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内出血源推定試験

第 7 章 総合評価

7.4 内出血源推定試験

7.4.1 方法と手順

本試験では,Fig.7.11に示すような疑似的に出血を再現したモデルを使用し,

縦/横断層像それぞれのアプローチにより,内出血源を推定する試験を実施する.

ここで,人体の循環血液量は,体重の約8%(体重60Kgで約5L)であるといわれ ている[146].そして,外傷や疾病による出血で,体内の血液の約20%(約1L)

が急速に(1分程度)失われると出血性ショックという状態に陥る.この出血 性ショックは,患者体内の血液循環が不全に陥っている状態であり,迅速な対 応と処置が求められる.

よって,本システムにおいても,約1[L/min](17[ml/s]程度)の出血の存在を推 定することが,ファーストステップとして重要となる.よって,試験モデルに おける疑似出血量は 17[ml/s]近傍にセットし,試験を実施することとした.な お,他の試験パラメータに関して,Table7.5に示す.

縦断層像下からのアプローチでは,y軸方向血管変位下にて,血管断面積計測

Fig.7.11 Experimental setup for internal bleeding model

Beat rate 1/min

Stroke volume

ml

The cross- section

area cm2

Depth of the vessel model

mm

Displace-ment

mm

Pitch sec

60 35 4.91(+4%) 20 ±15 3-4

後に血流速を計測し,算出した血流量差にて出血源を推定する.また横断層像 下からのアプローチでは,ドップラー角度の依存性を検証するべく,ドップラ

ー角度を15,20,30[deg]の3条件下で実施した.また,縦断層像下からのアプロ

ーチと試験条件を合わせて比較・検証するために,血管変位方向は y 軸方向と し,血管断面積計測後に血流速を計測し,算出した血流量差にて出血源の推定 を試みた.

本試験における評価指標は,出血の存在有無の判断可否と出血量の推定誤差,

およびドップラー角度による出血推定量誤差への影響である.

7.4.2 推定結果

縦断層像下における出血源の推定試験結果を,Fig.7.12 に示す.出血源を挟 んだ上下流量において計測値の差が認められたため,出血源の存在を推定する ことが可能であることが示された.また,出血推定量の平均誤差は,7.7[ml/s]

であり,最大誤差は15[ml/s]であった.

横断層像下における出血源の推定試験結果を,Table7.6 に示す.出血源を挟 んだ上下流量において計測値の差が認められたため,出血源の存在を推定する ことが可能であることが示された.また,出血推定量の平均誤差は,27.4[ml/s]

であり,最大誤差は39.5[ml/s]であった.

本試験結果より,ドップラー角度により,出血推定量の精度が異なることが 確認された(ドップラー角度依存性が存在).また,ドップラー角度 30[deg]時 が最も精度よく出血量を推定することができ,その時の計測誤差は,12.2[ml/s]

であった.

縦/横断層像下アプローチの双方において,出血量を大きく推定する傾向が認 められた.

Table 7.5 Experimental setup parameter

Angle θ[deg]

True value ml/s

Measured internal bleeding ml/s

Error ml/s

15 27 57.5 30.5

20 33.2 72.7 39.5

30 33.5 45.7 12.2

7.4.3 考察

本項では,前述した出血源推定試験における出血推定量の試験結果に関して,

臨床的意義の観点から考察する.

実際の救急現場においては,まず治療戦略の方針決定をする上で,100[ml/s]

の精度で出血量を推定できれば十分であるとの見解がある(横浜市立大学付属 市民総合医療センター 高度救命救急センター).これは,内出血患者に対する 適切な輸血量の把握や,病態変化の予測的観点から言及された数値であり,よ り高精度な推定に向けては段階的にクリアしていけば問題ないと考えられる.

よって,縦/横断層像下の両アプローチにおける最大計測誤差(縦断層像下:

Fig.7.12 Volume of internal bleeding detected proposed system (Cross-section) (N=10) Table 7.6 Average volume of internal bleeding detected proposed system

(Longitudinal section) (N=10)

15[ml/s],横断層像下:39.5[ml/s])は,出血源推定における定量化のファース トステップを満たしているため,本システムが現医療現場において有効である ことが示されたと考えられる.

一方ここで,両断層像において出血量を大きく推定する傾向に関して考察す る.出血量を大きく推定してしまう原因は,出血源を挟んだ上下流量の計測値 に真値以上の開きがあることを示している.ここで,血流量を算出する上で,

本システムでは,血管内部血流分布の平均値(TAM)を用いているが,出血によ り一部の流量を失った下流側では,圧力の低下に伴い血流速のピークが極端に 下がってしまう.これにより,血流分布の平均値が,出血に伴う血流量低下以 上に下がってしまい,結果的に下流の流量をより小さく見積もってしまう.よ って今後は,内部血流分布を考慮した血流速計測手法を導入し,血流速ピーク の低下に影響を受けない正確な血流量演算を行えるアルゴリズムに改良してい くことが重要であると考えられる.

続いて,2つの断層像アプローチに関して,出血源推定時にどちらの断層像ア プローチを選択すべきか考察する.出血源推定試験結果より,各断層像アプロ ーチの特徴は以下のように整理できる.

縦断層像下・・・血管変位への追従性は劣るが,計測精度は高い 横断層像下・・・血管変位への追従性は高いが,計測精度は劣る

以上のように,両断層像間においては,トレードオフの傾向がみられるため,

出血源推定のシーン別に応じた断層面の変更が有効となると考えられる.具体 的には,血管変位が大きくなく,より正確な出血量が知りたい腹部大動脈など をターゲットとした急性期の場合は,縦断層像アプローチにより出血源を推定 し,高い精度よりも様々な呼吸変動に適応して計測を維持することが求められ るモニタリングなどの観察期においては,横断層像アプローチによる出血源推 定が有用であると考えられる.

以上述べたように,移動体搬送下における FAST 診断試験,内出血貯留検出 性能の検証,内出血源推定試験の結果,本システムが救急医療において有用で あり,かつその性能は現場の臨床的要求を満たすため,内出血源推定システム のファーストステップとしての課題がクリアされたことが示された.