第 4 章 楕円関数フィルタ 100
4.6 まとめ
約5 dB大きな阻止レベルを実現できている.このことから,通過帯域近傍の阻止 域において,通過帯域低域側よりも高域側により大きな阻止レベルを必要とする ような仕様に対しては,本項で示す回路構成を用いることにより対応できる.
最後に,通過帯域内における放射損失の影響を検討するため,製作した回路パ ターンをシールドケースに入れて図4.44に示すように測定を行った.このとき,蓋 を閉じてシールドを施し,得られた測定結果を図4.45にそれぞれ示す.
図 4.44: 1,3段目の共振器が両端短絡共振器の場合の測定の様子
図4.44に示した回路パターンはシールドケースの大きさに合わせるために,50 Ω 伝送線路を励振線として用いている.また,図4.45(b)に示した測定結果から,通 過帯域内の約2.4 GHzから2.5 GHzの範囲においてシールド後に挿入損失が低減 していることが分かる.
-30 -20 -10 0
2.3 2.4 2.5 2.6
|S11| [dB]
Frequency [GHz]
Shielded Unshielded
(a)S11
-10 -9 -8 -7 -6 -5 -4 -3 -2 -1 0
2.3 2.4 2.5 2.6
|S21| [dB]
Frequency [GHz]
Shielded Unshielded
(b)S21
図 4.45: 1,3段目の共振器両端短絡共振器の場合の放射損失の影響
の手順に従って実現したものであり,手順➃として分布定数線路へ置換する際に,
スタブ形共振器を用いる点に大きな特徴を有する.
4.5節で示した設計例から,スタブ形共振器を組み合わせたBPFにおける通過 帯域近傍の阻止域特性について,これまでスタブ形共振器を組み合わせたBPFで は試行錯誤や経験によって決定しなければならなかった減衰極の実現位置を,楕 円関数特性を用いることによって決定でき,さらに楕円関数特性を用いたことに よって,阻止域特性において阻止レベルの議論も可能となることを示した.得られ たスタブ形共振器を用いた楕円関数BPFは,通過帯域および通過帯域近傍の阻止 域において,楕円関数特性を実現できており,阻止レベルは低域側で46.5 dB,高 域側では2.94から3.28 GHzの範囲で50 dBを確保した.したがって,減衰極の実 現位置を決定可能で通過帯域近傍の阻止域における阻止レベルをも議論可能なス タブ形共振器を組み合わせた楕円関数BPFが実現できることを示した.
さらに,4.5.2項で示したスタブ形共振器を組み合わせた楕円関数BPFに対し て,通過帯域近傍の阻止域特性の楕円関数特性以上のさらなる改善例として,4.5.3 項では1段目および3段目に両端開放共振器を用いることにより,通過帯域の低 域側および高域側の両側に,楕円関数特性とは独立に実現可能な減衰極を用いて,
より大きな阻止レベルを実現し,4.5.4項および4.5.5項では1段目および3段目に 一端短絡共振器,または両端開放共振器を用いることにより,通過帯域高域側に 楕円関数特性とは独立に実現可能な減衰極を用いて,より大きな阻止レベルを実 現できることを示した.したがって,これら4.5.3項から4.5.5項で示した構成を 用いることにより,楕円関数特性では対応できなかった通過帯域の低域側もしく は高域側の一方に対して,阻止レベルをより大きくする必要がある様な仕様につ いても対応可能となる.また,楕円関数特性として議論可能な周波数範囲を拡張 することができ,従来の楕円関数特性を有するフィルタよりもより一般的な議論 が可能となる.
ただし,本章では回路構成としてインバータ部にλ/4伝送線路を用いたことに よって,中心周波数より遠くになるに従って,特性に影響を受けるため,通過帯 域近傍の阻止帯域において,阻止レベルに誤差が生じたり,伝送線路の不連続部
の影響などにより,中心周波数や減衰極の実現位置に誤差が生じている.したがっ て,より広帯域で動作するインバータを検討し,伝送線路の不連続部の影響など 考慮に入れた設計について検討する必要がある.また,導体Q,誘電体Q及び放 射Qの定量的評価を含めた共振器のQ値の評価,およびそのフィルタの通過帯域 内特性(挿入損失,リプル)や減衰極周波数近傍の特性への影響について検討する 必要があり,その一例としてシールドケースを用いて放射損失が通過帯域内にお ける特性に与える影響についても検討を行った.検討を行った全ての回路構成に おいて,放射損失が通過帯域内の特性に影響を及ぼしていることを確認し,シー ルドを施すことにより放射損失を減らし,挿入損失が改善できることを定性的に 確認した.今後,他の損失も含め,共振器単体の共振特性の測定,誘電体基板の 材料測定およびシミュレーションにより定量的な評価を行う.