第 3 章 マルチバンド周波数変換 51
3.2 未知定数の決定
3.2.2 極分離による方法
この方法では,Nが変化するとその度に式(3.41)を解き直さなければならない ため,N が大きくなると4N2 に比例して計算量が増大する.また,得られた解 A1, A2· · · , AN, B1, B2,· · · , BN が周波数変換として利用可能な値であるためには,
全ての値が異なる正の実数解として得られなければならないが,式(3.22)に示し た連立方程式から得られる解が常にそのような性質を満たすか否かについては数 学的に確認されていない点に課題が残る.
となる.これらの式が恒等式として成立するためには
∏N i=1
(ω2−ω20i) =
∏2N i=1
{ω+ (−1)iωi}+
∏2N i=1
{ω−(−1)iωi} 2
= ω2N +a2N−2ω2N−2+· · ·+a2ω2 +a0 = 0 (3.47)
ω a
N∏−1 i=1
(ω2−ω∞2 i) =
∏2N i=1
{ω+ (−1)iωi} −
∏2N i=1
{ω−(−1)iωi} 2
= a2N−1ω2N−1+a2N−3ω2N−3+· · ·+a3ω3+a1ω = 0 (3.48) のように偶多項式,奇多項式それぞれ独立に恒等式が成り立てばよい.これらの
式(3.47)及び式(3.48)はそれぞれの右辺から得られる方程式を解くことによって
零点ω0i及び極ω∞iが得られることを意味する.また,図3.4に示した変換のよう にω0i, ω∞iは全て異なる正の実数として定義したので,式(3.47)及び式(3.48)か ら得られる解は全て異なる正の実数となる.さらに,未知定数aは式(3.48)にお ける最高次数の項の係数を比較することにより,
a= 1
a2N−1 = 1
∑2N i=1
(−1)iωi
(3.49)
と求められる.
また,式(3.47)及び式(3.48)における多項式の各次数の係数aiは2N 個の変数 {−ω1, ω2,· · · ,(−1)iωi,· · · ,−ω2N−1, ω2N}を用いて構成される基本対称式σkを用 いると一般的に,
ai =σ2N−i (3.50)
と表現できる.
一方,式(3.16)を変形すると,
Ω = ω
A1 − B1 ω −
∑N i=2
1 ω Ai − Bi
ω
= ω2−A1B1 A1ω −
∑N i=2
Aiω ω2−AiBi
となり,ω2 =AiBiのときにΩ = ±∞となることが分かる.したがって,極ω∞i と未知定数Ai及びBiは
ω∞2 i =Ai+1Bi+1 (i= 1,2,· · · , N −1) (3.51) と関係付けられる.したがって,式(3.47)及び式(3.48)を解くことによって得ら れるω0i及びω∞iと式(3.49)から計算されるaを用いて,式(3.17)を部分分数へ分 解すると,各未知定数Ai及びBiは
A1 = 1 a =
∑2N i=1
(−1)iωi (3.52)
B1 = −a
∏N i=1
(ω2−ω0i2) ω
N∏−1 i=1
(ω2−ω2∞i)
·ω
ω=0
=a
∏N i=1
ω20i
N∏−1 i=1
ω∞2 i
(3.53)
Aj = −a
∏N i=1
(ω2−ω20i) ω2
N∏−1 i=1
(ω2−ω2∞i)
·(ω2−ω∞2 (j−1))
ω=ω∞(j−1)
(3.54)
Bj = ω∞(j−1)2 Aj
(3.55) と求められる.ただし,j = 2,3,· · · , N である.
以下に極分離による方法のより具体的な例を示す
N = 2の場合
帯域数N = 2のとき,式(3.47)及び式(3.48)は
ω4 +a2ω2+a0 = 0 (3.56)
a3ω3+a1ω = 0 (3.57)
となる.ただし,各係数は基本対称式σkから
a3 =σ1 = ω4−ω3+ω2−ω1 >0 (3.58) a2 =σ2 = −ω1ω2+ω1ω3−ω1ω4−ω2ω3+ω2ω4−ω3ω4 <0 (3.59) a1 =σ3 = ω1ω2ω3−ω1ω2ω4+ω1ω3ω4−ω2ω3ω4 <0 (3.60)
a0 =σ4 = ω1ω2ω3ω4 >0 (3.61)
となる.
したがって,未知定数a及び零点,極ω01, ω02, ω∞1は a = 1
a3 (3.62)
ω012 = −a2−√
a22 −4a0
2 (3.63)
ω022 = −a2+√
a22−4a0
2 (3.64)
ω∞2 1 = −a1
a3 (3.65)
と求められる.さらにこれらの計算結果と式(3.52)から式(3.55)より,
A1 = 1
a =a3 (3.66)
B1 = aω012 ω202
ω∞2 1 =−a0
a1 (3.67)
A2 = −a(ω∞2 1−ω012 )(ω∞2 1−ω202)
ω2∞1 =−a21+a1a2a3+a0a23
a1a23 (3.68) B2 = ω∞2 1
A2 = a21a3
a21 +a1a2a3+a0a23 (3.69) と求められる.
以上のことから,連立方程式による方法から得られた結果と極分離による方法 から得た結果は一致しており,かつ,極分離による方法では計算過程において,各 帯域の中心周波数である零点ω01及びω02が得られるという利点もある.
N = 3の場合
N = 3の場合,式(3.47)及び式(3.48)は
ω6+a4ω4+a2ω2 +a0 = 0 (3.70) a5ω5+a3ω3 +a1ω= 0 (3.71) となる.ここで,これらの式の各係数は遮断角周波数を変数とする基本対称式から a5 =σ1 = ω6−ω5+ω4−ω3+ω2 −ω1 (3.72) a4 =σ2 = −ω1ω2+ω1ω3−ω1ω4+ω1ω5−ω1ω6−ω2ω3+ω2ω4−ω2ω5
+ω2ω6−ω3ω4+ω3ω5−ω3ω6−ω4ω5+ω4ω6−ω5ω6 (3.73) a3 =σ3 = ω1ω2ω3−ω1ω2ω4+ω1ω2ω5−ω1ω2ω6+ω1ω3ω4−ω1ω3ω5
+ω1ω3ω6+ω1ω4ω5−ω1ω4ω6+ω1ω5ω6 −ω2ω3ω4 −ω1ω3ω5
−ω2ω3ω6−ω2ω4ω5+ω2ω4ω6−ω2ω5ω6+ω3ω4ω5−ω3ω4ω6
+ω3ω5ω6−ω4ω5ω6 (3.74)
a2 =σ4 = ω1ω2ω3ω4−ω1ω2ω3ω5+ω1ω2ω3ω6+ω1ω2ω4ω5−ω1ω2ω4ω6 +ω1ω2ω5ω6−ω1ω3ω4ω5+ω1ω3ω4ω6−ω1ω3ω5ω6+ω1ω4ω5ω6 +ω2ω3ω4ω5−ω2ω3ω4ω6+ω2ω3ω5ω6−ω2ω4ω5ω6+ω3ω4ω5ω6
(3.75) a1 =σ5 = −ω1ω2ω3ω4ω5+ω1ω2ω3ω4ω6−ω1ω2ω3ω5ω6
+ω1ω2ω4ω5ω6−ω1ω3ω4ω5ω6+ω2ω3ω4ω5ω6 (3.76)
a0 =σ6 = −ω1ω2ω3ω4ω5ω6 (3.77)
となる.
ここで,式(3.70)はω2に関する3次方程式,式(3.71)はω ̸= 0とすればω2に 関する2次方程式となっている.したがって,式(3.70)を解くことによって零点 ω01, ω02,及びω03が,式(3.71)を解くことによってω∞1及びω∞2がそれぞれ3次及 び2次方程式であるため,解析解として得られる.さらに,得られた解析解は式 (3.47)及び式(3.48)から全て異なる正の実数解である.
しかし,3次方程式の解析解を代数式で記述することは非常に煩雑であるので割 愛し,式(3.71),すなわち極ω∞1, ω∞2のみを求めると
ω∞1 = −a3−√
a23−4a1a5
2a5 (3.78)
ω∞2 = −a3+√
a23−4a1a5
2a5 (3.79)
となる.ただし,式(3.70)から得られる零点ω01, ω02,及びω03は先述の通り代数式 を用いて具体的に記述することは難しいが,以下に示すようにこれらの和や積は 解と係数の関係から簡単に記述することができる.
ω012 +ω022 +ω032 = −a4 (3.80) ω012 ω022 +ω022 ω203+ω203ω012 = a2 (3.81) ω012 ω202ω032 = −a0 (3.82) 以上の様にして得られた零点及び極を用いると,各未知定数は
A1 = 1
a =a5 (3.83)
B1 = aω012 ω202ω032
ω∞2 1ω∞2 2 =−a0
a1 (3.84)
A2 = −a(ω∞2 1−ω201)(ω2∞1 −ω022 )(ω∞2 1−ω032 ) ω∞2 1(ω∞2 1−ω2∞2)
= −aω∞6 1−(ω201+ω202+ω203)ω∞4 1+ (ω012 ω202+ω202ω032 +ω032 ω012 )ω2∞1−ω012 ω202ω032 ω∞2 1(ω∞2 1−ω2∞2)
= −aω∞6 1+a4ω∞6 1+a2ω6∞1+a0
ω∞2 1(ω∞2 1−ω2∞2) (3.85)
B2 = ω∞2 1 A1
= ω4∞1(ω∞2 1−ω2∞2)
−a(ω∞6 1+a4ω6∞1 +a2ω∞6 1+a0) (3.86) A3 = −a(ω∞2 2−ω201)(ω2∞2 −ω022 )(ω∞2 2−ω032 )
ω∞2 2(ω∞2 2−ω2∞1)
= −aω∞6 2−(ω201+ω202+ω203)ω∞4 2+ (ω012 ω202+ω202ω032 +ω032 ω012 )ω2∞2−ω012 ω202ω032 ω∞2 2(ω∞2 2−ω2∞1)
= −aω∞6 2+a4ω∞6 2+a2ω6∞2+a0
ω∞2 2(ω∞2 2−ω2∞1) (3.87)
B3 = ω∞2 2
A1 = ω4∞2(ω∞2 2−ω2∞1)
−a(ω∞6 2+a4ω6∞2 +a2ω∞6 2+a0) (3.88) として,代数式で求めることができる.
以上のことから,連立方程式による方法では解析解が得られず,直接法を用い て数値解を得なければならなかったN = 3の場合に,極分離による方法では解を 代数式で表現できた.このことは大きなメリットとなる.
N = 4以上の場合
連立方程式による方法では得られなかったN = 3の場合の解析解を求めること が可能であった極分離による方法においても,N = 4以上の場合には解析解を代 数式表現することは非常に困難となるため,何らかの手段を講じて数値解を求め る必要がある.しかし,この様に数値解を求める際にも,連立方程式による方法 と比較して極分離による方法では計算負荷が小さく,必要な手順も簡素となる利 点がある.
これまで,N = 2及びN = 3の例で示した通り,零点及び極を得るために,極 分離による方法では式(3.47)及び式(3.48)を解く必要がある.いま,式(3.47)は ω2に関する1変数のN次方程式であり,式(3.48)はω̸= 0とすればω2に関する1 変数のN −1次方程式である.このことから,N ≤4であれば一般に解析解が得 られることが知られており,零点ω0i及び極ω∞iを代数式で表現することができ,
それらを用いて未知定数Ai, Biも求めることができる.ただし,N ≥4になると,
得られる解の代数表現が非常に煩雑になるためにあまり実用的ではない.そこで,
何らかの方法を用いて数値解を求める必要があるが,その際においても数値計算 の対象となる方程式である式(3.47)及び式(3.48)が多変数ではなく,1変数の方程
式であるために,連立方程式による方法において用いる数値計算法と比較すると,
N が大きくなった場合にも必要とする計算機資源及び計算手順が少なくて済む.