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通訳データを収集するための実験の概要

ドキュメント内 通訳・翻訳プロセスモデルの検討 (ページ 65-69)

第 2 章

3.3.1 通訳データを収集するための実験の概要

ベトナム語-日本語の双方向通訳における明晰化ストラテジーの実態を調査する ためには、通訳データの分析が必要となるが、分析に最も理想的なデータというの は実際に行われたぶっつけ本番の通訳データであることに間違いない。しかし、こ のようなデータの使用許可を取得するのはほぼ不可能であることも現実である。そ のため、本研究では、筆者はなるべく本番に近い通訳のビジネス場面を設定し、シ ミュレーションという形で通訳のデータを収集した。 以下、3.3.1.1 節〜3.3.1.4 節ま で、被験者、実験手順、場面設定およびデータの信頼性について説明していく。

3.3.1.1 被 験 者

実験概要として、1名の日本人と1名のベトナム人が予め設定された場面で会話を し、その 2 人の間のコミュニケーションを双方向通訳する 1 名のベトナム人の通訳 者を置いた。データ収集に協力してくれたのは、6 名の通訳者と 2 名の参加者(会 話者役を演じた1名のベトナム人(男性・20 代後半)と1名の日本人(女性・60 代 前半))である。通訳者はいずれも経験者(女性・20 代後半〜40 代前半)であり、

3 年以上通訳の経験を有する通訳者である。一つのデータの時間量は 20 分前後であ った。また、このデータは2011年8 月、ベトナムのハノイ市で収集されたものであ る。以下の図 6 は実験概要を表すものであり、表 1 と表 2 は通訳者の役を演じた協 力者(本研究では「通訳者」と称する)及び会話者役を演じた協力者(本研究では

「参加者」と称する)の詳細を示す。

本データの収集にあたり、日本人の通訳者・翻訳者にも依頼する予定であったが、

実際に探してみたところ、ベトナム語が堪能な日本人は非常に少ないほか、ベトナ ム語が出来る日本人でも、通訳・翻訳の仕事に従事する人が殆どいないという事情 があったため、ベトナム人の被験者だけに絞り、日本語−ベトナム語の双方向の訳出 に対応するように依頼した。

また、サンプル数が 6 件だけでは少なすぎるという考え方があるかもしれないが、

意識調査等を行い、分析結果の背景を深く掘り下げて豊かな質的分析を実施するた めには、これぐらいのサンプル数が最適であると筆者は判断した。

以下は、実験や通訳者の詳細をイメージ化した図と表である。

6. 通 訳 を 介 して の ベ トナ ム 人 と日 本 人 間 の 会 話

1 通 訳 者 の 詳 細

話者記号 年齢 性別 特徴 通訳データの

時間量

通訳者01 (VJI01-JVI01) 41歳 女性 3年以上の通

訳経験あり

17分54秒

通訳者02(VJI02-JVI02) 30歳 女性 同上 18分35秒

通訳者03(VJI03-JVI03) 35歳 女性 同上 23分32秒

通訳者04(VJI04-JVI04) 31歳 女性 同上 16分04秒

通訳者05(VJI05-JVI05) 34歳 女性 同上 27分20秒

通訳者06(VJI06-JVI06) 28歳 女性 同上 31分08秒

※ VJI:ベトナム語から日本語への通訳方向 JVI:日本語からベトナム語への通訳方向

ベトナム人と日本人の参加者に提供した参考資料は6回にわたり、同じものであり、

毎回のデータ収録において大体同じ内容を発話するように依頼したが、通訳者の情 報処理能力、伝達能力などにより、伝達内容があまり分からない場合、聞き手は再 度質問し、確認することがある。また、通訳者の瞬発力・表現の簡潔さ等に差があ るために、殆ど同じ内容であっても、情報処理・伝達にかかる時間に相当な差があ る。そのため、6件のデータはそれぞれ時間量が異なっている。

2 参 加 者 の 詳 細

話者記号 人数 年齢 性別 特性

話者 (VN) 1 20 代 男性 日本語がほとんど分からない。社会人の経験あり 話者 (JP) 1 60代 女性 ベトナム語が分からない。社会人の経験あり

男性(20代・社会人)  

(役人役)

 

女性(60代・社会人)  

(日本企業役)  

双方向通訳

 

女性

20

代後半〜40代前半  

3.3.1.2 場 面 設 定

専門用語の出現が多い場面設定では、被験者への依頼が難しくなるほか、専門用 語の解釈だけに時間がかかってしまい、情報処理プロセスと訳出プロセスに集中で きなくなってしまうため、一般的なコミュニケーションに近い、通訳を要する会議 場面が最適であると判断した。また、ベトナムに進出する日系企業の増加に伴い、

投資・経営活動を管轄する政府機関訪問時の通訳を求められることが少なくないこ とから、本研究では、以下の場面を設定した。

会 話 の 登 場 人 物 :

● ベトナム投資計画省の職員(記号:話者VN「会話番号」)

● 日系企業の代表者(記号:話者JP「会話番号」)

● ベトナム人の通訳者(同一人であるが、方向別に異なる記号を用いる。日本語

→ベトナム語方向(以下、表・図では日越方向と称する):通訳 JV「会話番号」、

ベトナム語→日本語方向(以下、表・図では越日方向と称する):通訳 VJ「会話番 号」

会 話 の 目 的 : ベトナム投資計画省がベトナムの投資環境に関するセミナーを開催す ることになった。そのセミナーで、ベトナムに進出し成功した日系企業にプレゼン テーションを依頼したい。

設 定 場 面 : ベトナム投資計画省の職員(セミナー開催側の担当者)と日系企業の代 表者(プレゼンテーションを依頼される日系企業の代表者)との短い打ち合わせ。

打ち合わせは投資計画省の会議室で行われる。

投資計画省側はベトナム語で、日系企業の代表者側は日本語で話す。

その間に一人の通訳者が入って、双方向の通訳をする。

3.3.1.3 実 験 手 順

データ収集を行う 3 日前に、参加者に場面内容を説明した。ベトナム人役の参加 者に対し、その場で話す必要がある内容を説明し、相手の質問やコメントに適宜に 対応するよう指示した。相手に話す内容は必ずしも筆者が提供した場面説明内容と 完全に合っていなくても良いことも注意し、なるべく自然に会話するように依頼し た。日本人役の参加者に対しても、場面内容の概要は説明したが、ベトナム人の相 手が何を話すかについては知らせなかった。ベトナム人の相手から説明される内容 について、よく分からないこと、または通訳が上手に訳してくれなかったためにあ

まり理解できないことがあれば、その場ですぐ質問したり、確認したりするよう依 頼した。通常の場合は、通訳依頼側が通訳者に対し、事前に関連資料を提供してお くことが多いが、本研究で設定された場面はビジネス会議とはいえ、難しい専門用 語が一切使われていないほか、出席者数が多い会議ではなく、二人だけの打ち合わ せであるため、ベテランの通訳者なら殆ど何も準備しなくても、対応可能であると 筆者は判断した。一方、あまり準備しない状態で、通訳者がどのようなストラテジ ーを活用し、対応するかを見たいという意図もある。そのために、筆者は通訳者に 対しては、依頼する通訳場面が会議の逐次通訳であり、会議参加者の場面における 役割についての情報以外、事前に何も説明しなかった。

データ収集の当日、シミュレーションを始める前に、参加者・通訳者にフェイス シートの記入とデータ公開合意書への署名を依頼した。その上で、予定通りにシミ ュレーションを開始した。このデータは録音・録画した。録音・録画終了時に、参 加者と通訳者にフォローアップインタビューを行った。以下は参加者と通訳者にイ ンタビューした質問である。

3 フ ォ ロ ー ア ッ プ イ ン タ ビ ュ ー の 質 問

インタビュイー 質問事項

参加者 ① 会話するときに、録音が気になったか。

② 通訳者が起点テキストより長く説明するなど情報を明 示的に伝えようとしたと思わないか。

③ クライアントとして通訳者に何を求めるか。

通訳者 ① 通訳するときに、録音・録画が気になったか。

② 実際の現場で通訳しているように通訳しているか。

参加者の質問事項①と通訳者向けの質問事項②と③は 4 段階評定による回答を依 頼した(a. とても b. 普通 c. あまり d. 全然)。ほかの質問事項については 自由に意見を述べるという形で行った。なお、すべての質問への返答は口頭で行い、

録音した。

3.3.1.4 デ ー タ の 信 頼 性

データ収集後に行われたフォローアップインタビューによって、会話の自然さを 確認することができた。会話協力者及び通訳者は、「会話(通訳)するとき、録音 が気になったか」という質問に対し、「とても」「普通」「あまり」「全然」とい

う4つの選択から、36%が「普通」を選び、64%が「あまり」と回答した。この結果 から、録音作業がデータ収集協力者の心理状態に大きく影響していないことが分か った。したがって、本研究で収集したデータは比較的自然なものであるといえよう。

また、通訳者に対し、「実際の現場で通訳しているように通訳したか」という質問 項目を設け、4 段階評価(「とても」、「普通」、「あまり」、「全然」)で回答 を依頼したところ、92%が「とても」、8%が「普通」という回答を選んだ。この結 果から、通訳者は実際の状況とほぼ同じ態度で通訳に臨んだことが分かった。その ため、収集した通訳データは実際に行われた通訳のデータほどではないが、ある程 度自然さが確保されたデータであり、通訳能力、通訳上の特徴等を反映するデータ として見てもよいという結果から、本研究の使用に足りるデータであるとの結論を 出した。

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