第 2 章 フィルタの古典設計理論 13
2.1.3 チェビシェフ特性
2.1.2節で示したバターワース特性は通過域内における電力透過係数|T(s)|2のみ に着目し,|T(s)|2が最平坦となる特徴を有している.しかし,通過域内を最平坦 にするためにスカート特性が緩やかになる.そこで,通過域内の最平坦性を多少 犠牲にし,等リプルを許容することにより,より急峻なスカート特性を実現する のがチェビシェフ特性である.
いま,チェビシェフ特性の例を図2.5に示す.図2.5に示した特性においてΩzi[rad/s]
(i = 1,2,3)は特性関数Φが0となる角周波数であり,Lは通過域内における振幅 となっている.また,電力透過係数|T|2において,特性関数の振幅Lによって現 れる電力透過係数の振幅をRW [dB]とし,Ω∩i[rad/s](i= 1,2)は減衰量がRW と なるときの角周波数を示す.
図2.5に示した特性より,通過域(0≤ Ω≤Ωc)において通過特性がリプルを持
|T|2
O [rad/s]
[rad/s]
RW
L -L
O
z1
z2
z3
1
2 c
図 2.5: フィルタ次数n = 6のときのチェビシェフ特性の例
つ様なフィルタに対する特性関数Φ(Ω)はその零点角周波数Ωziから
Φ(Ω) =
Ω
n−1
∏2
i=1
(Ω2 −Ω2zi) (n :odd)
n
∏2
i=1
(Ω2−Ω2zi) (n :even)
(2.17)
と書き表わすことができる.この式はΩ = ΩziにおいてΦ = 0となることを保証 する式となっており,適切にΩziを指定することにより,通過域内のリプルを等リ プルとすることができる.この様な等リプル特性は一般にチェビシェフ特性と呼 ばれる.これは,式(2.17)で示した特性関数がチェビシェフ多項式で表わすことが できるためであり,以降にそのチェビシェフ多項式表示の特性関数の導出を示す.
まず,次の関数を定義する.
F(Ω) = Φ2(Ω)−L2 (2.18)
この関数は図2.5に示した例より,Ω =±Ω∩iで零,Ω =±Ωcで零,nが偶数の場
合Ω = 0でも零となる特徴を有しており,このことを式で表現すると
F(Ω) =
h1(Ω2−1)
n−1
∏2
i=1
(Ω2 −Ω2∩i)2 (n :odd) h1Ω2(Ω2−1)
n 2−1
∏
i=1
(Ω2−Ω2∩i)2 (n :even)
(2.19)
となる.ただしh1は未定係数である.
また,特性関数Φ(Ω)のΩに対する微分はΩ =±Ω∩iで零,nが偶数の場合Ω = 0 で零,Ω =±Ωcでは非零等の特徴を持っている.したがって特性関数のΩに対す る微分は
dΦ(Ω) dΩ =
h2
n−1
∏2
i=1
(Ω2−Ω2∩i) (n:odd) h2Ω
n 2−1
∏
i=1
(Ω2−Ω2∩i) (n:even)
(2.20)
となる.ただし,h2は未定係数である.いま,この式を変形し,式(2.19)に代入 すると次の式を得る.
F(Ω) = Φ2(Ω)−L2 = h1
h22(Ω2 −1)
{dΦ(Ω) dΩ
}2
(2.21) ここで両辺の平方根を取ると
√ dΩ
Ω2−1 = CdΦ(Ω)
√Φ2(Ω)−L2 (2.22)
と変形できる.ただし,C =
√h1
h2 とおいた.ここで,
Ω = x (2.23)
Φ(Ω)
L = y (2.24)
なる変数変換を行うと
√ dx
1−x2 = Cdy
√1−y2 =du (2.25)
となる.この微分方程式をyについて解くことによって等リプル特性を得る特性 関数Φがチェビシェフ多項式で表わすことができる.
まず,式(2.25)をyについて解くために,同式の左辺をx= 0から任意の値X まで積分する.すると,
u(X) =
∫ X 0
√ dx
1−x2 = sin−1(X) (2.26) となり,
X = sin(u) (2.27)
が得られる.
一方,式(2.25)の右辺については,x = 0 (Ω = 0)に対応するyの値が図2.5 に示した特性より
y= Φ(Ω)
L =
{
0 (n:odd)
1 or −1 (n:even) (2.28) となる事を考慮し,x=Xに対応するyの値をY として積分を行うと,
u(x) =
C
∫ Y
0
√dy
1−y2 = Csin−1Y (n:odd)
C
∫ Y 1
√dy
1−y2 = C (∫0
1
√dy
1−y2 +∫Y 0
√dy 1−y2
)
=C (−π
2 + sin−1Y )
(n:even) (2.29) となる.したがって,この式をY について解くことにより
Y =
sin
(u(X) C
)
(n :odd) sin
(u(X) C +π
2 )
= cos
(u(X) C
)
(n :even)
(2.30)
の様にXとY の関係が求められる.ここで,この式に式(2.26)を代入し,X = x, Y =yと書き換え,さらに式(2.23)及び (2.24)の変数変換を元に戻すと,特性 関数Φは
Φ(Ω) =
Lsin
(sin−1Ω C
)
(n:odd) Lsin
(sin−1Ω C +π
2 )
=Lcos
(sin−1Ω C
)
(n:even)
(2.31)
となり,特性関数がチェビシェフ多項式で表わされる.
また,三角関数の周期性から,式(2.31)で表わされた特性関数のi番目の零点 Ωziは
Φ(Ωzi) =Lsin(iπ), i=
0,1,2,· · · ,n−1
2 (n:odd) 1,2,3,· · · ,n
2 (n:even)
(2.32)
を満たす.したがって
iπ =
sin−1Ωzi
C (n:odd)
sin−1Ωzi
C + π
2 (n:even)
(2.33)
という関係が得られ,特性関数の零点Ωziは
Ωzi =
sin(iπC) (i= 0,1,2,· · · ,n−1
2 ;n :odd) sin
((
i− 1 2
) πC
)
(i= 1,2,3,· · · ,n
2;n:even)
(2.34)
として求められる.
これまで,特性関数Φと零点角周波数が式(2.31)及び(2.34)で表わされること を示した.しかし,これらの式には未定係数Cが含まれている.そこで,この未 定係数Cを決定する.式(2.25)の左辺を通過域(0≤Ω≤Ωc,0≤x≤1)の範囲で 積分することを考えると,
∫ 1
0
√ dx
1−x2 =[
sin−1x]1 0 = π
2 (2.35)
となる.他方,図2.5に示した特性から,xが0から1まで増加する間に,Φ(Ω)は
±Lの間をn/4往復することが分かる.いま,このうちの1/2往復に着目して,式 (2.25)の右辺を0≤y≤1の範囲で積分すると
C
∫ 1
0
√dy
1−y2 =Cπ
2 (2.36)
したがって,式(2.25)は
π
2 =nCπ
2 (2.37)
となり,
C = 1
n (2.38)
と決定することができる.したがって,このことから特性関数Φ(Ω)と零点Ωziは Φ(Ω) =
{ Lsin(
nsin−1Ω)
(n:odd) Lsin
(
nsin−1Ω + π 2
)
=Lcos(
nsin−1Ω)
(n:even) (2.39)
Ωzi =
sin
( iπ
n )
(i= 0,1,2,· · · ,n−1
2 ;n :odd) sin
((
i−1 2
)π n
)
(i= 1,2,3,· · · ,n
2;n:even)
(2.40)
となる.ここで,特性関数はチェビシェフ多項式の公式から Φ(Ω) =
{
L(−1)n−21 cos (ncos−1Ω) (n :odd)
L(−1)n2 cos (ncos−1Ω) (n :even) (2.41) と変形できる.さらに上式の両辺を2乗することによりnの偶数,奇数に係わらず,
Φ2(Ω) =L2Cn2(Ω) (2.42) と表現することができる.ただし,
Cn(Ω) = {
cos(ncos−1Ω) (|Ω| ≤Ωc)
cosh(ncosh−1Ω) (|Ω|>Ωc) (2.43) となる.これは,cos(ncos−1Ω)は|Ω| ≤ Ωcにおいてのみ定義される式であるた め,|Ω|>Ωcでは定義できない.そこで,この様な場合は,
cos−1Ω =θ とおき,Ωに対して
Ω = cosθ= cosh jθ と置換を考えると
θ =−j cosh−1Ω
と書ける.したがってcos−1Ω =−j cosh−1Ωと書き換えることにより|Ω|>Ωcに おけるチェビシェフ多項式を
Cn(Ω) = cos(−jncosh−1Ω) = cosh(ncosh−1Ω) (2.44) として定義できる.上式は|Ω|>Ωcにおいて,単調増加若しくは単調減少する関 数である.
これまでの検討から得られた特性関数Φ(Ω)を用いて電力透過係数|T(jΩ)|2を求 めると
|T(jΩ)|2 = 1
1 +H2Φ2(Ω) = 1
1 +H2C2Cn2(Ω) = 1
1 +K2Cn2(Ω) (2.45) となる.ただし,K = HC とおいた.いま,この式から,電力透過係数を規定 するパラメータはフィルタ次数nと未知定数Kの2つであることが分かる.そこ で,設計仕様から未定係数Kを決定する方法を示す.通過域におけるリプル幅を RW [dB]とすると,リプル幅の定義から
RW =−10 log|T(jΩ∩i)|2
|T(jΩzi)|2 = 10 log(1 +K2) (2.46) となるので,
K =
√
10RW10 −1 (2.47)
として求められる.
以上より,チェビシェフ特性を有するフィルタの電力透過係数|T(jΩ)|2を求める ことが可能となる.この|T(jΩ)|2を用いて,バターワース特性を有するフィルタ のときと同様の方法を適用することにより,規格化素子値を導出することが可能 となる.詳細は2.1.2項に示したので,ここでは割愛し,n段はしご形回路がチェ ビシェフ特性を有する場合の規格化素子値を以下に示す.
g0 = 1 (2.48)
gi =
2a1
γ (i= 1) 4ai−1ai
bi−1gi−1
(2≤i≤n)
(2.49)
gn+1 =
1 (n :odd) coth2 β
4 (n :even) (2.50)
ただし,
γ = sinh β
2n (2.51)
β = ln (
coth RW 17.37
)
(2.52) ai = sin2i−1
2n π (i= 1,2,· · · , n) (2.53) bi = γ2 + sin2 i
nπ (i= 1,2,· · · , n) (2.54) また,このとき得られるn段はしご形回路はバターワース特性のときと同様の 回路構成であり,図2.3及び2.4に示した回路構成で実現される.