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翻訳方向によって異なる明晰化ストラテジーの活用傾向

ドキュメント内 通訳・翻訳プロセスモデルの検討 (ページ 160-163)

第 6 章

6.1.3 翻訳方向によって異なる明晰化ストラテジーの活用傾向

法>語彙>談話という結果になっている。この違いを生み出した要因は、各翻訳者 が活用した明晰化ストラテジーの内訳に違いがあったからであると考えられる。例 えば、翻訳者 3 が最も多く活用したストラテジーは「原文の構成変更」(表 16)で あるが、このストラテジーは図 15 にも示された通りに、100%の活用が談話レベル になっている。そのために、翻訳者 3 の談話レベルでの活用割合が最も多いわけで ある。同様に、翻訳者の中で、「主体の明示化」の活用率が最も多いのは翻訳者 6 であるが、このストラテジーの主な活用レベルは明らかに、文法レベルである。こ れは翻訳者 6 のストラテジー全体の活用レベルの傾向を大きく左右すると考えても 良いだろう。一方、翻訳者 1、2 が語彙活用レベルが主要となる「読み手・聞き手に 馴染みのあるような表現への変換」を翻訳者の中で非常に高い割合で活用したこと も、以上で分析した傾向を伴った一因として見られるであろう。また、翻訳者 4、5 は「読み手・聞き手に馴染みのあるような表現への変換」を多く使っていたという ように、翻訳者1、2と同様の特徴を持っていながら、翻訳者3 とも同じく談話レベ ルの活用が主流となっている「原文の構成変更」も積極的に活用していたため、ミ ックスした活用レベルの傾向を生み出したのではないかと思われる。

上記のように、翻訳者によるストラテジー活用レベルが異なる原因についてはデ ータに突き合せてみれば、ある程度理解可能な根拠を見いだすことができる。しか し、それはあくまでも表面的な根拠であり、深層における要因は翻訳者ごとの活用 するストラテジーがそもそも異なるという実態にある。この実態は人間(翻訳者)

に関わる様々な要素の影響を受けて成立したものであるため、解明するのが非常に 難しいと思われるが、それこそが翻訳プロセスの動的な性質にほかならないもので あり、本研究で検証したい点でもある。

上の全体結果だけで傾向として一般化することができないのである。訳出方向によ る違いを明らかにするために、以下の詳細なデータを用いて、解析してみたい。

図18 翻訳方向別における明晰化ストラテジーごとの割合

図 18 を見ると分かるように、「英語(表記)の併用による誤解防止」、「形式名 詞の具体化」、「性別の明示化」並びに「主体の明示化」は日→越の翻訳方向にし か現れなかった。まず、「性別の明示化」と「主体の明示化」については、既に説 明したように、日本語とベトナム語の根本的な特徴の相違により発生したストラテ ジーであり、且つ、性別・主体を明示する必要が必ずあるのはベトナム語だけであ るため、これらの二つのストラテジーが日→越という方向にのみ現れているのも想 定された結果である。また、形式名詞が多く活用されるのは日本語であり、ベトナ ム語ではあまり馴染みのない表現の仕方であるため、形式名詞の具体化という工夫 は基本的には日本語からベトナム語へ訳出するときに限られるのではないかと思わ れる。「英語(表記)の併用による誤解防止」だけは、起点言語と目標言語の相違 によるストラテジーではないが、本研究で使われたベトナム語原文では外来語及び 専門用語が全然使われていないため、英語を併用する必要もなかっただろう。その 一方、「指示語の付加」、「暗示された情報の復元」、「程度副詞の活用」、「原 文の不自然さに対する処理」は逆の訳出方向である越→日の翻訳方向にしか見られ なかったが、これは二言語間の特徴の相違によるものではなく、ベトナム語の原文 に現れた対象が特定しづらいと思った翻訳者が意味を明確化しようとして、「指示 語の付加」や「暗示された情報の復元」というストラテジーを工夫したと考えても 良いであろう。「程度副詞の活用」も任意的なストラテジーとして使われており、

! ! ! ! ! ! !

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! 24.6%! 0.0%! 27.7%! 0.0%! 1.0%! 4.2%! 0.0%! 0.0%! 0.0%! 3.1%! 0.0%! 0.0%! 24.1%! 8.4%! 0.0%! 5.2%! 1.7%!

! 0.0%! 0.0%! 13.3%! 0.0%! 0.0%! 1.8%! 12.4%! 1.0%! 2.7%! 23.9%! 0.0%! 0.0%! 22.1%! 7.1%! 15.9%! 0.0%! 0.0%!

10%!0%!

20%!

30%!40%!

50%!60%!

70%!

80%!90%!

100%!

翻訳者の判断によるものであるため、このようになった理由は特にないと思われる が、意識調査においてこの点について掘り下げて考察してみたいと考える。また、

「原文の不自然さに対する処理」もいずれかの翻訳方向に限定されるものではなく、

単純に言えば、本研究で使われたベトナム語原文が偶然に不自然な表現があったた め、この処理がベトナム語→日本語の訳出方向において行われたということであろ う。

ほかのストラテジーに関しては、翻訳データで完全に観察できなかったもの以外 には、いずれも訳出両方向に現れていた。しかし、ストラテジーによって翻訳方向 別における出現割合が異なる。例えば、「読み手・聞き手に馴染みのあるような表 現への変換」並びに「テンス・アスペクトの変換・具体化」の場合はどちらの方向 においても大体同じ割合の出現になっている。一方、「説明の追加」は越→日方向 の出現の方が圧倒的に多く、「原文の構成変更」や「指示語の意味明確化」は日→ 越方向のほうが出現割合が高いという集計結果となっている。「説明の追加」に関 しては、 全体的に見るとベトナム語原文のほうが長く、修飾する成分と被修飾の成 分の区分けが難しく、表現も分かりにくいところが多いため、説明を適宜追加する ことが必要であろうと考えられる。それに対して、日本語原文は意味が分かりづら いわけではないが、 日本語構文の特殊な特徴、日本語らしい指示語の付加があるた め、原文の構成を変更しない、または、指示語の意味を明確化しないままではベト ナム語に訳すと不明確で不自然な訳文になる可能性が高い。そこで、日→越の翻訳 方向ではこれらのストラテジーが特に工夫され、出現割合が多くなったのではない かと思われる。

以上、翻訳方向によるストラテジーの割合の違いを一通り考察した。その結果を 踏まえて、引き続きストラテジーの活用レベル、必然性や利用目的について分析・

考察したい。翻訳方向による明晰化ストラテジーの活用レベル・必然性・利用目的 の差異を以下の表18において示す。

表18 翻訳方向による明晰化ストラテジーの活用レベル・必然性・利用目的の差異

40% 23% 37% 54% 46% 36% 64%

36% 33% 31% 43% 57% 31% 69%

活用レベルについては翻訳方向によって明らかに違いが見られる。翻訳双方にお いて「語彙レベル」が「談話レベル」を上回り、最も高い割合(40%と 36%)を見 せた。しかし、「文法レベル」に関しては、越→日方向で一番低い割合を占めてい るのに対して、日→越方向では「談話レベル」よりも高い割合であった。「主体の 明示化」が日→越の方向にしか現れず、且つ大きな割合を占めているほか、100%文 法レベルの活用になっているということ、通常談話レベルで活用されることの多い

「読み手・聞き手に馴染みのあるような表現への変更」が今回の翻訳データでどち らの訳出方向においても高い割合で出現した上に、語彙レベルで活用されたことが 多かったことは、以上に示した活用レベルの分配傾向を伴った大きな要因だと考え られる。

同様に必然性についても方向による大きな相違がある。越→日の方向で任意的活 用が義務的な活用を上回る(54%対 46%)のに対し、日→越の方向では必然性の傾 向が逆となっており、且つ大幅な差異が見られる(43%対 57%)。日→越の方向に しか出現しなかったような義務的な性質が強い「主体の明示化」及び「形式名詞の 具体化」、越→日の方向に比較的高く発生し、且つ任意的な性質が強い「説明の追 加」がこの結果を伴った大きな要因としてみて良いであろう。

「活用レベル」や「必然性」と異なり、「利用目的」については翻訳方向に関わ らず、同じ傾向になっている。即ち、どちらの方向においても「意味明確化のため」

という利用目的がより大きな割合を占めているということである。これは全体デー タと一致しており、想定された結果でもある。

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