第 7 章 結言 141
A.1.2 ピアソン分布関数による PDF の近似
0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 2.4
2.6 2.8 3.0 3.2 3.4 3.6
Variance σ
2Kurtosis κ
N =1 2
3 4 11
18 N 5
9 – 5 κ =
図A.2 nをパラメータとする分散と尖度のプロット
以上は入力がフルスケールの一様分布の場合であったが,同様の手法で入力振幅がFSの 1/4くらいになると,尖度はほぼ3.0になり,正規分布と殆ど同じになる.PDFも原点での尖 りが消滅し,丸みを帯びた正規分布風になる.
イプ4のピアソン分布Pを定義する*1: P[µ, σ, β1, β2]
= PearsonDistribution[type,a1,a0,b2,b1,b0], (A.7) ここで,
type= 4 (A.8)
a1 = 2(9+6β1−5β2), (A.9)
a0 = −12µβ1−σ√
β1(3+β2)+2µ(−9+5β2), (A.10)
b2 = 6+3β1−2β2, (A.11)
b1 = −6µβ1+4µ(−3+β2)−σ√
β1(3+β2), (A.12) b0 = 6µ2+3(µ2+σ2)β1
−2(µ2+2σ2)β2+µσ√
β1(3+β2) (A.13)
と置く.
我々のPDFは平均値 µ= 0かつ左右対称だから歪度=0すなわち β1 = 0,また,分散の式 (A.3)と尖度の式(A.5)=β2 より,P[
√2
3n,0, 65(3nn−1)]と表すことができる.比較器数nが大き くなるとσはゼロに漸近するから,ピアソン分布では表すことができない.図A.3にn = 10 とn= 1,024の場合のPDFを示す.
結論として,4次のモーメントまで考慮することにより,ピアソン分布によるPDFの近似は 正規分布よりもよく適合するものの,それほど大きな違いとは言えないようだ.
*1定義中,µnはn次の中心モーメントを表す.また,MathematicaのヘルプでPearsonDistributionを調べよ.例 題の中の最後の方に記述がある.また,文献[52]を参照.
Quantization error
1.0 0.5 0.5 1.0
0.5 1.0
Exact
Normal(µ,
P
(µ,σ, 0,κ)σ2) N=10κ=87/25 σ2= 1/15
µ= 0 1.5
(a)
0.10 0.05 0.05 0.10
5 10 15
Quantization error PDF
Normal(µ,σ2)
P
(µ,σ, 0,κ)N=1,024
κ=9213/2560 σ2= 1/1536 µ= 0
20 Simulated
(b)
図A.3 量子化誤差の正規分布とピアソン分布による近似.(a)n=10の場合の厳密なPDF と近似PDF,(b)n=1,024の場合の近似PDF.どちらも実際のPDFが最も尖っているが,
正規分布よりもピアソン分布による近似の方がよりフィットしている.
付録 B
B.1 比較器数の増加に伴う回路面積と消費電力に関する考察
確率的フラッシュAD変換器では,通常のフラッシュAD変換器に用いる比較器のように,
非常に小さいオフセットばらつきを要求されることはなく,むしろ比較器のオフセットばらつ きがある程度大きいほうが設計が容易であるため,最小ディメンジョンのトランジスタを使う ことができる.したがって,回路面積の増加はあまり問題にならないとされているが[33],実 際に一般的なフラッシュAD変換器と比較して,どの程度の影響があるか考察を行う.例とし て,6ビット分解能で電源電圧VDD を1Vと仮定した場合に必要となるフラッシュAD変換器 の比較器の面積について考察する[56].
1LSBの大きさはVLSB = VDD/(26−1) = 15.873 mVなので,およそ16 mV刻みの参照電 圧が必要となる.文献[21]によればバラツキがσ(σはLSBを基準にとる)で与えられると きフラッシュAD変換器のENOBの劣化は,∆ENOB=1/2 log2(1+12σ2)となる.したがっ て,∆ENOBを0.1ビット以内に抑えるためには,σについて式を解くとσ=0.11となる必要 があり,結局オフセット電圧の標準偏差の大きさVoffsetはVoffset =σ×VLSB =0.11×15.873≈
1.75 mV以内に留めなければならないことがわかる.
また,Pelgromによれば,σ2 ≃ A2VT/(LW)が成り立ち,オフセット電圧の分散はゲート面 積に逆比例する[102].AVTは不純物濃度や空乏層幅などから決まる比例係数であり,単位は [mV·µm]である.文献[103]によれば,AVT = 10 mV·µm程度なので,σ =1.75 mV以下に 抑えるためには1個当たりの比較器の面積が,LW = AVT/σ2 ≈32.7µm2になる必要があるこ とがわかる.例えば,ゲート長 Lminを0.18µmと仮定すると,求めるオフセット電圧を実現 するために必要なゲート幅は,W =181.7µmとなる.
一方,確率的フラッシュ AD 変換器はバラツキが大きくても良いので最小寸法のトラ ンジスタを使用できる.したがって,仮に同じ面積で設計する場合ゲート幅の最小寸法 Wmin = 0.44µmとすると確率的フラッシュAD変換器ではトランジスタの数を425個に分割
でき,6ビットであれば63倍の26,775個のトランジスタを使用できる.
第4章で議論した様に,使用する比較器のオフセット電圧が一様分布であるときに,比較 器の総数 n と,得られる確率的フラッシュ AD変換器の SNR の期待値が √
n であるから,
26,775個の比較器 が使用できるとすれば分解能は約44.2 dBとなり,ENOBは7.4ビット程 度が期待される.したがって,少なくとも初段の面積で言えば問題にならず,むしろ同じ面積 であればフラッシュAD変換器よりも高分解能を得られる可能性がある.
付録 C
C.1 入力信号が正弦波の場合の量子化雑音電力
第3.3.1節(p.29)の解析のための仮定( 3 )を次の仮定( 3′)に置き換えて解析する.
( 3′)入力アナログ信号xは区間(−α, α)で振動し,位相が一様分布するランダムな正弦 波とする.すなわち,xの確率密度関数は
pdfx(x)=
1 π√
α2−x2 :|x|< α 0 :|x|> α
(C.1)
と表される.ここで0< α <1とする.
さて,以上の仮定を基に,量子化雑音のPDFを計算する.前節で説明した図3.6 の方法をな ぞればよい.α= 1の場合とα <1の場合に分けて解析する.
■α = 1の正弦波の場合 入力が振幅1の正弦波の場合は図3.6(a)をα=1のランダム位相正 弦波正弦波のPDFで置き換える(図C.1参照).
量子化雑音を与える関数の傾きが−1であるから写像されたPDFの左右を入れ替えること に注意して量子化誤差のPDFを計算すると次式を得る:
pdfε(ε;θ)=
{pdfx(ε−1)+pdfx(ε+1)}
× u(ε+θ+1)−u(ε+θ−1)
2 :|θ|<1 0 :|θ|>1
(C.2)
ここで,{u(ε+θ+1)−u(ε+θ−1)}/2は,幅が2でε=−1−θから始まってε= 1−θまでの 区間で値が1/2,その他の区間で値がゼロの「窓」関数である.式(C.2)のpdfε(ε;θ)を図C.2 に示す.
– 2 0 1 2 0.5
1.0 1.5 2.0
– 1
Input x pdf
x( x )
α=1 α=0.5
図C.1 ランダム位相正弦波のPDF
このpdfε(ε;θ)をθについて平均すると次のPDFを得る:
pdfε(ε)=
∫ +2
−2
pdfε(ε;θ) dθ
=
1 2π
√2
|ε| −1 :|ε|<2 0 :|ε|>2
(C.3)
図C.3のα=1が最終的なpdfε(ε)である.
量子化雑音の期待値µsin−FSと分散σ2sin
−FSを計算すると,
µsin−FS = 0, σ2sin−FS = 1
2 (C.4)
を得る.フルスケールの入力正弦波は振幅が1でその電力は1/2であるが,これは分散に等し い.したがって,正弦波入力の場合は比較器の数がそのままSNDRである.
- 3 - 2 - 1 0 1 2 3
¶ 0.5
1.5
1.0
H ¶ ; ΘL
-1-Θ 1-Θ
図C.2 比較器の閾値θをパラメータとする量子化雑音εのPDF(赤太線の部分).黒の破 線はpdfxを左右に1だけ平行移動したもの.この図はθ = 1/2の場合を示しているが,θ の値に応じて赤の部分が黒の上を左右に移動する.θ=0のとき左右対称な形となる.
– 3
0.2 0.4 0.6
– 2 – 1 0 1 2 3
0.8
α=1 α=0.5 α=0.25
Quantization Noise ε pdf ε ( ε )
図C.3 振幅αの正弦波入力に対する量子化雑音のPDF.α= 1のときだけ蒸留窯状の形 になるが,α <1のときはε=±1を中心とする幅2αの部分に分離する.
著者の研究発表業績
■論文(学位論文関係)
(1) 杉本俊貴,谷本 洋,吉澤真吾,“確率的フラッシュAD変換器に必要なコンパレータ 数の見積もり手法,”電気学会論文誌C(電子・情報・システム部門誌), No. 1, pp.18-25, 2015年
(1)’ Toshiki Sugimoto, Hiroshi Tanimoto, Shingo Yoshizawa, “Estimation of Number of Com-parators Required in N-Bit Stochastic Flash AD converters,” Electronics and Comunica-tions in Japan, Vol.99, No. 6, pp.22-30, 2016((1)の英訳版)
(2) 杉本俊貴,谷本 洋,吉澤真吾,“確率的フラッシュ AD変換器の線形化,”電気学会論 文誌C(電子・情報・システム部門誌), No. 1, pp.8-15, 2016年
■国際学会発表(学位論文関係)
(3) Toshiki Sugimoto, Hiroshi Tanimoto, and Shingo Yoshizawa, “SFDR Improvement of Stochastic Flash ADC by Using Dynamic Element Matching Technique,” The Joint Con-ference 4S-2014/AVIC2014,pp.112-116, Oct.,2014,Ho Chi Minh, Vietnam
(4) Toshiki Sugimoto, Hiroshi Tanimoto, Shingo Yoshizawa, “Stochastic Flash A-to-D Con-verter with Dynamic Element Matching Technique,” IEEE International Symposium on Communications and Information Technologies (ISCIT), pp.307–310, Oct. 2015, Nara, Japan.
(5) Hisato Takehata, Toshiki Sugimoto, Hiroshi Tanimoto, Shingo Yoshizawa, “FPGA Imple-mentation of Stochastic Flash A-to-D Converter and Its Evaluation,” IEEE International Symposium on Communications and Information Technologies (ISCIT), pp.311–314, Oct.
2015, Nara, Japan.
(6) Toshiki Sugimoto, Hiroshi Tanimoto, and Shingo Yoshizawa, “Design of Reference
Volt-age Generator for SFADC with Dynamic Element Matching,” 2016 International Confer-ence on Analog VLSI Circuits(AVIC2016), pp.43–48,Aug.,2016,Boston, U.S.A.
(7) Toshiki Sugimoto, Hiroshi Tanimoto, Shingo Yoshizawa, “Comparator Design for Lin-earized Statistical Flash A-to-D Converter,” International Conference Mixed Design of In-tegrated Circuits and Systems (MIXDES), pp.84–89, Jun., 2017, Bydgoszcz, Poland.
■国内学会発表(学位論文関係)
• 研究会・全国大会
(8) 杉本俊貴,谷本 洋,吉澤真吾, “並列構造を用いたA/D変換器の高精度化に関す る基礎検討,”平成25年電気学会電子・情報・システム部門大会 講演論文集,2013 年9月
(9) 杉本俊貴,谷本 洋,吉澤真吾, “確率的フラッシュAD変換器の線形化,”電気学会 電子回路研究会資料,ECT-14-29,2014年1月
(10) 杉本俊貴,谷本 洋,吉澤真吾, “確率的フラッシュAD変換器の線形化,”平成 26 年電気学会電子・情報・システム部門大会 講演論文集,2014年9月
(11) 杉本俊貴,谷本 洋,吉澤真吾, “閾値が一様分布する確率的フラッシュAD変換器 の量子化雑音の確率密度関数,”電気学会電子回路研究会資料,ECT-17-110,2017 年10月
• 支部大会
(12) 杉本俊貴,谷本 洋,吉澤真吾, “確率的フラッシュADCの非線型量子化に関する 一考察,”平成27年度電気・情報関係学会北海道支部連合大会 講演論文集,2015年 11月
(13) 杉本俊貴,谷本 洋,吉澤真吾, “確率的フラッシュAD変換器のための比較器設 計,”平成28年度電気・情報関係学会北海道支部連合大会 講演論文集,2016年11月
■論文(学位論文以外)
(14) Takuto Takahashi, Toshiki Sugimoto, Hiroshi Tanimoto, and Shingo Yoshizawa, “A Pro-posal of Downconverting A-to-D Converter Based on Even-Harmonic Mixer and Delta-Sigma-TDC,” IEEJ Transactions on Electronics, Information and Systems, Vol. 138, No.1, Jan. 2018. (in press)
■国内学会発表(学位論文以外)