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超音波を用いた血流量計測における問題点と要件

第 2 章 内出血源推定システムの設計方針

2.6 超音波を用いた血流量計測における問題点と要件

超音波を用いた血流量計測を実現するには,超音波プローブの体表面への押 し当てや患者体動への適応などはもとより,計測対象血管の超音波画像上にお ける描出・維持が最大の要件となる.なぜならば,超音波を用いた血流の計測

Fig.2.10 Measurement points in a Segment

Fig.2.11 Branched vessel specification by echo image

Fig.2.12 Blood flow measurement procedure

などを行う場合には,画像上に計測対象点が描出されていることが前提となり,

見失いなどが発生してしまうと,一気に計測が困難となってしまうためである.

ここで,出血源推定の対象となる腹部領域の血管に着目してみると,患者の 呼吸に伴い,あらゆる方向に変位するといった特徴が現れる(Fig.2.13).これは,

呼吸に伴う横隔膜の運動につられて腹部の内蔵が動き,血管がそれに引っ張ら れるあるいは押されるかたちで変位するためである.この血管の変位は,2次元 断層像である超音波画像上においては,計測対象点のずれや血管そのものが画 像上から消失するといった事態を引き起こすため,この血管変位への適応,す なわち,超音波画像処理に基づく超音波プローブの追従技術が 1 つ大きな要件 として挙げられる.

さらに,超音波を用いた血流量計測において重要なことに,計測値の補正技 術が挙げられる.これは,超音波信号を用いて血流量を計測する際には,血管 内の血流速分布や計測点の移動に伴う計測値のバラつき発生はもとより,超音 波ビームと血流方向の角度による誤差や,流量値の演算に伴う演算誤差など,

あらゆる要因により,流量の計測誤差が発生しうる.よって,超音波にて計測 した流量を最適化し,精度の高い流量計測を実現するための補正技術も大きな 要件となる.

ここで,超音波技術を用いた血流情報計測に関する従来の研究に着目してみ ると,その重要性の高さから,あらゆる方式で研究展開がなされている.K.

Kristofferrsenらは,2次元画像と超音波ドップラーによる血流速計測を仮想的

に並列させて実行させるアルゴリズムを開発している[101].これは,画像作成 のためのデータ収集期間(20ms)において,一時的に Doppler計測を停止する時

Fig.2.13 Displacement of a blood vessel Diaphragm motion by breathing

血管縦断層像

血管縦断層像の消失

Disappearance of a vessel

分割技術であり,画像更新中の Doppler 信号欠落部には,白色雑音を離散時間 FIR フィルタに通した合成信号を挿入するといった方式をとっている.本方式 はパルスあるいは連続 Doppler 計測を実時間で行うことができ,専用装置を用 いて実験的にその有効性が確認されている.また,仁村らは,カテーテル式ド プラ法による左冠動脈血流速パターンの計測に関する世界初の臨床試験データ を取得しており,カテーテル式ドプラ血流計の冠動脈内への留置法などを明ら かにした[102].さらに,竹内らは,超音波計測融合シミュレーションにより複 雑な3次元血流動態を再現するべく,3次元超音波計測融合血流シミュレーショ ンへの応用を目的とし,超音波診断装置と 6 軸位置検出アームを用いた 3 次元 血管画像構築システムを製作し,数値シミュレーションによりその位値検出精 度を明らかにした[103].このように,画像解析のみならず,超音波信号の計測・

処 理 技 術 の 発 展 に よ り , 血 流 情 報 の 計 測 技 術 は 日 進 月 歩 改 善 さ れ て い る [104-108].

一方,血流情報を計測する上で重要となる,計測対象を捕捉するためのビジ ュアルサーボ関連技術に関しても概観しておく.中楯らは,超音波画像を使っ

た Out-of-plain(超音波画像の法線方向への)ビジュアルサーボの新しい手法を

提案している[109].超音波プローブマニピュレータを用いて追従目標点を中心 とする微小範囲をスキャンし,一定間隔で平行な複数の B モード画像をあらか じめ記録しておき,現フレームと記録済み画像データ間にてブロックマッチン グを行うことで,プローブの現在位置を検出している.また,青木らは,ロボ ットと人間が協調動作を行いながら,所望の断層像を探索し,検出後は操作者 が手を放してもロボットが自律的に取得した断層像を維持するプローブ走査支 援システムの構築を行っている[110].さらに,B. Wael らは,任意の初期位置 から超音波プローブを自動的に動かし,所望画像に到達するためのアルゴリズ ムを開発した[111].本手法では,一連の複雑な映像の特徴を定義し,超音波シ ステムの形状モデルから,これに対応するInteraction Matrix を導出している.

本マトリックスの計算に不可欠な全未知係数を推定した上で,オンライン姿勢 推定法による二つの適応制御則をシミュレーションにより検証し,その有望性 を示している.その他にも,がん組織や穿刺対象物に対するトラッキング技術 や探索のためのビジュアルフィードバックに関する研究は,多数なされてきて いる[112-116].

最後に,超音波による生体情報計測において重要な項目の 1 つである補正技 術に関して概観する.前野らは,パルスドプラ法による血流量測定の誤差要因 について検証を行っている[117].パルスドプラ法による血流測定時の誤差を抑 制するためには,角度補正後ドプラ入射角は 0 度とし,血管径は動脈拡張時に 近位側および遠位側の内膜前縁間距離を測定することが望ましいという結論が

でている.また,Funamotoらは,血流の超音波-測定-統合型(UMI)シミュレー ションにおいて,Doppler 速度から最適に推定した速度ベクトル差に比例する フィードバック(FB)信号を用いて流れ場を再現することに試みている[118].動 脈瘤性大動脈内の三次元血流に関する定常標準解を取得し,収束または振動流 に等価的に対応する周波数応答に必要な時間を決定する時定数によって,UMI シミュレーションの過渡特性を評価している.また,動脈瘤内の速度ベクトル の定常状態誤差によって定常特性も評価することで,UMIシミュレーションに おいては不正確な境界条件に起因する速度場誤差を FB 領域と下流領域内で低 減でき,最終的に定常値に到達しうる効果を示している.このような研究と同 様に,超音波信号解析技術の発展に伴い,計測した血流情報における誤差低減 を目的とした補正技術は,今後の診療技術に不可欠なものとなっている[119, 120].

ここで,平時医療とはことなる救急医療という現場において,超音波を用いた 血流量計測に基づき出血源を推定する場合,前述した通り,超音波画像処理に 基づく超音波プローブの追従技術,すなわち,患者の呼吸などに伴い大きく変 位する血管に対して計測を維持する技術が肝要となる.しかしながら,従来行 われてきた研究においては,超音波画像上から消失しうる方向への大きな変位 に適応して,超音波プローブを追従させ,血流量を計測・維持させることに着 目した技術開発はなされていない.また,血流速計測における誤差抑制に関し ては,ドップラー角と血管との成す角度が計測値に及ぼす影響が高いため,2次 元画像からその角度を認識し,適切な補正をする技術が必要となるが,このよ うな角度推定を 2 次元断層像で行うための抜本的手法,アルゴリズムは確立さ れていない.以上述べたように,超音波計測に関する従来研究の調査により,

血流量に基づく出血源推定のためのプローブの追従技術,および 2 次元断層像 下における血流情報の補正技術といった,本目的遂行上コアとなる要素技術・

方法論に関して,そのほとんどが未解決であることが明らかとなった.