広帯域地震計による観測
の比較を図 1- 4-8 に示す。図中の黄丸は地殻変動データに茂木モデルを仮定して宛は目を行った 場合のソースの位置である。今回の観測データを加えることにより、震央の東西方向の決定精度が
向上している。韓国岳西方の活動は地殻変動源の直上付近に集中しており、この地震活動が上部 地殻内にあるマグマ溜りの活動に密接に関連していることが推察される。
(a) (b)
図 1-4-8 観測網構築による震源決定精度の向上の確認 (a)同じ震源データセットで広帯域地震観測網の読み取りを加えた場合。
(b)従来のデータのみで決定した場合。
本研究では、広帯域地震観測網の整備と合わせて、高性能空振観測網も整備した。地震と空振の並 行観測は火口活動を把握する上で有効であることが本研究で明らかになったが、その詳細は(1-5)の「空 振計による観測」の項で詳細に記述する。ここでは地震と空振の相関解析により明らかになった噴火前兆 と見られる火口近傍の微動振幅変化について報告する。新燃岳火口の北、約1kmの観測点 SMN にお いて、2010 年 12 月 5 日にマイクロフォン(白山工業・SI102)を設置し、空振観測を行っている。同じ場所 に設置している空振計と地震計(上下動)との相関関係のパターンを調べることにより、波形からだけでは 分かりにくい火口活動やその変化を検出することができる。今回、噴火前である 12 月 6 日からの連続変 化を詳細に調べた結果、2011 年 1 月 18 日の昼前に、今回の噴火活動につながる顕著な変化の開始が 発生していることが分かった。
12 月 6 日~1 月 18 日には、空振の振幅が増加すると地震の振幅も増加している。これは、地震・空振 の相関パターンから風のノイズによる増減である事が判明している。1 月 18 日 11:29 から、空振の振幅と 連動しない地震振幅の増加が始まった。このとき、最初の増加時に空振の振幅も増加しているが、地震と 空振の相関パターンに不連続な変化が見られ、変化の始まりは明らかである。1 月 19 日、23 日の火口活 動の後には、地震振幅は一度低下するが、すぐに回復する。そのまま通常より振幅の大きい状態が続き、
噴火に至る。2 月 8 日には平均的な振幅レベルは噴火前まで下がっているが、地震の発生による一時的 な振幅増加は時折発生している。
このように、火口近傍の観測点での微動レベルが噴火活動、火口活動を把握する上で有効なデータで あることが明らかになったので、新燃岳の活動の全体像を把握するため、2011年1月18日〜5月末までの 間の新燃北(SMN)観測点(2月7日まで)、霧島南(KRS2)観測点(2月8日から)における微動レベル(1Hzよ り高周波数側のエンベロープ振幅を10秒毎に平滑化)と気象庁の高千穂河原の傾斜計(KITK_N)(bytap 補正済み)、気象庁の遠望観測資料から整理した噴煙活動のデータを並べて表示した結果を図1-4-10 に示す。1月26日の準プリニー式噴火以降、1月28日深夜から1月31日まではBL型地震と微動が多発し、
この間に韓国岳北西に向いた傾斜変化が継続している。この間、新燃北観測点の微動エンベロープ振 幅は1E-6以上の高いレベルを維持しており、多くの爆発的噴火が観測されている。しかし、傾斜と爆発的 噴火には明瞭か対応が見られない。2月8日以降になると、爆発的噴火の前に傾斜変化が見られるように なる。例えば、2月10日までと2月28日朝〜3月4日昼の間、やや微動エンベロープ振幅が高く噴火が多く 観測されているが、この期間以外では噴煙を1000m以上まで上げる噴火活動の前に高千穂河原傾斜計 の南北成分(KITK_N)が山上がりと成る変化がよく対応している。なお、2月22日深夜の傾斜変化に対応 する噴火活動の記録はないが、悪天候のために確認できていないと思われる。地震記録には噴火活動 があったことを示唆する波形が記録されている。4月以降は微動が断続的に発生しているときに、傾斜変 化が緩やかに元に戻り、対応する噴火が見られないケースも増えてきている。
図 1-4-9 2010 年 12 月 6 日~2011 年 1 月 28 日の期間の新燃北観測点(火口から 1m)に おける、地震上下動(SU)と空振(MC)の振幅変化.それぞれの信号は、1-7Hz の周波数帯域 で平均振幅を計算.
図 1-4-10(a) 霧島山の微動レベル、傾斜データ及び噴煙活動(2011 年 1 月)
図 1-4-10(b) 霧島山の微動レベル、傾斜データ及び噴煙活動(2011 年 2 月)
図 1-4-10(c) 霧島山の微動レベル、傾斜データ及び噴煙活動(2011 年 3 月)
図 1-4-10(d) 霧島山の微動レベル、傾斜データ及び噴煙活動(2011 年 4 月)
図 1-4-10(e) 霧島山の微動レベル、傾斜データ及び噴煙活動(2011 年 5 月)
ウ.ハーモニック微動の解析
新燃岳の火口に溶岩ケーキが形成された 1 月 30 日〜2 月 3 日の時期に、比較的振幅の大きな「ハー モニック微動」が観測された。この微動は噴火活動が準プリニー式から火口内にマグマが上昇して爆発 的噴火活動に移行する時期に対応しており、その発生源についての考察することは、今回の噴火メカニ ズムを理解する上で重要である。そこで、2011 年 1 月 31 日〜2011 年 2 月 3 日に発生したハーモニック 微動に関して、広帯域地震計で観測された記録を元に考察を行った。観測された微動の代表的な波形 例を図 1-4-11 に示す。これらに微動の内もっとも振幅が大きい 2 月 3 日の 6 時 8 分に発生した微動に ついて、その波動の定性的特徴から、発生源に関する一考察を行った。
まず、この微動の非線形性を検証するため、相関次元を指標とするサロゲートデータ解析を行った。そ の結果は、データが線形相関を持つデータや線形相関を持つデータに単調な非線形変換を施すことに 図 1-4-12 微動と同時に観測された空振 波形の拡大図
図 1-4-11 観測された微動の代表的な波形例
調和振動子の重ね合わせで励起された可能性はきわめて低いと言える。図 1-4-12 に微動と同時に観測 された空振波形の拡大図を示すが、その波形的な特徴からも、非線形性が強いことが伺える。
図 1-4-13 微動の特徴 的な部分の切り出し区間 の代表的な波形例
図 1-4-14 区間 4 の微動 の相関図。
図 1-4-15 区間 5 の微動 の相関図。
図 1-4-16 区間 6 の微動 の相関図。
図 1-4-17 区間 8 の微動 の相関図。
つぎに、この微動を励起する非線形ダイナミクス(非線形微分方程式系)に制約を与える必要条件を読 み解くため、微分方程式の位相的な取り扱いを行う。ここでの大きな仮定は、観測された微動が非線形微 分方程式の解として近似的に解析できるとしている点である。しかし、空振が火口付近から発せられてい ることからも推測されるように、これらの微動は火道内部に発生源があると推定される。さらに、微動の卓 越周期は約 1 秒程度で、火口から約 500m の新燃北観測点で観測された記録は波動伝播に影響がきわ めて少なく、上記の仮定が成り立っていると考えられるデータである。そこで、微動データの時間軸を適 当な長さに切り、各区間で(近似的な)解の相図を作成し、その位相幾何学的な特徴を読み解いていく。
図 1-4-13 に微動の特徴的な部分の切り出し区間を示す。そのうちの区間 4、5、6、8 の相図を図 1-4-14
〜図 1-4-17 に示す。
図 1-4-16 に示した部分がこの微動で比較的定常な状態と成っている部分で、その相図は方程式系が 2 重ポテンシャルを持つ事が必要条件であることを示している。
つ ぎ に 、 こ の 様 な 位 相 的 特 徴 を 再 現 す る 可 能 性 の あ る 火 道 内 部 の モ デ ル と し て 、 単 純 化 し た Collapsible Tube の集中定数モデルとの比較を試みる。図 1-4-18 がこのモデルの概念図である。
Collapsible Tube 部分の弾性、質量保存、上流・下流での運動量保存、下流での運動量流速方程式、蒸 留でのエネルギー保存、Tube 部での流体慣性の変化を組み込んで方程式系を構成している。
この数理モデルにおいて、流体粘性を若干変化させることにより、各区間での位相的特徴を再現する 相図が得られる。その比較を図 1-4-19~図 1-4-22 に示す。比較したモデルパラメータは Tube 部分の断 面積を現すパラメータの時間微分である。図 1-4-19 は観測とモデルの波形と 1 回微分までの相図を比較 しているが、図 1-4-20〜1-4-22 は 1 回微分、2 回微分の相図を比較している。この集中定数の数理モデ ルにより、観測された微動の位相的特徴(定性的特徴)がある程度再現できている。このことは、この時期 の微動が火道内部での流体の動きにより励起されている可能性を示すものである。
図 1-4-18 火道内部モデルの概念図
図 1-4-19 観測とモデルの波形と 1 回微分までの相図
図 1-4-20 図の左が観測、右がモデルから計算された相図
図 1-4-21 図の左が観測、右がモデルから計算された相図
図 1-4-22 図の左が観測、右がモデルから計算された相図
エ.広帯域地震計で捉えた 6 月 29 日の噴火に先行する長周期シグナル
2011 年 6 月 29 日 10 時 27 分に発生した新燃岳噴火に先行した長周期の地震動を、広帯域地震計で 捉えることが出来た。霧島南観測点の広帯域地震記録を地動変位に変換したものを図 1-4-23 に示して いる。記録は南北成分(火口に向かう方向)と上下成分を示している。噴火の約 4 分前から長周期のシグ ナルが見られ、火道内部を噴出物(発泡したマグマなど)が上昇することに伴う圧力変動により励起された と考えられる。広帯域地震記録から傾斜成分を取りだした結果を図 1-4-24 に示す。新燃岳火口方向が 下がる傾斜変化が噴火開始後から顕著に見られる(図 2 の緑のライン)。このように、噴火に先行して火道 内部で起こっている現象を広帯域地震記録で捉えることに成功した。このデータの定量的評価は今後の 課題である。
図 1-4-23
霧島南観測点の地動南北成分
(上)と上下成分(下)
図 1-4-24
広帯域地震記録から取り出した 傾斜成分.噴火(赤破線)後に火 口側が下がる傾斜変化が確認で きる(緑のライン)。