周波数変換を用いた
楕円関数マルチバンドフィルタの 設計に関する研究
宮田 尚起
電気通信大学大学院電気通信学研究科 博士(工学)の学位申請論文
2012 年 3 月
周波数変換を用いた
楕円関数マルチバンドフィルタの 設計に関する研究
宮田 尚起
博士論文審査委員会
主査 和田 光司 准教授
委員 唐沢 好男 教授
委員 中野 和司 教授
委員 範 公可 准教授
委員 肖 鳳超 准教授
委員 牧本 三夫 博士
著作権所有者 宮田 尚起
2012 年
A study on design of elliptic function multi-band filters using frequency mapping
Naoki Miyata
Abstract
In recent years, two or more wireless communication systems have been used for wireless equipment such as mobile phones, smart phones and others. In the fourth generation communication system, the seamless use of fixed communication networks and mobile communication networks is expected. Moreover, the commu- nication systems for the wireless equipment will increase further in the near future.
The filter is one of the important passive circuits for the wireless equipment, and the use of multi-band filters which can be used in all communication systems is strongly desired. As the traditional multi-band filters, dual-passband filters, dual-stopband filters, triple-passband filters and quad-passband filters have been presented. A sextuple-band filter has recently been proposed. Thus, the further increase in the number of bands required for the multi-band filters is expected in the near future.
In the general filter design, the frequency mapping has been used to obtain desired filter characteristics. The mapping approach has also been used for the multi-band filter designs. The dual-band frequency mapping and the triple-band frequency mapping were examined separately as one of the multi-band frequency mapping. However, the conventional mapping can realize only one kind of multi- band characteristics. Moreover, the multi-band frequency mapping which can realize further number of many bands has not been presented.
First, this thesis describes the multi-band frequency mapping which can realize arbitrary numbers of bands derived by extending the traditional mapping. It is nec- essary to determine the unknown constants for the multi-band frequency mapping.
Therefore, a method to produce the constants by computing procedures fewer than conventional calculation methods is also proposed. The effectiveness of both the mapping and the determination method is confirmed form design examples. Af- ter the author proposes the multi-band frequency mapping, a mapping method similar to my mapping has been presented by other researchers. Although this mapping is used to design multi-band bandpass filter(BPF) only, predominance of my proposal does not change. The more and more development of multi-band filters and multi-band frequency mapping is quite expectable given the present other researches.
Second, a method to realize elliptic function BPFs using stub-resonators is pro- posed. The effective location of attenuation poles and the sidelobe level in the stop band by elliptic function characteristics realized by using the stub-resonators are also shown. The elliptic function characteristics can be easily obtained as com- pared with the traditional elliptic function filter. Moreover, additional convenient characteristics are realized to the traditional characteristics by the proposed fil- ter. In this case, the effectiveness of the proposed BPFs is confirmed by design, fabrication and measurement.
Finally, the multi-band frequency mapping and the elliptic function filter design are combined, and then a design of elliptic function filters with multi-band char- acteristics is discussed. As the elliptic function multi-band filters, design examples of a dual-band BPF and a triple-band BPF are indicated. In this examination, elliptic function multi-band resonators are obtained by the combination of LC se- ries resonators and LC parallel resonators, or the use of only LC series resonators.
When the stub-resonators are applied to the elliptic function multi-band filter, all lumped element resonators will be replaced by stub-resonators. Therefore, the examination of the realizability of the filters by replacing the lumped element resonators with the stub-resonators is needed. The author expects that the real- izability of the proposed filters is high, because the realization of the BPF using
the stub-resonators was confirmed.
The proposed multi-band frequency mapping and the method to determine the unknown constants which are used to realize arbitrary numbers of bands have been confirmed. The filter which has multi-band and elliptic function characteristics will be composed by the stub-resonators. Although the author has to realize the presented multi-band filters, the proposed methodologies are useful for the multi- band filter design approach.
要約
近年,携帯電話やスマートフォンに代表される小型無線通信機器は多機能化が 進み,一つの機器に対して複数の無線通信システムが搭載されるようになってき ている.さらに第4世代移動通信システムLTE-Advancedにおいては,固定通信 網と移動通信網をシームレスに利用することも期待されており,今後通信機器に 搭載される無線通信システム数はさらに増加していくと考えられている.したがっ て,小型無線通信機器を構成する主要な部品である受動フィルタに対しても,複 数の通信規格に対応したマルチバンドフィルタの実現の要求がこの数年で急速に 高まってきている.
これまで先行技術として実現されているマルチバンドフィルタに,帯域数が2の デュアルバンドフィルタ,帯域数が3のトリプルバンドフィルタがあり,さらに近 年では帯域数が4のクアッドバンドフィルタや帯域数が6のセクストゥプルバン ドフィルタの多帯域数を実現するものも提案されている.このようなマルチバン ドフィルタを実現する手段の一つとして,周波数変換を用いる方法があり,マル チバンドフィルタに対応するマルチバンド周波数変換としては,デュアルバンド 周波数変換とトリプルバンド周波数変換が提案されている.しかし,これまでに 提案されているマルチバンド周波数変換は,全て1種類の帯域数のみを実現可能 な変換であり,デュアルバンドやトリプルバンドを包含し,将来的に必要と考え られるクアッドバンド以上のさらなる多帯域数など,任意の帯域数を実現可能な 周波数変換は提案されていない.
また,マルチバンドフィルタにおいて,その帯域数が増加すると,各帯域相互 の干渉や混信を防ぐために,通過帯域でのより急峻なスカート特性と阻止帯域で の大きな阻止量の実現が要求される.これまで一般的に用いられているチェビシェ
フ特性と比べてより急峻なスカート特性を有するフィルタ特性に楕円関数特性が あり,阻止帯域における阻止レベルを規定可能であるという長所も有する.しか し,その実現のためには電磁界シミュレータ等を用いた試行錯誤により回路構成 を特定しなければならず,その実現に大きな労力を必要とする.
そこで,本論文では,まず第1に,マルチバンドフィルタの設計理論の1つで ある周波数変換に着目し,クアッドバンド以上の帯域数など,任意の帯域数を実 現可能なマルチバンド周波数変換を提案し,多帯域数のマルチバンド周波数変換 を用いる場合に問題となる未知定数の決定法において,少ない計算手順で利用可 能な方法を併せて提案した.提案したマルチバンド周波数変換は従来の周波数変 換を繰り返し適用することを拡張することによって導出される.また,提案する 未知定数の決定法は,その計算手順において,零点及び極を求めることに特徴を 有する.提案したマルチバンド周波数変換と未知定数の決定法を用いたマルチバ ンドフィルタの設計例を示し,提案手法の有効性を確認した.ここで,筆者がマ ルチバンド周波数変換を提案した後に,類似の技術として,任意の帯域数を実現 可能なマルチバンドBPF周波数変換が提案されており,今後もマルチバンドフィ ルタ及びマルチバンド周波数変換の研究が盛んに行われると考えられる.ただし,
このマルチバンド周波数変換は,マルチバンドBPF変換についてのみの提案であ り,マルチバンドBEF変換は含まれていないことなどから,依然本論文で示した マルチバンド周波数変換の優位性は変わらない.
第2に,急峻なスカート特性と,阻止レベルを規定可能であるという特徴を有す る楕円関数特性をもつ楕円関数フィルタを,スタブ形共振器と呼ばれる単純な回 路構成で実現可能であることを示した.スタブ形共振器を用いた楕円関数フィル タの実現により,大きな労力を必要とせずに楕円関数フィルタの回路構成を特定 でき,奇数段目の共振器を適宜選択することによって,楕円関数特性にさらなる 付加価値を持たせることが可能となる.スタブ形共振器を用いた楕円関数フィル タの設計例を示すとともに,各設計例では試作実験を行い提案するスタブ形共振 器を用いた楕円関数フィルタが高い有効性と実現性を有していることを確認した.
最後に,マルチバンド周波数変換と楕円関数フィルタを組み合わせ,スタブ形
共振器を用いて実現することを想定した楕円関数マルチバンドフィルタについて 検討を行った.楕円関数マルチバンドフィルタとして,楕円関数デュアルバンド BPFと楕円関数トリプルバンドBPFの設計を行い,楕円関数特性においてもマル チバンド周波数変換を適用可能であることを確かめ,スタブ形共振器フィルタに よって実現する際に,置換が容易となる構成として2種類の構成が得られること を示した.今後,これらの楕円関数マルチバンドフィルタについて,スタブ形共 振器フィルタを用いての実現性について検討する必要があるが,同様の手順を用 いて試作実験を行ったスタブ形共振器を用いた楕円関数フィルタが高い実現可能 性を有していることを理論的及び実験的に検証しており,ここで示した楕円関数 デュアルバンドBPFと楕円関数トリプルバンドBPFについても同様に実現の可 能性は高いと考えられる.
以上により,本論文ではマルチバンドフィルタの設計理論及び実現手法を提案 し,提案手法はマルチバンドフィルタの実現に有用な手段であることを示した.
目 次
第1章 序論 1
1.1 高周波受動フィルタの技術動向 . . . . 1
1.2 マルチバンドフィルタ . . . . 4
1.2.1 回路構成に固有の特徴的な性質を用いたマルチバンドフィルタ 5 1.2.2 設計理論を用いたマルチバンドフィルタ . . . . 6
1.3 研究目的 . . . . 7
1.4 フィルタ実現の手順 . . . . 8
1.5 本論文の構成 . . . . 10
第2章 フィルタの古典設計理論 13 2.1 特性関数と原型低域通過フィルタ . . . . 13
2.1.1 フィルタの理想特性と特性関数 . . . . 13
2.1.2 バターワース特性 . . . . 15
2.1.3 チェビシェフ特性 . . . . 19
2.2 回路合成 . . . . 26
2.2.1 周波数変換 . . . . 26
2.2.2 インバータ変換 . . . . 34
2.2.3 共振器直結型回路での実現 . . . . 42
2.2.4 スタブ形共振器による実現 . . . . 46
第3章 マルチバンド周波数変換 51 3.1 マルチバンド周波数変換の導出 . . . . 51
3.2 未知定数の決定 . . . . 57
3.2.1 連立方程式による方法 . . . . 57
3.2.2 極分離による方法 . . . . 63
3.3 回路素子の変換 . . . . 70
3.4 利用例 . . . . 75
3.4.1 デュアルバンドフィルタ . . . . 75
3.4.2 トリプルバンドフィルタ . . . . 80
3.4.3 クアッドバンドフィルタ . . . . 90
3.4.4 未知定数の決定法の比較 . . . . 96
3.5 まとめ . . . . 98
第4章 楕円関数フィルタ 100 4.1 特性関数 . . . . 100
4.2 入力インピーダンス . . . . 109
4.3 規格化素子値 . . . . 111
4.4 スタブ形共振器による構成 . . . . 125
4.4.1 楕円関数フィルタとスタブ形共振器 . . . . 125
4.4.2 スタブ形共振器への置換 . . . . 130
4.5 設計例 . . . . 135
4.5.1 設計仕様が素子値へ及ぼす影響 . . . . 135
4.5.2 短絡スタブ . . . . 136
4.5.3 両端開放共振器 . . . . 146
4.5.4 一端短絡共振器 . . . . 156
4.5.5 両端短絡共振器 . . . . 165
4.6 まとめ . . . . 172
第5章 楕円関数マルチバンドフィルタ 176 5.1 楕円関数デュアルバンドフィルタ . . . . 176
5.1.1 LC直列共振器とLC並列共振器による構成 . . . . 181
5.1.2 LC直列共振器による構成 . . . . 183
5.2 楕円関数トリプルバンドフィルタ . . . . 190
5.2.1 LC直列共振器とLC並列共振器による構成 . . . . 195
5.2.2 LC直列共振器による構成 . . . . 197
5.3 まとめ . . . . 202
第6章 結論 203
謝辞 206
参考文献 208
論文目録 216
第 1 章 序論
1.1 高周波受動フィルタの技術動向
今日,日常生活において我々の身の回りには電磁波を利用する技術が無数に存在 する.テレビやラジオに代表される放送事業,ロケットや人工衛星,2010年に7年 半ぶりに小惑星イトカワから微粒子を地球に持ち帰ったことで記憶に新しい小惑星 探査機はやぶさなどに代表される宇宙開発,気象衛星や電波望遠鏡,GPS(Global Positioning System)等の観測技術,携帯電話や無線LAN(Local Area Network)
等の小型無線通信機器,警察や消防などの防災無線,電子レンジや電磁調理器な どの調理器具,さらに可視光や放射線なども電磁波であることを考慮すると,電 磁波を利用する技術は枚挙にいとまがない.これは電磁波を利用する技術が現代 社会を支える最も基礎的であり,かつ重要な技術であることの一つの証左と考え られる.
中でも,小型無線通信機器は近年,携帯電話の技術発展と,その爆発的な普及に より,人々のライフスタイルを大きく変え,現在もなお,社会に多大な影響を及ぼし 続けている.さらに,スマートフォンの登場により今後さらなる技術の発展が有望 視されている.昨今,小型無線通信機器に対して,すでに搭載され始めている無線通 信システムにUWB(Ultra Wide Band)やWiMAX(Worldwide Interoperability for Microwave Access),GPS,Bluetooth等があり,第4世代移動通信システム LTE-Advanced(Long Term Evolution-Advanced)における伝送速度向上の主要 技術としてCarrier Aggregation(CA)技術[1]なども注目を集めている.
UWBは3.16 GHzから10.6 GHzにわたる非常に広い帯域を用いる通信方式で ある.ただし,帯域をLow-band(3,16〜4.75 GHz),Middle-band(4.75〜6.33 GHz),
High-band(6.33〜10.6 GHz)と分割すると,Middle-band では無線LANやBlue-
toothの帯域と重複するため,Low-bandとHigh-bandの2つの帯域を用いる.ま た,WiMAXでは2.3〜2.4 GHz,3.4〜3.6 GHz及び5.25〜5.85 GHzの3つの帯域 を用いることや,CAはComponent Carrier(CC)と呼ばれる基本周波数ブロック を同時に複数用いて通信を行う技術であることから,3以上の帯域を用いる無線通 信システムが今後機器に搭載されると考えられている.
さらに,第4世代携帯電話では無線LANやWiMAX,Bluetoothなどと連携す ることにより固定通信網と移動通信網をシームレスに利用することも期待されて おり,小型無線通信機器が利用する帯域数は今後も増加していくと考えられる.
以上の様な小型無線通信機器に対する要求に応えるために,小型無線通信機器 を構成する重要な部品の一つである受動フィルタおいても様々な研究開発が行わ れており,以下に幾つかの例を示す.
●複数帯域化
1つの小型無線通信機器において,複数の帯域を用いる場合に用いる受動 フィルタとして図1.1に示すようなマルチバンドフィルタの研究が行われて いる.マルチバンドフィルタは1入力1出力のフィルタであり,通過帯域を 2つ有するものをデュアルバンドバンドパスフィルタ(BPF)[2, 3, 4, 5],通 過帯域を3つ有するものをトリプルバンドBPF [6, 7]と呼ぶ.
Multi-band filter
In Out
Frequency
|S21|
Pass band 図 1.1: マルチバンドフィルタ
●複数分波化
1つの機器に複数の無線通信システムを搭載する場合に,対応する受動フィ ルタとして分波回路の研究が行われている.分波回路は図1.2に示す様に通 過帯域の異なる複数のBPFを,BPF相互間の干渉を防ぐために整合回路を 介して接続することによって実現される1入力多出力の回路であり,2分波 するものをダイプレクサ[8, 9, 10],3分波するものをトリプレクサ[5, 11, 12]
と呼ぶ.
BPF@f
1Matching
circuit
Multi-plexer
Port 1
Port 2 Port 3
Port N
BPF@f
2BPF@f
3図 1.2: マルチプレクサ
●小型化
近年,小型無線通信機器に様々な機能が実装されるに至り,機器に内蔵さ れている部品全てに対して小型化の要求が高まっている.受動フィルタにお いて,この要求にこたえるために,低温同時焼成セラミック(LTCC)技術 を用いてフィルタ構造を積層化し,基板内部に実装する[3, 8]などの手段を 用いて小型化の研究が盛んに行われている.
●阻止帯域の高減衰化
前述の通り電磁波及び電波を用いた技術は非常に有用であるために,電波 を利用する全ての技術や機器に対して,限りある資源である周波数を最大限
有効利用する方策を取ることが常に求められる.受動フィルタとしてこの要 求にこたえるために,フィルタ特性の阻止帯域においてはスカート特性のさ らなる急峻化と阻止帯域におけるより大きな阻止量及び広い阻止帯域の確保 が試みられている[13, 14, 15, 16, 17, 18].この急峻なスカート特性と阻止帯 域の確保を実現するフィルタ特性に楕円関数特性[13, 19, 20, 21, 22]が存在 する.
1.2 マルチバンドフィルタ
これまでに実現されているマルチバンドフィルタは,その実現されている帯域 数に着目すると,当初デュアルバンドフィルタ[2, 3, 4, 5]が提案されはじめ,次第 に帯域数が3のトリプルバンドフィルタ[6, 7, 23, 24, 25]や帯域数が4のクアッド バンドフィルタ[26, 27, 28, 29]も提案されるようになってきた.そして近年,帯 域数が6のセクストゥプルバンドフィルタ[30]が提案されるに到り,今後もさら に帯域数の増加が予想される.
他方,これまでに提案されているマルチバンドフィルタをその実現方法に着目 すると,回路構成に固有の特徴的な性質を用いて実現するものと,設計理論によ るものとに大別される.回路構成に固有の特性を用いる方法では,周波数帯域な ど特定の条件下において,回路構成に立脚した高い実現性を有してはいるものの,
その反面,一般性に乏しいという短所を有する.一方,設計理論に基づく方法で は,様々な条件の下で利用可能であるなどの高い一般性を有するという利点があ るが,回路構造として実現する点に難点を残す.
ここで,回路構成に固有の特徴的な性質を用いる方法と設計理論を用いる方法 について具体例を示す.
1.2.1 回路構成に固有の特徴的な性質を用いたマルチバンドフィル タ
●SIR
SIR(Stepped Impedance Resonator)は図1.3に示すように電気長θ,特性イン ピーダンスZ1とZ2の異なる複数の線路からなる共振器で,特性インピーダンス 比RZ=Z2/Z1とすると,共振条件は
Z 2 Z 1 2 Z 2
図 1.3: SIR
RZ = tan2θ (1.1)
で表わされる.この共振条件において,RZを変化させると,基本共振周波数に対 して,高調波共振周波数を近づけたり遠ざけたりすることができる.この性質を 用いて,基本共振周波数と高調波共振周波数を用いてデュアルバンドフィルタを 得る[24, 31, 32, 33, 34].
●マルチモード共振器
複数の共振モードを有する共振器において,それぞれのモードでの共振周波数 を用いてマルチバンドフィルタを構成する.対称な回路構造において,偶モード と奇モードの2つのモードで共振が起こるため,デュアルバンドフィルタを実現 する[35].また,複数の共振点を有する共振器を用いる方法[36, 37, 38, 39, 40]も 提案されている.
●最適化手法を用いる方法
遺伝的アルゴリズム(GA)に代表される最適化手法を用い,マルチバンド特性 が得られるように回路パターンを最適化する[41, 42].この方法では最適化手法を 用いることによって,それまでに得られていた回路パターンと全く違う新たな構 造を得られる可能性があるが,必要とする計算機資源が大きいことや,最適化を 行う際の評価関数の収束が十分でないと,得られた解の信頼性が著しく低くなる 等の問題点も有する.
1.2.2 設計理論を用いたマルチバンドフィルタ
●複数のフィルタの組み合わせ
複数の帯域を実現しようとする際,図1.4に示した回路のようにそれぞれの帯域 に個別に対応したフィルタを設計し,得られたフィルタの入出力ポートを整合回 路を介して,相互の影響を受けないように接続して得る方法[3, 43, 44]で,従来の フィルタの設計法がそのまま利用できる利点を有する.しかし,フィルタ同士を 接続する際に整合回路が必要となるため,部品点数が増加する.また,必要な帯 域数が増加すると整合回路が複雑になり設計が煩雑になるという問題点も有する.
また,通過帯域の異なるフィルタを組み合わせる方法としてマルチパスと呼ば れる複数の伝送経路を有する回路を用いる例[6, 7, 23, 45]も存在する.
BPF@f
1BPF@f
2Matching
circuit
Matching circuit
Matching circuit
Matching circuit
In Out
図 1.4: 複数のフィルタの組み合わせによるマルチバンドフィルタ
●右手/左手系複合伝送線路
右手/左手系複合(Composite Right/Left Handed: CRLH)伝送線路は負の位相 伝搬や零次共振等の特異な現象が起こる線路として注目されており,CRLH伝送 線路に特徴的な性質を用いることによってデュアルバンド特性を実現する[46, 47].
これまでCRLH伝送線路による方法で提案されているフィルタはデュアルバンド フィルタのみであり,今後トリプルバンド以上の多帯域数への拡張は原理的に困 難と考えられる.
●周波数変換
周波数変換は,従来フィルタ設計に用いられている設計理論において,原型ロー パスフィルタ(LPF)から,LPF,高域通過フィルタ(HPF),BPF,帯域阻止フィ ルタ(BEF)等のフィルタ特性を得るために用いるもので,マルチバンドフィル タに対応した周波数変換としては,デュアルバンドBPF変換[48, 49, 50],デュア ルバンドBEF変換[51, 52],トリプルバンドBPF変換[25, 50]が提案されている.
しかし,デュアルバンド周波数変換では,その導出過程が示されているものが
一部[48, 51]あるものの,その他のマルチバンド周波数変換においては導出過程が
示されておらず,現在提案されているマルチバンド変換相互の関係性が不明であ る.また,それらのマルチバンド変換は全て,1種類の帯域数のみを実現可能な変 換であり,他の帯域数やさらなる多帯域数に対応したものは提案されていない.
1.3 研究目的
本論文では,前節までに示した背景から,小型無線通信機器を構成する部品の 一つである受動フィルタにおいて,複数帯域化に対応したマルチバンドフィルタ に着目する.さらに,マルチバンドフィルタを得る設計理論において,特に従来 の設計理論との親和性,及び既に得られている設計理論の種類の多さから,周波 数変換によるマルチバンドフィルタの設計法について検討することによって,こ れまでに得られているデュアルバンド周波数変換及びトリプルバンド周波数変換
をも包含し,クアッドバンド以上の任意の帯域数をも実現可能なマルチバンド周 波数変換を提案することを目的とする.
また,多帯域数のマルチバンド周波数変換を用いる場合に,問題となる未知定 数の決定法において,容易に利用可能な方法も併せて提案する.
他方,マルチバンドフィルタに求められる急峻なスカート特性と大きな阻止量 を実現するフィルタ特性に楕円関数特性がある.これまで実現されている楕円関 数フィルタはカノニカル結合等の結合構造を用いて実現していたため,その設計 時に試行錯誤による手順を含み,大きな労力を必要とする.そこで本論文ではス タブ形共振器と呼ばれる単純な回路構成によって構成される楕円関数フィルタを 提案する.
最後に,提案したマルチバンド周波数変換と未知定数の決定法を用いて,スタ ブ形共振器を用いて実現することを想定した楕円関数マルチバンドフィルタの設 計を行うことによって提案手法の有効性を示す.
1.4 フィルタ実現の手順
本節では,本論文の特徴を明確にするために,フィルタ実現の手順の一例[20]を 図1.5に示す.図1.5に示した例は,マイクロストリップ線路構造によるBPFを設 計により実現する場合の例であり,高周波受動フィルタを実現する際に用いられて いる手順の一つである.以降,図1.5に示した実現手順について詳しく説明する.
手順➀ 原型LPFの導出
実現しようとするフィルタとして設定された仕様から,フィルタ特性に対応 した原型LPFを導出する.バターワース特性,チェビシェフ特性,楕円関 数特性など,各特性に対応した原型LPFを用いる.
手順➁ 周波数変換
仕様から要求されるフィルタの通過特性を決定するために,原型LPFに対 して周波数変換を適用する.周波数変換によりLPF, HPF, BPF, BEFなど の通過特性を実現する.
Specification
Prototype LPF
Lumped BPF
Inverter BPF
Distributed BPF
Realized filter Pattern BPF
Filter characteristic
(Butterworth, Chebyshev, Elliptic function, etc.)
Frequency mapping (LPF, HPF, BPF, BEF, etc.) Inverter transformation
Replacing resonator and inverter to transmission line
Implementation of transmission line on substrate(MSL, CPW, etc.)
Fabrication Circuit simulator Electromagnetic simulator Vector network analyzer Evaluating the characteristics by…
In Out
In Out
In Out
J J J J
In Out
In Out
Prototype LPF
Lumped BPF
Inverter BPF
Distributed BPF
Pattern BPF Design
&
Simulation
Experiment
図 1.5: フィルタ実現の手順の例
手順➂ インバータ変換
集中定数素子回路を分布定数線路へ置換するための準備として,インバータ 変換を適用する.インバータ変換を適用することにより,各段の共振器や段 間の接続部(インバータ部)の様に,回路構成をその性質や機能に基づいて 区分することができ,設計の見通しが良くなる.また,設計仕様とは独立に 設定可能な自由度が得られることがある.
➀から➂の手順において得られる回路は,全て集中定数素子によるフィルタであ り,回路は物理的に0次元の大きさを有している.また,これらの手順において 用いる変換は,近似を含まないため,仕様で設定した理想的な特性となる.
一方,➃以降の手順では,回路の物理的な大きさを1次元,2次元へと拡張して いくため,様々な近似や仮定が含まれる.したがって,各手順において,用いる 変換や置換が有する近似や仮定の影響を受けて,変換前後で特性が変化するため,
その影響をできるだけ小さくしたり,相殺する方法の検討や,受容可能な範囲の
ものであるのか等について随時特性を評価,確認する必要がある.
手順➃ 分布定数線路への置換
フィルタの共振器やインバータ部を対応する分布定数線路へ置換する.この とき,特性に影響を与える原因として,分布定数線路が有する周期性等が考 えられる.特性の評価には回路シミュレータが用いられる.
手順➄ 回路パターンの構成
分布定数線路BPFを実現しようとする線路構造(マイクロストリップ線路)
のパラメータ(基板厚や比誘電率,導体厚など)を用い,分布定数線路の特 性インピーダンスから線路幅を求め,線路長を実効比誘電率による波長短縮 を考慮した値に計算することによって,回路パターンを得る.このとき,特 性に影響を及ぼす要因として,分布定数線路BPFでは考慮されていない線路 の不連続部分や開放端,Viaの影響や,導体損失や誘電体損失などの各種損 失等が考えられる.特性の評価には,回路シミュレータや電磁界シミュレー タが用いられる.
手順➅ 試作
回路パターンを製作する.特性に影響を及ぼす要因として,製作誤差や,シ ミュレーションモデルの再現性などが考えられる.特性はベクトルネットワー クアナライザ(VNA)等を用い,実測によって評価する.
上述のように,設計の各段階での様々な要因の影響を受けるため,最終的に得 られたフィルタの特性が理想特性と完全に一致することはない.したがって,そ の差異の原因を特定し,実用上許容可能な範囲に収束させるために回路構成の微 調整が必要になる.その際,手順➅の回路パターンの製作には多くの時間とコスト を必要とするため,回路構造製作前の手順➃や手順➄の様なシミュレーションによ る操作の段階で微調整が行われる.
1.5 本論文の構成
本論文の構成と各章の関連を図1.6に示す.本論文は全6章で構成されており,
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図 1.6: 本論文の構成
第2章ではフィルタの設計理論について説明する.第2章で述べるフィルタの設 計理論は,図1.5に示したフィルタ実現の手順における手順➀から手順➃に関係し,
各手順で行う操作の理論的な裏付けとなっている.
第3章ではマルチバンド周波数変換を提案する.また,提案したマルチバンド周 波数変換を用いる際に,問題となる未知定数の決定法において,従来の方法より もより少ない計算機資源で計算可能な計算法も併せて提案する.提案したマルチ バンド周波数変換と,未知定数の決定法の導出過程を示し,これらの手法を用い たマルチバンドフィルタの設計例を示すことにより,提案手法の有効性を確認す る.このマルチバンド周波数変換は図1.5に示したフィルタ実現の手順において,
手順➁に関連する.
第4章では楕円関数フィルタをスタブ形共振器フィルタを用いて実現する方法 について述べる.楕円関数フィルタをスタブ形共振器フィルタを用いて実現する
ことによって,回路実現に煩雑な手順が必要であった楕円関数フィルタを容易に 実現可能となり,またスタブ形共振器フィルタが実現する減衰極の効果的な配置 位置を楕円関数フィルタから指定することが可能となる.また,スタブ形共振器 の組み合わせによって,楕円関数特性に付加価値を持たせることが可能であるこ とを,複数種の回路を設計・試作し,特性を回路シミュレーション,電磁界シミュ レーション,及び実測により評価し,その有効性を確認する.この章で示すスタ ブ形共振器を用いた楕円関数フィルタは,図1.5に示したフィルタ実現の手順に基 づいてフィルタを実現する際に,手順➃においてスタブ形共振器を用いることに大 きな特徴を有する.
さらに,第5章では第3章に示すマルチバンド周波数変換と第4章に示すスタ ブ形共振器フィルタを用いた楕円関数フィルタを組み合わせた,楕円関数マルチ バンドフィルタについて検討を行う.楕円関数マルチバンドフィルタの例として,
楕円関数デュアルバンドBPFと楕円関数トリプルバンドBPFをマルチバンド周 波数変換を用いて設計する.得られたフィルタは,インバータと等価回路変換を 用いることにより,図1.5における手順➃において,スタブ形共振器へ置換可能な 回路構成として,2通りの構成が導出できることを示す.
最後に,第6章において,本論文の結論を述べる.
第 2 章 フィルタの古典設計理論
本章ではフィルタの設計法として現在,最も広く用いられている設計法である 動作パラメータ法[20]について概説する.動作パラメータ法は所望の特性が得ら れるという大きなメリットを有する設計法であるが,設計法に内包する近似等に よって利用範囲に限界があることや,成立年が1960年代と古いことから古典設計 理論と呼ばれる.
古典設計理論は確立されてから今日に至るまで,ワイドバンドフィルタやマル チバンドフィルタなど,日々その適用範囲の拡張の検討が試みられており,その統 一のとれた美しい理論体系と有用性は未だ他の設計法の追随を許していない.本 論文における設計法はこの古典設計理論をさらに発展させたものであり,その新 規性とその学術的な位置付けを明確にするために本章に古典設計理論を示す.
2.1 特性関数と原型低域通過フィルタ
2.1.1 フィルタの理想特性と特性関数
理想的なLPFとして要求される特性はその電圧透過係数をT(jω)とすると
T(jω) =
e−
jκω
ωc (0≤ |ω|/ωc≤1) 0 (1≤ |ω|/ωc)
(2.1)
と書ける.ただし,κは定数であり,ωc[rad/s] = 2πfcは遮断角周波数である.こ
こで,式(2.1)から得られる振幅特性と位相特性を図2.1に示す.
図2.1に示した特性を持ち,かつ電気回路で合成可能な電圧透過係数T(jω)を求 めることができれば,理想特性を実現可能となる.しかし,この様な特性を電気 回路で実現することは一般に困難である.したがって,理想特性に可能な限りよ
1
|T|
[rad/s]
O c
Pass band Elimination band
(a)振幅特性
-Arg(T)
[rad/s]
O c
(b)位相特性 図 2.1: 理想LPFの特性
く近似しており,かつ電気回路で実現可能な電圧透過係数T(jω)を求めることが 必要となる.
そこで,まず式(2.1)の指数関数を級数展開すると e−jx=
{(
1− x2 2! +x4
4! − · · · )
+ j (
x−x3 3! + x5
5! − · · · )}−1
ただし,x=κω
ωc とおいた.ここで,両辺の絶対値の2乗を取ると
|e−jx|2 = {
1 + 2 (
−x2 2! + x4
4! − · · · )
+ (
−x2 2! +x4
4! − · · · )2
+ (
x− x3 3! +x5
5! − · · ·
)2}−1
となる.ここで,
H2Φ2(x) = 2 (
−x2 2! +x4
4! − · · · )
+ (
−x2 2! +x4
4! − · · · )2
+ (
x− x3 3! +x5
5! − · · · )2
とおくと,理想LPFの電力透過係数|T(jΩ)|2は
|T(jΩ)|2 =|e−jx|2 = 1
1 +H2Φ2(Ω) (2.2)
と書き表わされる.ただし,Ω [rad/s]は規格化角周波数と呼ばれ,角周波数ωと 遮断角周波数を無次元化した値ωcを用いて
Ω = ω
ωc (2.3)
で定義される.したがって,規格化遮断角周波数Ωc = ωc/ωc = 1 [rad/s]となる.
また,Hは任意の定数である.ここで,一般に規格化角周波数は無次元量として
定義されることが多いが,高周波回路の分野においては歴史的な経緯からrad/sの 次元を持つ量として定義される.
このとき,Φ(Ω)は理想的には通過域(0 ≤Ω≤Ωc)で0,遮断域(Ωc <Ω)で無 限大に近似できる関数であり,一般に特性関数と呼ばれる.
したがって,直接電圧透過係数T(jω)を求めるのではなく,特性関数Φ(Ω)を求 める事によって可能な限り理想特性に近似しながら,電気回路として実現可能な 関数について検討する.電圧透過係数T(jω)用いるのではなく,特性関数Φ(Ω)を 利用することによって,以降の式の導出や理解が容易になる.
2.1.2 バターワース特性
特性関数Φ(Ω)を規格化周波数Ωに関するn次多項式で近似することを考える と,特性関数Φ(Ω)は
Φ(Ω) = Ωn+an−1Ωn−1 +· · ·+a1Ω +a0 (2.4) と書ける.ただし,a0〜anは任意の定数である.ここで通過域(0 ≤ Ω ≤ Ωc)で 最平坦な特性となるように近似することにすると,式(2.4)において最平坦特性を 得るための必要十分条件はn階までの導関数が全てΩ = 0で0となることである.
したがって,式(2.4)における係数a0〜an−1は全て0となり,特性関数Φ(Ω)は
Φ(Ω) = Ωn (2.5)
となる.また,このときの電力透過係数|T(jΩ)|2は
|T(jΩ)|2 = 1
1 +H2Φ2(Ω) = 1
1 +H2Ω2n (2.6)
となる.この様に通過域内において,最平坦特性を得るフィルタは最平坦特性フィ ルタ,ワグナー・バターワースフィルタもしくは,単にバターワースフィルタなど と呼ばれる.本論文では以降バターワースフィルタと呼ぶ.
いま,式(2.6)に示した電力透過係数からバターワース特性を特徴づけるパラ
メータとして未知係数Hとフィルタ次数nの2つが存在することが分かる.ここ
で,未知係数Hは遮断周波数(Ω = Ωc)における電力透過係数を規定し,多くの 場合H= 1すなわち,|T(jΩc)|2 = 1/2 (-3dB)とする.したがって,バターワー ス特性を特徴づけるパラメータはフィルタ次数nのみとなり,nを大きくすること によって遮断周波数付近でのスカート特性が急峻になる.
次に,式(2.6)で決定された電力透過係数から原型LPFを導出する.原型LPF
とは,遮断角周波数を無次元化した量ωcと入力電源の内部抵抗を無次元化した量 R0によって正規化されたLPFで,この原型LPFに2.2.1節に示す周波数変換を適 用することによって一般的なLPFや,HPF,BPF及びBEFを得ることができる.
また,原型LPFにおける各素子値は規格化素子値と呼ばれ,一般的に変数として gを用いることが多いため,gパラメータとも呼ばれる.
いま,一般的な条件下での導出は困難なので,まずフィルタ次数n = 2のとき の例を示し,その後,任意のフィルタ次数nの場合の導出を行う.n = 2のとき,
電力透過係数|T(jΩ)|2は
|T(s)|2 = 1
1 +s4 (2.7)
となる.ただしjΩ =sとおき,s[rad/s]は複素角周波数とする.回路に損失がな いと仮定すると,電力透過係数|T(s)|2から電力反射係数|Γ(s)|2は
|Γ(s)|2 = 1− |T(s)|2 = s4
1 +s4 (2.8)
となる.ここで,電圧反射係数Γ(s)は自身がフルビッツの多項式Q(s)となるよう に電力反射係数|Γ(s)|2を因数分解することにより得られる.すなわち
|Γ(s)|2 = Γ(s)Γ(−s) = s2 s2+√
2s+ 1 · (−s)2 (−s)2+√
2(−s) + 1 (2.9) となり,
Γ(s) = s2 s2+√
2s+ 1 (2.10)
が得られる.
ここで,回路網の電圧反射係数Γ(s)と入力インピーダンスZin(s)の関係として Zin(1)(s) = 1 + Γ(s)
1−Γ(s) (2.11)
Zin(2)(s) = 1−Γ(s)
1 + Γ(s) = 1
Zin(1)(s) (2.12)
なる関係があるので,式(2.10)を式(2.11)に代入すると,
Zin(1)(s) = 2s2+√ 2s+ 1
√2s+ 1 (2.13)
となる.そこで,この式の左辺を連分数展開すると Zin(1)(s) = √
2s+ 1
√2s+ 1 1
=g1s+ 1 g2s+ 1
r2
(2.14)
となる.ただし,g1 =√
2 [H], g2 =√
2 [F], r2 = 1 [Ω]であり,これらの値が規格化 素子値となる.
一方,入力インピーダンスとして式(2.12)を用いると Zin(2)(s) = 1
Zin(1)(s) = 1
√2s+ 1
√2s+1 1
= 1
g1s+ 1 g2s+ 1
r2
(2.15)
となり,g1 =√
2 [F], g2 =√
2 [H], r2 = 1 [S]となる.このとき,得られる回路構成 を図2.2に示す.
r1=1
g1
g2 r2
(a)入力インピーダンスがZin(1)のとき
r1=1
g1 g2
r2
(b)入力インピーダンスがZin(2)のとき 図 2.2: フィルタ次数n = 2のときのバターワース特性を有する原型LPFの回路 構成
図2.2に示した原型LPFの回路構成から,入力電源から見たときに1つ目に現 れる素子がZin(1)のときは直列のコイル,Zin(2)のときは並列のコンデンサとなって おり,その次は並列のコンデンサ及び直列のコイルとなっている.図2.2はn = 2 であったが,nが2以上となった場合はこれらの直列コイル又は並列コンデンサが 交互にn個現れるはしご型回路となる.
これまでは規格化素子値の導出方法の具体例としてフィルタ次数n = 2の場合 について説明した.nが任意の整数の場合についても同様に行う事によって規格化 素子値を導出することは可能である.しかし,導出過程にフルビッツの多項式と なるように因数分解をする手順が含まれており,一般にnが大きくなると規格化 素子値の導出が困難となる.そこで,ここではフィルタ次数nが任意の整数値の 場合の規格化素子値の導出方法を示す.
n段はしご型回路によって構成され,バターワース特性を有する原型LPFのi 番目の規格化素子値giは
gi = 2 sin2i−1
2n π (i= 1,2,· · · , n) (2.16) で得られる.このとき得られる回路構成を図2.3及び2.4に示す.図2.3に示した 構成は1つ目の規格化素子値g1が直列コイルの場合,図2.4に示した構成は1つ 目の規格化素子値g1が並列コンデンサの場合の回路であり,フィルタ次数n = 2 のときの例における入力インピーダンスがZin(1)の場合とZin(2)の場合にそれぞれ対 応している.
また,1つ目の規格化素子値g1がコイルの場合である図2.3に示した回路におい て,gi (i:odd number)はインダクタンスの次元[H]となり,gi (i:even number) はキャパシタンスの次元[F]となる.さらに,出力側の内部抵抗となる一番最後の 規格化素子値gn+1は,nが奇数の場合はコンダクタンスの次元[S]を,nが偶数の 場合は抵抗の次元[Ω]を持つ.
他方,1つ目の規格化素子値g1がコンデンサの場合の図2.4に示した回路におい ても同様に,gi (i:odd number)はキャパシタンスの次元[F]となり,gi (i:even
number)はインダクタンスの次元[H]となる.さらに,出力側の内部抵抗となる一
番最後の規格化素子値gn+1は,nが奇数の場合は抵抗の次元[Ω]を,nが偶数の場 合はコンダクタンスの次元[S]を持つ.
また,バターワース特性を有する原型LPFの規格化素子値において,出力側の 内部抵抗となる一番最後の規格化素子値gn+1は,1つ目の規格化素子値g1やフィ ルタ次数nの偶奇を問わず常にgn+1 = 1となる.
g0=1
g1
g2 gn+1
g3 g4
図 2.3: バターワース特性を有するn段原型LPFの回路構成(g1がコイルの場合)
g0=1
g2
g1 gn+1
g4 g3
図 2.4: バターワース特性を有するn段原型LPFの回路構成(g1がコンデンサの 場合)
2.1.3 チェビシェフ特性
2.1.2節で示したバターワース特性は通過域内における電力透過係数|T(s)|2のみ に着目し,|T(s)|2が最平坦となる特徴を有している.しかし,通過域内を最平坦 にするためにスカート特性が緩やかになる.そこで,通過域内の最平坦性を多少 犠牲にし,等リプルを許容することにより,より急峻なスカート特性を実現する のがチェビシェフ特性である.
いま,チェビシェフ特性の例を図2.5に示す.図2.5に示した特性においてΩzi[rad/s]
(i = 1,2,3)は特性関数Φが0となる角周波数であり,Lは通過域内における振幅 となっている.また,電力透過係数|T|2において,特性関数の振幅Lによって現 れる電力透過係数の振幅をRW [dB]とし,Ω∩i[rad/s](i= 1,2)は減衰量がRW と なるときの角周波数を示す.
図2.5に示した特性より,通過域(0≤ Ω≤Ωc)において通過特性がリプルを持
|T|2
O [rad/s]
[rad/s]
RW
L -L
O
z1
z2
z3
1
2 c
図 2.5: フィルタ次数n = 6のときのチェビシェフ特性の例
つ様なフィルタに対する特性関数Φ(Ω)はその零点角周波数Ωziから
Φ(Ω) =
Ω
n−1
∏2
i=1
(Ω2 −Ω2zi) (n :odd)
n
∏2
i=1
(Ω2−Ω2zi) (n :even)
(2.17)
と書き表わすことができる.この式はΩ = ΩziにおいてΦ = 0となることを保証 する式となっており,適切にΩziを指定することにより,通過域内のリプルを等リ プルとすることができる.この様な等リプル特性は一般にチェビシェフ特性と呼 ばれる.これは,式(2.17)で示した特性関数がチェビシェフ多項式で表わすことが できるためであり,以降にそのチェビシェフ多項式表示の特性関数の導出を示す.
まず,次の関数を定義する.
F(Ω) = Φ2(Ω)−L2 (2.18)
この関数は図2.5に示した例より,Ω =±Ω∩iで零,Ω =±Ωcで零,nが偶数の場
合Ω = 0でも零となる特徴を有しており,このことを式で表現すると
F(Ω) =
h1(Ω2−1)
n−1
∏2
i=1
(Ω2 −Ω2∩i)2 (n :odd) h1Ω2(Ω2−1)
n 2−1
∏
i=1
(Ω2−Ω2∩i)2 (n :even)
(2.19)
となる.ただしh1は未定係数である.
また,特性関数Φ(Ω)のΩに対する微分はΩ =±Ω∩iで零,nが偶数の場合Ω = 0 で零,Ω =±Ωcでは非零等の特徴を持っている.したがって特性関数のΩに対す る微分は
dΦ(Ω) dΩ =
h2
n−1
∏2
i=1
(Ω2−Ω2∩i) (n:odd) h2Ω
n 2−1
∏
i=1
(Ω2−Ω2∩i) (n:even)
(2.20)
となる.ただし,h2は未定係数である.いま,この式を変形し,式(2.19)に代入 すると次の式を得る.
F(Ω) = Φ2(Ω)−L2 = h1
h22(Ω2 −1)
{dΦ(Ω) dΩ
}2
(2.21) ここで両辺の平方根を取ると
√ dΩ
Ω2−1 = CdΦ(Ω)
√Φ2(Ω)−L2 (2.22)
と変形できる.ただし,C =
√h1
h2 とおいた.ここで,
Ω = x (2.23)
Φ(Ω)
L = y (2.24)
なる変数変換を行うと
√ dx
1−x2 = Cdy
√1−y2 =du (2.25)
となる.この微分方程式をyについて解くことによって等リプル特性を得る特性 関数Φがチェビシェフ多項式で表わすことができる.
まず,式(2.25)をyについて解くために,同式の左辺をx= 0から任意の値X まで積分する.すると,
u(X) =
∫ X 0
√ dx
1−x2 = sin−1(X) (2.26) となり,
X = sin(u) (2.27)
が得られる.
一方,式(2.25)の右辺については,x = 0 (Ω = 0)に対応するyの値が図2.5 に示した特性より
y= Φ(Ω)
L =
{
0 (n:odd)
1 or −1 (n:even) (2.28) となる事を考慮し,x=Xに対応するyの値をY として積分を行うと,
u(x) =
C
∫ Y
0
√dy
1−y2 = Csin−1Y (n:odd)
C
∫ Y 1
√dy
1−y2 = C (∫0
1
√dy
1−y2 +∫Y 0
√dy 1−y2
)
=C (−π
2 + sin−1Y )
(n:even) (2.29) となる.したがって,この式をY について解くことにより
Y =
sin
(u(X) C
)
(n :odd) sin
(u(X) C +π
2 )
= cos
(u(X) C
)
(n :even)
(2.30)
の様にXとY の関係が求められる.ここで,この式に式(2.26)を代入し,X = x, Y =yと書き換え,さらに式(2.23)及び (2.24)の変数変換を元に戻すと,特性 関数Φは
Φ(Ω) =
Lsin
(sin−1Ω C
)
(n:odd) Lsin
(sin−1Ω C +π
2 )
=Lcos
(sin−1Ω C
)
(n:even)
(2.31)
となり,特性関数がチェビシェフ多項式で表わされる.
また,三角関数の周期性から,式(2.31)で表わされた特性関数のi番目の零点 Ωziは
Φ(Ωzi) =Lsin(iπ), i=
0,1,2,· · · ,n−1
2 (n:odd) 1,2,3,· · · ,n
2 (n:even)
(2.32)
を満たす.したがって
iπ =
sin−1Ωzi
C (n:odd)
sin−1Ωzi
C + π
2 (n:even)
(2.33)
という関係が得られ,特性関数の零点Ωziは
Ωzi =
sin(iπC) (i= 0,1,2,· · · ,n−1
2 ;n :odd) sin
((
i− 1 2
) πC
)
(i= 1,2,3,· · · ,n
2;n:even)
(2.34)
として求められる.
これまで,特性関数Φと零点角周波数が式(2.31)及び(2.34)で表わされること を示した.しかし,これらの式には未定係数Cが含まれている.そこで,この未 定係数Cを決定する.式(2.25)の左辺を通過域(0≤Ω≤Ωc,0≤x≤1)の範囲で 積分することを考えると,
∫ 1
0
√ dx
1−x2 =[
sin−1x]1 0 = π
2 (2.35)
となる.他方,図2.5に示した特性から,xが0から1まで増加する間に,Φ(Ω)は
±Lの間をn/4往復することが分かる.いま,このうちの1/2往復に着目して,式 (2.25)の右辺を0≤y≤1の範囲で積分すると
C
∫ 1
0
√dy
1−y2 =Cπ
2 (2.36)
したがって,式(2.25)は
π
2 =nCπ
2 (2.37)
となり,
C = 1
n (2.38)
と決定することができる.したがって,このことから特性関数Φ(Ω)と零点Ωziは Φ(Ω) =
{ Lsin(
nsin−1Ω)
(n:odd) Lsin
(
nsin−1Ω + π 2
)
=Lcos(
nsin−1Ω)
(n:even) (2.39)
Ωzi =
sin
( iπ
n )
(i= 0,1,2,· · · ,n−1
2 ;n :odd) sin
((
i−1 2
)π n
)
(i= 1,2,3,· · · ,n
2;n:even)
(2.40)
となる.ここで,特性関数はチェビシェフ多項式の公式から Φ(Ω) =
{
L(−1)n−21 cos (ncos−1Ω) (n :odd)
L(−1)n2 cos (ncos−1Ω) (n :even) (2.41) と変形できる.さらに上式の両辺を2乗することによりnの偶数,奇数に係わらず,
Φ2(Ω) =L2Cn2(Ω) (2.42) と表現することができる.ただし,
Cn(Ω) = {
cos(ncos−1Ω) (|Ω| ≤Ωc)
cosh(ncosh−1Ω) (|Ω|>Ωc) (2.43) となる.これは,cos(ncos−1Ω)は|Ω| ≤ Ωcにおいてのみ定義される式であるた め,|Ω|>Ωcでは定義できない.そこで,この様な場合は,
cos−1Ω =θ とおき,Ωに対して
Ω = cosθ= cosh jθ と置換を考えると
θ =−j cosh−1Ω
と書ける.したがってcos−1Ω =−j cosh−1Ωと書き換えることにより|Ω|>Ωcに おけるチェビシェフ多項式を
Cn(Ω) = cos(−jncosh−1Ω) = cosh(ncosh−1Ω) (2.44) として定義できる.上式は|Ω|>Ωcにおいて,単調増加若しくは単調減少する関 数である.