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非 侵 襲 的 出 血 源 推 定 手 法 に 関 す る 研 究

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救 急 医 療 に お け る

非 侵 襲 的 出 血 源 推 定 手 法 に 関 す る 研 究

Study on Methodology of Non-Invasive Internal Bleeding Detection in Emergency Medical Care

2013 年 2 月

伊 藤 慶 一 郎

Keiichiro ITO

(2)

救 急 医 療 に お け る

非 侵 襲 的 出 血 源 推 定 手 法 に 関 す る 研 究

Study on Methodology of Non-Invasive Internal Bleeding Detection in Emergency Medical Care

2013 年 2 月

早 稲 田 大 学 大 学 院 創 造 理 工 学 研 究 科 総 合 機 械 工 学 専 攻 知 能 機 械 学 研 究

伊 藤 慶 一 郎

Keiichiro ITO

(3)

目 次

第1章 序 論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

1.1 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 1.2 医用工学への期待・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 1.3 救急医療システムの開発動向と課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 1.3.1 救急医療システムの重要性と現状・・・・・・・・・・・・・・5 1.3.2 出血コントロールの高度化への期待・・・・・・・・・・・・10 1.4 従来研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 1.4.1 出血源の推定支援技術・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 1.4.2 出血箇所の止血支援技術・・・・・・・・・・・・・・・・・14 1.5 本研究の目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 1.6 本論文の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16

第2章 内出血源推定システムの設計方針・・・・・・・・・・・・・・・19

2.1 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19 2.2 内出血患者に対する新たな診断戦略の立案・・・・・・・・・・・・・・19 2.2.1 内出血発生機序の分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・19 2.2.2 新たな内出血源探索フローの具体化・・・・・・・・・・・・23 2.3 迅速簡易超音波検査法(FAST: Focused Assessment

with Sonography for Trama)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・24

2.4 病院前救護におけるFASTが持つ問題点と要件・・・・・・・・・・・・25

2.4.1 診断範囲・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25 2.4.2 診断精度・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26 2.5 血流量計測に基づく内出血源推定手法・・・・・・・・・・・・・・・・26 2.5.1 計測対象血管の抽出・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26 2.5.2 内出血動態のメカニズムとセグメンテーション・・・・・・・29 2.5.3 内出血源探索フローの具体化・・・・・・・・・・・・・・・33 2.6 超音波を用いた血流量計測における問題点と要件・・・・・・・・・・・34

(4)

2.8 まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39

第3章 救急医療におけるFASTシステム:FASTele・・・・・・・・・・41

3.1 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41 3.2 設計指針・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41 3.2.1 体幹装着型の導入・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41 3.2.2 適用対象・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42 3.3 駆動系の設計・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43 3.3.1 自由度構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43 3.3.2 マニピュレータの構造・・・・・・・・・・・・・・・・・・44 3.3.3 マニピュレータの諸元・・・・・・・・・・・・・・・・・・47 3.4 システム構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49 3.4.1 通信系・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49 3.4.2 インターフェース・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・51 3.5 内出血貯留箇所の自動検出アルゴリズムの設計・・・・・・・・・・・・51 3.5.1 内出血貯留の特徴量抽出・・・・・・・・・・・・・・・・・51 3.5.2 概念設計・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55 3.5.3 血液成分による低輝度領域の抽出手法・・・・・・・・・・・56 3.5.4 低輝度集合解析に基づく臓器境界判定手法・・・・・・・・・59

第4章 FASTeleの性能評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・65

4.1 装着試験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・65 4.1.1 方法と手順・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・65 4.1.2 装着試験の結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66 4.1.3 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・68 4.2 診断試験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・69 4.2.1 臨床医による診断試験方法・・・・・・・・・・・・・・・・69 4.2.2 診断試験の結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・70 4.2.3 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・71

(5)

5.3 血流量計測システムの要件・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・76 5.3.1 超音波把持マニピュレータ・・・・・・・・・・・・・・・・76 5.3.2 血流量計測アルゴリズム・・・・・・・・・・・・・・・・・78

5.4 超音波プローブ把持5自由度マニピュレータの開発・・・・・・・・・・80

5.4.1 位置づけ・適用範囲・・・・・・・・・・・・・・・・・・・80 5.4.2 自由度構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・81 5.4.3 マニピュレータの構造・・・・・・・・・・・・・・・・・・82 5.4.4 マニピュレータの諸元・・・・・・・・・・・・・・・・・・83 5.5 血流量計測アルゴリズムの設計・・・・・・・・・・・・・・・・・・・85 5.5.1 概念設計・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・85 5.5.2 血管断面積の計測・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・86 5.5.3 縦断層像下における血流速の計測と血流量算出・・・・・・・89 5.5.4 横断層像下における血流速の計測と血流量算出・・・・・・・92

第6章 BASISの性能評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・99

6.1 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・99 6.2 試験環境と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・99 6.3 血管断面積計測結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・101 6.4 縦断層像下における計測結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・102 6.5 横断層像下における計測結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・104 6.6 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・106

第7章 総合評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・109

7.1 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・109

7.2 移動体搬送下におけるFAST診断試験・・・・・・・・・・・・・・・・109

7.2.1 移動体を用いた試験デザイン・・・・・・・・・・・・・・・109

7.2.2 FAST診断試験結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・112

7.2.3 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・113 7.3 内出血貯留検出性能の検証・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・114 7.3.1 内出血臨床画像を用いた試験方法・・・・・・・・・・・・・114 7.3.2 内出血貯留の検出結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・116

(6)

7.4.2 推定結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・123 7.4.3 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・124

第8章 結 論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・127

8.1 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・127 8.2 今後の展望・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・129

参 考 文 献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・131 謝 辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・147 研 究 業 績・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・149 著 者 紹 介・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・155

(7)

第 1 章 序論

1.1 はじめに

本論文では,内出血患者に対して早期かつ適切な診療を提供することで救命 率上昇に寄与することを目指し,非侵襲なモダリティである超音波診断技術,

および定量性や精確性を兼ねそろえたロボット技術の両技術を融合させ,非侵 襲的に血管内血流量を計測し,その計測値に基づいて出血源を推定する手法な らびにシステムの構築論について論じる.

救急医療は,全ての国民に発生しうる緊急的な症例に対する医療と位置付け られる.つまり「健康で文化的な」生活に欠くことができない社会基盤である と考えられ,「迅速かつ適切な救急医療」を実現するためには,限られた人的・

時間的・医用的資源を効率よく利用可能な,救急医療システムの構築が必要で ある[1-5].特に,緊急性の高い救急傷病では,根本治療を施術する前の対処の 質をいかに保障し,どのような救急医療を提供できるのかが,極めて重要な要 素となり,患者の救命率,予後を大きく左右する[6-9].そのため近年では,傷 病者の搬送中にバイタル等の医用情報を病院にあらかじめ伝送し,医師の指 示・助言を仰ぐことで,救急救命士の迅速かつ的確な処置や搬送先決定を支援 するシステムが運用され始め,救急医療システムの質向上に伴う救命率の上昇 が期待されている[10-16](Fig.1.1).

一方,交通事故や大規模震災などにより外部から強い衝撃が加わった外傷患 者や,動脈硬化などを持病とする患者は,内出血のリスクが非常に高いため,

その出血源を迅速かつ的確に特定することが救命のファーストステップとして 重要となる[17-19].しかし現状の特定手法は,高侵襲であると同時に,出血量 を定量的に把握することが困難である.一つ目の要因としては,主要な方法が 外科的であるということが挙げられる.この手法は開腹術といった余計な侵襲 と負担を患者へかけるものであり,患者のQOLを著しく低下させるものである.

さらに2つめの要因としては,これらの方法が医師の視覚や触覚といった定性 的な手技に依存したものであるため,定量的な出血量の把握が難しいというこ とが挙げられ,患者の病態変化や輸血量の適切な予測が立てられないといった 治療方針への影響も存在する.よって,内出血患者に対する今後の救急医療に

(8)

は,治療方針決定等に必要な判断材料である出血源の情報を,低侵襲かつ定量 的に取得できるシステムが必要であり,さらに根本治療以前の早期段階におい て,そのような情報を取得可能な診断支援技術の確立が重要となる.しかし,

このような研究課題に試みた例は皆無であり,学術的理論・アルゴリズムは未 だ確立されていない.

以上の背景を踏まえ,本章では,救急医療における非侵襲的出血源推定シス テムを構築する上で,密接に関連する諸研究領域を総括・分類し,技術課題を 明らかにする.その上で,本研究の目的,位置づけ,アプローチ方法について 述べる.

1.2 医用工学への期待

より迅速かつ的確な処置を求められる現代の医療を支えるためには,より一 層の技術革新と医学・生物学を基礎とした工学的アプローチが望まれ,医学と 工学の新たな発展を遂げることが要求されている.現在,日本の医療現場にお ける初期段階では,胃カメラのように体内にカメラを持ち込んで画像を得ると いう「診断」が主体であったが,次第にマニピュレータ(鉗子)も体内に持ち 込んで行なう「治療」へと発展してきた[20, 21].これにより,患者にとって非 常に低侵襲な手術を行うことが可能となり,医師の技量だけに頼りきっていた

Fig.1.1 Mobile tele-medicine system (NTTコムウェア)

(9)

従来の医療と比べて双方に革新的な進歩をもたらした.このように,医療に対 する工学的アプローチは次世代最先端医療を推進するために大きな原動力とな るはずである.

1990 年代後半,手術器具と内視鏡から成る複数のロボットア-ムを持ち,コ ンピュータによって制御される総合的治療ロボットシステムによる外科手術が 発表された.これらのロボットは手術支援器具のメインフレームであり,各パ ーツには自由にVariationを持たせることが可能である.代表的なロボット手術 システムであるダビンチ(Intuitive Surgical社:2000年FDA認可)およびゼ ウス(Computer Motion社:2001年FDA認可)は,術者が患者の居る手術台 とは別の場所で手術を行なっており,手術台の傍らには麻酔科の医師と手術助 手とが居るのみである.術者は,コンソールあるいは偏光めがねを通して患者 を診ている[22-24](Fig.1.2).

また現在,AED(自動体外式除細動器)の活躍にも期待が高まっている (Fig.1.3).現場に居合わせた非医療従事者による使用が可能で,心停止に対する 診断及び電気ショックによる治療が可能であり,各要所に設置されることで,

確実に運用と救命実績を伸ばしてきている[25].

以上のように,医療に工学的な理論や技術手法を導入することにより,その 科学化を図ることを主眼とした学問領域は,医用工学(Medical Engineering)

と呼ばれ,医療すなわち疾病の予防,発見から治療に至る過程において定量性,

客観性,再現性,計画性,予測性を提供することが目的としてあげられる.そ のいずれをとっても,計測という要件が深く関わってくる.生体の光学的,機 械的,電気的,あるいは化学的特性などを正しく測定することは,生体動作を 定量的,客観的に認識するうえで極めて重要であり,またその生体動作を予測 し,治療などの計画立案においても必要不可欠であると言える.その意味にお いて,生体計測が医用工学の重要な要素であるということがいえる.また,計 測といってもその対象は様々であり,それら計測対象に対する生体の物理的特

Fig.1.2 da Vinci Surgical System (Intuitive Surgical)

(10)

性すなわち生体物性を認識することが重要である.

生体物性情報は測定対象をどう設定するか,また 測定値をどう評価するかという点においても必要 な情報である.測定ということに限らず,生物医 学的な認識は医用工学の対象そのものをどこに設 定し,研究の目的や関連する機器開発をどこに定 めるかという観点からも必要不可欠である[26-28].

また,近年においては情報通信の発展と医療分 野におけるIT化の推進によって,医療情報ネット ワークや情報処理などの分野も医用工学の一部 として認識され,その需要が高まってきている (Fig.1.4).

このように医療に対する工学的アプローチは,次世代最先端医療を推進する ために大きな原動力となり,今後もより迅速かつ的確な処置を求められる現代 の医療を支えるためには,より一層の技術革新と医学・生物学を基礎とした工 学的アプローチが望まれ,医学と工学の新たな発展を遂げることが要求されて いる.こうした背景から,本研究では医工融合および連携という立場で研究を 進め,世界の医療水準の引き上げに貢献することを大前提とする.

Fig.1.3 Automated External Defibrillator, AED

Fig.1.4 The forum of Medical ICT from a piece of a newspaper 引用:日本経済新聞(2011425日) 24page

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1.3 救急医療システムの開発動向と課題

1.3.1 救急医療システムの重要性と現状

救急医療は現在の国民生活の中で重要な位置を占めており,より重要性が増 しつつある.人間にとって最大の不安は健康問題である.高血圧,糖尿病,癌 などは,あえて言えば人類としての必然的な健康不安であり,時間経過のなか でそれなりの対応が可能である.しかし,救急医に求められる健康不安対策に は緊急性があり,その対応次第では結果に天と地ほどの差が生じる.近年では,

多数の傷病者を生ずる自然災害,列車事故,テロ,感染症集団発生などが多発 し,その不安をいっそう増している.そうしたなかで,救急医の果たすべき役 割は多様化し,かつ重要なものとなっている(Fig.1.5-1.7).

一方で,救急医療の重要性が認識されてくるのと期を同じくして救急救命士 が誕生し始めた.これにより,救急医学はこれまで以上にその守備範囲を広げ ざるを得ない状況を迎えてきており,病院前救護(プレホスピタルケア)への 関与なしに救急医療,救急医学を語ることができなくなってきた.救急医療に おいても,他の医学分野と同じく,最終目標は患者の救命であるが,さらに進 んで患者の社会復帰を実現する上で,病院到着前の対応の充実が不可欠である ことが認識されるにしたがい,救急医療の概念はいっそう広がりをみせてきた といえる[29-35].

Fig.1.5 A scene image of emergency medical care

(12)

人間を一個の総合的な生命体としてとらえ,生命への脅威を的確に判断し,

これに冷静に対応するためには,学問的な科学的根拠(エビデンス)の裏付け が必要であり,救急医療における研究の質向上の重要性が改めて高まってきて いる.よって,「“いつでも,どこでも,だれでも”適切な救急医療」を実現す るためには,限られた医療資源を効率よく利用できるシステムの構築が必要で あり,それが救急医療システム(Emergency Medical Service System ; EMSS)

と呼ばれている.救急医療システムは,病院前救護システム,救急診療システ ム,救急医療情報システムによって構成されている(Fig.1.8).それぞれのシステ ムが有機的に連携したときに初めて救急医療システムは最大の機能を発揮する ため,救急医療を対象とした研究を行う場合,この救急医療システムを理解し ておく必要がある.

Fig.1.6 Increase of ambulance dispatches Fig.1.7 Classification of a patient

Fig.1.8 Emergency Medical Service System: EMSS

(13)

病院前救護システムは,処置や搬送先の決定,患者状態情報の病院への送信 など現状の容態を把握する機能をもつ.そして救急診療システムは,病院前救 護システムからの情報をもとに救急患者を受け入れる医療機関の体制として初 期,二次,三次救急医療施設を重症度別に分類し,必要な人材,機器類を備え ており救急における中心的診療行為を行う機能をもつ(Fig.1.9).さらに適切な救 急業務を行うためには救急医療機関の稼働状況をリアルタイムで把握すること が不可欠であり各救急医療機関の診療科別医師の存否,手術および処置の可否 などの情報をまとめ,発信するシステムが重要である.このシステムが救急医 療情報システムであり,救急医療情報センターが担っている.

一般の医療は,患者が医療機関の玄関に入ったときから始まるが,救急医療 は救急傷病が発生したとき・ところから始まる.院外CPA(Cardio Pulmonary

Arrest ; 心肺停止)はその典型であり,目撃者・救急隊員・医療従事者がそれ

ぞれ適切な処置を引き継ぐことによって初めて救命することができる.この一 連の流れはChain of survivalと呼ばれるが,院外CPAに限らず緊急性の高い 救 急 傷 病 で は 医 療 機 関 に 到 着 す る ま で の 救 急 処 置 , す な わ ち 病 院 前 救 護

(Prehospital Care)が重要で,患者の救命率,予後を大きく左右する[36,37].

プレホスピタルケアにおける医療の質をいかに保障し,どのような救急医療を 提供することが患者の利益になりうるのか,それを検証する作業がメディカル コントロールと呼ばれており,本研究ではこのメディカルコントロールを有効 なものにすべく,病院前救護まで含めた救急医療の質の向上および救急医学の 学問的進歩の一助になることを大目標とする.

Fig.1.9 Classification of emergency transportation

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このような背景から,最近では,搬送中にバイタルや心電図などをあらかじ め病院に伝送し,的確な初期対応や適切な搬送先の決定が可能となるシステム に注目が集まっている(Fig.1.10).さらに,画像処理技術や制御技術の発展によ り,場所を選ばず運用可能なモニタ付き気管挿管システム(エアウェイスコー プ:ペンタックス)やポータブル超音波診断装置(Micromaxx:ソノサイト),人 工呼吸器(日本光電) (Fig.1.11)などの開発も盛んに行われている.

Fig.1.10 Pre-Hospital care robot (Tmsuk, Kyushu University)

Fig.1.11 Air way scope, Micromaxx, Artificial respirator (PENTAX, Sonosite, NIHON KOHDEN)

(15)

一方,外傷や疾患によらず患者救命の肝となるは,損傷部位に対する治療の優 先順位の決定と治療法の選択といった適切な治療戦略の立案,決定にある.し かし,その方法や手順といったものは数多く存在し,実際的な治療の方針は病 院到着後の専門医による診断を待たなければならないといった時間的な問題,

また現状の容態を呈している詳細原因が分からず起こりうる容態変化などの予 測が出来ないといった問題がある.これらは,適切な初期診療が行われていれ ば死亡に至らなかった死亡,いわゆるPTD(Preventable Trauma Death)と呼ば れている.1995年,救急医療の質の評価手法を確立する目的で,関東地区の救 命救急センター勤務医が集まり,救命救急センターに搬送された外傷患者を対 象にPTDの分析を行った結果,全外傷死亡の12.6%をPTD と判定し,直接死 因の約半数は失血で,診断遅延・手術決定遅れなど 66%が救急室での初療に問 題があったことを明らかにした[38-42].個々の外傷患者の解剖学的重傷度,生 理学的重傷度,年齢,外力の種類をもとに予測生存率を算出し,臨床経過や検 査結果,手術所見などから判断して,適切な診療が行われていれば死亡を回避 できたと判断された症例がPTD と判定される.また米国においてもPTD 発生 の原因となる不適切な処置について研究されている.それによるとPTDの頻度

は27%と高い.よって日米両者の報告とも,PTDに至る問題がもっとも頻発に

発生している場所・時期は初療の段階であり,その原因は診断遅延・手術決定 遅れである(Fig.1.12).

以上のように,現状の救急医療システム分野においては,その重要性の上昇 から様々な機器・システムが開発されているが,いまだ救急医療の底上げに大 きく貢献するようなシステムの開発には着手されていない.そのため今後は,

救命においてより効果的な対象に目を向け,必要な技術を研究開発し,実用化 していく必要があると考えられる.

Fig.1.12 Site of occurrence and reason of PTD

(16)

1.3.2 出血コントロールの高度化への期待

外部から強い衝撃が加わった外傷患者や,動脈硬化などを持病とする患者な ど,内因性・外因性を問わず出血を呈している患者に対しては,迅速な対処,

すなわち「出血コントロール」が求められ,これが不十分である場合には体内 血液循環不全からくる出血性ショックと呼ばれる,非常に緊急度・重傷度とも 高い症状に陥る(Fig.1.13).

外傷などにおけるショックの最大の原因は「出血」であり,出血性ショック を治療する大原則は出血源を素早く見つけ,一刻も早く出血を止めることであ る[43].現状の出血コントロール方法はその緊急度や部位によって実に様々な種 類が存在するが,それらは主に血管損傷,実質臓器損傷の2つに分類すること ができる.

①血管損傷

・圧迫止血

・鉗子によるクランプ,結紮,単純縫合

・大動脈は縫合,血管外シャント

・頸動脈は内シャント など ②実質臓器

・肝臓:Pringle手技,用手圧迫,パッキング,塞栓術(切除はなし)

・脾臓・腎臓:切除してもよい

・肺破裂,気道出血:肺門遮断.穿通性肺損傷は結紮 など

Fig.1.13 Description of blood circulation (Normal, Hemorrhagic shock)

(17)

これらの出血コントロール手法は,圧迫止血を除外し,全て病院到着後に行 われる.一方ここで,日本における救急搬送時間に着目してみると,その所要 時間は年々増加の一途をたどり,現状では平均30分程度以上もの時間を要し てしまっている[44].また,カーラーの救命曲線と呼ばれる,経過時間と死亡率 の関係性を表したグラフを参照してみると,大量出血を呈した患者は搬送中に 死亡率が上昇し始めていることが分かる(Fig.1.14).この事実より,大量出血患 者は搬送中に出血性ショックに陥る危険性が非常に高いことが考えられ,診断 や手術決定の遅れを生じさせていたのでは患者の予後は暗い.さらに,出血を 呈した患者では急激な容態変化をきたす場合があり,いわゆる急変を予測した 治療戦略を立案することも患者を救命する上でキーとなってくる.

そのため,今後の救急医療システムにおける効果的なターゲットとしては,

出血(特に大量出血)を呈した患者とすることが,救急医療の質の向上にとっ て非常に効果的であり,患者の生命およびQOLに直接関係が深い出血コントロ ールの高度化を支援するシステムの構築が重要であると考えられる.

なお,時間が限られかつ重症度の高い患者を扱う救急医療において,素早く 適切に,かつ患者へのダメージを最小限に抑えた対処は必要不可欠であるため,

本論文では,出血コントロールの高度化を,迅速化・低侵襲化・定量化の 3 つ の要素の改善と位置づけ,それらを実現する技術の確立を目指すものとする.

Fig.1.14 Golden Hour Principle

(18)

1.4 従来研究

以上のような発想に基づきシステムの具体的なシステム設計を考える場合,

関連する技術・研究領域は,制御理論や電気・電子技術だけでなく,人間の血 管・組織領域を考慮した現在の診断技術や生体情報取得技術など多岐にわたる.

以上を踏まえ,本研究では,出血コントロール(出血源の推定と止血)を支援 することを前提に,医用工学分野における診療を支援するシステムの技術課題 として,以下2つの観点から,従来技術・研究を分類・整理した.

1.4.1 出血源の推定支援技術

現状の救急医療において最も行われる出血源推定方法は,外科的な手法であ る.これは,患者が病院に到着した直後の初療室において,すぐさま開胸・開 腹術により出血源を見つけ出すものであり,迅速性は非常に高い[45, 46].しか し当然ながら,メスや鉗子などによる患者への侵襲性は非常に高いものであり,

患者の予後に影響を及ぼす[47].

一方,近年の電気・電子技術や画像処理技術の発展に伴い,CT(Computed Tomography)やMRI(Magnetic Resonance Imaging)といった,いわゆるモダリ ティと呼ばれる医用画像機器の技術発展が目覚ましく,あらゆるシーンにおい て利用されている.CTは,放射線などを利用して物体を走査しコンピュータを 用いて処理することで,物体の内部画像を構成する技術,あるいはそれを行う ための機器の少々であり,出血源の推定には造影剤と呼ばれる特殊な医薬品を 患者に投与することで実施される[48, 49].またMRIは,核磁気共鳴 (Nuclear

Magnetic Resonance, NMR) と呼ばれる現象を利用して,生体内の内部の情報

を画像にする方法であり,こちらも専用の造影剤を使用することで,内出血源 の位置を特定することが可能である[50].そして近年では,これらのモダリティ を用いて,より正確に出血源を推定することを目指した研究が盛んに行われて いる.J.K. Willmann の研究グループでは,鈍的外傷により出血を呈した患者 に対して,Multidetector CTを用いることで,解像度が高くかつ多方向からの 診断が可能な画像を取得し,画像解析に基づいて出血源を特定する技術が報告 されている[51].また,F.H. Miller らは,胃腸領域のおける内出血に対して,

ヘリカルCTを用いることで体軸方向を広範囲に短時間でスキャンし,その後の 画像解析により出血源を特定する手法を考案している[52].この他にも,その感 度の高さから,CTを用いたあらゆる手法が,これまでに研究・報告されている

(19)

[53-56].一方,被ばくをしないという点でメリットのあるMRIを用いた出血源 推定手法に関する研究も,急速に進んできている[57-59].Z. Weiらは,脳下垂 体部の出血源を特定するために,MRI を用いた臨床試験を行い,その有効性を 示した[60].また,大吉らは,くも膜下出血に対してMRIを用いた診断を実施 し,その画像解析により出血源を特定しえた結果を残し,有用性を確認してい る[61].以上のように,CT や MRI を用いた画像診断ベースによる出血源の特 定手法は,位置特定精度の向上とシーンに応じたモダリティの使い分けにより,

確かな成績を出している.しかしながら,上記 2 つのモダリティにおいては,

被ばくや高い磁場による患者への影響を避けることはできず,また,重症度の 高い患者やアレルギー患者に対しては,造影剤の適用は困難であり,結局のと ころ,外科的コントロールにシフトせざるをえない状況が起こりうる.よって,

これらのモダリティを使用した出血源の特定方法は,低侵襲性をある一定のレ ベルで担保する方法ではあるものの,根本的な患者への影響は回避できるもの ではなく,適用範囲も狭い手法であることが分かった.

続いて,輸血や治療方針戦略を立案する上で重要な出血量の把握に関して,

従来あらゆる方法が行われている.河合らは,血液中に存在するヘモグロビン の計測に基づき,口腔内出血を定量的に把握する技術の研究を行っている.こ れは,口腔内の治療中における止血状態をモニタリングすることを目的とした ものであり,ヘモグロビンを高感度に計測する技術を構築することで,微量の 出血を定量的に計測・解析できるものである[62].また,紀野らは,輸血が必要 になることが予想される患者には,術前からのアプローチが重要であるという 観点から,患者のヘモグロビン値のみならず,抗血小板薬などの服薬状況,併 存疾患の状況などを術前の早い時期から把握し,出血量の予測とそれに基づく 輸血回避プログラムを作成し,術前から術後にわたってそのプログラムを実行 するPatient Blood Management(PBM)を提唱している[63]. さらに,患者体 腔部における内出血量を正確に把握するべく,菅井らは,ドレナージポンプを 用いた出血量の実測研究を展開している[64].これは,体内に貯留している血液 を直接ドレナージポンプにて吸引・計測することで,出血量を確認する方法で あり,目視や間接的なパラメータによる計測と異なり,非常に確実性の高い手 法となっている.しかしながら,これらの出血量把握のための手法は,そのほ とんどが,脳外科や口腔外科領域を対象としたものがほとんどであり,体腔部 などにも応用可能なドレナージポンプ方式などは,患者への侵襲性が避けられ ず,適用対象が限られる.

以上のように,現状の推定手法の現状を概観してみると,高度化に向けて重 要と考えられる迅速性,低侵襲性,定量性といった各重要項目を満たすための 研究展開が個別なされているが,これら 3 つの要素を全てみたすような手法構

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築に着目した研究は見当たらず,また患者の容体やシーンによっては適用不可 となるものばかりであることが分かった.

1.4.2 出血箇所の止血支援技術

続いて本項では,出血源が特定できた後に行う止血に関する技術に関して概 観する.出血コントロールの最終目的は,出血患者の体内血液循環を正常に戻 すことであり,そのためには,出血源を特定し,必要な輸血を滞りなく進める とともに,それと並行して出血箇所を適切かつ迅速に止血していくことが肝要 となる.よってこれまでに,従来の外科式止血のみならず,あらゆる止血方法 が模索され,研究展開されてきた.

外科領域において,昨今の内視鏡外科術の発展に伴い,当該領域における止 血技術への期待が高まっている.Wongらは,薬剤散布法や局注法,凝固法,ク リップ法などを用いることで,限られた空間内においても比較的容易に止血を 実施できる手法を展開しており,いずれも止血率 90%以上と良好な成績を出し ている[65].

一方,藤野らは,内因性疾患による大量出血に対する止血術として,動脈コ イルを用いた塞栓術を考案している[66].これは,損傷の激しい部位からの大量 出血に対して,外科的止血の施行前に,動脈コイルを出血箇所より上流部に留 置させることで対象血管の血流を防ぎ,不要な出血を抑えるというものである.

これにより,根本的な止血術の施行にかける時間を稼ぐとともに,大量出血に よるショックに陥るのを防ぐことができ,救命率向上に寄与しえる.

また,外科的オペ中における迅速な止血手法として,川口らは,TAE(血管 内止血術)を施行することで,急性期の出血に対する対処法を展開している[67].

TAEは,血管からの出血に対して,カテーテルを用いて直接コイルを埋め込み,

止血を試みる方法である.この方法は,血管をCTなどにより造影しながら行う ため,オペ中の見づらい視野領域に依存することなく,的確に出血部位に対し て治療を施すことが可能な方法となっている.

以上のように,止血術においても,あらゆる取り組みがなされてきているも のの,患者に対して何らかの医用材料を適用することによる侵襲性は避けられ ない[68-71].また,外科的手法以外は,初療室から専用検査室への移動が必要 であり,迅速な施行という点においても疑問が残る[72-74].さらに,救急医療 における内出血患者に焦点を当ててみれば,そのほとんどが緊急度の高い患者 であり,実際の医療現場では,外科的コントロールを実施するより他に術がな

(21)

いのが現状であることが分かった.

以上述べてきた関連技術・研究手法は,出血コントロールをするために院内 において検査時間を有する患者が前提となっていたり,病院前救護段階におけ る最低限のバイタルサインを取得・送信したりする技術が軸となっており,救 急医療分野においてその適用と効果範囲は非常に狭い.前述した通り,内出血 を呈した救急患者では,出血コントロールの迅速化・低侵襲化・定量化といっ た高度化が重要であるが,そのためには患者の重傷度に依存しない非侵襲的な 出血コントロール手法が必要である.しかしながら,これら 3 つの要素を同時 に満たす手法の構築に着目した研究はおろか,救急医療全体の流れ(時間経過)

をマクロな視点でとらえ,ICTやIRT 技術を活用しつつ,出血コントロールの 高度化を推し進めていくことに関する研究は見当たらない.

1.5 本研究の目的

以上を踏まえ,本研究では,出血コントロールのファーストステップである 出血源推定に関してその高度化を支援する方法論を導出することに主眼を置く と共に,救急救命において患者への負担低減は必須事項であるという観点から,

迅速性や定量性を満たすことは前提とした上で,非侵襲的に出血源を推定する 方法を体系的に明らかにしていく.

このような方針のもと研究を進める場合,非侵的出血源推定手法はもとより,

内出血患者に対する新たな診断戦略のフローやシステム設計といった枠組みが 必要である.

ところで,迅速かつ低侵襲な診断が可能である超音波Modalityを用いた出血 源推定に試みることを想定したシステム設計を行う場合,具体的な出血源の推 定方法と人体の解剖学的,生理学的特徴をどう統御するかが課題となる.また,

出血源推定に関しては,まず体内に貯留した出血血液を探索し,その後詳細な 出血源を推定するといった流れが一般的である[7, 9].よって,このような検討 のもと,救急医療のプロセスを認識した上で,貯留箇所探索と詳細な出血源推 定の大きく2つの機能をもったシステム設計が肝要となってくる.

よって本論文では,救急医療というマクロな視点に立ち,内出血患者に対し て迅速で非侵襲かつ定量的な診断支援を提供する,超音波Modalityを用いた内 出血源推定システムの設計論を構築し,その有効性を検証することを研究目的 とする.なお,本論文で提案する手法は,以下4つの主要機能に集約される.

(22)

(a)病院前救護における内出血貯留箇所探索 (b)内出血貯留箇所の自動検出

(c)計測対象血管の追従 (d)血流量計測

具体的には,医師の診断を医用画像処理技術から支援しつつ,病院前救護の 早期段階から内出血貯留の探索をはじめ,超音波Modalityを用いて,血管変位 に追従しつつ計測した血流量値の差分に基づき,出血源の位置と量を推定する といった,超音波画像処理,超音波プローブの制御,計測・補正の各方法論を 提案する.

このように,出血源の推定はおろか,出血コントロールに対して,超音波

Modality を用いて試みた例は世界的にも皆無であり,本研究の意義は大きいと

考えられる.

1.6 本論文の構成

本論文は,全 8 章で構成される.以下に,第 2 章からの各章ごとの概略を示 す.

第 2 章では,本論文で扱う技術的な課題をまとめる.まず,内出血発生機序 の分析に基づいて,内出血患者に対する新たな診断戦略を立案する.そして,

内出血貯留の探索で行われている迅速簡易超音波検査法を,病院前救護段階に おいて実現する上での問題点を表面化し,ロボット技術と画像処理技術の融合 によりそれらの問題を解決することが必要であることを示す.続いて内出血源 推定において,画像診断だけでは内出血源の推定が困難であることを述べた上 で,血流量計測に基づいた内出血源推定手法を新たに提案する.まず,血流量 の計測対象血管網を細分化し,流体力学的観点から内出血源の有無や分岐血管 の有無に応じた上下流の血流量変化のパターンを網羅する.続いて,血流量計 測ならびにそれらの比較に基づく新たな内出血源推定アルゴリズムを構築し,

内出血源探索フローの具体化を行う.最後に,本論文で提案する内出血源推定 システムの設計における要件と手順に関して述べ,その技術課題をまとめる.

(23)

第 3 章では,患者に直接装着する「体幹装着型」の診断システムをコンセプ トとした,迅速簡易超音波検査システムに関して述べる.まず,ポータブル性,

装着性,安全性の 3 つの指針の重要性を述べたうえで,考えうる装着機構を大 別し,病院前救護シーンにおいて最適な装着方法を選定する.また,迅速簡易 超音波検査を実施する上で必要となる自由度を決定し,それを再現する超音波 プローブの駆動メカニズムの詳細を述べる.続いて,内出血貯留箇所の探索精 度を向上させる必要があることを示したうえで,血液成分による低輝度領域の 抽出および低輝度集合解析に基づく臓器境界判定に基づく内出血貯留箇所の自 動検出アルゴリズムを新たに提案する.最後に,通信系ならびにインターフェ ースの概略を述べ,本システム全体の構成をまとめる.

第 4 章では,第 3 章で述べた迅速簡易超音波検査システムを用いて,医師お よび被験者協力のもと,以下 2 つの試験を行う.装着試験では,本システムの 装着に要した時間と装着位置を評価指標とし,装着者(バイスタンダー役)と 被装着者(患者役)らによる試験を実施し,また診断試験では,診断時間,医 師による定性的画像評価を指標とし,被装着者(患者役)と専門医らによるシ ステムを用いた診断試験を行ったので報告する.これらの試験結果から,本研 究で提案する体幹装着型診断システムの有用性を検証する.

第5章では,2章にて構築した手法に基づいて開発した超音波による血流量計 測システムに関して述べる.まず,血流速を計測するために利用する超音波ド ップラーの原理を説明するとともに,超音波を用いて血流量を算出する手法と 要件をまとめ,血流量を計測するための超音波プローブ把持 5 自由度マニピュ レータに関して述べる.続いて,整理した要件に基づいて血流量計測アルゴリ ズムの詳細設計を行う.血管断面積計測では,血管輪郭を抽出し,断面積の時 間変化を取得可能な画像処理システムを構築する.また血流速の計測では,縦 断層像および横断層像からの 2 種類のアプローチがあるため,それぞれの有効 性を検証すべく,本章で整理した要件を満たすための 2 つのプローブ制御手法 について述べる.

第 6 章では,第 5 章で述べた血流量計測システムおよび人体の血流循環モデ ルを用いて,血流量の計測試験を行ったので報告する.本試験では,縦断層像

(24)

下と横断層像下のそれぞれの条件にて血流量の計測を実施し血流量の計測精度 を確認する.この試験結果から,本研究で提案する血流量計測システムにより,

これまでは不可能であった超音波による血流量の計測が実現しうることを示す.

第 7 章では,第 2 章で提案した内出血源探索フローの評価を行うべく,第 3 章,第 5 章にて構築したシステムを用いた総合評価を行ったので報告する.本 評価試験は,搬送と初療室の2つに大別されたシーンを想定し実施した.移動 体搬送下における FAST 診断試験では,横浜市大病院と早稲田周辺のコースを 周回する実際の移動体を用いて遠隔診断試験を行い,診断時間,および,医師 による定性的画像評価を実施する.続いて,内出血貯留の自動検出アルゴリズ ムの性能を検証すべく,内出血の臨床画像をもとに検証し,内出血貯留検知感 度を検証する.次に内出血源推定試験では,搬送中に内出血貯留が診断された 後の初療室におけるシーンを想定し,疑似的な出血を再現した血流循環モデル を用いて,上下流における血流量の計測と比較検証より,内出血源の存在可否 判定および出血量の推定に関する試験を実施し報告する.

第 8 章では,本研究で得られた成果をまとめて,残された課題に関して述べ る.また展望として,臨床応用および提案手法のその他の分野に対する応用事 例,また,応用する上での課題や解決指針に関して示す.

(25)

第 2 章 内出血源推定システムの設計方針

2.1 はじめに

第1章では,現在の救急医療システムに関する研究・開発動向について述べ,

内出血患者に対する出血コントロールの重要性,ならびにロボティクス技術を 応用した未来の救急医療のあるべき姿を示し,迅速かつ低侵襲な出血コントロ ールを実現するロボット技術の重要性を訴えた.またその課題として,「内出血 貯留箇所の探索」および「内出血源の推定」を支援するシステムの概略に関し て述べた.

以上を踏まえ,本章ではまず,内出血患者に対する新たな診断戦略を立案し た上で,「内出血貯留箇所の探索」および「内出血源の推定」を行うための問題 点と要件を整理する.そして,内出血源推定システムの設計手順に関して示し,

それらを実現するための方法論へ展開していく.

2.2 内出血患者に対する新たな診断戦略の立案 2.2.1 内出血発生機序の分析

出血により生じる出血性ショックを早期に認識するには,皮膚所見や脈拍,

血圧といったパラメータを観察することが現在定められている[75, 76].しかし,

出血性ショックの重症度の分類(ACS 分類)に目を向けてみると,どれも現状 の状態把握のみに特化した生体情報を用いたものであり,治療戦略立案の上で 決定的な指標となりえない(Fig.2.1).特に血圧を規定する要因は大きく3つ存在 し,出血による容体変化の原因とその予測を特定することは困難である(Fig.2.2).

また,これらの問題はショックに陥った患者だけに限定されるものではなく,

内出血を呈した患者であれば,予測を踏まえた治療戦略を立てるための情報が 取得できていないのが現状である.そのためこれらの情報とは異なり,容態変 化予測まで可能な新たな生体情報である出血源情報を取得する必要がある.

このような生体情報を考える上で,まず始めに人体の構造と機能の視点から

(26)

体内血液循環を把握することは極めて重要であり必要不可欠である.そのため 本項では,体内の血液および血管を解剖学・生理学の 2 つの面から概観し,出 血の機序をおさえた上で,新たな内出血源探索フローを具体化する.

血液は,比重 1.05~1.06,水の約 5 倍の粘稠性を示し,その量は成人で平均

4.5~5.5[ℓ](体重の約8%)に達する.血液は体内を循環し,種々の物質を輸送

する.たとえば,酸素(肺から)や栄養素(小腸から)を全身の組織に供給し,

二酸化炭素や老廃物を組織から運び去る.また,身体内部の熱を体表へ運んだ り,ホルモンや電解質を全身に流通させたりすることで,内部環境の調節に働

Fig.2.1 American College of Surgeons Committee on Trauma (ACS)

Fig.2.2 Three factors for blood pressure

(27)

いている.さらに,白血球や抗体の移動を通じて,生体防御にも重要な役割を 果たしている.血小板や凝固因子は,止血機構において主役を演じている.

このように,血液は全身の様々な機能と関連を持ち,生命維持に深く関わっ ている.このため,動脈からの出血で急激に全血液量の1/3(約1.5ℓ)が失われ ると致死的となる(高い確率で出血性ショックをきたす)ことがある[77].

続いて血管の壁は,内膜,中膜,外膜の 3 層から成り,動脈は心臓から出て いく血液を通す血管のため中膜が厚い層でできている.また動脈壁の豊富な弾 性線維によって,心室の収縮期には大動脈壁が押し広げられて血液を貯え,拡 張期には大動脈壁が収縮して血液を抹消へ押し出すといった持続的な血流を作 り出すことができる.

ここで,血管壁が破綻して出血する場合は破綻性出血と呼ばれ,外傷による 外傷性出血,腫瘍や炎症の病変によって血管壁が周囲から侵されておこる侵食 性出血などが挙げられる.一方,血管壁の破綻がなくても,血管の内皮の接合 部から漏れるように出血する場合を漏出性出血という.血管壁に明らかな損傷 はないが,血管基底膜や内膜が傷害されたり血管の透過性が亢進されたりする ことによって内皮細胞間を通って赤血球がしみ出る状態を漏出性出血と呼び,

毛細血管と細静脈との合流部に相当する領域でおこる.

救急領域において人命に関わる重大な出血は破綻性出血であり,これに焦点 を絞った出血の種類と患者への影響の度合いの把握が必要である.

【外傷性出血】

衝撃によって生じる人体損傷は,外力の作用様式により「直達損傷」と「介 達損傷」に分類できる.

・直達損傷

外力が加わった部位もしくはその近傍に組織破壊を発生させる場合,その外 力を直達外力といい,それによる損傷を直達損傷と呼ぶ(Fig.2.3(left)).例とし ては,ナイフや銃などによる穿通性のものや四肢切断などによる開放性のもの があり,血圧と大気圧の差によって外部に血液が漏れ出すことが多い.重傷度 によっては循環血液量が限りなく 0 に近くなるまで出血してしまうため,体内 酸素循環が不調に陥る場合もあり,患者への影響度合いが激しい損傷であると いえる.しかしほとんどの場合,出血源が一目瞭然であり,圧迫止血による簡 易的な方法により止血効果を上げることができるとともに患者容態変化が予測 しやすい.

(28)

・介達損傷

外力が加わった部位から身体の内部構造を仲介して力が伝播され,かけ離れた 部位に生じる損傷を介達損傷と呼ぶ.例えば運動エネルギーを有する身体が物 体に衝突した際,体幹および体幹に固定された臓器は急激な減速度を受ける.

体幹への固定が疎な臓器は体幹よりも遅れて減速度を受け,せん断力が生じる.

代表例としては交通事故などが挙げられ,腹部大動脈損傷や主要臓器血管損傷 などがある(Fig.2.3(right)).

介達損傷では,そのほとんどが体内血管破綻による内出血であるため,外部 から出血量や出血位置といった出血源の情報をつかみにくい.

【侵食性出血】

動脈硬化や動脈瘤などにより血管内壁が傷つき,血管の内側から侵食するよ うに血液が漏出する.内膜組織が除々に削られていくなどして,突如出血が発 生する場合が多く,大動脈瘤破裂や血管壁損傷などが挙げられる.侵食性出血 も内出血となるため,介達損傷と同様に出血源情報をつかみにくいといった問 題がある.

腹部には他部位に比べて多数の臓器が位置しており,腹部領域の救急疾患や 外傷は種類も多くその容態も多彩である.そのため腹部救急疾患および外傷に よる容態を的確かつ迅速に把握しその治療方針を決定することは,救命率の向 上という点で非常に重要であるといえる.しかし現状の病院前救護段階では,

内出血を呈している患者の出血源は特定できず,主要臓器へ適切に血液が送ら れているのかといったことが把握できない.これは今後患者に起こりうる容態 変化(臓器不全や急激な血圧低下など)が予測できないことを意味しており,

手術適応の決定,時間と侵襲性を考慮した治療方針の決定,適切な搬送先の決 定といった治療戦略を決める上での障害となる.そのため内出血患者に対する 適切な判断を行うためには,患者の容態変化を予測しうる出血源の特定が必要

Fig.2.3 Mechanism of organ injury

(Left) Direct injury (Right) Indirect injury

(29)

不可欠であり,この情報をもとに多彩な容態が存在する腹部領域を対象とした 出血源推定が救命率の向上に有効であると考えられる.

2.2.2 新たな内出血源探索フローの具体化

前述した分析をもとに具体化した内出血源探索フローを,Fig.2.4に示す.現 在の救急医療プロセスを,病院前救護段階と初療室段階の大きく 2 つに分け,

前者では医師の遠隔操作による内出血貯留箇所探索を行い,後者では詳細な出 血源の推定を行うところに特色がある.このようなフローで対応することで,

救急搬送時間の有効活用による迅速化が図れるとともに,内出血源の正確な情 報を取得できることが期待される.

Fig.2.4 Flowchart for detecting internal bleeding in emergency medical care 止血

病院到着後,集中治療

内出血源探 索

病院前救護段階

初療室段階

現場救命処置 高緊急性

患者発生の覚知 救急車現場到着 急患,現場の情報収集

救急車へ搬送

バイタル・容態を病院に連絡 出血疑いの覚知

搬送開始

遠隔操作による内出血貯留探索

病院・初療室に到着 詳細な出血源の推定

出血源推定完了

治療戦略・方針決定 搬送開始

搬送中の別処置 病院からの指示

出血疑いなし

(30)

2.3 迅速簡易超音波検査法(FAST: Focused Assessment with Sonography for Trama)

前述したフローを実現するためには,それぞれのフェーズにおいて運用可能 なシステムが必要であり,どのような探索・推定方法をとるべきかを検討し,

決定する必要がある.本項ではまず,提案フローの前段階である,内出血貯留 箇所の探索について,救急医療現場の手技を概観する.

救急医療現場では,内出血が疑われる患者に対しては必ず,超音波を用いた 迅速簡易超音波検査法(Focused Assessment with Sonography for Trauma: 以 下FASTと呼称)が実施される.FAST とは,ショックの原因となる大量血胸,

腹腔内出血,心嚢液貯留といった内出血貯留箇所の検索を目的とした検査であ り,循環異常のモニターとして内出血初期段階に繰り返し行われる.

この検査方法は,本国 Kimura らによって提唱され,その後米国にて急速に 普及した[78, 79].FASTは,専門分野に関わらず医師が容易に実施できるもの であり,たいていの場合は200ml 程度の貯留から検出できる.また,FAST は 蘇生を行いながら 1~2 分程度で迅速にかつ容易に施行することが可能であり,

診断部位も心窩部,モリソン窩,脾周囲,ダグラス窩と大きく 4 つのみに絞ら れているため,必要に応じて何回でも繰り返せる簡易的・非侵襲的診断手法と なっている(Fig.2.5).

よって,病院前救護段階における内出血貯留の探索においては,この FAST を実施・支援可能なシステムの開発が望まれる.

Fig.2.5 Focused Assessment with Sonography for Trauma (FAST)

(31)

2.4 病院前救護における FAST が持つ問題点と要件

迅速かつ簡易的な FAST ではあるものの,病院前救護段階,特に救急搬送車 内において FAST を実現する遠隔診断システムを構築するためには,大きく 2 つの課題が存在する.

2.4.1 診断範囲

前述した通り,FASTの適用対象は,心窩部,モリソン窩,脾周囲,ダグラス 窩と大きく 4 つのみに絞られているものの,各々の部位は腹部の広範囲な領域 に点在しており,それらの全てのポイントにおいて超音波診断装置を用いた診 断を実施する必要がある.

ところで,これまでに遠隔超音波診断システムに関する研究開発は数多くな されてきている.Masuda らは,多自由度マニピュレータにより,身体の広範 囲な検索を目的とした遠隔操作システムを提案している.本システムは,患者 体表面からの接触力フィードバックや多関節リンクによるプローブの姿勢制御 アルゴリズムなどが搭載されている[80].また Yoshinaga らは,超音波プロー ブの 3 次元位置計測による断層像撮像のための AR 技術を用いたナビゲーショ ンにより,患者サイドにいる検査技師等にプローブの位置や姿勢,接触力など を伝達することで,超音波検査を行うシステムを構築している[81].しかしなが ら,これまで開発されたシステムは,ロボットアームによる遠隔操作型診断シ ステム,あるいは,遠隔地医師の教示による検査支援システムといった大きく2 つのシステムに分類でき,どちらも病院前救護段階における搬送車内での運用 に応用することは非常に困難である[82-95].

これらの問題を引き起こしている要因の1つは,システム全体が大型であり,

限られた空間内では,運用はおろか導入さえ出来ないためである.さらに,搬 送車内には,救急救命士しか存在せず,医師の教示のみによる超音波検査はな しえない.

よって,これらの状況を鑑みると,搬送車内おいて医師遠隔操作によりFAST を実現するシステムを構築する場合には,ポータブル性が 1 つ大きな要件とし て挙げられる.

(32)

2.4.2 診断精度

迅速かつ簡易的な手法である FAST であるが,内出血貯留箇所の検出精度に 関する問題がいくつか報告されている[96-98].Natarajan らは,ER 病院にお いて,FAST適用患者のうち,実際に内出血が存在していた症例数の調査研究を 実施した[99].その結果,内出血を呈していた患者206名のうち,FAST陽性だ った患者はたった88名に留まり,検出感度はおよそ43%と低い現状であること を明らかにした(Table 2.1).また同様に,Hagiwaraらの調査研究においても,

検出精度は 44%程度と,実に半数以上の患者が内出血貯留の見逃しに遭遇して いることが分かった[100] (Table 2.2).

よってこれらの報告に基づき,医師遠隔操作によりFASTを実現するシステム を構築する場合には,さらに画像処理等などを用いた,内出血貯留箇所の検出 支援アルゴリズムの搭載も1つ大きな要件として挙げられる.

FAST Positive FAST Negative

Internal Bleeding 88 (42.7%) 118

Not Found 5 1894

FAST Positive FAST Negative

Internal Bleeding 7 (43.8%) 9

Not Found 1 111

2.5 血流量計測に基づく内出血源推定手法

本項では,超音波Modalityを用いて非侵襲的に計測した血流量をもとに,出 血源の位置と量を推定する手法に関して述べる.

2.5.1 計測対象血管の抽出

Table 2.1 “FAST scan: Is it worth doing in hemodynamically stable blunt trauma patients?”(Bala Natarajan, Surgery, 2011)

Table 2.2 “Hospital Admission”(Hagiwara, J Med Kitakanto, 2010)

(33)

腹部には,肝臓や腎臓など,様々な生理機能を果たす臓器が存在する.これ らの臓器は,他の部位の臓器と同様に,人間が生き続けるために不可欠である.

内出血時には,体内臓器に十分な血液が流入しなくなり,その臓器が機能障害 になってしまう可能性がある.そこで,臓器へ直接接続されている血管におけ る出血の有無を確認することが最優先事項あると考えられる.そうすることで,

診断と治療方針を適切に立てることができる.ここで,Fig.2.6に腹部の主な臓 器を示す.

上述した通り,肝臓や腎臓などは人間が生き続けるために不可欠で,正常に 働かなければならない.正常に機能するには,十分な酸素を血液から吸収する 必要がある.Table 2.3に,これらの生命維持において重要な主要臓器に流入す る一般的な平均血流量を示す.

Table 2.3より,心拍出量のほぼ半分は腹部にある臓器に分配されることが分

かった.また,肝臓と腎臓への血流分配が最も大きく,いずれも 20~30%であ る.つまり,肝臓と腎臓をはじめ,腹部にある主要な臓器は,血流の必要度が 高い.十分な血液が流入しないと,Table 2.4に示すような病態になる可能性が 高くなる.

このように,肝臓,脾臓,膵臓,腎臓と腸,この五つの対象臓器に流入する 血流を確保している血管において出血の存在を判断し,治療を進めることが求 められることが分かった.

Table 2.6 The main organs in abdominal area

(34)

ここで,内出血源推定の対象臓器へ血液を流入させる血管(動脈)を整理し Table 2.5に示す.

対象臓器に流入する主な血管は 6 つあり,それは肝動脈,門脈,脾動脈,上 腸間膜動脈,腎動脈(右と左)と,下腸間膜動脈である.

以上の調査より,本研究における出血源推定対象血管は,Table 2.5に示す計 6つの動脈に設定した.

Table 2.3 Average blood flow for each main organ

Table 2.4 Clinical condition blood flow incompetence

(35)

2.5.2 内出血動態のメカニズムとセグメンテーション

体内の血管・血液系は流体力学的観点でとらえると,圧縮性粘性流体かつ粘 弾性管であるが,まずこれらを理想流体かつ管路内定常流として扱い,出血メ カニズムをモデリング・解析した上で出血源特定のための仮説を構築し,出血 源推定手法を提案する.そしてこれを基に,血管・血液系を実際の網の目構造・

流体特性に拡張した場合にも本手法が適用できるのか,その有用性を検討する.

対象とする血管網は広範囲にわたるため,超音波診断装置で一度に全てを網 羅して血流の情報を取得することはできない.そこでまず始めに,対象となる 血管網をある一定の範囲で細分化し,その範囲内(以下,セグメントと定義)

における血流情報を取得・解析することで,セグメント内の出血源の有無を順 次特定していくという流れをとることとする(Fig.2.7).

以上を踏まえ,血管・血液系を理想流体かつ管路内定常流としてモデリングし,

下記2つの観点から出血を解析した.

Table 2.5 The target blood vessel for detecting bleeding

Fig.2.7 Segmentation of vessel network

(36)

(1)1つのセグメント内に分岐血管が存在しない場合

出血源を基点としたある限定的距離間における上流と下流に着目し,各点に おける圧力 P,流速 V,流量 Q をパラメータとしたモデルを考える(Fig.2.8).

なお,上下流位置を両端とした管路内における径は同一とし,場所によって変 化がないことを前提とした.

①一次元流れに近似した連続の式より出血を解析 質量保存則より,

𝑄

1

= 𝑄

2

+ 𝑄

3

(2.1)

つまり𝑄1> 𝑄2 となる.ここで,非圧縮性流れ(ρ=const)を考慮すると,

𝑉

1

> 𝑉

2

(2.2)

以上より,出血時には上流と下流に「流速」の変化が生じることが予測される.

Fig.2.8 (Case1): No branched vessel in the Segment A

Table 2.1 “ FAST scan: Is it worth doing in hemodynamically stable blunt  trauma patients?”(Bala Natarajan, Surgery, 2011)
Table 2.6  The main organs in abdominal area
Table 2.4  Clinical condition blood flow incompetence
Table 2.5  The target blood vessel for detecting bleeding
+7

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