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文の構文的特徴

ドキュメント内 ― 可能とモダリティ ― (ページ 133-145)

第四章 認識的モダリティを表す〈-不了〉

4.3. 蓋然性を表す〈‑不了〉

4.3.1. 蓋然性を表す〈‑不了〉の諸特徴

4.3.1.2. 文の構文的特徴

蓋然性を表す〈非継続非意志動詞-不了: -NEG-LIAOprob〉が有する文は、無題文と有題文 の両方で成り立つ。まず、無題文を取り上げる。(147a) は位置変化対象である〈他: 彼〉が 主語位置に置かれ、着点である〈古城监狱: 古城の監獄〉が目的語位置に置かれており、ま

た、(147b) では〈赢: 勝つ〉の主体である〈你: あなた〉が主語位置に置かれている。更に、

(147c) の主語は省略されているが〈我们: 私達〉であり、目的語位置には対象である〈东西:

物〉が用いられている。

(147) a. 说不定 他 根本 就 到 不 了 古城 监狱。(CCL:张平《十面埋伏》)

かもしれない 全く 丁度 到着する-NEG-LIAOprob 古城 監獄

「ひょっとすると彼は古城の監獄に到着する可能性はないかもしれない。」

b. 这 块 地 该 怎么 使用, 批 给 谁,都 是 政府 的 权力,

これCL 土地 すべき どのように 使用する 売る に 誰 全て COP 政府 ASSOC 権利

你 阻拦 没有 理由,官司 打 到 哪儿, 你 都 赢 不 了。

あなた 阻止する ない 理由 控訴 する に どこ あなた 全て 勝つ-NEG-LIAOprob

(CCL:《1994年报刊精选》)

「この土地はどのように使用し、誰に売るのか、全ては政府の権利であり、あなたが阻 止する理由はなく、控訴をどこにしても、あなたには勝つ可能性はない。」

c. 我们 要是 在 家,还 丢 不 了 东西 呢?(CCL: 老舍《西望长安》)

私達 もし いる 家 やはり 失う-NEG-LIAOprob Q

「もし私達が家にいるなら、物を失う可能性はないでしょう。」

また、〈非継続非意志動詞-不了: -NEG-LIAOprob〉は、次の例のように、主題化することもで きる。

(148) 反正 交通 那么 拥挤,车 也 丢 不 了。(CCL: 姚明《我的世界我的梦》)

どうせ 交通 こんなに 混む 車 も 失う-NEG-LIAOprob

「どうせ交通がこんなにも混雑しているのだから、車は見失う可能性もない。」

(148) は本来目的語位置にある〈车: 車〉が、左方転移により、主題として機能していると

言える。

〈非継続非意志動詞-不了: -NEG-LIAOprob〉は、主語-述語を基本とする無題文でも、主題 化を伴った有題文としても成立することを指摘した。

4.3.1.3. 〈非継続非意志動詞‑不了〉が現れる文中の位置

この蓋然性を表す〈-不了: -NEG-LIAOprob〉が最もよく現れる文中における位置として、

主従複文の主節位置が挙げられる。そこで、まずはこの主従複文という点に着目して、〈非 継続非意志動詞-不了: -NEG-LIAOprob〉が現れる文中での位置について考察すると、〈非継続 非意志動詞-不了: -NEG-LIAOprob〉は仮定節或いは譲歩節の主節位置に現れる頻度が最も高 いことが分かった。次の文がその典型的な例である。

(149) 即使 中国公司 应诉, 也 赢 不 了。(CCL:《1994年报刊精选9》)

たとえ~でも 中国 会社 起訴に応じる も 勝つ-NEG-LIAOprob

「たとえ中国の会社が起訴に応じても、勝つ可能性はない。」

(149) は、〈即使:たとえ~でも〉という仮定を表す接続詞が用いられ、仮定条件を表している

主従複文である。その主節位置に〈-不了: -NEG-LIAOprob〉を伴う述語〈赢不了: 勝つ可能性 がない〉が用いられており、蓋然性の意味を表している。

そこで、本節では、非継続性及び非意志性という意味素性を持つ非継続非意志動詞に続 く〈-不了: -NEG-LIAOprob〉と、一般的な動作行為動詞、つまり意志性を有する動詞に続く

〈-不了: -NEG-LIAOpoten〉が現れる文中での位置における頻度を明らかにする。動作動詞が 先行する〈-不了: -NEG-LIAOpoten〉は、2.3節で考察した通り、可能の意味を表す。

この調査では、CCLコーパスを用いて、主体の意志性及び継続性を含意する動作動詞(以

下 [V+vol/+dur] と提示する)と、変化を含意し非意志的な事態を表す非継続非意志動詞(以

下 [V-vol/-dur] と提示する)をコーパスより収集した74。その用例として、前者は、〈吃: 食べ る, 跑: 走る, 动: 動く〉、後者は〈到: 到着する, 丢: 失う, 赢: 勝つ〉の各3例ずつを代表 として抽出した75。その具体的な用例数をまとめると、(表17)のようになる。

(表17) CCLから収集した〈動作動詞-不了〉及び〈非継続非意志動詞-不了〉の用例数

〈動作動詞-不了〉 〈吃不了〉 〈跑不了〉 〈动不了〉 合計

142例 58例 145例 345例

〈非継続非意志動詞-不了〉 〈到不了〉 〈丢不了〉 〈赢不了〉 合計

206例 34例 83例 323例

(表17)から分かるように、動作動詞が先行する〈-不了: -NEG-LIAOpoten〉の用例数は合計

345例、非継続非意志動詞が先行する際の用例数は合計323例収集することができた。

このデータを用いて、以下で主張することは、非継続非意志動詞が先行する〈-不了:

-NEG-LIAOprob〉は、主従複文の主節位置に生起しやすく、特に仮定的な事態を表す仮定複

文及び譲歩複文に多いということである。具体的には、4.3.1.3.1節では主従複文の主節位置 での〈-不了: -NEG-LIAOprob〉の生起について、4.3.1.3.2節では主従複文の種類と主節におけ る〈-不了: -NEG-LIAOprob〉の使用頻度について、更に4.3.1.3.3節では主従複文における位 置とその使用頻度について考察を行う。

4.3.1.3.1. 主従複文の主節位置での生起

動作動詞が先行する〈-不了: -NEG-LIAOpoten〉及び非継続非意志動詞が先行する〈-不了:

74北京大学汉语语言学研究中心《CCL语料库》の〈现代汉语〉(現代中国語)より2010年 8-10月に用例を収集した。(http://ccl.pku.edu.cn:8080/ccl_corpus/index.jsp?dir=xiandai)

75 中国語の動詞の中には、意志的な解釈と非意志的な解釈の両者を有することが多く、本 研究で扱う動詞もその例外ではない。例えば、〈到〉は本来「到着する, 達する」という意 味で用いられ、非意志的事態を表す。〈从北京坐两个小时的飞机就到上海。: 北京から2時 間飛行機に乗ると上海に着く。〉それに対して、〈到〉は意志性を含意して、「行く, 来る」

という意味でも用いられる。〈你到过上海吗?: 君は上海へ行ったことがありますか。〉ま た、本来意志的事態を表す〈吃〉は、「食べる、生活する、飲む」等の意味を表すが、〈吃 苦头:つらい目に合う〉、〈吃耳光:ビンタを食らう〉のように,「受ける,食らう」という非 意志的事態をも表し得る。しかし、ここでは〈吃: 食べる、跑: 走る、动: 動く〉について は継続意志動詞として、一方〈到: 到着する、丢: 失う、赢: 勝つ〉については非意志的な 非継続非意志動詞として用いられているもののみを対象とする。

-NEG-LIAOprob〉の主従複文における使用頻度76を集計した。

主従複文とは、従属関係 (subordination)77 を介在し、異なる統語的状況 (syntactic status) にある二つ、乃至それ以上の節が結合する文のことを言い、要素同士が同等の価値にある

等位結合 (co-ordinate linkage) から区別される。その関係の中で従属的な位置にある従属節

(subordinate clause) は、上位節 (superordinate clause) 或いは主節 (main clause) と対立を成 す。また、従属接続詞 (subordinating conjunction, subordinator) を有するのが典型的である が、中国語の場合、頻繁に明示されないことがある。

( 表 18) は 、〈 動 作 動 詞-不 了: -NEG-LIAOpoten〉 及 び 〈 非 継 続 非 意 志 動 詞-不 了:

-NEG-LIAOprob〉が主従複文の主節或いは従属節中に用いられた用例の頻度である。

(表18)〈動作動詞-不了〉及び〈非継続非意志動詞-不了〉の複文での使用頻度78

(表18)より、〈動作動詞-不了: -NEG-LIAOpoten〉の場合(合計: 16.5%)より、〈非継続非

意志動詞-不了: -NEG-LIAOprob〉の場合(合計: 52.0%)の方がより複文での使用頻度が高い ことが明らかである。また、先行動詞別に見ても、すべての非継続非意志動詞が先行する 可能補語で、動作動詞が先行する可能補語に比べて、主節での生起頻度が高いことが分か

76 柴崎 (2005:48-53) では、日本語の補文標識「と」が補文動詞(「と思う」等)を伴わずに

現れる現象を複文を成す副詞節における使用頻度を基に分析を行っており、「補文標識『と』

が補文動詞を省略して証拠表示化するのは特定の談話構造に起因している(柴崎2005:47)」 としている。中国語においても、本研究が扱う非継続動詞が先行する〈-得/不了〉は、複文 中での振る舞いが柴崎氏の指摘した日本語の証拠表示化した「と」と振る舞いが類似して おり、そこから着想を得ている。

77 従属関係 (subordination) の記述に関して、Crystal (2003) の以下の記述を参考にしている。

“(A term used in GRAMMATICAL analysis to refer to the process or result of linking LINGUISTIC UNITS so that they have different SYNTACTIC status, one being dependent upon the other, and usually a constituent of the other; subordinate is sometimes contrasted with SUPERORDINATE.

(Crystal2003: 443)”(ある要素が他の要素に従属する、または他の要素を大抵構成するとい う、異なる統語的地位を有すために、その言語学的な要素を結合する過程或いは結果に言 及する文法学的な分析で使用される。従属節は、しばしば上位節と対立を成す。)

78〈吃不了兜着走:自分の責任だとあきらめて後の結果をすべて引き受ける〉、〈吃不了亏(吃 亏): 損をする〉、〈吃不了苦(吃苦): 苦労する〉等のイディオム的な表現は扱わない。

[動作動詞-不了] [非継続非意志動詞-不了]

頻度 比率

吃得/不了 35/142 24.6%

动得/不了 17/145 11.7%

跑得/不了 5/58 8.6%

頻度 比率

到得/不了 114/206 55.3%

丢得/不了 15/34 44.1%

赢得/不了 39 /83 47.0%

Total 57/345 16.5% Total 168/323 52.0%

る。これは、可能補語〈-不了: -NEG-LIAOpoten/prob〉の意味の対立は、先行動詞の意志性及び 変化性に加えて、主従複文での生起頻度という点においても何らかの関連性があることが 見て取れる。

4.3.1.3.2. 主従複文の種類と主節における〈‑不了〉の使用頻度

次に、主従複文の中でも、どのような種類の主従複文で〈動作動詞-不了: -NEG-LIAOpoten〉 及び〈非継続非意志動詞-不了: -NEG-LIAOprob〉が、どのくらい使用されているのかという 観点で考察を行う。そこで、まずは主従複文の種類について概観する。

まず、本研究で扱う主従複文は、因果関係を表すタイプに限り、因果関係を表さないも のは考察対象としない。因果関係を表さない主な主従複文として、中国語学では〈目的复 句: 目的複文〉というタイプがある。目的複文とは、次のような例である。

(150) a. 老赵 尽力 使 车子 跑 得 平稳, 以便 总指挥 睡 得 安宁。

趙さん 全力で CAUS 走る DE 穏やかだ ように 総指揮官 眠る DE 安らかだ

(张斌2010:668)

「総司令官が安らかに眠れるように、趙さんは全力を尽くして車を静かに走らせた。」

b. 当晚,主人 为了 照顾 我们 的 疲劳,

その夜 主人 ために 配慮する 我々 ASSOC 疲れ

很 快 就 引 我们 到 一户 农家 安歇 去 了。(张斌2010:668)

とても 急ぐ すぐ 案内する 我々 到着する 1 CL 農家 休む 行く SFP

「その夜、主人は私たちの疲れを気遣って、急いで我々を一軒の農家に連れて行き休ま せてくれた。」

(150) は、従属節で動作行為を提示し、主節で達成すべき目的を説明している。このような

複文には、従属節と主節の間に因果関係は存在しない。中国語で目的複文の代表的な文の 特徴として、(150a) のような〈Q, 以便P: Pするために、Qする〉や、(150b) のような〈为

了P, Q: Pのために、Qする〉等がある79

一方、因果関係を表す複文には、〈假设复句: 仮定複文〉、〈条件复句: 条件複文〉、〈让步

79 従属節に当たる前件をP、主節にあたる後件をQと表示する。

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