第 2 章 フィルタの古典設計理論 13
2.2 回路合成
2.2.2 インバータ変換
となる.したがって,BEF変換の変換式は
Ω = 1
ω
(ω2−ω1)Ωc −
ω20 (ω2−ω1)Ωc
ω
= 1
1 (ω2−ω1)Ωc
(
ω− ω02 ω
) (2.86)
となり,任意の遮断角周波数ω1及び, ω2(ただしω1 < ω2)とするBEF変換の変換式 が得られる.
また,回路構成及び素子値は
jΩgl = jgl
1 (ω2 −ω1)Ωc
(
ω− ω20 ω
)
= −1
jω 1
glΩc(ω2−ω1) + 1
jωglΩc(ω2−ω1) ω02
= −1
jωCBEF1+ 1 jωLBEF1
(2.87)
1
jΩgc = 1
jgcΩc(ω2−ω1) (
ω− ω02 ω
)
= −jω 1
gcΩc(ω2−ω1)− 1
jωgcΩc(ω2−ω1) ω02
=−jωLBEF2− 1 jωCBEF2
(2.88) と変換される.ただし,CBEF1 = 1
glΩc(ω2−ω1), LBEF1 = glΩc(ω2−ω1)
ω02 , LBEF2 = 1
gcΩc(ω2−ω1), CBEF2 = gcΩc(ω2−ω1)
ω20 である.以上の回路素子の変換の様子をま とめたものを図2.13に示す.
これまで本項においてLPF変換,HPF変換,BPF変換,及びBEF変換の説明 を行った.これらの周波数変換を原型LPFに適応することによって,集中定数素 子によって構成されるフィルタを得ることができる.各フィルタ特性の回路構成 例として,フィルタ次数n= 3のときのフィルタを図2.14に示す.
g
cL
BEF1g
lC
BEF2BEF
C
BEF1L
BEF2図 2.13: BEF変換による素子の変化
In Out
In In
In
Out Out
Out
(a) LPF
(b) HPF
(c) BPF
(d) BEF
図 2.14: 集中定数素子によって実現される3段フィルタの回路構成例
般に分布定数線路を用いて構成される.したがって,集中定数素子による回路構 成から分布定数線路による回路構成へ変換を行う必要があり,その手段の一つと
してよく用いられるのが,本項で説明するインバータ変換である.
インバータは図2.15に示すようにKインバータとJインバータと呼ばれる2種 類の回路があり,それぞれ式(2.89)及び(2.90)に示す特性を有する回路である.
Z
LK-Inverter
Z
inY
inJ-Inverter Y
L(a) K-Inverter (b) J-Inverter
図 2.15: インバータ
Zin= K2 ZL
(2.89) Yin= J2
YL (2.90)
Kインバータ及びJインバータは,それぞれK[Ω], J[S]をパラメータとするイ ンピーダンス及びアドミタンス変換回路としての特性を有する.この様な特性を有 するKインバータ及びJインバータとして用いられる回路網の具体例として種々 のものが提案されており,適宜回路構造の実現性などを考慮し適当な回路を選択 する必要がある.ここでは,特によく用いられる回路例を図2.16及び2.17に示す.
次に,これらのKインバータ及びJインバータを用いた回路変換を行う.回路変 換の説明のために,利用頻度が高いであろうBPFを例に説明を行う.いま,フィ ルタ次数をn = 3とすると,BPFは図2.14(c)の回路構成となる.この回路構成で は1段目及び3段目はLC直列共振器,2段目はLC並列共振器となっている.こ れをJインバータを用いて全てLC並列共振器で構成されるフィルタへ変換を行 う.LC並列共振器は,図2.18に示した変換のように,その両側からJインバータ を接続すると,LC直列共振器へ変換される.
Z
0, /4
-L -L
L
-C -C
C
(a)
/4
K=Z
0(b)
L T
K=
L
(c)
C T
K=1/(
C)
図 2.16: Kインバータの回路例
Z
0, /4
-L -L
L
-C -C
C
(a)
/4
J=1/Z
0(b)
L
J=1/(
L)
(c)
C J=
C
図 2.17: Jインバータの回路例
J J
図 2.18: Jインバータによる並列共振器の等価回路変換
このことを用いて,図2.14(c)に示したBPFを変換すると,図2.19に示す回路 となる.
図2.19から,インバータを用いて回路を変換することにより,全てLC並列共 振器によって構成されることとなり,特性を検討する際や,設計を行う際の見通 しが良くなるなどの利点が得られる.さらに,各インバータの値Jにより,回路
In Out
J J J J
図 2.19: Jインバータを用いたBPF
の自由度が増すこととなり,これらの自由度を調整することによって回路素子の 素子値を実現可能性の高い値へと調整することが可能となる.そこで,Jインバー タを用いてBPFを変換した際の素子値の計算方法を示す.変換前後の回路をまと めて図2.20に示す.
ここで,(a)の変換前の回路における各素子値は2.1節で示した規格化素子値,
2.2.1項に示した周波数変換,及び電源の内部抵抗から決定される既知の値である.
これらの各素子値から変換後の各素子値及びインバータ値を導出する.
まず,変換前の回路(a)においてそれぞれの位置から出力側を見た入力アドミタ ンス及び入力インピーダンスをそれぞれY1[S], Z2[Ω], Y3[S],及びZ4[Ω]とおき,変 換後の回路(b)における各インバータ前段から出力側を見込んだ入力アドミタン スをそれぞれYa[S], Yb[S], Yc[S],及びYd[S]とおく.すると,Y1及びYaは,Z2と Ybを用いて
Y1 = 1
jωLa1+ 1 jωCa1
+Z2
(2.91)
Ya = J12 jωCr1+ 1
jωLr1
+Yb
(2.92)
と表される.変換前後の回路が電源の内部抵抗に関係なく等価となるためには Y1
G0 = Ya
GA (2.93)
となればよい.したがって,式(2.93)に式(2.91)及び(2.92)を代入し,実部と虚
In Out
J
1J
2J
3J
4In L
a1Out
L
a2L
a3C
a1C
a2C
a3G
0G
4G
AG
BC
r1L
r1C
r2L
r2C
r3L
r3Y
1Z
2Y
3Z
4Y
aY
bY
cY
d(a)
(b)
図 2.20: Jインバータを用いたBPFの変換
部を比較すると,
1
Z2G0 = J12
YbGA (2.94)
1/G0 ωLa1− 1
ωCa1
= J12/GA ωCr1− 1
ωLr1
(2.95)
となる.式(2.95)から
J1 = vu uu utGA
G0
ωCr1− 1 ωLr1 ωLa1− 1
ωCa1
(2.96)
と求められる.いま,1段目の共振器の共振周波数が変換前後で変化せず,中心角
周波数ω0となると仮定する.すなわち,ω0 = 1
√La1Ca1 = 1
√Lr1Cr1 とすると,
J1 = vu uu utGA
G0 Cr1 La1
1− 1
ω2Lr1Cr1
1− 1
ωLa1Ca1
=
√GACr1
G0La1 (2.97) となり,Cr1を自由に設定することにより,J1の値を計算する式を得る.
一方,実部の比較から得た式(2.94)に式(2.97)を代入すると,
1
Z2G0 = GACr1 G0La1
1 YbGA La1
Z2
= Cr1 Yb
(2.98) となり,Z2とYaの相互関係を示す式が得られる.以下,それぞれ対応する入力ア ドミタンス及び入力インピーダンスを比較していくことにより,残りのインバー タ値も決定することができ次に示すようになる.
J2 =
√Cr1Cr2
La1Ca2 (2.99)
J3 =
√Cr2Cr3
Ca2La3 (2.100)
J4 =
√Cr3GB
La3G4 (2.101)
ただし,Cr1, Cr2,及びCr3 はインバータ変換により現れる自由度であり,回路素 子の実現性等を考慮して設定する値である.以上の議論から,各インバータの値 J1, J2, J3,及びJ4は定数となる点に注意が必要である.
図2.20に示したJインバータを用いたBPFにおいて,具体的なJインバータと
して図2.17(c)に示すC素子π型回路を用いることを考える.Jインバータとして
C素子π型回路を用いたときのBPFを図2.21に示す.
ここで,JインバータとしてC素子π型回路を用いたため,それぞれの素子値 Cg1, Cg2, Cg3,及びCg4は式(2.97),(2.99),(2.100)及び(2.101)で求めたインバー タ値を用いて
Cgi = Ji
ω0 (i= 1,2,3,4) (2.102)
In Out
G
AG
BC
r1L
r1C
r2L
r2C
r3L
r3C
g1-C
g1-C
g1C
g2-C
g2-C
g2C
g3-C
g3-C
g3C
g4-C
g4-C
g4図 2.21: JインバータとしてC素子π型回路を用いた場合のBPF
として求められる.ただし,図2.17(c)にも示した通り,C素子π型回路のJ値は コンデンサの素子値Cが定数で,角周波数ωが変数であるため,J値は変数とな らなければならない.しかし,インバータ変換から得られるJ 値は定数となるよ うに要請されている.したがって,式(2.102)では角周波数ωに対する一般性を犠 牲にして,中心角周波数ω0とその付近の帯域についてのみ成立する近似値として 素子値Cを決定する.
さらに,図2.21に示したBPFでは,インバータ部分に負性素子が存在している ため,このままでは現実の回路素子を用いて実現できない.そこで,これらの素 子は隣接する自由度Cri(i = 1,2,3)によって吸収させることによって実現される.
例えば,2段目の共振器ではCr2,−Cg2及び−Cg3の3つの素子をまとめ Cr2−Cg2−Cg3
なる容量を持つコンデンサ1つに合成する.したがって,Cr2は自由に設定できる 値であるが,
Cr2−Cg2−Cg3 >0 すなわち
Cr2 > Cg2+Cg3 (2.103) なる条件を満たすような値に設定しなければならない.他の共振器についても同 様に負性素子を吸収して合成し,自由度の設定に条件を設けることで負性素子の 実現を解決できるが,入出力直近の負性素子,図2.21における−Cg1,−Cg3につい
ては吸収できるコンデンサが存在しないため,吸収による解決を図ることができ ない.したがって,入出力直近のインバータにおいては,入出力側に負性素子が 現れないインバータを用いる必要がある.そこで,図2.22に示すような等価回路 変換を考える.
G
C
-C
-C G
C
1-C
2
図 2.22: BPFの入出力端でのJインバータの変換
ここで,端子から見た入力アドミタンスが等しくなるとの条件からC1,及びC2 は次の様に求められる.
C1 = ω0C ω0
√ 1−
(ω0C G
)2 = J ω0
√ 1−
(J G
)2 (2.104)
C2 = ω0C ω0
√ 1−
(ω0C G
)2
= J ω0
√ 1−
(J G
)2
(2.105) したがって,入出力段のJインバータJ1及びJ4を片側の負性素子が無い回路を 用いてBPFを構成したものを図2.23に示す.
これにより,全ての負性素子を隣接する共振器のコンデンサによって吸収する ことができ,実現可能な回路構成となる.