平成23 年霧島山新燃岳噴火に関する緊急調査研究
平成23 年霧島山新燃岳噴火に関する緊急調査研究
(2-1) ゾンデ観測 (防災科学技術研究所)
ア. はじめに
火山から大気中に放出される火山灰は、航空機の運航障害や降灰による様々な被害を引き起こすた め、精度の高い拡散予測が求められている。火山灰の移流拡散を数値シミュレーションにより予測するた めには、噴出した火山灰の粒径分布等の特性と対象としている火山周辺の気象場を把握することが必要 である。アイスランドの「Eiyafjallajokul」火山の噴火を機に、ヨーロッパの気象サービス関係機関のネットワ ークは、高精度の噴煙予測のために必要な要素を検討し、噴煙観測においては地上で観測するライダ ーやシーロメータのネットワークとともに、気象用に開発されたラジオゾンデ(ゾンデ:気球)やラジオゾンデ に装着したエアロゾルやガス検出器による観測も、放出された噴煙の実態を観測する新たな手法として 期待している(EUMETNET Statement for the EASA Workshop, 2010)。しかし噴火している火山の噴煙 をゾンデにより観測した実例はほとんどない。
我々は、2011 年 1 月 26 日に霧島山新燃岳で規模の大きいマグマ噴火が発生し、降灰による被害が 拡大したことから、火山灰の移流拡散予測の高精度火に役立つ基礎データを得るためにゾンデによる噴 煙観測を計画し、実施した。観測は気象場と移流拡散する火山灰の粒径分布等を把握することを目的と して、気象用ラジオゾンデ及びエアロゾルゾンデ、エアロゾルより大きい浮遊粒子を観測する雲粒子ゾン デを用い、3 月 20 日から 23 日にかけて実施した。本報告では、観測の概要、観測機器、観測結果及び 考察について述べる。
イ. 観測の概要
浮遊する火山灰をゾンデにより観測するためには、観測時の風向に応じてゾンデの放球地点を選ぶ 必要がある。またゾンデを放球するには、放球に先立ち、航空局に申請と許可が必要である。このため放 球候補地点を新燃岳山頂からの距離が 5~20km の範囲で 16 カ所選定した(表 2-1-1 及び図 2-1-1)。
観測は天候や噴火状況を考慮して、3 月 20 日、21 日、23 日に実施した。放球したゾンデは、3 月 20 日は 2 個(2カ所から各 1 個)、23 日は 6 個(2 カ所から各 3 個)、23 日は 7 個(1 カ所から 4 個、他の 1 カ所から 3 個)で、合計 15 個である。放球した観測地点を表 2-1-3 に示す。
ゾンデは、気象要素(風向、風速、気圧、温度、湿度)を観測するラジオゾンデを基本として、雲粒子セ ンサーを3回装着、エアロゾルセンサーを 1 回装着した。この結果、気象場については 15 回の観測値を 得ることができた。
霧島山新燃岳は 3 月に入り、数日に 1 回程度噴煙を放出する間欠的な噴火に様式が変化し、気象庁 が設置した高千穂河原観測点の傾斜計により噴火に1~2 日程度前駆する傾斜変動(山頂直下が隆起)
が観測されていた。観測を予定していた 3 月 20~23 日の間も傾斜変動の様子を考慮し、3 日目の観測を 3 月 23 日に実施することにした。その結果、3 月 23 日午前 8 時 23 分頃から開始した噴火直後の状態を 観測することができた。
ウ. 観測機器
使用した機材は、気象場のみの観測においては、GPS ラジオゾンデ(RS-06G 型:明星電気製)にヘリウ ムガスを注入した風船(直径約 2m)とパラシュートを組み合わせたもので、放球時の高さは約 17m である
(図 2-1-3a)。RS-06G により、位置と温度、湿度、高度、気圧、風向、風速を測定することができる。観測 されたデータは 400MHz 帯の無線送信機により伝送される。放球の様子を写真 2-1-1 に示した。
火山灰粒子の粒径分布の測定のためにエアロゾルゾンデ及び雲粒子ゾンデ(HYVIS)を採用した。雲 粒子ゾンデ(HYVIS)は、大気中の粒子の観測のため気象研究所により開発されたもので、吸引した大気 に浮遊する粒子をフィルムに付着させ、それを映像として観測し、地上に送信することにより、10μm~数 mm 程度の粒子を観測することができる(図 2-1-3b)。データの送信には、1.6GHz 帯の無線送信機を用 いる。
エアロゾルゾンデは、レーザーパーティクルカウンターにより、大気中のエアロゾルの粒径を判別するも ので、流量測定と組み合わせることにより、粒径毎のエアロゾル濃度を推定することができる(図 2-1-3c)。
今回使用したセンサーの測定範囲は 0.3~10μm である。観測データは 400MHz 帯の送信機で伝送され る。
それぞれの観測データは、無線送信機により伝送されるため、観測にはデータ受信用の基地局を設け た。基地局には、簡易 GPS ゾンデ受信システム(RD-08AC:明星電気製)を設置し、測定データの良否を 検討するため、観測データのモニターを行った。
エ. 観測結果
(ア) 気象場 (a) 概要
ゾンデは毎秒数 m の速度で上昇するとともに、その場の風により移動する。15 回のゾンデの航跡を重 ね合わせて図 2-1-4 に示した。毎回の気象場によって、航跡は多少変化するが、概ね偏西風に流されて、
東に移動し、放球点から 20~30km で高度 5000m、さらに海岸線付近で高度 10000m に達した。以下に 示すように、15 回のラジオゾンデ観測により、変化する気圧配置のなかでの霧島山周辺の気象場(風速、
風向、温度、湿度)を得ることができた。この観測データは、今後、火山灰の移流拡散シミュレーションに 用いる気象場の精度、特に気象場の予測計算をする場合の格子間隔の検討に重要な検証データになる と考えられる。
(b) 風速
15 回の観測で得られた高度-風速の関係を図 2-1-5 に示す。風速は高度 2km 付近で 10~20m/s、
6km 付近で 30~50m/s、そして 10km 付近で最大になる。3 月 20 日と 21 日は、全ての観測値の変動 が比較的小さい。一方、3 月 23 日は時間帯による風速の変化が大きい。3 月 23 日のゾンデの航跡が 午前と午後で大きく変化したことは、この風速や風向の変化を反映している(図 2-1-4)。
(c) 温度
15 回の観測で得られた高度-温度の関係を図 2-1-6 に示す。温度は大局的には高度 15km 付近 までは単調に減少するが、詳しく見ると上層の温度が下層より高くなる逆転層が生じていることがわか る。特に高度 2km 付近では、3 月 23 日だけ、顕著な逆転層が見られた。噴火が発生した直後の観測 である 3 月 23 日 10 時の放球による温度と湿度の観測データを図 2-1-7に示す。高度 1.7km から 2.1km に温度の逆転層が生じ、この付近を境に高度とともに湿度が急激に減少していることがわかっ
(d) 鹿児島地方気象台ゾンデ観測データとの比較
今回の放球点から約 50km 離れた鹿児島地方気象台で定期的に観測しているゾンデで取得され たデータと比較した。噴火が発生した直後の 3 月 23 日 10 時の今回のゾンデと 9 時の鹿児島地方気 象台ゾンデを比較したものを両者の比較例として図 2-1-8 に示す。
風速と風向は、概ね一致しているが、風速の差が 5m/s 以上、風向の差が 10 度以上になる領域が いずれの観測でも見られる(図 2-1-8a)。特に 3 月 20 日及び 3 月 23 日午後は、風速の差が 5m/s 以上、風向の差が 20 度以上の範囲が大きい。この両期間は、気圧配置の変化が大きかったためと考 えられる。温度については大きな傾向は一致しているが、湿度についてはいずれの観測でも両者の 差が大きい(図 2-1-8b)。
(イ) 浮遊火山灰の特徴
火山灰粒子は 3 月 23 日の 10 時放球の雲粒子(HIVIS)、エアロゾルゾンデおよび 14 時放球の雲粒子 ゾンデで検出された。10 時放球では 8 時 23 分の噴火直後であるため、雲粒子ゾンデでは 7 秒間の映像 を 1 コマとする高倍率映像のうち、12 コマで火山灰と思われる不透明粒子(直径 80~10μm)が写ってい た(図 2-1-9)。粒子数は少なく(各コマで 1~13 個)、約 0.15 個/cm3 以下の低濃度であった。14 時放球 ではさらに少なく 7 コマで各 1~2 個の不透明粒子が写っていた。なお雲粒子ゾンデでは映像から粒子の 形状についての情報も得られるが、粒径が小さく、総数も少ないので今回は形状評価を行なっていない。
10μm 以下の粒子を対象とするエアロゾルゾンデは 10 時放球でのみ測定が実施されたが、放球直後 から各粒度階で多数の粒子が観測された(図 2-1-10)。大まかにいえば高度が大きくなるにしたがい粒子 総数と粒子サイズは減少する傾向にあるが、高度 1800mまでと 6000-8000mの2つの領域に数多く存在 する。
浮遊粒子の粒度特性を明らかにするため、雲粒子ゾンデの測定のある高度を中心に代表的な粒子分 布を持つ高度を選び出し、雲粒子ゾンデとエアロゾルゾンデの粒子密度を接合した。両測定器は計測時 刻が異なるため、エアロゾルゾンデの結果は雲粒子ゾンデの測定時刻をカバーする連続した複数回の測 定を平均して用いた。また、10μ付近で両者の結果は必ずしも一致した傾向を持たないが、測定に供す る大気の体積が大きく、より測定器周囲の粒子分布を代表すると思われるエアロゾルゾンデの測定結果 で規格化した。すなわち、エアロゾルゾンデの測定機器の特性上 10μm以上の粒子はすべて一括した 粒度階として出力されているので、その細分に雲粒子ゾンデで得られた各粒度階の比率を用いることに した。接合した粒度分布の結果として図 2-1-11A に粒子数密度分布、図 2-1-11 B に積算粒度分布を示 す。比較のために放球地点(B3 地点;山田運動公園)に降下堆積した火山灰試料も示す。ただし堆積し た火山灰は噴煙の様々な高度から降下した火山灰粒子を積算したものであるため、注意が必要である。
浮遊粒子のうち 10μm 以上の粗粒粒子は粒子数密度が小さく、明瞭に集団としての特徴をつかめると は言い難いが、低高度側では明らかに存在している。5000m 以上でも検出されているが、1 測定に 1 個程 度と少なく、低高度で機器に付着した粒子が撮影面に落下した可能性も考えられる。全体的に粒子数密 度は細粒になるにつれて大きくなる右上がりの曲線となっているが、高度 1800m-6000mの範囲では 10-0.5μm 程度の粒子について高濃度側に屈曲している。
粒度重量分布は高度別にみると低高度では曲線が淘汰の悪い(寝そべった)分布をしており細粒粒子