第 6 章 BASIS の性能評価
6.6 考察
患者の呼吸に伴い,その位置が大きくダイナミックに変位するような腹部血 管を対象とし,超音波プローブを用いて自動で血流量を測定しうるシステムは 未だ確立されていない.そのような点で本アルゴリズムは,超音波プローブを 用いた血流量測定の実現可能性を新たに訴えるものであり,血管断面積計測お よび血管変位への追従・計測試験の結果は,真値との誤差はあるものの,脈動 や変位下おける計測のファーストステップとして,その有効性を示していると いえる.
しかしながらここで,出血源特定を目的とした血流量測定という観点で掘り 下げてみると,血管断面積および血流速の計測誤差はさらに改善されるべきで あり,それらの計測誤差要因を試験結果に基づいて考察する必要がある.
Table6.2 に示すように,脈動と変位がない条件下にて画像処理により描出さ
れた横断層像において計測した断面積には,真値と比較して約6.5%の計測誤差 が発生している.本研究では,2値化画像に基づく画像処理による血管輪郭検出 を行ったが,この際,輪郭欠損をなくすために閾値レベルを高く設定していた.
これにより,検出された輪郭は実際の血管より太くなり,結果的に計測される 断面積が小さくなってしまうことで,計測誤差が発生したものと考えられる.
よって,画像処理における輪郭閾値の設定方法が,断面積計測誤差要因の1つ として挙げられる.
続いてTable6.3 に示すように,脈動と変位ともに再現した条件下にて計測し
た断面積の最大計測誤差は約 11.7%であったが,脈動に伴う断面積変化は拍動 ポンプにより約4%に設定していたため,実際的に有効と考えられる最大計測誤 差は,その差分の約7.7%程度となる.この最大計測誤差は,脈動と変位がない 条件下にて画像処理により計測した断面積を基準としたものであるため,その 誤差要因は画像処理によるものではなく,脈動と変位の発生に伴い適切な横断 層像に対してプローブの姿勢に若干のずれが生じていることに起因するものと 考えられる.よって,最適な横断層像描出時におけるプローブの姿勢誤差も断 面積計測誤差要因の1つとして挙げられる.以上より,より正確な血管断面積 計測のためには,より適切で正確な横断面を描出できるように精度を上げるこ とはもちろんのこと,血管輪郭をより最適に検出しうる閾値の設定手法も求め られることが明らかになった.
一方縦断層像下における血流量計測において,Fig.6.6に着目してみると,血
管変位に追従して描出した縦断層像上の血管中心点と超音波プローブの位置に は誤差が連続的に発生していることが確認される.そのため,この位置ずれが 血流速計測時における計測誤差要因の 1 つとして考えられる.さらにここで,
ドップラーによる血流速計測の原理に着目してみると,計測対象物の速度を超 音波の送出波と反射波の差分で求めていることから,プローブと対象物間に相 対的な動きが生じた場合には,その相対速度も血流速成分として計測されるこ とになる.つまり今回のように,計測対象である血管がプローブに対して変位 するような状況下では,発生しる相対速度がドップラーノイズとなり,血流速 の計測誤差を生み出す要因となりうる.そのため,変位血管への追従性を上げ ることはもちろんのこと,その血管の変位速度に応じた血流速補正技術を構築 していかなければならない.
続いて横断層像下における血流量計測においても,上述した縦断層像下同様,
位置ずれやドップラーノイズによる影響は存在する.しかしながら,縦断層像 と大きく異なる点は,ドップラー角度による血流速の補正であり,この点に関 する考察は必須となる.上述したように,血流速の計測誤差は,計測位置より も超音波ビーム角度に依存する傾向がある.つまり,このドップラー角度が正 確に分かり,その値に基づいた補正がなされていなければ,血流量の計測誤差 に大きく影響を及ぼすことになる.よって,試験中の3条件(15, 20, 30[deg])
下における補正において,正確に補正しきれていない点があり,それが計測誤 差に影響を及ぼしている可能性が否定できない.さらに,超音波ドップラーの 特性として,ドップラー角が大きくなるほど誤差は増加傾向となり,最後には 発散してしまうという幾何学的特徴がある.よって,横断層像下における計測 時には,この点にも留意し,計測時の実用性も考慮しつつ,目標となるドップ ラー角度を定めた上で,姿勢を保持することも今後重要な課題であると考えら れる.
以上まとめると,超音波プローブによるより正確な血流量計測を目指すため には,より正確な血管輪郭の検出手法および血管中心と超音波プローブの縦断 層像間・横断層像間の位置補正といった,画像処理と制御手法を本提案アルゴ リズムに組み込んでいく必要があるとともに,ドップラーノイズへの対処,ド ップラー角度の最適化といった課題に取り組んでいく必要があることが分かっ た.よって今後はこのような適応限界を克服し,脈動・変位下における計測精 度を改善すべく,上述したような誤差要因を低減するシステムの研究開発が重 要となる.