第五章 〈-得了/-不了〉と〈-得/-不得〉の中心的意味
5.1. 研究の背景
本章では、第二章から第四章で論じた「可能」、「義務的モダリティ」及び「認識的モダ リティ」という意味用法について、〈-得了/-不了: -DE-LIAO / -NEG-LIAO〉及び〈-不得:
-NEG-DE〉の各形式にとって、どの意味が中心的であるのかという観点で考察を行う。具 体的には、〈-得了/-不了: -DE-LIAO / -NEG-LIAO〉が表す「可能 (状況可能)」、「義務的モダ
リティ (不必要)」、「認識的モダリティ (蓋然性, 推断)」の 3 つの意味用法、及び〈-不得:
-NEG-DE〉が表す「可能(心理的不可能)」及び「義務的モダリティ(不許可)」の 2 つの
意味用法についてである。各形式の中心的な意味に関する主要な判断基準としては、その 意味用法が取る先行述語の多様性、構文的特徴、或いは文法特徴の義務性等から総合的に 考察を行う。そこで、〈-得了/-不了: -DE-LIAO / -NEG-LIAO〉に関しては5.2節で、〈-不得:
-NEG-DE〉に関しては5.3節で論じる。
ある一つの形式に幾つか意味が存在する場合、その中心的な意味を決定付ける際には、
様々な基準が考えられる。しかし、本研究では、中心的な意味であればあるほど、その構 文的特徴や文法的特徴等の諸特徴における制限が少なくなるであろうという考えをもとに して、分析を行うこととする。
5.2. 〈‑得了/‑不了〉の意味用法
〈-得了/-不了: -DE-LIAO / -NEG-LIAO〉は、「可能(状況可能)」、「義務的モダリティ(不 必要)」、「認識的モダリティ(蓋然性, 推断)」の3つの意味が存在することを論じた。まず は、各々の特徴を簡潔にまとめる。
状況可能を表す〈-得了/-不了: -DE-LIAOpoten/ -NEG-LIAOpoten〉は、先行述語として意志性 を有した動作行為を表す動詞を取る。また、主語-述語という無題文や、ある要素が左方転 移して文頭に置かれた有題文、更には主題-評言を基本とする文においても成立する。一例 を以下に提示する。
(219) 平时 工作 忙碌, 想 去 的 地方 去 不 了。(CCL:《新华社2004年新闻稿》)
普段 仕事 忙しい したい 行く NOM 場所 行く-NEG-LIAOpoten
「普段は仕事が忙しく、行きたい場所へ行けない。」
また、可能を表す〈-得了/-不了: -DE-LIAOpoten/ -NEG-LIAOpoten〉は、可能或いは不可能であ ることの条件をも含意する必要がある。その条件の種類として、当該形式は、一時的な事 態を表す条件(所謂「外在的条件」「内在的条件」)のもとでは成立するが、恒常的な事態を 表す条件(所謂「心情条件」「能力条件」)のもとでは成立しないことを指摘した。また、
可能の用法に限らず、本研究で扱った補語形式は、意味の漂白化が進み、先行述語の表す 意味を指向していると、これまでの研究において分析されてきた。この意味の漂白化に対 する影響として、可能補語が表す否定或いは肯定の対象が先行述語の表す意味を指向して いると言い換えることができる。これは、一見すると補語位置にある要素を肯定或いは否 定するという、典型的な可能補語の特徴から逸脱した現象に見えるが、それが恒常的な条 件を表す心情可能及び能力可能としては成立せず、状況可能として成立するという特徴と して現れることを論じた。
次に、義務的モダリティ(不必要)を表す〈-不了: -NEG-LIAOnecess〉は、可能用法と同様 に、先行述語として意志的な動作行為を表す動詞を取るが、その中でも、特に使用或いは 消費を表す動詞に限られる。また、その文は、必ず有題文とならなければならない。この よ う に 、先 行 述 語の 意味 素 性 及び 文 の 構文 的特 徴 か ら見 れ ば 、可 能を 表 す 〈-不 了:
-NEG-LIAOpoten〉と重なる部分が多い。しかし、義務的モダリティは、話し手から聞き手へ
の行為要求として機能し、聞き手である動作主体が表された事態に関与しないという点で、
可能用法とは異なる意味範疇であることを論じた。不必要の例を以下に提示する。
(220)(??你 / 这 个 菜 ) 搁 不 了 这么 多 油。
あなた これ CL 料理 入れる-NEG-LIAOnecessこんなにも 多い 油
「(??あなたは / この料理は)こんなに多くの油を入れる必要はない。」
(《中国语补语例解》p.184)
〈-不了: -NEG-LIAOnecess〉が表す不必要の意味は、その場で、相手に直接的に行為が不必要 であることを要求することはできない。よって、(220) からも分かるように聞き手である〈你:
あなた〉を主語位置に置くことができない。〈-不了: -NEG-LIAOnecess〉が表すのは、主題に 立つ要素の性質及び属性を述べる用法であると言える。更に、不必要を表す〈-不了:
-NEG-LIAOnecess〉は、目的語位置に数量表現を伴った用法が必ず必要であるというように、
非常に制限された用法なのである。
最後に、認識的モダリティを表す〈-不了: -NEG-LIAOprob/deduc〉は、可能用法及び義務的モ ダリティ用法とは異なり、非意志的な述語を取るという点が大きな特徴である。また、そ の中でも、非継続性動詞を取る場合は蓋然性の意味となり、静態形容詞を取る場合は推断 の意味となることを指摘した。以下、蓋然性の例を (221) に、推断の例を (222) に提示す る。
(221) 他 那么 大 了, 丢 不 了。(CCL:老舍《龙须沟》)
彼 あんなに 大きい PERF 迷子になる-NEG-LIAOprob
「彼はこんなにも大きいのだから、迷子になる可能性はない。」
(222) 这 箱子 轻 不 了。
この トランク 軽い-NEG-LIAOdeduc
「このトランクは軽いはずはない。」
(221) のように蓋然性を表す用法では、述語である〈非継続性動詞+不了: -NEG-LIAOprob〉
の文中での位置によって、蓋然性の意味が読み込まれやすいか否かが異なることを論じた。
最も、蓋然性の意味が現れやすいのは、仮定複文の主節位置という仮定的或いは空想的な 事態を表す、つまり話者の推測が関わる位置である。また、従属節であっても、未実現の 事態の場合は、〈-不了: -NEG-LIAOprob〉に蓋然性の意味を読み込むことができる。(222) の 推断を表す用法では、目的語位置に数量表現を取るか否かで、厳密には意味の違いが現れ、
数量表現が付加しない場合は論理的推論、数量表現が付加する場合は様態となることを論 じた。既に提示した (222) は数量表現が付加されていないことより論理的推論の例であり、
次に挙げる (223) の例が様態の例である。
(223) 我 的 个子 比 你 高 不 了 多少。
私 ASSOC 背 より あなた 高い-NEG-LIAOdeduc いくらか
「私の身長はあなたよりそれほど高いわけではない。」
また、様態の用法は連体修飾節中に現れ主名詞を修飾する用例が見られるのに対して、論 理的推論の用法は連体修飾節中には現れない。この事実より、モダリティにおける対命題 的態度、即ち発話現場的行為という観点から、連体修飾節に現れない論理的推論の用法の 方が、様態の用法よりも話し手の断定性が強い可能性があることを論じた。
以上、〈-得了/-不了: -DE-LIAO / -NEG-LIAO〉が表す「可能」、「義務的モダリティ(不必 要)」、「認識的モダリティ(蓋然性, 推断)」の3つの意味用法における本研究で行った議論 について、簡潔にまとめた。そこで、次にこの 3 つの用法の先行述語の種類、文の構文的 特徴、及びその意味を表すのに必須であるとされる文法的特徴という観点から整理する。
その上で、各々の意味と構文的、文法的な特徴との関連性を論じる。
(表28) 〈-得了/-不了〉の意味用法と諸特徴
〈-得了/-不了: -DE-LIAO / -NEG-LIAO〉が表す意味として、中心的であると考えられるのは、
可能及び認識的モダリティである。それは、先行述語の多様性や文の構文的特徴、或いは 何らかの文法的な要素の義務性における制限を考慮している。つまり、可能と認識的モダ リティは、先行述語の意味素性の相違 ( [ ±volitional ] ) という点で対立しているが、両者 とも先行述語の種類は多岐に渡り、何らかの要素を必須として要求しない。認識的モダリ ティが有題文に限られるのは、先行する述語の性質によるもので、可能補語が関わる問題 ではない。また、可能と認識的モダリティは、その意味としても、非常に異なると言えよ
可能 義務的モダリティ
形式 〈-得了/ -不了〉 〈-不了〉 〈-不了〉 〈-不了〉
意味 「状況可能」 「不必要」 「蓋然性」 「証拠性」
非継続性 継続性
種類 動作動詞 使用・消費動詞 非継続動詞 静態形容詞
構文的特徴 有題文の義務性 非義務的 義務的 義務的 義務的
文法的特徴 義務的な統語要素 ― 数量の目的語要素への付加 ― ― 認識的モダリティ 可能補語
先行述語 意味素性
意志性 非意志性
働きかけ
う。それは、主に意志性の有無という点で、両者が異なることが、その根本的な要因であ ると思われる。
次に、〈-得了/-不了: -DE-LIAO / -NEG-LIAO〉という一つの形式が表す可能及び認識的モ ダリティを、全く別の意味と考えるのか、そこに何らかの共通性を求めるのか、または、
一方から他方への意味的な拡張が起こったのか等という点が問題となる。これに関しては、
6.2 節に議論を譲る。一方、義務的モダリティの場合は、先行述語も使用・消費動詞に限ら れており、主題-評言という構文を許さず、必ず数量を表す要素を目的語位置に置く必要が あるという点で、可能及び認識的モダリティを表す場合に比べて、非常に制限された用法 であると言える。つまり、この不必要の意味は、遂行的な表現であり、更に構文的、文法 的に制限を受ける中で成立している用法であると見ることができる。
5.2節の議論をまとめると、文の構造的特徴や統語的特徴における制限という観点から考 察すると、〈-得了/-不了: -DE-LIAO / -NEG-LIAO〉が表す意味として、中心的な用法は、状 況可能と認識的モダリティであり、義務的モダリティである不必要の意味は、現代中国語 においては二次的な用法であると考えることができる。そこで、6.2節では、この状況可能 と認識的モダリティの意味の関係性について、議論することとする。
5.3. 〈‑不得〉の意味用法
〈-不得: -NEG-DE〉は、「可能(心理的不可能)」及び「義務的モダリティ(不許可)」の 2つの意味用法が存在することを論じた。まずは、各々の特徴を簡潔にまとめる。
心理的不可能を表す〈-不得: -NEG-DEpoten〉は、先行述語として意志性に加えて、許容・
受容に言及した知覚動詞を取る。また、必ず主語-述語となっており、主題化或いは主題-評言という有題文では、不許可の意味となり、心理的不可能の意味としては成立しない。
(224) 他们 看 不 得 别人 受苦,他们 爱 流 泪。(CCL:《读者(合订本)》)
彼ら 見る-NEG-DEpoten 他人 苦しむ 彼ら 好む 流す 涙
「彼らは他人が苦しんでいるのを見ていられず、涙を流すことを好む。」
この場合、含意される不可能であることの条件は、文中には明示されていないが、「可哀想 であるため」や「見ているのがつらくて」といった、主体の心理的、心情的な側面が要因