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第 4 章 楕円関数フィルタ 100

4.5 設計例

4.5.2 短絡スタブ

まず,1段目および3段目の共振器を短絡スタブで構成した場合の例を示す.こ のとき,得られる楕円関数BPFの回路構成は図4.21のようになる.

1 10 10

2

10

3

10

4

10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 0 20 40 60 80 100

Z

21

l

21

Z

22

l

22

Sidelobe level SB [dB]

C ha ra ct er is tic im pe da nc e Z

21

, Z

22

[ ] St ub le ng th l

21

, l

22

[m m ]

図 4.20: 阻止レベルSBによる2段目の共振器の各素子値の変化

Port 1 Zg1,lg1 Zg1,lg1 Zg1,lg1 Zg1,lg1 Port 2

Z21,l21

Z22,l22

Z1,l1 Z1,l1

図 4.21: 1,3段目の共振器が短絡スタブの場合の楕円関数BPFの回路構成

いま,式(4.129)より短絡スタブの特性インピーダンスZ1が計算されるが,式

(4.129)にはインバータ変換の際に得られた自由度Cr1が存在する.したがって,こ

Cr1SBを決定する必要があるが,式(4.122),(4.129)から,Cr1によって短絡

スタブ部分およびインバータ部分の特性インピーダンス が共に変化する.そこで,

Cr1を1〜10 pFおよびSB = 40,50,60 dBと変化させたときのZ1Zg1の変化の 様子を図4.22に示す.

0 50 100 150 200 250

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

Characteristic impedance Zg1,Z1[]

Cr1[pF]

Z

g1

Z

1

60 dB 50 dB 40 dB

図 4.22: Cr1及びSBによる短絡スタブ及びインバータ部分の特性インピーダンス

Z1, Zg1の変化

図4.22に示したCr1によるZ1, Zg1の変化から,Cr1の値が大きくなるにした がって,特にZ1 が非常に小さな値となることが確認できる.よって,ここでは Cr1 = 2.5 pFと設定する.

さらに,阻止レベルがフィルタ特性に及ぼす影響を検討するために,SBを40,

50, 60 dBとしたときに,図4.21に示した分布定数線路による回路構成の特性を図

4.23に示し,そのときの各素子値を表4.4に示す.

図4.23に示した特性から,通過帯域においては帯域幅,リプル特性共にSBの 影響を受けていないことが確認できる.また,阻止域においてはSBが大きくな るにしたがって阻止レベルの維持が困難になっているものの,通過帯域近傍にお いては概ね設定した阻止レベルを実現できている.また,表4.4に示した素子値 から,SBがいずれの値の場合にも線路長に大きな変化は見られないが,特性イン

-100 -80 -60 -40 -20 0

1.5 2.0 2.5 3.0 3.5

|S21| [dB]

Frequency [GHz]

-0.10 -0.05 0.00

2.4 2.5 2.6

|S21| [dB]

Frequency [GHz]

60 dB 50 dB 40 dB

図 4.23: SBによる1,3段目の共振器が短絡スタブの場合の楕円関数BPFの特性

の変化

表 4.4: 各阻止レベルSBにおける図4.21に示したフィルタの素子値 (a)SB = 40 dB

Z1 20.0 Ω l1 29.98 mm Zg1 140.39 Ω lg1 29.98 mm Z21 106.4 Ω l21 26.65 mm Z22 94.30 Ω l22 33.72 mm

(b)SB = 50 dB

Z1 20.0 Ω l1 29.98 mm Zg1 140.39 Ω lg1 29.98 mm Z21 51.11 Ω l21 25.25 mm Z22 42.68 Ω l22 35.60 mm

(c)SB = 60 dB

Z1 20.0 Ω l1 29.98 mm Zg1 140.39 Ω lg1 29.98 mm Z21 25.86 Ω l21 23.35 mm Z22 19.58 Ω l22 38.49 mm

ピーダンスにおいてはSBが大きくなるに従って,特にZ22の値が小さくなってお

り,SB = 60 dBの場合では20 Ωを下回る.これは回路パターンとして実現する

際,他の線路と比較して線路幅が極端に大きくなり,それに伴って不連続部の影 響や,分布定数線路との差異が大きくなり様々なモードの定在波が励振されるな ど,設計では想定していない誤差の要因となる.したがって,図4.21に示すよう な1段目および3段目の共振器を短絡スタブで構成した楕円関数BPFを用いる際 は,阻止レベルSBが特に特性インピーダンスに及ぼす影響について注意を払う 必要があり,ここではSB = 50 dBと設定する.

以上の検討から決定したパラメータを用い,表4.3に示した諸元の基板の比誘電 率εrなどを考慮して,構成した回路パターンを図4.24に示し,電磁界シミュレー ションおよび測定により得られた特性を,誤差の検討のために図4.13に示した集 中定数回路および図4.21に示した分布定数線路より得られた特性と併せて図4.25 に示す.ただし,本節で以下に図示する特性の凡例において,Lumped Circuitは 回路シミュレータによる集中定数回路から得られる特性であり,設計により得ら れる理想特性となる.Distributed Circuitは無損失の分布定数線路に置換した回 路構成から得られる特性で,EM(Electro-Magnetic simulation)は導体損失や誘電 体損失,線路の不連続部の影響などを考慮した回路構造から得られる特性である.

これらの比較により,スタブ形共振器へ置換したことによる影響や各種損失等の 影響など,測定結果における誤差や損失の影響を検討する.

図4.25に示した特性より,集中定数回路による特性(図4.25(a),(b)中のLumped circuit)は設計仕様を完全に満足する理想的な特性が得られていることが確認で きる.分布定数線路による特性(図4.25(a),(b)中のDistributed circuit)も同様に 楕円関数特性が得られているが,分布定数線路を用いたことによりf0から離れる に従って集中定数回路による特性との差異が大きくなっている.また,通過帯域 とその近傍の阻止域においては集中定数回路と同等の特性が得られている.これ はインバータとして 伝送線路を用いたことの影響であると考えられる.また,集 中定数回路による特性との比較から 伝送線路がインバータとして機能しているの は約2 GHzから約3 GHzの範囲であり,中心周波数f0に対して約40%の比帯域幅

112.5

60.5

55.1

3.1

23.3 23.3

8.1 2.3

25.818.4 21.4

0.3

Via 0.5

Unit : mm

Port 1 Port 2

33.8

図 4.24: 1,3段目の共振器が短絡スタブの場合の楕円関数BPFの回路パターン

を有している.

さらに,電磁界シミュレータによる計算結果(図4.25(a),(b)中のEM)におい てもf0付近では楕円関数特性が得られていることが確認できるが,中心周波数が

2.44 GHz,中心周波数における挿入損失は2.50 dBとなっており通過帯域が低域

側へシフトしている.これは分布定数線路では考慮されていなかった共振器部分 とインバータ部分との接続部分の影響やViaによる影響などが考えられ,挿入損 失に関しては回路基板からの放射損失と導体損失によるものと考えられる.回路 基板サイズは112.5×60.5 mm2であり,線路長はεrによる波長短縮のために,表

4.4(b)に示した値よりも小さな値となっている.また,実測結果(図4.25(c))で

は中心周波数が2.43 GHzであり,中心周波数における挿入損失は2.18 dBとなっ ている.通過帯域近傍の阻止帯域における阻止レベルについては,通過帯域の低 域側では46.5 dB,高域側では2.94から3.28 GHzの範囲で50 dBを確保できてい る.これは,電磁界シミュレータによる計算結果と比較して低域側の阻止レベル が約2 dBほど増加しているが,概ね一致した特性となっている.また,2段目の

-30 -20 -10 0

1.5 2.0 2.5 3.0 3.5

|S11| [dB]

Frequency [GHz]

Lumped circuit Distributed circuit EM

(a)シミュレーション結果(S11

-100 -80 -60 -40 -20 0

1.5 2.0 2.5 3.0 3.5

|S21| [dB]

Frequency [GHz]

Lumped circuit Distributed circuit EM

(b)シミュレーション結果(S21

-100 -80 -60 -40 -20 0

1.5 2.0 2.5 3.0 3.5

|S11|,|S21| [dB]

Frequency [GHz]

|S11|

|S21|

-5 -4 -3 -2 -1 0

2.3 2.4 2.5 2.6

|S21| [dB]

Frequency [GHz]

(c)測定結果

図 4.25: 1,3段目の共振器が短絡スタブの場合の楕円関数BPFの回路パターンの

特性

共振器として用いた2つの開放スタブによる共振器によって実現される減衰極は 全て楕円関数特性により規定されている.したがって,スタブ形共振器を組み合 わせた楕円関数BPFを実現できており,試行錯誤を必要とせずにスタブ形共振器 による減衰極の配置場所を決定でき,さらにスタブ形共振器を用いたBPFでは難 しかった通過帯域近傍の阻止域における阻止レベルの議論も可能となっている.

ここで,損失が通過帯域の特性に及ぼす影響,特に放射損失の影響を検討するた めに,図4.26に示すようなシールドケースを製作した.シールドケースは外形寸 法が106.9×141.5×21.0 mm3の真鍮製であり,図4.26(b)の様に蓋を閉じ,シー ルドした場合の内部空間の寸法は94.9×129.5×9.8 mm3である.また,測定した 基板の回路パターンは図4.26(a)に示したようにシールドケースの大きさに合わせ て励振線として50 Ω伝送線路を接続している.このときの測定結果を図4.27に示

す.図4.27(b)に示した特性にから,シールドを施すことにより,2.41 GHz付近で

損失が低減されていることが確認できるが,その他の通過帯域部分では損失の低

(a)測定した回路パターン

(b)シールドケース

図 4.26: 1,3段目の共振器が短絡スタブの場合の測定の様子

-30 -20 -10 0

2.3 2.4 2.5 2.6

|S11| [dB]

Frequency [GHz]

Shielded Unshielded

(a)S11

-10 -9 -8 -7 -6 -5 -4 -3 -2 -1 0

2.3 2.4 2.5 2.6

|S21| [dB]

Frequency [GHz]

Shielded Unshielded

(b)S21

図 4.27: 1,3段目の共振器が短絡スタブの場合の放射損失の影響

減は確認できず,リプルが大きくなっている.ただし,(a)に示したS11の測定結 果において,シールドを施すことにより,整合も影響を受けて若干の悪化が見ら れることから,シールド後においても同様に整合が得られた場合には,挿入損失 が改善されると考えられる.