第 3 章 マルチバンド周波数変換 51
3.2 未知定数の決定
3.2.1 連立方程式による方法
マルチバンドBPF変換に含まれる2N個の未知定数は,図3.4に示した様に,原 型LPFの遮断角周波数Ω =±Ωcと対応する遮断角周波数ωi(i = 1,2,· · · ,2N)を
式(3.16)に代入し,得られた連立方程式を解くことによって決定される.実際に,
[rad/s]
[rad/s]
O
1
2
3
5
4 6
- 1 - 2 - 3 - 4 - 5 - 6
c
- c
01
02
03
1 2
- 01 - 02
- 03
- 1 - 2
図 3.4: マルチバンドBPF変換の様子(N = 3の場合)
これらの関係を代入して整理すると
−1 = ωj
A1Ωc −B1/Ωc ωj −
∑N i=2
1 ωj
Ai/Ωc −BiΩc ωj
(j = 1,3,· · · ,2N −1)
1 = ωj
A1Ωc −B1/Ωc ωj −
∑N i=2
1 ωj
Ai/Ωc −BiΩc ωj
(j = 2,4,· · · ,2N)
(3.22)
として2N 本の連立方程式が得られる.この連立方程式を直接解くことにより未 知定数Ai, Bi(i= 1,2,· · · , N)が決定できる.
また,マルチバンドBEF変換に含まれる2N個の未知定数も同様に求めること
ができ,式(3.21)に遮断角周波数を代入して整理すると,
−1 = 1
ωj
A1/Ωc − B1Ωc ωj −
∑N i=2
1 ωj
AiΩc − Bi/Ωc ωj
(j = 1,3,· · · ,2N −1)
1 = 1
ωj
A1/Ωc − B1Ωc ωj −
∑N i=2
1 ωj
AiΩc − Bi/Ωc ωj
(j = 2,4,· · · ,2N)
(3.23)
なる連立方程式が得られる.
いま,式(3.22)において,A′1 =A1Ωc, B1′ =B1/Ωc, A′i =Ai/Ωc, Bi′ =BiΩc (i= 2,3,· · · , N)と置き換え,式(3.23)においてA′1 =A1/Ωc, B1′ =B1Ωc, A′i =AiΩc, Bi′ = Bi/Ωc (i= 2,3,· · · , N)と置き換えると,式(3.22)と式(3.23)は,等価な連立方 程式となり,得られる解A′i, Bi′[rad/s](i= 1,2,· · · , N)が等しくなることが分かる.
したがって,マルチバンドBPF変換の各未知定数は A1 = A′1
Ωc
(3.24)
B1 = B1′Ωc (3.25)
Ai = A′iΩc (i= 2,3,· · · , N) (3.26) Bi = Bi′
Ωc (i= 2,3,· · · , N) (3.27) と求められ,同様にマルチバンドBEF変換の各未知定数は
A1 = A′1Ωc (3.28)
B1 = B1′ Ωc
(3.29) Ai = A′i
Ωc (i= 2,3,· · ·, N) (3.30) Bi = Bi′Ωc (i= 2,3,· · · , N) (3.31) と求められる.ここで,Ωc = 1 rad/sであることを考慮すると,式(3.24)から式 (3.27)と式(3.28)から式(3.31)の大きさは等価となり,単位の次元のみが異なる.
つまり,マルチバンドBPF変換とマルチバンドBEF変換に含まれる未知定数は,
いずれか一方を解くことによって得られ,単位をそれぞれ対応するものに読み替 えればよいことになる.したがって,以降ではマルチバンドBPF変換についての み議論することとし,マルチバンドBEF変換については単位を対応するものに読 み替えることとする.
ここで,この連立方程式による方法を用いた未知定数の決定方法の具体例を以 下に示す.
N = 2の場合
帯域数N = 2の場合,式(3.22)から解くべき連立方程式として,
−1 = ω1 A1 − B1
ω1 − 1 ω1 A2 −B2
ω1 1 = ω2
A1 − B1
ω2 − 1 ω2 A2 − B2
ω2
−1 = ω3 A1 − B1
ω3 − 1 ω3 A2 −B2
ω3 1 = ω4
A1 − B1
ω4 − 1 ω4 A2 − B2
ω4
(3.32)
が得られる.
この連立方程式は4元4次方程式となっており,非常に煩雑であるため,もはや 人間が紙と鉛筆で解くのは現実的ではない.しかし,数式処理システム等を用い ることにより解析解を得ることができ,
A1 = ω4 −ω3+ω2−ω1 (3.33)
B1 = ω1ω2ω3ω4
ω1ω2ω4−ω1ω2ω3+ω2ω3ω4−ω1ω3ω4 (3.34) A2 = (ω2−ω3) (ω4−ω3) (ω2+ω4) (ω1+ω3) (ω1−ω2) (ω4−ω1)
(ω1ω2ω4−ω1ω2ω3+ω2ω3ω4−ω1ω3ω4) (ω4−ω3+ω2−ω1)2 (3.35) B2 = (ω1ω2ω4−ω1ω2ω3+ω2ω3ω4−ω1ω3ω4)2(ω4−ω3+ω2−ω1)
(ω2−ω3) (ω4−ω3) (ω2+ω4) (ω1+ω3) (ω1−ω2) (ω4−ω1) (3.36) と求められる.
N = 3の場合
帯域数N = 3の場合,式(3.22)から解かなければならない連立方程式は,
−1 = ω1 A1 −B1
ω1 − 1 ω1 A2 − B2
ω1
− 1
ω1 A3 − B3
ω1
1 = ω2 A1 −B1
ω2 − 1 ω2 A2 − B2
ω2
− 1
ω2 A3 − B3
ω2
−1 = ω3 A1 −B1
ω3 − 1 ω3 A2 − B2
ω3
− 1
ω3 A3 − B3
ω3 1 = ω4
A1 −B1
ω4 − 1 ω4 A2 − B2
ω4
− 1
ω4 A3 − B3
ω4
−1 = ω5 A1 −B1
ω5 − 1 ω5 A2 − B2
ω5
− 1
ω5 A3 − B3
ω5 1 = ω6
A1 −B1
ω6 − 1 ω6 A2 − B2
ω6
− 1
ω6 A3 − B3
ω6
(3.37)
である.N = 2の場合は数式処理システム等を用いれば解析解が得られたが,N = 3 となり6元6次の非線形方程式となると,もはや数式処理システムを用いても解 析解を得ることは困難を極める.したがって,解析解ではなく何らかの手段を用 いて数値解を求めなければならないが,N = 3では反復法は勿論であるが,直接 法を用いて実用的な計算時間で数値解を得ることも可能である.
N = 4以上の場合
N = 2,3の場合の例から,N = 4以上となると解析解は勿論のこと,直接法を 用いて数値解を求めることも困難となる.したがって,反復法を用いて数値解を 求めなければならない.多変数の非線形連立方程式の数値計算法として代表的な ものにニュートン法[54]がある.
ここで,ニュートン法の計算手順を簡単に示す.帯域数Nが一般的な値の場合,
2N 元の非線形連立方程式は
f1(A1, A2,· · · , AN, B1, B2,· · · , BN) = 0 f2(A1, A2,· · · , AN, B1, B2,· · · , BN) = 0
...
f2N(A1, A2,· · · , AN, B1, B2,· · · , BN) = 0
(3.38)
と表される.ここで,
X= (A1, A2,· · · , AN, B1, B2,· · · , BN) (3.39) とおくと,i番目の方程式はfi(X)と書き換えられ,テイラー展開すると,
fi(X+ ∆X) = fi(X) + ∂fi
∂A1∆A1+ ∂fi
∂A2∆A2+· · ·+ ∂fi
∂BN∆BN+O(∆X2) (3.40) となる.ここで,全てのi = 1,2,· · · ,2N において,fi(X+ ∆X) = 0となるよう に∆X= (∆A1,∆A2,· · · ,∆AN,∆B1,∆B2,· · · ,∆BN)を選べばよい.そのために 2次以降の項を無視し,行列としてまとめると,
∂f1
∂A1
∂f1
∂A2 · · · ∂f1
∂BN
∂f2
∂A1 . .. ... ... . .. ...
∂f2N
∂A1
∂f2N
∂A2 · · · ∂f2N
∂BN
∆A1
∆A2 ...
∆BN
=
−f1(X)
−f2(X) ...
−f2N(X)
(3.41)
となる.このN元1次連立方程式を解き∆Xを求め,
X=X+ ∆X (3.42)
すなわち,
A1 = A1+ ∆A1 A2 = A2+ ∆A2
...
AN = AN + ∆AN B1 = B1+ ∆B1
...
BN = BN + ∆BN
(3.43)
なる反復計算を繰り返すことによって数値解を得ることができる.
この方法では,Nが変化するとその度に式(3.41)を解き直さなければならない ため,N が大きくなると4N2 に比例して計算量が増大する.また,得られた解 A1, A2· · · , AN, B1, B2,· · · , BN が周波数変換として利用可能な値であるためには,
全ての値が異なる正の実数解として得られなければならないが,式(3.22)に示し た連立方程式から得られる解が常にそのような性質を満たすか否かについては数 学的に確認されていない点に課題が残る.