第4章 FASTele の性能評価
4.2 診断試験
4.2.2 診断試験の結果
本試験では,ローカルネットワークを用いたため,超音波映像の伝送フレー ムレートは25-30 [fps],通信遅延は30 [ms]以下であった.被験者の呼吸や咳き こみなどによる体動時において,超音波映像に乱れが生じることは認められな かった.また,超音波プローブは体表面から離れることなく,医師による遠隔 操作時にも安定して映像を描出・維持している様子が確認された.ここで,医 師の遠隔操作により描出された超音波映像を,Fig.4.4 に示す.また,各 FAST 部位において診断に要した時間を,Fig.4.5に示す.FAST1,3において要した 時間は137 ± 97 [sec] (range 40–234 [sec]),136 ± 76 [sec] (range 60–212 [sec]) であり,これらの時間は,FAST2,4において要した時間より長かった.また,
FAST1,3 における診断時間は,他の部位と比較してばらつきが大きかった.
一方,FAST4における診断時間は15 ± 4 sec (range 11–19 sec)であり,FAST1 における診断時間と比較して,p < 0.05で有意差が認められた.加えて,FAST3 における診断時間は,FAST4における診断時間と比較して,p < 0.05で有意差 が認められた.以上の結果より,全FAST4部位において要する診断時間は,354
±182 (range 172–536 s)であり,医師はFASTeleを用いることで,最大でも9 分以内にFASTを完遂できることが確認された.
Fig.4.4 Echo images extracted by doctor’s remote-control
4.2.3 考察
試験結果より,医師はFASTele を用いることで,患者の体動に適応しつつ,
FASTのための超音波映像を描出・確認することが可能であるため,本システム の有効性が確認できた.加えて,患者体表面に対する超音波プローブの接触力 が維持されることで,超音波映像の描出維持が実現されており,この点から機 械式圧縮ばねを用いた接触力発生メカニズムが有効であったといえる.
ここで,FASTeleを用いたFASTの所要時間に着目してみると,FAST1部位
では,FAST4と比較して非常に時間を要している.これは,FAST1における診
断においては心膜の描出が重要となるが,超音波プローブの当て方によって心 膜の描出のされ方が異なるため,医師による操作に難しいところ面があり,描 出に時間を要するシーンが発生したものだと考えられる.また,FAST3部位で は,脾臓と腎臓間の位置関係を捉えることが難しく,やはり時間を余計に要し てしまったことが挙げられる.一方,FAST4部位における診断時間は,他部位 と比較して非常に低いものとなっているが,これは液体成分の描出に長けた超 音波において,膀胱部を見つけ出すという手技が比較的容易であったためと考 えられる.
ここで,FASTele を用いた診断時間の妥当性を検討すべく,日本における現 状の救急搬送時間との比較検証を行った[44].まず,FAST全4部位の診断に要
Fig.4.5 FAST time on each area (N = 5) 0
50 100 150 200 250
心窩部 モリソン窩 脾周囲 ダグラス窩
Time taken to FAST sec
FAST1 FAST2 FAST3 FAST4
* p<0.05
*
*
する時間は,およそ 9 分以内である.よって,この診断時間と前項で述べた装 着時間結果を,現状の救急搬送時間に照らして比較してみた結果を,Fig.4.6に 示す.なお,ここで用いる装着時間は,装着時の最悪なケースを想定し,最大 時間である 5 分を参考値とした.さらに本比較を行う上で,救急搬送車が現場 に到着した時点ですぐにFASTele を運用し始めることを想定した.その結果,
FASTeleを用いることで,搬送先到着までにおよそ11分程度を残す形で,FAST
を完遂しうることを確認した.これは,救急搬送中の車内において,FAST終了 後に,その結果に応じた適切な処置をさらに展開できるという可能性を示唆し ていると考えられる.
よって以上のような点から,FASTele は,救急医療の現場において早期の FAST診断を満足するとともに,さらなる救急医療の質向上に寄与できる可能性 も高いため,その有効性が確認された.
Fig.4.6 Comparison of time required for ambulance transportation and the proposed system