正規分布的であるとして,有限個の比較器を用いて,統計的バラツキがある場合の影響を数値 シミュレーションによって検討する.

数値例として,統計的変動の存在下で実際に6ビットの線形性を得る方法についてMATLAB シミュレーションによって確かめる.線形性の指標としてSFDRを用い,FFTを用いてその 値を算出した.

4.5.5 比較器必要数の見積

まず,理想状態と同等のSFDRを得るためには何個の比較器が必要であるかを知るために,

次のような順序で比較器の必要数を見積もる.

0.2 0.5 1 2 5 –50

–100

–1500.1

Output harmonic component [dB]

Normalized input amplitude A

0

HD3

HD5 Fund.

IIP3

M =1

4.14 入力振幅に対する基本波信号,3次高調波および5次高調波の関係(M =1

0.1 0.2 0.5 1 2 5 10

Normalized input amplitude

Output harmonic components [dB]

M=1 2 3 4 5

HD3 Fund.

11

37.8 dB

8 Maximally flat design – 40

– 80 0

– 20

– 60

4.15 線形化確率的フラッシュAD変換器の高調波歪みと入力振幅の関係.

(1) 比較器が無限個の場合の入力振幅に対する歪の特性を計算し,必要な線形性を得られる 入力レベルを探す.

(2) 上記(1)で求めた入力レベルを有限個の比較器を用いた確率的フラッシュAD変換器に 入力し,解析結果のSFDRを調べる.

(3) 上記(2)SFDR(1)SFDRになるまで比較器の数を増やす.このときの比較器の 数を6ビットの線形性を得るために必要な数とする.その際,比較器の個数を変更する

ごとに1,000回のシミュレーションを行い,その平均値と標準偏差を求めておく.

上記の方法で比較器の必要数を見積もった結果を図4.16 に示す.青線が2組の最大平坦近 似,緑線が3組の最大平坦近似,赤線が11組での平坦近似の場合の平均値をそれぞれ示して いる.また,同図中のエラーバーは平均値に対する標準偏差の範囲を示している.37.8 dB 破線は6ビット相当の線形性を示している.また,各 Mについて用いた入力の振幅値も同図 中に示した.

同図から M= 11の場合にはバラツキは大きいものの1,000個程度で6ビット程度の線形性 が得られているのが見て取れる.また,分割組数が少ない場合でも,10,000個程度の比較器を 用いることで理想値に近いSFDRが得られていることがわかり,さらに Mが大きいほどバラ ツキの標準偏差が少ない傾向がわかる.より比較器数が多くなると飽和して約38 dBに漸近 していることが見て取れる.この結果から,線形性と分割組数には相関があることと,分割組 数が少ない場合でも10,000個程度の比較器を用いることで期待値と同程度のSFDRを得られ ることがわかった.

4.5.6 線形化手法の評価

前節における必要な比較器数の見積りをもとに,ここではn=10,000個および,n=1,000 個の比較器を用いて提案する線形化手法を適用し,線形化の効果を検討する.同じ比較器を利 用し,M =2, 3, 11の場合について,線形化の効果と,比較器の利用効率の改善効果について 比較する.図 4.17は入力振幅に対する出力の基本波成分と高調波成分の特性である.青緑赤 の線はそれぞれ M = 2, 3, 11の場合に対応し,黒線は理想的な6ビットAD変換器の基本波 と歪みを示している.

比較器の総数をn= 10,000個とした場合,前節の見積もりで用いた入力振幅値における基 本波と歪みとの比がいずれの方式でも6ビット以上なることが図から確認できる.また,歪成 分の飽和する付近では解析解(鎖線)とシミュレーション結果がよく一致しているが,振幅が 小さくなるにつれ乖離が大きくなる.これは,PDFが完全な正規分布であれば対称性から打

ドキュメント内 sugi doctor final0313 (ページ 72-81)