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合成開口レーダー(SAR)は、移動体から照射したレーダー波の地表からの後方散乱波を受信し、その 受信信号を解析することによって、数 m の空間分解能を有する地表画像を得る能動センサーである。レ ーダー波は雲や噴煙等を透過する性質を持っているので、SAR は天候や噴煙の有無を問わずに地表を 観測できるという利点を有している。さらに、受信信号の位相を用いた SAR 干渉法によっては、2時期間 の地表変位による衛星-地表間距離(スラントレンジ)の変化を cm レベルの精度で面的に検出できるとい う特徴を持っている。本課題においては、そのような SAR を用いて、霧島山周辺の地形変化の調査を実 施した。

ア.SAR 散乱強度画像から明らかにされた火口内溶岩の変遷

2011 年新燃岳噴火においては、火口内に溶岩が出現した。その溶岩の変遷を把握することは、火山 活動の推移を理解する上で重要である。特に、その体積の変化は、溶岩の収支等の調査に極めて有用 な情報となる。そこで、陸域観測技術衛星「だいち」の PALSAR、ドイツの TerraSAR-X、カナダの RADARSAT-2 によって観測されたデータを用いて、火口内に出現した溶岩に関する調査を実施した。

得られた SAR 画像の時系列を図 1-6-1 に示す。また、その中から特徴的な変化が捉えられた SAR 画 像の拡大画像を図 1-6-2 に示す。噴火前の 2011/1/18 に取得された画像においては、火口湖の存在を 明瞭に判読できるが、2011/1/27 に取得された画像においては火口湖が無くなっているように見える。ま た、火口中央部に凸形状を持つような強度分布が見られ、それが火口内に出現した溶岩を示す可能性 が考えられる。ただし、火口底に堆積した別のものである可能性もある。2011/1/29 に観測された画像に は、火口底に出現した溶岩が捉えられ、それは 2011/1/31 までの間に急速に増加したこと示している。

2011/2/1 以降においては、溶岩の大きな増加は無いように見えるが、火口内東側の表面形状が滑らか

図 1-6-1 SAR 散乱強度画像。数字付きの画像は、図 1-6-2 に拡大画像を示す。

図 1-6-2 特徴的な変化が捉えられた SAR 散乱強度画像。

図 1-6-3 2/1 に観測された TerraSAR-X 画像に関する溶岩の表面形状の推定例。

図 1-6-4 推 定 さ れ た 溶 岩 の 体 積 の 時 間 変 化 。 赤 丸 は PALSAR、 青 四 角 は TerraSAR-X 、 緑 ひ し 形 は RADARSAT-2 の画像に基づく推定値。

割れ目(2011/2/12)、火口南東縁付近に穴の出現などが捉えられた。このような穴の位置は、噴火が発 生した場所を把握する上で有用な情報であり、噴煙研究等への貢献が期待される。

次に、SAR 散乱強度画像から溶岩の体積の推定を試みた。レーダー波の後方散乱強度を決める要因 の一つは、レーダー波の入射方向に対する地表面の傾斜方向である。よって、地形標高モデル(DEM)

が利用可能であれば、それから SAR 散乱強度画像をシミュレートすることが可能である。逆に、シミュレー トされる SAR 散乱強度画像が観測画像と合うように DEM を改変することによって、溶岩の表面形状を推定 することが可能である。本解析では、溶岩の表面形状を回転楕円体で近似し、その形状に関するパラメ ータをフォワード解析で決定した(図 1-6-3)。その結果、溶岩は 1 月 29 日から 1 月 31 日 の間に急激に 増加し、1 月 31 日における溶岩の体積は 15×106m3に達したと推定される(図 1-6-4)。また、この期間の 増加速度は 8×106m3/day と求まった。その後に有意な変化は見られなかった。

イ.SAR 干渉解析により推定された火山灰が堆積した厚さ

2011 年新燃岳噴火においては、新燃岳周辺に多くの火山灰を堆積させた。このような火山灰の堆積 量は、噴火に係る噴出量を把握する上で重要なパラメータの1つである。現在におけるその一般的な測 定方法は、現地における直接的な測定であり、それを高密度に測るためには多大な労力を要する。その ような、火山灰の堆積量を、衛星リモートセンシング技術で定量的にも積もることが可能になれば、より詳 細に噴火活動を把握できるようになることが期待される。本解析においては、火山灰の堆積による地形変 化を、SAR 干渉法によって捉える事が出来るかを調査した。

2008/2/12 と 2011/2/20 に北行軌道から観測された PALSAR データに SAR 干渉法を適用したところ、

図 1-6-5 PALSAR の北行軌道から 2008/2/12 と 2011/2/20 に観測されたデータペアに SAR 干渉法を適用して得られた干渉画像。

シーン全域で高い干渉性が得られた(図 1-6-5)。また、大気等に起因するノイズは極めて小さいように見 える.得られた干渉画像において新燃岳周辺に注目すると、山頂の南東方向に、衛星-地表間距離(ス ラントレンジ)が 12cm 程度短縮したことを示す干渉縞が検出された。この領域は火山灰が厚く堆積したと 考えられる領域と一致することから、地下のマグマ移動に伴う地殻変動と考えるよりは、火山灰の堆積に 起因する変化と考える方が妥当である。一般的には、火山灰が堆積して地表被覆が変化すると、レーダ ー波の散乱様式が変化し、干渉性が失われる。それにもかかわらず干渉が得られたことから、火山灰が 堆積しても散乱様式の変化が小さかったこと考えられる。これは、火山灰の堆積前後ともに、その領域の 地表面は、レーダー波を反射させるような成分が卓越していたことによるのかもしれない.この考えが正し いならば、図 1-6-6 に示す幾何に基づき、得られたスラントレンジ変化量から堆積した火山灰の厚さ

h

を次式から求めることが可能である。

h

=  / cos

i

(1)

ここで

i

はレーダー波の入射角である。この計算により得られた結果を図 1-6-7 に示す.堆積した火山灰 の厚さは、新燃岳から御鉢の間において約 15cm、その南東においては数 cm と求まった。これを防災科 学技術研究所と東京大学地震研究所が合同で実施した現地調査の結果と比較すると、それらは良い相 関を持つことがわかった(図 1-6-8)。この結果は、SAR 干渉解析により得られたスラントレンジ変化が火山 灰の堆積による地形変化によるものという推測の妥当性を示すものである。

一般に、SAR 干渉解析の精度は 1 シグマで約 2cm である。これを火山灰の厚さに関する精度に換算す ると、約 2.5cm に相当する。SAR 干渉処理においては、約 2km のウィンドウサイズでスペクトルフィルター を適用している。その結果、局所的な厚さの変化は見られない可能性がある。

同時期を含む別の干渉ペアにおいては同様のスラントレンジ変化が見られない場合があり、地表面の 散乱条件等に関するより複雑なメカニズムを考慮する必要があるのかもしれない。しかし、本結果は、SAR 干渉法によって火山灰が堆積した厚さを推定できるという可能性を示す貴重な解析事例と言える。

図 1-6-7 SAR 干渉画像から推定した火山灰の厚さ。白線は 1km のウィンドウサイズでフィルターをかけた結果 に基づく 0.01m 毎のコンターを示す。背景は 2011/2/26 10:47(JST)頃に撮像された AVNIR-2 画像

(フォルスカラー表示,赤/緑/青:4/3/2)。

図 1-6-8 レーダー波入射方向と火山灰の堆積厚との関係。

ウ.SAR 干渉解析による霧島山周辺の地殻変動

地殻変動は、地下のマグマ移動等を把握する重要な情報の1つである。そこで、本解析では、SAR 干 渉法を用いて霧島山周辺の地殻変動の検出を試みた。

まず、新燃岳の噴火前および噴火開始を挟む時期の地殻変動を調査するため、陸域観測技術衛星

「だいち」の PALSAR データを用いた SAR 干渉解析を実施した。噴火前の干渉ペアを解析したところ、北 行・南行両軌道の SAR 干渉画像において、霧島山西方にスラントレンジが短縮する変化が得られた(図 1-6-9(a), (b))。これは膨張変形を示すものと考えられる。一方、噴火開始から 1/29 の間の期間を含む干 渉ペアからは、霧島山西方にスラントレンジが伸長する変化が得られた(図 1-6-9(c)~(e))。これは収縮 変形を示すものと考えられる。つまり、噴火前に霧島山西方の地下にマグマが蓄積され、噴火において はそのマグマが噴出したと考えられる。SAR 干渉法から得られた地殻変動は、GPS 観測や傾斜計等から 測られている地殻変動と概ね整合している。

次に、1/29 以降の地殻変動を調査するため、陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)の PALSAR、カナ ダの RADARSAT-2 による観測データを用いた SAR 干渉解析を実施した。解析に使用した干渉ペアを図 1-6-10 に示し、それらの干渉ペアを解析して得られた地殻変動(スラントレンジ変化)を図 1-6-11 に示す。

これらの解析においては、数値気象モデルを用いた大気遅延誤差軽減手法を適用しているが、この手法 では除去しきれないノイズが残存しており、明瞭な地殻変動シグナルと考えられる変化は見られない。そ こで、図 1-6-10 に示す結果をすべて用いた InSAR 時系列解析を適用した。一般に、スラントレンジ変化

図 1-6-9 ALOS/PALSAR データに SAR 干渉法を適用して得られた地殻変動。赤三角は新燃岳の位置を示す。

白線は、1cm 毎のスラントレンジ変化量を示す。黒線は国土地理院の基盤地図情報 10m メッシュ