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血流量計測システムの要件

BASIS

5.3 血流量計測システムの要件

以上を踏まえ,それぞれ3つの要件を満たすための設計方針を整理する.

(i) 患者の体動への適応

初療室でも運用できることを見通し,システムの体格は可能な限り縮小させ,

患者の咳や呼吸などによる体動に適応させるためには,最低限に制御系を削減 し要求を満たすことが望まれる.

そこで本研究では,3章で述べた体幹装着型システムの有用性が得られた知見 に基づき,血流量計測システムにおいても,患者の体幹に直接固定することで 体表面をシステムのグラウンドとし,体動を受動的に吸収しうる機構を採用し たマニピュレータを開発する方針とした.

(ii) 計測対象となる血管の描出

患者の体格は,BMI を参考にして3つに分類することが可能である(Table 3.1).さらに,これらの患者体格を考慮しつつ腹部という高範囲な領域から所望 の血管を描出するには,体表面上における超音波プローブの位置決めおよび姿 勢決めが重要となってくる.そこでまず,プローブに要求される駆動自由度を 明確にし,最低限の駆動自由度でそれらを満足する機構を案出する.

超音波診断において求められるプローブ走査手技としては,Fig.5.2 に示す 4 自由度が必要となる.

Fig.5.2 Number of D.O.F for extracting blood vessel ローリング

ピッチング 診断時不要

頭尾

左右 体表面接触

プローブに要求される自由度の中でも,特に左右方向の駆動は,患者の体格 差に適応しながらプローブ走査できる必要がある.通常この動きに関しては最 低でも 3 つの駆動自由度を設ける必要がある.しかし本研究では,患者の体幹 にあらかじめ巻きつけるベルトとパッシブなフリージョイントを応用すること で,駆動自由度 1 つで患者の体格差に適応しつつ,左右方向にプローブを倣わ せることを試みる.以上より,計 5 軸のアクチュエーションとフリージョイン トを搭載したマニピュレータを構築することとする.

(iii) 計測対象のポイントを捉える高精度なマニピュレーション

計測誤差を最小限に抑えるため,各駆動自由度には高精度な位置・姿勢決め が要求される.そこで, 「頭尾並進」,「左右並進」の位置決めにはボールねじ システムを採用することとした.一方「ピッチング動作」「ローリング動作」の 姿勢決めにはピニオンラック機構を導入し,さらにプローブの先端面が駆動時 に体表面から離れることのないよう,引っ張りばねとリングレールを採用した 押し付け機構を用いることとする.なお,本機構は第 3 章で述べたプローブの 押し付け機構を応用したものである.以上の方針にのっとり,各駆動自由度は 1mm以下の精度でアクチュエーション出来るようにする.

5.3.2 血流量計測アルゴリズム

本研究で提案する血流量計測手法にもとづき,超音波プローブにて測定対象 である腹部血管の断面積および血流速を計測する場合,(i) 脈動する血管の横断 層像を描出し,断面積を計測するアルゴリズム,(ii)血流速を計測するアルゴリ ズム,といった各最適な断層像描出のためのプローブ制御アルゴリズムの実装 が必要となる.さらに(ii)においては,前述した通り,血流速を計測するための 断層像描出に,縦断層像と横断層像の2つのアプローチが存在する.そのため,

両者のアプローチのうち,最適なものを選定すべく,それぞれの断層像におけ る血流速計測アルゴリズムが必要となる.

(i)断面積計測アルゴリズムの要件

超音波装置を用いた血管断面積計測は,測定対象血管の横断層像がおおよそ 描出できるようにプローブをあて,その画像上から血管径のみを手動で測定し た上で断面積を概算するといった方法がとられていた.しかし,今回のように

血流量を算出するために断面積値を用いる場合には,より正確な測定手法が望 まれる.

具体的には,断面積計測のために測定対象血管の中心軸に垂直な断面,すな わち最適な横断層像を描出させるようにプローブをあてることが望まれる.さ らに,血管は拍動に伴い脈動を繰り返しているため,この動きに適応して横断 層像を描出可能なプローブ制御アルゴリズムが非常に重要な要件となる.また,

最適な横断層像描出後の血管断面積計測においても,手動により計測した血管 径により断面積を概算するのではなく,画像情報にもとづく処理を行うことで,

より正確な計測を行う必要がある.これらをまとめると,断面積計測アルゴリ ズムの要件は以下のようになる.

・最適な横断面の描出

・画像処理による血管断面積の計測

(ii)血流速計測アルゴリズムの要件

超音波診断装置にて血流速を計測するほとんどの場合は,ドップラーモード を用いた手法をとる.具体的には,血管の縦断層像を描出している状態で血管 の中心にドップラーカーソルを配置し,血流方向を合わせ,血管中心付近の血 流速成分を計測するものである.しかし,測定対象が腹部血管であった場合に は,患者の呼吸や拍動に伴う血管の脈動や変位が他領域の血管より大きいため,

ドップラーカーソルを適切に配置することはおろか,超音波 2 次元断層像の法 線方向への血管変位により,エコー映像上に縦断層像を描出維持しつづけるこ とさえも困難となる.

一方こうした問題に対し,横断層像からの計測という観点でみてみると,断 面積計測からそのまま断層像を変更することなく血流速計測に移行しやすいだ けでなく,血管変位が生じても血管断面を見失うことがないため,安定した血 流量計測を実現しやすいという特長を有する.しかしながら,縦断面像と異な り,血流方向が不明となるため,血流方向と超音波ビームとの成す角度を同定 可能な手法を新たに構築する必要がある.

以上のように,腹部血管の断面積および血流速を超音波プローブにて計測す る場合には,大きな脈動や変位への適応技術が最重要課題であり,特にそのな かでも血管の横断層像および縦断層像における血管の描出維持に関する技術は,

本研究を進める上でのファーストステップとして解決しなければならない重要 な要件といえる.血流速計測アルゴリズムの要件をまとめて以下に示す.

【縦断面からのアプローチ】

・血管中心付近を通る縦断層像の描出

・断層像法線方向の血管変位に対する超音波プローブの追従 ・血流速の計測

【横断面からのアプローチ】

・血管変位に対する血管横断層像上の超音波プローブの追従 ・血流方向と超音波ビームとの成す角度の同定

・血流速の計測

・ビーム角度値に基づく計測流速値の補正

5.4 超音波プローブ把持 5 自由度マニピュレータの開発

5.4.1 位置づけ・適用範囲

開発した血流量測定システムをFig.5.3に示す.本システムは,超音波診断装 置,超音波プローブ把持 5 自由度マニピュレータ,制御と画像処理のためのコ ンピュータ,で構成されている.超音波診断装置で得られた画像がコンピュー タにリアルタイムに送られ,処理結果をマニピュレータに返すことで超音波プ ローブの位置・姿勢がコントロールされる.開発した超音波プローブ把持 5 自 由度マニピュレータは,救急搬送後の初療室にて運用されるという位置づけで あり,最終的には処置用のベッドとドッキングし,必要に応じて患者への着脱 が可能となることを目標に掲げる.

本マニピュレータの適用範囲は,FAST完了後の内出血患者であり,出血貯留 箇所が特定され,内出血源の探索を始めるときに使用される.また,患者への 体幹装着を前提としているため,体外の損傷が激しい患者(外部への出血が激 しい,外傷の度合いが非常に高い,など)には,適用されない.このような患 者には,まず体内の内出血源の止血ではなく,体外への出血を抑え,循環血液 量の急激な低下を防ぐことから処置が始められる.そのため,このような患者 に対しては,命に緊急的・致命的ダメージを与えている要因を取り除いたのち,

本システムを適用することで,内部の状態把握に遷移していくものと考える.

5.4.2 自由度構成

5.3.1で述べたように,本マニピュレータに求められる自由度としては,位置・

姿勢決めのための計 5 自由度が必要となる.ここで,超音波プローブを用いた 計測対象の補足においては,まず始めに体表面上における位置を決定したのち,

姿勢を変更するといった走査が行われる.そのため,自由度配置に関しては,

マニピュレータ末端部に姿勢決めのための自由度を配置し,その上層に位置決 め自由度を構成させることとなる.以上のことより,本マニピュレータの構成 としては,Fig.5.4に示すようなものとなる.

Fig.5.3 RT echo-device detecting Bleeding source by Adaptive behavior and ultraSound diagnosis: BASIS

Fig.5.4 Configuration of 5 D.O.F.