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火山灰輸送の数値シミュレーション

火山灰の拡散・降灰に関する数値シミュレーション技術の高度化のために、2011 年

1

26

日から

27

日にかけての噴火を対象として、実際の火山灰の拡散・降灰分布をうまく予測するための新しい予測手 法を試み、予測精度が改善されることが分かった。

ア.気象状況と火山灰輸送

1月26日から27日にかけては、対流圏中~上層(高度5km以上)では西風が卓越する一方で下層は北

西の季節風が卓越しており、主風向の高度変化が火山灰輸送に大きな影響を与えていた。つまり、噴煙 が上空まで達した時間帯は、上空の強い西風によって火山灰が急速に東方へ流されるのに対し、噴煙が 低い高度にとどまっている間は、大気下層の北西風によって南東方向へ流されていた。

気象庁による従来の降灰予測シミュレーションは、噴煙高度の時間変化を考慮していない。今回、噴 煙高度の時間変化が火山灰輸送に対する重要な役割をもつことが示唆され、かつ、気象レーダーによっ て噴煙高度の時間変化に関するデータが得られたため、噴煙高度の時間変化を火山灰輸送シミュレー ションに取り込む新しい予測手法を試みた。

イ.新しい予測手法

気象庁非静力学モデルを用いて、比較的粗い解像度(5km格子)のシミュレーションを行い(図2-9-1a)、

日本周辺を通過する高気圧や低気圧によって作り出される大規模(数1000km)な風系を予測するとともに、

南九州を中心とする数100kmの領域で高解像度(1km格子)のシミュレーションを行い(図2-9-1b)、新燃 岳周辺の風系を詳細に予測した。気象レーダーによる噴煙の観測結果から噴煙高度の時間変化を求め

(図2-9-2)、それに応じて火山灰を拡散させると同時に、詳細な風系予測をもとに火山灰輸送を計算し、

降灰分布を予測した。

ウ.検証

噴煙高度の時間変化を考慮した新しい手法の予測精度を評価するために、降灰分布の予測結果を観 測結果(図2-9-3a)と比較した。従来の予測手法では、予測された降灰軸が実際よりも南にずれているの に対し、新しい予測手法では実際の降灰軸をよく予測できており、噴煙高度の時間変化を考慮すること によって降灰分布の予測精度が改善されたことが分かった。

2-9-1

火山灰輸送シミュレーションの概略。(a)高気圧・低気圧が作り出す風系を水平解像度

5km

の気象モデルで予測し、さらに、新燃岳周辺の風系を水平解像度

1km

で詳細に予測する。(b)風向・

風速の詳細な予測データをもとに火山灰粒子を拡散させる。

2-9-2

火山灰輸送シミュレーションにおける噴煙の与え方。従来のシミュレーションでは一定の噴 煙高度を与えていた。緊急研究では新たな試みとして、噴煙のレーダー観測に基づいて、噴煙高度の 時間変化をシミュレーションに反映させた。

2-9-3

火山灰輸送シミュレーションによる降灰分布予測の検証。(a)降灰分布の観測結果。(b)従来

の手法による予測結果。(c)噴煙高度の時間変化を考慮した新しい手法による予測結果。噴煙高度の 時間変化を考慮することにより予測精度が向上した。