第 2 章 内出血源推定システムの設計方針
2.5 血流量計測に基づく内出血源推定手法
2.5.2 内出血動態のメカニズムとセグメンテーション
体内の血管・血液系は流体力学的観点でとらえると,圧縮性粘性流体かつ粘 弾性管であるが,まずこれらを理想流体かつ管路内定常流として扱い,出血メ カニズムをモデリング・解析した上で出血源特定のための仮説を構築し,出血 源推定手法を提案する.そしてこれを基に,血管・血液系を実際の網の目構造・
流体特性に拡張した場合にも本手法が適用できるのか,その有用性を検討する.
対象とする血管網は広範囲にわたるため,超音波診断装置で一度に全てを網 羅して血流の情報を取得することはできない.そこでまず始めに,対象となる 血管網をある一定の範囲で細分化し,その範囲内(以下,セグメントと定義)
における血流情報を取得・解析することで,セグメント内の出血源の有無を順 次特定していくという流れをとることとする(Fig.2.7).
以上を踏まえ,血管・血液系を理想流体かつ管路内定常流としてモデリングし,
下記2つの観点から出血を解析した.
Table 2.5 The target blood vessel for detecting bleeding
Fig.2.7 Segmentation of vessel network
(1)1つのセグメント内に分岐血管が存在しない場合
出血源を基点としたある限定的距離間における上流と下流に着目し,各点に おける圧力 P,流速 V,流量 Q をパラメータとしたモデルを考える(Fig.2.8).
なお,上下流位置を両端とした管路内における径は同一とし,場所によって変 化がないことを前提とした.
①一次元流れに近似した連続の式より出血を解析 質量保存則より,
𝑄
1= 𝑄
2+ 𝑄
3(2.1)
つまり𝑄1> 𝑄2 となる.ここで,非圧縮性流れ(ρ=const)を考慮すると,
𝑉
1> 𝑉
2(2.2)
以上より,出血時には上流と下流に「流速」の変化が生じることが予測される.
Fig.2.8 (Case1): No branched vessel in the Segment A
②ベルヌーイの法則より出血を解析
非圧縮性かつ定常流れであり,粘性が無視できる流体を取り扱う場合には「ベ ルヌーイの法則」による流れ解析が有用となる.
【ベルヌーイの式】
P
1ρ g + V
122g +z
1+ h
p= P
2ρ g + V
222g +z
2+h
t+h
loss(2.3)
ただし,z は高さ,hp は入力エネルギー,ht は損失エネルギー,hloss は損失 ヘッド(管摩擦など)
ここで,ある限定的距離間における血管の高低差はほぼ無視できるほど小さ く,また外部からのエネルギー収支は無いと考えると,z1= z2=hp =ht=0となる.
P
1ρ g + V
122g = P
2ρ g + V
222g +h
loss(2.4)
上流の流れの一部𝑄2は下流に流入すると,質量における断面積が拡がるため,
圧力上昇と管摩擦損失の他に,拡がりに伴う損失が生じる.(P1< P2,hloss >> 0)
以上を踏まえ速度変化に着目し,式変形を行うと
1
2g (V
12-V
22) = 1
ρ g (P
2-P
1)+h
loss> 0 (2.5)
よって,V1 >V2であることから,出血時には上流と下流に流量および流速の
変化が生じることが予測される.
そのためこのような仮説に基づいて出血源の特定を行う場合,対象となる血 管の両端である上下流の血流速・血流量を取得し,その差異を検知するという 手法が有効である可能性が示唆できる.
しかし,出血パターンとしては,上下流範囲内に血管分岐が存在する場合が あり,この手法のままでは分岐血管への血流が要因となり上下流の差異が発生 する場合がある.これは出血源特定の誤認識となりため,このような出血パタ ーンも考慮したモデリングと出血源特定手法が必要となってくる.
(2)1つのセグメント内に分岐血管が存在する場合
モデリングの方法としては,Fig.2.9に示す通り,分岐血管への血流(分岐流)
として新たにパラメータ
𝑄
3を増やした.なお,分岐流は複数存在する場合があ るので,𝑄
3はそれら分岐流の総和とする.①一次元流れに近似した連続の式よりパラメータ変化を導出
𝑄
1= 𝑄
2+ 𝑄
3+ 𝑄
4(2.6)
ここでもし上流と下流に変化があった(
𝑄
1 >𝑄
2)ならば, 分岐流(𝑄
3)と出血源(
𝑄
4)が存在することが考えられる.そのため出血源特定のためには,上下流の変化発生原因が「分岐に依るもの」,
「出血源に依るもの」,「分岐と出血源に依るもの」の 3 つを判定できなければ ならない.これを解決するべく,分岐流における流量(
𝑄
3)を測定しその値をもとに下記のような判定を行う方法を案出した.
Fig.2.9 (Case2): Branched vessel in the Segment A
■ Q1 -𝑄2=𝑄3 「分岐に依るもの」
■ 分岐管がない場合 「出血源に依るもの」
■ Q1 -𝑄2 > 𝑄3 「分岐と出血源に依るもの」
上記のように,上下流の差異が発生する要因を 1 セグメント内に存在する分 岐流と区別するには,分岐血管の存在を把握することが重要となる.
以上のように,超音波Modalityを用いて血流量が計測できれば,出血源の位 置はおろか,出血量も推定可能となり,これまでにはなかった新たな推定技術 として確立されるものとなる.