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解析の仮定

ドキュメント内 sugi doctor final0313 (ページ 36-42)

第 3 章 確率的フラッシュ AD 変換器のモデル化 25

3.3 一般的な確率的フラッシュ AD 変換器の動作原理

3.4.1 解析の仮定

解析にあたっては次のような仮定を設ける.

(1) 本論文で取り扱う個々の比較器は,ある定まった閾値θよりも大きい信号xが入力され たとき,出力値y= 1を出力し,それ以外のときy = −1を出力する素子であると定義

Analog input

Digital output

V1

. . .

V2 V3

VN

SUM

3.3 確率的フラッシュAD変換器の基本的な回路構成

– 4 – 2 0 2 4

0.0 0.2 1.0

0.4 0.6 0.8

PDF;g(x) CDF;G(x)

PDF and CDF

Normalized offset voltage x Normal distribution

µ=0, σ2=1

3.4 標準正規分布の確率密度関数(PDF)g(x)および累積分布関数(CDF)G(x). 破線は 一様分布の場合.

する.すなわち,出力yのフルスケールの幅は2であり,数式では

y= sign(x−θ)=





1 for x≧θ,

−1 for x< θ. (3.4)

と表現できる.ここに,sign(·)は符号関数である.

(2) 比較器の閾値θはθ∈(−1,1)の範囲で一様分布する確率変数であり,個々の比較器ごと に決まった値をとるものとする.

(3) 個々の比較器へのアナログ入力信号 x は上記(2)で閾値が存在する範囲,すなわち

x∈(−1,1)の範囲に分布し,入力のフルスケールの幅は2である.

(4) 入力アナログ信号xと閾値θは互いに独立な確率変数である.

上の仮定(1)により,入力信号がどのような波形であっても,それぞれの比較器で量子化 された出力信号は矩形状の波形となり,量子化した際の誤差が非常に大きいことがわかる.

また,各比較器を1ビット量子化器と考えると,量子化雑音は出力された矩形波と入力信号 との差であるから,量子化雑音は入力信号の波形に強く依存する.比較器の出力振れ幅と入力 信号の振れ幅が仮定(1)と(3)により同じであり,かつ,比較器の出力が2値であるから殆 どの場合に量子化雑音は一様分布しないと考えるのが自然であろう.すなわち,xεには大 きな相関があり,独立ではないと考える必要がある.

これに対して,比較器の閾値電圧と,これから入力すべき信号電圧は無関係であるから,仮 定(4)は自然な仮定であり,この仮定により xとθの結合確率密度関数がそれぞれのPDF 積として表される.

ところで,仮定(2)では閾値の一様分布を仮定しているが,比較器の閾値は一般に正規分布 するといわれている[33].しかし,非線形歪を低減するために閾値の分布は一様分布であるこ とが望ましく,正規分布する確率変数から近似的に一様分布する確率変数を合成する手法が存

在する[33, 38].したがって,この仮定は現実的なものであり,本検討では閾値の分布を一様

分布として扱う.なお,著者らが提案する一様分布の合成手法(線形化手法)の詳細は第4章 で述べる.

3.4.2 1 ビット ADC の量子化雑音 PDF とその分散

量子化雑音は入力信号によって異なるので,本節では1ビットAD変換器にフルスケールに わたって振幅が一様分布する信号を入力したときの,量子化雑音のPDFを求める.

ある比較器の出力y と入力アナログ信号値 xの差,すなわち量子化雑音 ε は次式で表さ れる.

ε≡y−x=sign(x−θ)−x (3.5)

つぎに,具体的にxθPDFを与えて,量子化雑音εPDFがどうなるかを調べる.解

析の仮定( 3 )により,入力信号 xPDFは一様分布であるから,その分布がフルスケール以

下の範囲にわたる場合,すなわちx∈(−α, α)かつ0< α≤1の場合,PDF pdfx(x)= u(x+α)−u(x−α)

2α (3.6)

と表され,閾値θのPDFも解析の仮定( 2 )によって

pdfθ(θ)= u(θ+1)−u(θ−1)

2 (3.7)

で表される.ここで,u(·)は単位階段関数である.

さらに,解析の仮定( 4 )より xθは互いに独立な確率変数であるから,xθの結合確率 密度関数pdfx,θ(x, θ)は両者の積で与えられ,

pdfx,θ(x, θ)=pdfx(x)×pdfθ(θ) (3.8) となる.式 (3.5)は入力信号 x と閾値θがどのように量子化雑音 εに変換されるかを表して いるので,この変換関係を関数ε= g(x;θ)と表す(図3.5(a)参照).このとき,θをパラメー タと考えて量子化雑音εPDFを入力信号xPDFを用いて表すと,PDFの変数変換の公 式[50]によって次式のようになることが知られている.

pdfε(ε;θ)=

m

l=1

pdfx(fl(ε;θ))

dfl(ε;θ) dε

(3.9) この場合,fl(·) は各 θ に対して量子化雑音 ε を出力するような入力 x を与える対応関係 x= fl(ε;θ)であり,先の関数g(·)の逆関数である.g(·)は1価関数であるが,その逆関数は2 価関数になる(図3.5(b)参照).そこで,区分的に1価関数となるように分割すると,この場 合はm=2個に分割できて

x= f(ε;θ)=





f1(ε)=−ε+1 : x> θ,

f2(ε)=−ε−1 : x< θ. (3.10) である.ここで,式(3.9)総和の記号は,g(·)の逆関数をm個の1価関数に分割し,その総和 を取ることを表す.

最終的な量子化雑音εPDFは,一様分布する入力信号xの振れ幅に依存するので,α= 1

とα <1のふたつの場合に分けて考察する.

■入力が x∈ (−1,1)の一様分布の場合(α = 1) これは入力がフルスケールの範囲いっぱいに 分布する場合である.逆関数 f(ε)はそのグラフからわかるように|ε|< 2の範囲において 2 関数となる部分があり,ε=−θ±1の2点において不連続になる.しかし,これらの不連続点 を除いて傾きが−1の直線になるから,|dfl/dε|=1である.図3.6に示す,α=1の場合を考 えると明らかなように|x|< 1で一様分布するpdfx(同図(a))は−θ−1< ε < −θ+1で一様分 布するpdfε (同図(c)の破線)に変換される.すなわち,

pdfε(ε;θ)= u(ε+θ+1)−u(ε+θ−1)

2 (3.11)

-2 -1 1 2

-2 -1 1 2 3

0 Θ

Input x 1- x

- x ε = g(x) = sign(x -Θ ) - x

Q error ε

(a)

(b) 1− ε

−1− ε

-2 -1 1 2

-2 -1 0 1 2 3 Θ

Input x

x = f( ε ) Q error ε

3.5 入力xと量子化雑音εの関係.

(a)ε=g(x), (b)x= f(ε)

を得る.このθをパラメータとするεのPDFは幅が2で高さが1/2の一様分布が,区間(−2,2) 内をθの値に応じて左右に動く,というものである(同図(c)).すなわち,ある1ビットADC の量子化雑音PDFは入力が一様分布であるという仮定のもとで常に一様分布し,区間(−2,2) 内のθの値に依存した位置に入力フルスケールと同じ幅で分布する.

実際の設計に際して興味があるのは,個別の比較器の量子化雑音ではなく1ビットAD変換 器のアンサンブル全体の量子化雑音 PDFの分布と分散(量子化雑音電力)である.それを知 るには,取り得るθに対する期待値と分散を計算すれば良い.

したがって,式(3.11)のパラメータθについて期待値を計算すると

pdfε(ε)=

+

−∞

pdfε(ε;θ) pdfθ(θ) dθ

=









2− |ε|

4 : |ε|< 2, 0 : |ε|≧ 2.

(3.12) となり,これは高さが1/2で底辺が長さ 2の二等辺三角形であるから(図3.6(c)中の黒線プ

1

−1 0

0 1 −1

x

ε

pdf

x

pdf

ε

(ε;θ)

ε = sign ( x − θ ) − x

x

1/2

θ

(a) (b) (c)

−2 2

1

−1

0 1

−1

1/2 2

−2

θ = 0

θ = 1 θ = − 1

2

2

−2

−2

x − 1

x + 1

θ

− θ + 1

− θ − 1 pd f

ε

(ε)

3.6 入力 xPDFから量子化雑音εPDFを導く.(a)入力xPDF(b)x, θと量 子化雑音εの関係,(c)εθをパラメータとするPDF,およびεだけのPDF

ロット参照),量子化雑音εの平均と分散はそれぞれµ=0, σ2 =2/3である*3

特に,θ = 0の閾値バラツキのない理想的 1ビットAD変換器の場合,その量子化雑音の PDFε∈(−1,1)の一様分布となり,その平均と分散はそれぞれµ=0, σ2 = 1/3となる.す なわち,閾値バラツキのない理想的1ビットAD変換器では,一様分布する入力が加えられて も特にどの値の入力で量子化雑音が大きいということはない.しかし,閾値バラツキのある確 率的フラッシュAD変換器の場合は,ゼロ付近に分布する量子化雑音が多く,大きな量子化雑

*3pdfε(ε;θ)は結合確率密度関数ではなく,単にθをパラメータとしたεに関するPDFであるから,この操作は 仮に結合確率密度関数pdfε(ε, θ)が分っていたとすると,そのθに対する周辺分布を計算することに相当する.

音ほど少ないことがわかる.さらに分布の分散も大きくなり,精度が劣化することが解析から わかる.

■入力xの振れ幅が(0 < α < 1)の場合 これは入力がフルスケール範囲の一部に分布し,フ ルスケールいっぱいに振れることのない場合である.図3.7は一例としてα=0.5のときの量 子化雑音のPDFを求める様子を示すものであるが,同図(c)から明らかなように0< α < 1の 場合はpdfε(ε;θ)が左右に分離する.作図のプロセスから明らかなように,pdfε(ε;θ)ε=±1 を中心とする幅が2αで高さが1/2αのふたつの短冊状の領域を,θの値に応じて幅の合計が 2αとなるように動き回る.図3.7の黄色で影を付けた部分は,θ ≈ 0.3のときの様子であり,

pdfε(ε;θ)は同図(b)の青線(−x+1)で写像された幅約0.2の上側の短冊部分と,同図(b)の赤 線(−x−1)で写像された幅が約0.8の下側の短冊部分に分かれる.

これを全ての θ ∈ (−1,1) について平均すると,同図 (c) 中の黒線で示した pdfε(ε) を得 る.その形が短冊を斜めに切り落とした形となるのは,オフセット量 θによらずε= 0側の ε=±(1−α)では常にpdfε(ε;θ)が値を持つのでεの存在確率が高く,逆にε=±2に近い側で はθの大きさに依存して値を持つ部分の幅(黄色で影を付けた部分)が変化するのでεの存 在確率が次第に低くなるからであり,実際,θに関する期待値を計算するとε=±(1−α)から ε=±(1+α)に向かって直線的に変化するpdfε(ε)が得られる.すなわち,0< α≤1に対して

pdfε(ε)=









2−ε 4α

: 1−α <|ε|<1+α

0 : それ以外

(3.13) を得る.したがって,この一様分布する入力に対する確率分布の平均をµu,分散をσ2u とす ると

µu = 0, (3.14)

σ2u = 1− α2

3 (3.15)

であり,αが小さくなるとσ2u は急速に1へ漸近する.

これで個々の比較器が属する無限母集団の量子化雑音の母平均および母分散が求まった.

ドキュメント内 sugi doctor final0313 (ページ 36-42)