第四章 認識的モダリティを表す〈-不了〉
4.4. 推断を表す〈‑不了〉
4.4.2. 推断
4.4.2.1. 論理的推論と様態: 述語用法
述語用法において、〈静態形容詞-不了: -NEG-LIAOdeduc〉に数量表現が後続することによ って、否定を伴う形容詞の意味の相違を4.4.1.4節で考察した。その中で、可能補語〈-不了:
-NEG-LIAOdeduc〉の意味として数量表現が後続しない場合は「論理的推論」の意味を表し、
数量表現が後続する場合は「様態」の意味を表すことを以下の議論で明らかにする。
まず、数量表現が後続しない例は、予め提供或いは認識されている状況を基にして、そ の帰結としての事態を論理的に推論する表現であると言える。簡潔にまとめると以下のよ うになる。
(204)「論理的推論」:何らかの徴候を基にして、その帰結として事態を論理的に推論する表
現。
そこで、CCLコーパスから得られた実例を以下で考察する。
(205) 不 用功 学习 的 孩子 自觉 升学 无望,
NEG よく勉強する 勉強する NOM 子供 自覚する 進学する 望みがない
也就 不 好好 锻炼,分数 自然 高 不 了。 (CCL:《人民日报》1994.2)
~したらもう…だ NEG よく 鍛える 得点 自然に 高い-NEG-LIAOdeduc
「まじめに勉強しない子供は自ら進学する望みのないことを自覚しているので、勉強も ほとんどしない。よって、当然点数も高いはずはない。」
(205) における話し手は、「まじめに勉強しない子供は自ら進学する望みがないことを自覚
しているので、勉強もほとんどしない」という事実をもとより認識しており、それを根拠 として「(試験の)点数は高いはずはない」と予測していると言える。つまり、ある事実を 認識し、それが徴候となり、その事実に基づいてその帰結としての事態を推論している表 現であると言える。以下で、更に例を観察する。
(206) 当时 在 国外 存在 幻想,在 这里 犯事, 中国 警察 管 不 着。
当時 で 国外 存在する 幻想 で ここ 犯罪を犯す 中国 警察 構う-NEG-ZHAOpoten
没 想到, 被 你们 逮 住 了。我 知道 我 罪 大 恶 极,
ない 思いつく CAUS あなた達 捕まえる-固定する PERF私 知る 私 罪 大いに 悪い とても
只要 被 抓住 就 好 不 了。(CCL:《人民日报》1993.10)
さえすれば CAUS 捕まえる 正に 良い-NEG-LIAOdeduc
「当時、外国で罪を犯しても中国の警察は手出しできないという幻想があった為、まさ か逮捕されるとは思わなかった。しかし私は自らの罪の大きさを自覚しており、捕ま りさえすれば厳しく罰せられるだろう(状況は好いはずはない)。」
(207) 史更新 一定 是 离开 了 原来 的 地方,可是 他 往 哪里 去 呢?
史更新 きっと COP 離れる PERFもとの ASSOC 場所 しかし 彼 住む どこ 行く SFP
既然 他 不 能 走路 了,当然 他 就 远 不 了,
したからには 彼 NEG AUX(できる) 歩く SFP 当然 彼 正に 遠い-NEG-LIAOdeduc
所以 等 伪军们 走 了 之后,他就 又 在 这 附近 寻找 起来。
だから 待つ 傀儡軍ら 去る PERF の後 彼 正に また で この 付近 探す-始める
(CCL:刘流《烈火金刚》)
「史更新はきっともとの場所から離れただろうが、どこへ行ったのだろうか。彼は歩け ないだろうから、当然そう遠いはずはない(遠くへ行っているはずはない)。だから軍 隊が去った後、彼はこの付近をまた探し求めた。」
(208) 周伯通 呵呵 笑 道: “那 就 好 啦,一个 女孩儿 若是 浓 眉 大 眼,
周伯通 ハハハ 笑う 言う それ 正に 良い SFP 1 CL 女性 もし 濃い 眉 大きい 目
黑黑 的 脸蛋,像 我 郭兄弟 一般, 那 自然 是 美 不 了。”
黒い NOM 頬 みたいだ 私 郭兄弟 同様 それじゃ 自然に COP 美しい-NEG-LIAOdeduc
(CCL:金庸《神雕侠侣》)
「周伯通は笑って言った『女が濃い眉で大きな目、黒い頬、まるで郭兄弟のようで、そ れじゃ、美しいはずはない。』」
(206) から (208) の各々の用例に関しても (205) と同様に捉えることができ、それを簡潔
にまとめると、(表25)のようになる。
(表25) 話し手の認識の徴候と論理的推論の関係
「話し手の認識している徴候」 「話し手が推論している事態」
(205)’
勉強しない子は進学の望みがない
から勉強をしない → 〈分数高不了: 点数は高いはずはない〉
(206)’ 自らの罪の大きさを自覚している →
〈只要被抓住就好不了: 捕まりさえす れば状況は良いはずはない〉
(207)’ 彼は歩けない → 〈他就远不了: 彼はそう遠くへ行って
いるはずはない〉
(208)’
眉が濃く目が大きく男である郭兄
弟の顔のようだ → 〈美不了: 美しいはずはない〉
以上の表現は、話し手が何らかの手段である事態を認識するに至り、それを徴候とするこ とで、その帰結にある事態を自らの意見として、論理的に推論していることが分かる。つ まり、話し手が単に頭の中で想像した事態ではなく、外部から得た知識及び情報を徴候と して認識的判断を行っている、或いはその徴候の特定に重点が置かれているという点で、
単なる推測表現とは区別する。
次に数量表現が後続する例を取り上げる。この例は主に比較形式を用いた比較表現とな ることを述べた。これは、主に眼前の事実に対して、比較対象を基準とすることで、確定 的に述べようとする様態としての表現となる。簡潔にまとめると以下のようになる。
(209)「様態」:比較対象を徴候として、それを基にして現場の状況を述べる表現。
そこで、CCLコーパスから得られた実例を以下で考察する。
(210) 男生 聚 在 碾盘 周围 “唏哩呼噜” 地 吞;
男子 集まる に 碾臼 周囲 『クチャクチャ』 DE 飲み込む
女生 围 住 磨盘,吃 态 雅 不 了 太 多少…。
女子 囲う-固定する 碾臼 食べる 態度 上品である-NEG-LIAOdeduc とても いくらか
(CCL:史铁生《插队的故事》)
「男子は大型の挽臼の周りに集まってクチャクチャと食べ、女子は手回しの挽臼を取り 囲み、女子の食べ方も男子に比べてそれほどきれいというわけでなく…。」
(211) 我们 乘 车 经过 家用电器厂 和 石化厂 进入 大理石厂。
私たち 乗る 車 通る 家電工場 と 石油加工工場 入る 大理石 工場
厂子 比 一个 足球场 大 不 了 多少,一排 木制 房,
工場 より 1 CL サッカー場 大きい-NEG-LIAOdeduc いくらか 1 CL 木製 建物
是 管理人员 的 办公室,…。(CCL:《人民日报》1995.2)
COP 管理人 ASSOC 事務所
「私達は車で家電工場と石油加工工場を通り、大理石工場に入った。工場はサッカー場 よりそれほど大きいというわけではない。一列に並んだ木製の建物は、管理人の事務 所であり、…。」
(210) 及び (211) は、描写対象を目の前にして、その状況を描写している表現であると言え
る。(210) では女性の食べ方を描写するために、男性を比較対象とし、(211) では実際に目 にした工場の大きさを描写するために、サッカー場と比較する形で評価を下していること が分かる。更に、具体物だけではなく、以下の例のように「水準」のような抽象的な事柄 においても描写対象とすることができる。
(212) 当然,在 说 着 空话 的时候,也 不 免 要 带 出
当然 DUR 言う DUR 空論 のとき も NEG避ける AUX(必ず)帯びる-出る
一些 零碎 的 感想,看来 比 起 五十年前 的 水平 也
1 CL 雑多な NOM 感想見たところ 比べる-始める 50年前 ASSOC水準 も
高 不 了 多少,…。(CCL:《读书》vol-041)
高い-NEG-LIAOdeduc いくらか
「当然空論を述べていると、どうしても些細な事柄が脳裏を掠める。見るに50年前の水 準と比べてそれほど高いというわけではなく、…。」
(212) は、視覚的な認識を意味する副詞〈看来: 見たところ〉が用いられており、50年前の
水準に比べて現時点での現場の描写を行っていることが分かる。
よって、以上で取り上げた表現は、眼前の事実を基にして現場の状況を述べことより、
様態の表現であるとする。更に比較対象を設けることで基準を設定し、その対象の特徴を より具体的に浮き彫りにしていることが窺える。