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通訳方向によって異なる明晰化ストラテジーの活用傾向

ドキュメント内 通訳・翻訳プロセスモデルの検討 (ページ 134-138)

第 5 章

5.1.3 通訳方向によって異なる明晰化ストラテジーの活用傾向

5.1.2 節では通訳者という変数による明晰化ストラテジー活用への影響を考察した。

本節では、通訳方向がいかにこのストラテジーの活用を左右するかを明らかにする。

全体的なデータから見ると、越→日方向における明晰化ストラテジーの出現頻度 は 393 回(59%)であるのに対し、日→越方向における明晰化ストラテジーの出現 頻度は 272 回(41%)になっているため、全般的には越→日方向のほうが明晰化が 多く活用されたように見える。なお、本研究の設定場面では依頼者側の役割を果た すのはベトナム人のほうであるため、ベトナム語の発話文数は日本語発話文数の倍 程度であるとも言える。そのために、以上の数字だけでは、日→越方向のほうが明 晰化が多用されたという結論を導けるかと言えば、断言できない部分もある。

次に、図 12 を用いて、通訳方向によるストラテジーごとの詳細統計データを示し、

比較してみたい。

12 通 訳 方 向 別 に お け る 明 晰 化 ス ト ラ テ ジ ー ご と の 割 合

図 12 を見ると分かるように、「性別の明示化」及び「指示語の意味明確化」は日

→越方向にしか現れなかった。一方、「指示語の付加」及び「英語(表記)の併用 による誤解防止」も越→日方向にしか見られなかった。その理由は、日本語とベト

主体 の明 示化   

前置 き表 現  

原文 の構 成変 更  

反復   性別 の明 示化  

指示 語の 意味 明確 化  

指示 語の 付加  

暗示 され た情 報の 復元  

程度 副詞 の付 加  

説明 の追 加  

複数 の類 義語 の活 用  

接続 詞の 付加  

読み 手・

聞き 手に 馴染 みの ある よう な表 現へ の変 換  

テン ス・

アス ペク トの 換・

具体 化  

原文 の不 自然 さに 対す る処 理  

形式 名詞 の具 体化  

英語

(表 記)

の併 用に よる 誤解 防止  

日→越   26.5

%   12.1

%   6.3%  2.6%  2.9%  3.7%  0.0%  4.4%  1.5%   25.0

%   2.2%  3.7%  8.5%  0.0%  0.7%  0.0%  0.0%  

越→日   0.5%   19.3

%   13.7

%   4.6%  0.0%  0.0%  1.3%  7.1%  3.6%   23.2

%   1.3%  0.8%   23.2

%   0.0%  1.3%  0.0%  0.3%  

0%  

10%  

20%  

30%  

40%  

50%  

60%  

70%  

80%  

90%  

100%  

ナム語は相手または第三者の性別を表す点で大きな違いがあり、ベトナム語では殆 どの場合では義務的に性別を明示する必要があるのに対して、日本語ではほぼ逆で ある。そのために、「性別の明示化」が日→越方向にのみ現れたのは想定できる結 果でもある。また、日本語は「あれ」、「それ」などといった指示語を多用してい るが、ベトナム語では文脈がとても明白な場合を除き、且つ改まった場面において は、曖昧な表現である「あれ」「これ」「それ」のような指示語を避ける傾向があ る。これは以上の結果の裏付けになるのではないかと考えられる。「指示語の付加」

と「英語(表記)の併用による誤解防止」に関する分析結果については、筆者の所 見ではあるが、データの制約により本研究ではこれらのストラテジーが十分に観察 できたとは言えないので、以上に導いた結果は偶然のものであり、一般化しにくい と思われる。

ほかに日→越方向での活用割合が越→日方向より圧倒的に多いストラテジーとし て挙げられるのは「主体の明示化」や「複数の類義語の活用」 や「接続詞の付加」

である。「主体の明示化」に関しては、5.1.1.2.1 節でも説明したように主体の省略 が多い日本語からベトナム語に訳す際には、必ず主体を明示化する工夫が必要にな る。そのために、このストラテジーの殆どが日→越の方向で現れるのは理解しやす い結果である。「複数の類義語の活用」や「接続詞の付加」については、理論上ど の方向でも現れ得るようなストラテジーであるため、意識調査によって分析結果の 裏付けを究明する。一方、越→日方向の割合のほうがずっと多いストラテジーとし ては「前置き表現の活用」、「原文の構成変更」、「反復」、「暗示された情報の 復元」、「程度副詞の活用」、「読み手・聞き手に馴染みのあるような表現への変 換」、「原文の不自然さに対処する処理」が見られる。「読み手・聞き手に馴染み のあるような表現への変換」の場合は、日本語の大きな特徴である授受表現がこの 結果をもたらす大きな要因ではないかと思われる。詳しく言うと、日本語は非常に 丁寧な言語であり、些細なことでも相手に対する感謝の気持ちを表すためには、

「〜して頂く、〜してもらう」、「〜して下さる、〜してもらう」という表現が用 いられている。この特徴はベトナム語を含むほかの言語において、めったに見られ ないのではないかと思われる。通訳データを詳細に検討したところ、ベトナム語か ら日本語に訳す場合、通訳者は日本人の文化・言語の特徴に合わせ、下の例 14 のよ うに、原文にない授受表現を訳文に加えるという現象が多く確認できた。

例14:

話者JP01

Vâng, /mục đích/của/ cuộc họp/ ngày hôm nay/ của/ chúng ta/ là/ nói/ về/

buổi hội thảo/ tới đây/, vào/ ngày 30 tháng 11/ và/ bà 「話者JP01姓」 /sẽ/

đại diện/ cho/ doanh nghiệp 「社名」/để/ phát biểu/。【はい、本日の会議の 目的は今度の11月30日のセミナーについて話すことで、そして、「話者 JP01」様は「社名」を代表して発表します。】

(はい/目的/の/会議/本日/の/私たち/は/話す/について/セミナー/今 度/11 月 30 日における/そして/「話者 JP01 姓」さん/(未来テンス)/代表 する/「社名」企業/ため/発表する/)

通訳VJ01 っで、あの、今回の会議は、まっ、今日の会議の主な目的はですね、っ

で、今回のセミナーについてですよ。

通訳VJ01 「話者JP01姓」さん、「話者JP01姓」様に、あの、「社名」、「社名」の、あの

ー、企業の代表をして頂いて発表することになりますので。

話者JP01 はい。

「読み手・聞き手に馴染みのあるような表現への変換」と同様、「原文の不自然さ に対処する処理」も越→日方向の割合のほうが割合が高かったが、その差は約 0.6%

のみであった。なお、データを検討したところ、この結果を導いた背景として、ベ トナム語のほうが不自然な原文が多かったということが判明した。

ほかに越→日方向のほうが出現割合が高かったほかのストラテジー(「前置き表 現の活用」、「原文の構成変更」、「反復」、「暗示された情報の復元」、「程度 副詞の付加」)については、基本的にはどの通訳方向においても同様に活用可能で あるため、このような偏った活用傾向を考察するためには、意識調査の結果を踏ま えて推論する必要がある。従って、この考察は第 2 節にて意識調査の結果をもとに 行うことにする。

ストラテジーの頻度において通訳方向による違いが見られただけでなく、ストラ テジーの活用レベル及び必然性、利用目的についても差異が観察できた。以下の表 15を用いて、その差異について考察したい。

表15 通訳方向による明晰化ストラテジーの活用レベル・必然性・利用目的の差異

22% 77% 2%

54% 69% 90%

明晰化ストラテジーの活用レベルについて見ると、 通訳方向を問わず、談話レベ ルが最も大きな割合を占めているという明白な共通傾向がある。しかし、通訳方向 によって、文法レベルの活用が大幅に異なっていることが大きな違いである。この 結果は、「主体の明示化」の活用が主要な要因として関係していると推論できる。

このストラテジーはほぼ文法レベルの活用がメインであり、且つ主に日本語からベ トナム語への訳出方向に現れていることが背景であろう。

必然性に関しても全体的に「任意的」の性質で活用されるストラテジーの割合が 最も多いという共通特徴が二つの通訳方向ともに見られた。しかし、「義務的」の 性質の内訳を見ると、通訳方向によってこの性質で活用される割合がかなり離れて いることが分かる。日→越の方向ではこの割合が 31%であるのに対し、越→日の方 向ではわずか 2%になっている。データを考察したところ、日→越の方向で義務的に 活用される明晰化は主に「主体の明示化」と「聞き手・読み手に馴染みのあるよう な表現への変換」である。「主体の明示化」に関しては、上述のように統語論的な ギャップにより、日→越の方向でこのストラテジーが多く活用されるのに伴って、

文法レベルの活用の割合の引き上げに繋がった。なおかつ、この類いのストラテジ ーは全般的に必然性が非常に高いため、日→越方向の「義務的」性質で活用される ストラテジーの割合を引き上げたと思われる。また、「聞き手・読み手に馴染みの あるような表現への変換」のストラテジーに関しては、「主体の明示化」ほどでは ないが、このストラテジー活用回数の約 20%程度は高い必然性(義務的)を示して いる。更に、このようなストラテジーは主に日→越の方向に現れた。これも表 15 で 反映された結果の裏付けになっているといえよう。

最後に利用目的について考察するが、表 15 をみてまず気づくのは、どちらの方向 でも「意味明確化のため」 が大半を占めているという共通傾向である。これは、通 訳全データの考察結果、通訳者別の考察結果に一致したものであるため、これ以上 論じる必要はないが、細かく見れば、通訳方向によって、「意味明確化のため」と

「目標テキストの自然さの確保のため」の割合の詳細が多少異なる。「目標テキス トの自然さの確保のため」の目的で利用された明晰化はどちらの方向でも「聞き 手・読み手に馴染みのあるような表現への変換」が大半を占めているということが データの精査によって分かった。なお、以上にも考察があったようにこのストラテ ジーが集中して現れたのは越→日の方向であり、この方向の出現率が日→越方向よ り 4 倍弱高い(91/23) という集計になっている。これは、なぜ越→日方向のほうが

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