• 検索結果がありません。

起点言語と目標言語の異同によるもの – 日本語とベトナム語の言語ペア

ドキュメント内 通訳・翻訳プロセスモデルの検討 (ページ 43-63)

第 2 章

2.2.2 起点言語と目標言語の異同によるもの – 日本語とベトナム語の言語ペア

起点言語と目標言語の異同を様々な観点から考察することが可能ではあるが、明 晰化の活用に直接関わると思われる、言語構造、関係性を表す手段、談話の特徴と いう3つの視点に絞り、検討することにする。

2.2.2.1 言 語 構 造

. 語 順

日本語では、目的語が動詞述語の前、修飾する部分が被修飾する部分の前に現れ ることが基本的な原則であるが、ベトナム語では日本語と異なり、目的語が動詞述 語の後、修飾する部分(指示代詞とも含めて)が被修飾部分の後に来ることが一般 的である。以下の例1〜3ではこの違いが見られる。

例1: 私はご飯を 食べる。

目的語 動詞述語

→ Tôi ăn cơm.

私食べる−動詞述語 ご飯−目的語 例2: 彼女は 優秀な 学生です。

修飾語 被修飾語

→ Cô ấy là sinh viên ưu tú.

彼女 コピュラ 学生−被修飾語 優秀-修飾語

例3: この 本 を読んだことがありません。

指示代詞 被修飾語

→ Tôi chưa từng đọc quyển sách này.

私 読んだことがない 本−被修飾語 指示代詞

このように、日本語とベトナム語は語順に関して大きく異なっている。この特徴 は、日本語とベトナム語という二言語間の訳出過程に対し大きく影響を及ぼすと想 定できる。例えば、日本語では、動詞述語が最後に来るので文の意味を正確に理解 するためには、殆どの場合において発話文の最後まで聞く必要があるだろう。これ は、特にハイスピードの目標言語産出が求められる同時通訳にとっての大きな制約 となっている。一方、ベトナム語では文脈がはっきりしている場合は、目的語を聞

かなくても文の意味を簡単に判断することができるため、文の最後まで聞かない、

あるいは、聞き取れなくても、かなり正確に意味が判断できる。

. 主 語

この節では、まずベトナム語における主語省略の特徴を見てから、日本語の主語 省略の特徴を考察していく。最後に、ベトナム語と日本語における主語省略の特徴 を比較する。

● ベ ト ナ ム 語 に お け る 主 語 省 略 の 特 徴

NGUYEN DINH HOA(1997)によると、ベトナム語では主語が省略される場合は以下 の通りである。

【存在動詞で始まる文】

例4: Có khách.

ある 客

存在動詞 補語 (客が来ている)

【決まったルール、金言、格言、諺、真理を簡潔に示したもの。主体者が不特定、

または一般者である場合】

例5:決まったルールの場合

Ở Nhật Bản, phải đi bên tay trái.

日本では 通行しなければならない 左側 状況詞(場所を示す)助動詞+述語動詞 補語 (日本では左側を通行する)

例6:金言・格言

Nên lấy chữ hiếu làm trọng.

した方がよい 捉える 親孝行 大事に 助動詞 述語動詞 補語 副詞 (親孝行は大事にしなければならない)

【言及があった主語または文脈が明らかな場合(複文、重文)】

例7: Mỹ mua vào nhiều hơn bán ra, thành ra bị thâm thủng ngân sách.

アメリカ 売るより買う方が多い よって 財政赤字になった

主語1 述語1 接続詞 述語2 (アメリカは、輸入額が輸出額を上回ったため、赤字になっていた)

【独白、独り言、主語がどの主体を指すがはっきり分かる文脈の場合】

例8:Buồn ngủ quá! Mai làm nốt!

眠い 感嘆詞 明日 やる 残り

述語+感嘆詞 時間を特定する補語 述語 補語 (眠いな。残りは明日にしよう)

例9:S: Đi đâu đấy!

行く どこへ+感嘆詞 述語 補語+感嘆詞 (どこに行くの?)

H: Ra bưu điện!

出る 郵便局 述語 補語 (郵便局に行く)

なお、(例9)は友達同士のやり取りである。基本的には、周り、特に目上の人 に対して、このような話し方をするのは失礼だと教育されている。

【命令文】

例10:Im đi! Nín đi!

黙れ 泣くのをやめろ 述語+命令詞 述語+命令詞 (黙れ!泣くな!)

【はい/いいえの質問文に対する返答,または「誰」の質問詞を含む質問文に対する返 答】

例11:S: Cô ấy làm cho ai?

彼女 やる 誰のため

主語 述語 質問詞「だれ」

(彼女は誰のために仕事しているの?)

H: Làm cho toà đại sứ mỹ.

やる のため アメリカ大使館 述語 助動詞 補語

(米国大使館のために仕事している)

ただし、このような場合においても、主語の省略は親しい関係を持つ人同士の会話 に限って許されており、初対面や目上、上司に対しては、非常に失礼な言い方にな る。

● 日 本 語 に お け る 主 語 省 略 の 特 徴

日本語では、文脈や場面によって、省略がかなり自由に行われる。文脈や場面か ら類推できる場合、連続する文の主題・主語が同じ場合は、省略されることが多い。

つまり、日本語での主語省略は一般的な現象であり、相手との関係に関わらず、

礼儀正しくない、または失礼だと思われることはない。

例12:もう食べましたか。

はい、食べました。

例13:私はリーです。(私は)韓国から来ました。(私は)大学で文学を勉強して います。

例14:手伝ってもらってもいいですか。

● ベ ト ナ ム 語 と 日 本 語 に お け る 主 語 省 略 の 特 徴 の 違 い

ベトナム語も日本語も多くの場合は主語の省略が可能になるが、その省略の自由 度については差異がある。ベトナム語は一定の場面、条件のもとでしか主語が省略 できないほか、主語省略が可能だと言っても、対人的には失礼な印象を与えること が多い。それに対し、日本語では、主語の省略が非常に多い。待遇表現・授受表 現・敬語を用いる発言において主語が省略されることが一般的な現象であり、失礼 だと思われず、逆に丁寧に主語を明示すると、不自然な言葉遣いだと見なされてし まう。この特徴の相違は、通訳・翻訳における明晰化の活用に大きく関わると筆者 は想定している。

2.2.2.2 複 数 形

ベトナム語では、日本語と同様、複数を表すための文法形態素はない。しかし、

日本語では複数の意味を名詞にもたらすために、数量を表す副詞(すべて、皆、い くつか )や具体的な数量詞(2人、3つ、5個など)を使う手段しかない上に、複数 の意味を表すこれらの手段を使わず、複数の意味があるかどうかを文脈から判断せ ざるを得ない場合が数多くある。一方、ベトナム語では、複数の意味を表すために は、「基数詞」、「約数詞」、「数量詞」があり、文章では複数の意味を常に明ら かに示している。言語学大辞典では、「基数詞」、「約数詞」、「数量詞」につい て、以下のように定義や例を提示している。

【基数詞】正確な数、量を示すために用いられる数詞で、直接名詞と結合する場合 と、単位名詞を必ず介在させて結合する場合の2つがある。

例15: Hai tháng

二 月 (2ヶ月)

例16: Hai con gà

二 単位名詞 鶏 (2羽の鶏)

【約数詞】ベトナム語には、約数、約量を表す若干の数詞が存在する。基本的には、

基数詞と同じ用法をもっている(中略)。

例17: Vài tháng

約二三 月 (2、3ヶ月)

例18: Dăm quả cam

約5、6 単位名詞 オレンジ (5、6個のオレンジ)

【数量詞】複数や全体詞などを表すもので、その用法は基数詞や約数詞と同様であ る。

例19: Những sinh viên

いくつか 大学生 (数人の大学生(全体の中の一部)

例20: Các em học sinh này

各々 名詞単位 生徒 この (これらの学生(全体))

以上の複数を表す 3 つの形の中で、「基数詞」と「約数詞」は日本語にも見られ る複数形式だが 、「数量詞」は 殆ど見られないものであろう。この違いをよりイメ ージしやすくするために、以下の例 21 と例 22 を提示する。例文の出典は田原

(2011)である。

例21: Các món ăn đều là món ăn Huế.

数量詞 主語 副詞 コピュラ (名詞) 述語 複数 料理 すべて コピュラ フエ料理 (料理はすべてフエ料理です。)

例22: Những người mặc áo dài trắng là học sinh cấp 3.

数量詞 主語 コピュラ (名詞)述語 複数 人 着るアオザイ 白い コピュラ 高校生

(白いアオザイを着ている人は高校生です)

以上の例 21、22 で見られるように、ベトナム語の文では主語の複数の意味がはっ きり表されている。この 2 つの例で数量詞がなければ、文全体の意味が変わってし まうか(例 22)、または、不自然な文になってしまう(例 21)と考えられる。それ に対して、日本語に訳した文を見ると、複数の意味を表す手段は何も使われていな い。従って、例 22 の日本語文だけを見ると、「白いアオザイを着ている人」は一人 なのか、数人のことなのか曖昧な部分がある。この特徴の違いは日本語−ベトナム語 の通訳者・翻訳者を大いに悩ませるもので、日本語のテキストの単数・複数の意味

をどうやって正確に捉え、ベトナム語に自然な形で伝えるかが一つの大きな課題と も言える。

2.2.2.3 テ ン ス

「日本語のテンスは過去・現在・未来を表すのにル・タの対立、すなわち非過 去・過去の対立しかもたない」(高見、1997)。すなわち、日本語の過去形はかな りはっきり表されるが、未来形ははっきりしていない場合が多い。それに対し、ベ トナム語では、過去・現在・未来を表す言語形式が揃っている。ベトナム語は孤立 語であり、過去・現在・未来を表すためには動詞・形容詞・名詞の形態変化ではな く、過去・現在・未来の意味を表す助動詞が使われる。以下、非過去形(ベトナム 語の場合の現在+未来に相当する)、及び過去形を順に考察し、日本語とベトナム 語の異同を検討する。

● 非 過 去 形

日本語では、森山卓郎 (2000)も示しているように、「形容詞述語や名詞述語は、

タをつけない形(そのままの終止)で未来のことも現在のことも表せる」。

例23:この花は美しい。

例24:来年は寒いよ。

例25:彼は(来年/今)は3年生だ。

そして、「動詞のそのままの終止形も、独立文法では、普通は現在か未来のこと を表す(状態を表す述語では、現在のことを表せる)」。

例26:来年もスポーツ大会がある。

例27:今お金が2万円ほどある。

また、一般的な習慣や性質を表す場合、会話の場で、話し手の観察、内的感情、

感覚を述べる場合や、遂行的発話の場合も、非過去形が用いられる。

例28:日本人は米を食べます。

例29:あああ、むかむかする。

例30:あ、船が行く。

例31:ご協力頂いたことに対して感謝申し上げます。(筆者の作例)

それに対して、ベトナム語では、未来や現在を表す形式が異なる。基本的には、

未来か現在かは助動詞によって表される。例えば、「Sẽ (未来に起こる・する意味 を表す), sắp (近いうちにする・起きる意味を表す)、sắp sửa (近いうちにする・

起きる意味を表す), đang (進行しているという意味を表す)、 thường (習慣を表

ドキュメント内 通訳・翻訳プロセスモデルの検討 (ページ 43-63)