第 3 章 救急医療における FAST システム:
3.3 駆動系の設計 .1 自由度構成
3.3.2 マニピュレータの構造
3.3.1で述べた設計指針に基づき開発した,4自由度FASTロボット:FASTele
をFig.3.2に示す.FASTeleは,曲率レール,高伸縮性ウレタンスポンジ,シリ
コン製コルセットベルト,ロータリーモータ(Harmonic drive:RSF-5A, 66g),
シャフトモータ(HITACHI; S080Q, 80g),そして2つの機械式圧縮ばねで構成 されており,大きさは20×20×10 cm3,重量は2.2 Kgと従来のシステムと比 較しても非常に小型・軽量なロボットシステムとなっている.
Fig.3.1 Configuration of D.O.F. for FAST
Fig.3.2 Portable and attachable FAST system: FASTele
曲率レールとロータリーモータは,超音波プローブのローリング・ピッチン グといった姿勢制御を実現し,シャフトモータは頭尾方向の位置制御を行う.
また機械式圧縮ばねは,付加的な制御系を搭載することなく,ロボット装着時 に患者体表面と超音波プローブ間において受動的に接触力を発生させる機能を 有している.なおFASTele は,前節で用いたモデルと同様に,コルセットベル トにより患者の体幹に装着することができる.
超音波プローブの駆動メカニズムを設計する上で重要なことは,ロボットの 大きさを出来る限り抑えつつ,FASTに必要な動きを再現することである.
まずプローブのローリング・ピッチング制御においては,超音波プローブの 先端を中心とした回転運動を実現しなければならない.そこでFig.3.3に示すよ うに,曲率レールを用いてそれぞれの回転中心が一致するように,ジンバル機 構を応用した小型な構造とした.さらに,その超音波プローブ先端の回転中心 は患者の体表面上に一致させなければならない.これは,超音波プローブ先端 から放出される超音波が,空気に触れることなく体内に伝達することで,体内 のエコー映像描出を維持するためである.そこで,患者体表面と接触する基部 の底面とローリング・ピッチングの曲率レールの回転中心の高さを合わせるこ とで,体幹装着時に超音波プローブの回転軸が自然と体表面に一致するような 配置に設計した.FASTele と体表面の接触面積は比較的小さいため,救命士は ロボットを装着するだけで,患者の体格や FAST 部位に依らず,プローブの回 転軸を患者体表面に合わせることができる.
Fig.3.3 Mechanism that rotation axis correspond to body surface
一方,桝田らの研究にも代表されるように,患者体表面に対する超音波プロ ーブの接触力は,描出されるエコー映像の鮮明さに影響を与えるため,適切な 力を保持した状態で超音波プローブを駆動させる必要がある.さらに FAST ロ ボットの要件である,患者の体動・体型差に適応しつつ,小型・軽量化を満足 させる場合,多自由度マニピュレータなどを用いて高度な人間適応制御を装備 するといった従来の手法では,大型化が避けられないため,これまでの手法と は全く異なるアプローチが必要となる.
そこでFASTeleでは,Fig.3.4に示すように,2つの機械式圧縮ばねを用いて,
受動的に超音波プローブの接触力を発生・維持させる新機構を導入した.
Fig.3.4 Mechanism that generated the contact force of the probe passively (b) Generating contact force to body surface (after attaching) (b) Generating contact force to body surface (before attaching)
機械式圧縮ばねは,ピッチング動作を担う曲率レールの駆動部と超音波プロ ーブの間に配置されており,駆動時において常にプローブの軸方向に力を発生 させるようになっている.FASTele 装着前は,超音波プローブが基部の底面,
すなわちローリング・ピッチングの回転中心から突出した状態であり,装着後 はプローブが機械式圧縮ばねを縮ませる方向に押し込まれることで,プローブ 先端と回転中心が自然と一致し,かつ接触力を発生させる.駆動時においては 体表面法線方向の力は変化するものの,プローブの軸方向の力,すなわち接触 力が無くなることはなく,接触力をある一定の範囲内で維持した状態でエコー 映像描出を実現する.
ここで,小泉らによる超音波プローブの適切な接触力に関する報告がある[85].
適切な接触力は,部位によって多少は異なるものの,約9 [N]以下であることが 推奨されており,それ以上の力が加わると診断部の過剰な変形や歪みが生じ,
エコー映像が見えづらくなってしまう.
よってこれらの知見に基づき,FASTeleでは,プローブ押し込み量を10[mm]
とし,ばね弾性係数0.27[N/mm]の機械式圧縮ばねを2つ用いて,患者への装着 時に(プローブが体表面法線方向にまっすぐ押し込まれる状態で)約 5.4[N]の 接触力が発生・維持できるようにした.
続いてプローブの頭尾方向位置制御に関しては,小型・軽量でありながら推 力,分解能ともに優良なシャフトモータにより実現した.
以上のような,駆動メカニズム,および小型・軽量化のための工夫を施すこ とで,患者に直接装着しうるポータブルなロボットとして仕上がった.