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噴出状況の 高解像観測噴出状況の高解像観測

平成22年度科学技術振興調整費「重要政策課題への機動的対応の推進」課題(成果速報)

2-2

防災科学技術研究所

ア.研究の目的と概要

火山噴煙は、火山灰や軽石などの火砕物を大気中に放出し、火山周辺の広範囲に影響や被害を与 える噴火現象である。火口直上における噴煙の発達過程では、火口からの火砕物の噴出条件や噴煙へ の大気の取り込みなど、様々な物理メカニズムがその現象を支配している。また、この火口直上における 噴煙の挙動が、噴煙高度や火山灰拡散などの巨視的な噴煙形態にも大きな影響を与える可能性がある。

本研究では、火口直上の噴煙発達過程のメカニズムを明らかにするために、噴煙高解像度画像収録シ ステムを用い、火口部ビデオ撮影・解析を実施した。それによって、噴煙の時系列的発達過程を求め、ま た火口直上での噴出物の移動を把握して噴煙の発達速度を推定した。

イ.観測手法

新燃岳山頂の南約 7.5km の地点から、ハイビジョンカメラによる火口直上の高解像度映像の連続撮影 を行った(図 2-2-1)。観測の詳細は以下の通りである。

カメラ設置地点: N31.8443 E130.8731 標高 494m (霧島ロイヤルホテル)

観測期間: 2011 年 3 月 9 日~3 月 23 日 (15 日間)

有効画素数: 1920 X 1080 /59.94i (ハイビジョン)

撮影速度: 30 fps 35mm 換算焦点距離: 214 mm 新燃岳までの距離: 7.5 km

空間分解能: 約 0.544 m/1pixel 画角実距離: 1044 X 587 m

図 2-2-1 噴煙高解像度撮影用カメラの設置場所(左図)とカメラ―新燃岳間の断面図(右図)。図の作成にお いては国土地理院の基盤地図情報 10m メッシュ標高とカシミール 3D を使用した。

ウ.観測結果

観測期間内において、以下の2回の噴火を撮影することに成功した。

2011 年 3 月 13 日 17:45 噴火

2011 年 3 月 23 日 08:25 噴火

ともに観測条件は極めて良好で、晴天・朝夕時に開始した噴火であったため、偏光フィルターなどを使用 することなく高解像度・高コントラストの噴煙映像を撮影することができた。この映像は噴煙の映像解析に 十分に耐えうる高品質のものであり、後述する PIV 解析などに活用することが可能となった。

2011 年 3 月 13 日 17:45 噴火の可視画像

噴火開始後約 1 分間で噴煙は火口直上約 600m まで成長し、その後山頂クレーター全体から断続的な 噴煙の噴出が続くが、噴火開始約 10 分後には噴出箇所が局所的になっている。これによって、噴煙高度 などの噴煙のダイナミックスを議論するうえで重要な噴火の継続時間に関する情報を得ることができた(写 真 2-2-1)。

写真 2-2-1(a) 22011 年 3 月 13 日 17:45 噴火 17:45~17:51

写真 2-2-1(b) 22011 年 3 月 13 日 17:45 噴火 17:53~17:56

2011 年 3 月 23 日 08:25 噴火の可視画像

噴煙の噴出強度が 3 月 13 日噴火に比べて弱く、また強い北西風の影響もあって、火口直上 200m 付 近から噴煙が南東方向に流されていくのが確認された(写真 2-2-2)。

写真 2-2-2(a) 22011 年 3 月 23 日 08:25 噴火 08:25~08:26

写真 2-2-2(b) 22011 年 3 月 23 日 08:25 噴火 08:27~08:28

エ.映像解析概要

観測された噴煙映像から噴煙のダイナミックスに関するより詳細な情報を得るために、映像に対して画 像解析技法の一つである PIV(Particle Image Velocimetry; 画像粒子流速測定法)を適用し、噴煙の挙 動に関する定量的な解析を行った。PIV とは、流れ場にトレーサー粒子を混入し、粒子が流れに追随する ことを前提に、粒子の移動から流れの速度分布を定量計測する技術である。火山噴煙に対する PIV 解析 については、石峯ほか(2009)・瀧本ほか(2010)の桜島火山噴煙に関する先行研究がある。火山噴煙で は流れ場にトレーサー粒子を混入することは不可能であるため、彼らの研究では噴煙渦の濃淡の運動を 追跡することで、噴煙の運動速度を求めている。本研究でも彼らの手法に基づき、新燃岳火山噴煙の PIV 解析に取り組んだ。本研究ではまず石峯ほか(2009)の手法に基づき2回の噴火における噴煙の大 局的な挙動を明らかにし、さらに瀧本ほか(2010)の手法に基づき噴煙のより定量的な挙動に関する解析 を行った。以下ではこれらの解析結果を示す。

(引用文献)

石峯康浩・瀧本浩史・神田学・木下紀正・横尾亮彦・井口正人 (2009), 「桜島火山・昭和火口で発生し た噴煙の PIV 解析」京都大学防災研究所年報, 52, p319-322.

瀧本浩史・石峯康浩・木下紀正・横尾亮彦・井口正人 (2010), 「PIV を用いた桜島火山噴煙の噴出速 度に関する検討」京都大学防災研究所平成 21 年度共同研究報告, p17-21.

石峯ほか(2009)に基づき PIV 解析に取り組み、噴煙の大局的な運動の速度場を明らかにすることを試 みた。解析においては、ライブラリー社の cosmos Flow-PIV を使用した。カラーの実画像をグレースケー ルに変換した後、噴煙でない部分の画像ムラによって不適切に抽出される解析エラーを軽減することなど を目的として、各フレームの画像について噴煙発生直前の画像との差分を取り、その連続画像に対して PIV 解析を行った。画像内の計測ポイントの間隔は 11 ピクセル、画像間で空間パターンの相関をとる場 合の探査領域を 31 ピクセルとした。画像の時間間隔は 1/3 秒(3fps)として解析を行った。

2011 年 3 月 13 日 17:45 噴火

図 2-2-2 は、PIV 解析から得られた噴火開始後 5 分間の噴煙速度ベクトルを重ねたものである。クレー ターの東端部で局所的に噴煙の噴出速度が高くなっていることがわかった。これは、本緊急研究の「衛星 搭載 SAR による火口変化の抽出」において得られた 3 月 17 日のクレーター内画像でクレーター南東部 に小さな火口が局所的に分布している観測事実と一致する。

図 2-2-2 2011 年 3 月 13 日 17:45 噴火開始 5 分後の噴煙速度ベクトル 左下図:衛星搭載 SAR による 3 月 17 日の新燃岳クレーター内の様子

2011 年 3 月 23 日 08:25 噴火

PIV 解析から得られた噴火開始後 3 分間の噴煙速度ベクトルを重ねている。強い北西風の影響によっ て噴煙周縁部で速度が増加している。

図 2-2-3 2011 年 3 月 23 日 08:25 噴火開始 3 分後の噴煙速度ベクトル

カ.PIV 解析結果②

瀧本ほか(2010)に基づき、噴煙運動の速度場をより定量的に調べるための PIV 解析に取り組んだ。解析 においては、瀧本ほか(2010)でも適用された東京工業大学・瀧本浩史氏作成による PIV 解析コードを使 用した。256 色グレースケールに変換した画像を用い、画像内の計測ポイントの間隔は 15 ピクセル、空間 パターンの相関をとる場合の探査領域を 21 ピクセルとした。画像の時間間隔は 2/3 秒(1.5fps)として解析 を行った。以上によって、噴火開始後 10 分間の噴煙の運動速度を定量的に推定することができた。各噴 火事例について解析結果を以下に示す。

2011 年 3 月 13 日 17:45 噴火

20 s 40 s

60 s 80 s

図 2-2-4 噴煙運動の速度場を定量的に解析するため 256 色グレースケールに画像変換 2011 年 3 月 13 日 17:45 噴火

図 2-2-5 図中のポイント A~F における水平速度 Vx、鉛直速度 Vz、速度の絶対値の時系列変化を調べた。

100 s 120 s

240 s 360 s

図 2-2-6(a) 各ポイントの噴煙速度の時系列変化。ポイント A、B。ポイント名は図 2-2-5 に対応する。各ポイン トにおいて約 200 秒間噴煙の運動速度が高くなっている期間がある。その期間では特に鉛直速度 Vz が正にな って噴煙の上昇運動が活発化していることがわかった。

図 2-2-6(b) 各ポイントの噴煙速度の時系列変化。ポイント C~F。ポイント名は図 2-2-5 に対応する。

2011 年 3 月 23 日 08:25 噴火

図 2-2-7 2011 年 3 月 23 日 08:25 噴火の噴煙運動の 256 色グレースケール変換画像

20 s 40 s

60 s 80 s

100 s 120 s

240 s 360 s

図 2-2-8 図中のポイント A~D における水平速度 Vx、鉛直速度 Vz、速度の絶対値の時系列変化を調べた。

図 2-2-9 ポイント B~D では、鉛直速度に比べ水平速度 Vx が正の高い値をもち、強い北西風の影響を受け て噴煙が側方に流されている効果がみられる。火口直近のポイント A では雲の影響で噴煙の運動が正確に捉 えられていない。

カ.噴火事例間の比較

上記の PIV 解析結果を基に、噴火強度などが異なる対照的な2噴火事例について定量的な比較を行 った。

噴煙トップの発達速度

各計測ポイントのデータにおいて速度場が計測され始める時間を基に、噴煙トップの発達速度を推定 した(下図)。3 月 13 日噴火と 3 月 23 日噴火ともに噴煙の上昇過程はほぼ等速で、速度はそれぞれ約 8.2 m/s、5.1 m/s と推定された。

図 2-2-10 3 月 13 日(赤)と 23 日(青)噴火における 噴煙トップの高度変化

計測ポイントにおける平均速度

計測ポイント A~D における平均速度の比較を行ったところ、水平速度は 3 月 23 日噴火において強い 北西風の影響で 3 月 13 日噴火に比べて非常に高く、上昇(鉛直)速度は 3 月 13 日噴火において 3 月 23 日噴火よりも有意に高くなっていることが確認された。

水平速度 Vx 鉛直速度 Vz

平均値。横軸を 3 月 13 日噴火、縦軸を 3 月 23 日噴火における値としている。対角線の右側では速度が 3 月 13 日噴火>3 月 23 日噴火となり、左側では 3 月 13 日噴火<3 月 23 日噴火となることを示す。

キ.考察とまとめ

霧島山新燃岳における 2 回の噴火イベントで発生した火山噴煙に対して高解像度映像の連続撮影を 行い、さらにその映像を用いて噴煙の PIV 解析に取り組んだ。解析の結果、3 月 13 日の噴火では噴煙が 比較的活発に連続して上昇運動を続けなから火口直上に発達していく様子が観測された。一方 3 月 23 日の噴火では噴煙の上昇運動の強度が弱く、周囲の風の影響を強く受け噴煙が流されていった。これら の噴煙の挙動の違いは PIV 解析によって定量的にも確認された。

今回の解析で得られた噴煙の運動速度は最大 10 m/s 程度であり、石峯ほか(2009)、瀧本ほか(2010)

が桜島昭和火口噴火で推定した約 80 m/s という噴煙の噴出速度に比べて非常に低い。桜島昭和火口 の噴火では、火口から約 4 km 離れたカメラで火口クレーター内の噴煙の噴出源近傍を詳細に撮影でき ているため、噴煙の表面のみの運動をより離れた地点(7.5 km)から撮影した本研究に比べて噴煙の噴出 の挙動をより正確に捉えている可能性がある。或いは、突発的に短時間で噴煙を放出した桜島における 噴火と、数分にわたり噴煙を連続的に放出した新燃岳における噴火という、噴火のスタイルそのものの違 いを反映して、噴煙の運動速度の違いが生じている可能性も考えられる。

本研究の結果、火山噴煙の定量的な解析において必要なカメラの撮影条件、映像の解像度や撮影速 度、PIV における解析の設定条件などを明らかにすることができた。これらの情報を基に、今後の噴火イ ベントにおける噴煙映像に対してもより効率的に PIV 解析に取り組むことができる。火口により近距離で噴 出源の近傍を撮影できる条件であれば、PIV 解析から得られる噴煙の運動速度のデータを基に、噴煙の 乱流混合のダイナミックスに関する解析などのより詳細な解析に取り組める可能性がある。

謝辞:東京工業大学の瀧本浩史氏には、PIV 解析コードを提供していただき、また解析に関する有益な 情報と助言をいただきました。