爆発的火山噴火では、高温の火山灰と火山ガスからなる混合物が火口から大気中へと放出される。こ の噴出物は乱流によって周囲の大気と混合すると、その熱によって取り込んだ大気を膨張させ、噴煙全 体は浮力を得て上昇する。大気は上空ほど薄いため、噴煙密度は大気密度と釣り合うと上昇を停止する。
したがって、噴煙高度は単位時間にマグマから大気に供給される熱エネルギーの直接的指標となる [Morton et al., 1956].
噴煙ダイナミクスの理解と火山防災の観点から、噴火条件(噴火強度)と噴煙高度を定量的に正しく関 連づけることが強く要請されている。近年では、目視に加え人工衛星や気象レーダーによって噴煙高度 が観測、もしくは推定することができる(図 2-8-1)。一方、噴火強度は噴出率で表され、噴火に伴う傾斜変 動や地震動、空振、降灰量を用いることで推定できる。
図 2-8-1 火山噴煙の観測量
これまでに、噴煙高度と噴出率の関係を求めるため、風のない成層大気中で大気圧と平衡状態にある 噴煙が、各高度で水平方向に均質であると仮定した定常 1 次元モデルが提案されている[例えば、
Woods, 1988]。この定常 1 次元モデルでは、大気構造とマグマ物性(温度、揮発成分量)、噴出条件(噴 出速度、噴出率)を与えた時に、上昇速度がゼロになる高度が噴煙高度として見積もられる。また、このモ デルでは、乱流による混合効率の尺度となるエントレインメント係数を経験的に与えなければならない。
各パラメータを変動させて噴煙高度を計算したところ、噴煙高度は、揮発成分量や温度、速度、大気 構造にほとんど依存しないことが分かった。一方、噴煙高度のエントレインメント係数への依存性は大きく、
同じ噴出率であっても、エントレインメント係数が異なれば噴煙高度は数 km も変化する。そこで、実際の 噴火の観測データからエントレインメント係数を決定していくことで、噴煙柱モデルの精度を向上できる。
図 2-8-2 噴煙柱の定常1次元モデル
新燃岳では、1/26 の 14:50 頃、1/27 の 2:20 頃、15:30 頃、3/13 の 17:45 頃に高度数千mに達するよ うな高強度の噴火が確認されている。これらの噴火で得られた観測データ、野外観察データ、分析デー タを総合的に用い、定常1次元モデルにおけるエントレインメント係数の決定を試みた。以下に、用いた データを記載する。
(1)大気構造
NHM によって推定された新燃岳上空の大気構造 [橋本ほか、連合大会 SVC050-08]
(2)揮発成分量
ng0=0.03(暫定値)[鈴木由希ほか、連合大会 SVC050-06]
(3)マグマ温度
T0=1000℃(暫定値)[鈴木由希ほか、連合大会 SVC050-06]
(4)噴出速度
M=1.0 を仮定(133 m/s)
(5)噴出率
ア)傾斜変動データによる見積り(暫定値)[小園ほか、連合大会 SVC070-P35]
1/26 14:50 頃:1.06 x 10 kg/s 1/27 2:20 頃:1.26 x 10 kg/s 1/27 15:30 頃:1.20 x 10 kg/s 3/13 17:45 頃:データなし
イ)総噴出量/噴火継続時間からの見積もり
総噴出量(暫定値)[中田ほか、連合大会 SVC050-01]
1/26 ~1/27 午前:2.2 x 10 kg 1/27 午前~1/27 午後:3.0 x 10 kg 3/13 :3.6 x 10 kg 噴火継続時間
1/26 (14:50)~(18:30-19:00) ←衛星写真・微動・空振データ
1/27 (15:30)~(16:00) ←衛星写真・微動・空振データ [市原ほか、連合大会 SVC050-07]
3/13 (17:45)~(17:55) ←遠望カメラ観察[防災科研]
以上より、平均的な噴出率の見積もりは以下となり、ア)傾斜変動データによる見積もりとほぼ 一致する。
1/26 14:50 頃:6.1 x 10^5 - 1.0 x 10^6 kg/s 1/27 2:20 頃:6.1 x 10^5 - 1.0 x 10^6 kg/s 1/27 15:30 頃:2.9 x 10^5 - 5.2 x 10^5 kg/s 3/13 17:45 頃:6.0 x 10^5 kg/s
(6)噴煙最高高度 (暫定値)[新堀・福井、連合大会 SVC070-P15]
1/26 14:50 頃:6.5 - 8.5 km ASL 1/27 2:20 頃:6.5 - 8.5 km ASL 1/27 15:30 頃:6.5 - 8.5 km ASL 3/13 17:45 頃:5.5 - 7.5 km ASL
以上のデータと定常 1 次元モデルの結果を比較すると、1/26,27 の噴火ではエントレインメント係数の 実行的な値は 0.10 より大きく 0.13 程度までとなり、3/13 噴火では 0.10 から 0.13 までの値をとる(図 2-8-3)。
1/26,27 噴火では風が強く、3/13 噴火では風が弱かったことから、観測誤差が大きいものの、風による混 合効率の違いが反映されている可能性が示唆される。更なる高精度の噴煙モデルを構築するためには、
このような風による混合効率(エントレインメント係数)への影響を定量的に評価する必要がある。そのため に、噴煙高度をより正確に観測できるシステムを開発すること、噴煙の 3 次元モデルを用いてエントレイン メント係数を独立して見積もることが要求される(図 2-8-4)[例えば、Suzuki and Koyaguchi, 2010]。
図 2-8-3 新燃岳 1/26,27 噴火と 3/13 日噴火に関する観測データと定常1次元モデルの比較
図 2-8-4 噴煙柱の3次元シミュレーション結果。(a)大気中の風がある場合と(b)風がない場合。