• 検索結果がありません。

文法的特徴と否定に伴う形容詞の意味

ドキュメント内 ― 可能とモダリティ ― (ページ 166-170)

第四章 認識的モダリティを表す〈-不了〉

4.4. 推断を表す〈‑不了〉

4.4.1.4. 文法的特徴と否定に伴う形容詞の意味

〈静態形容詞-不了: -NEG-LIAOdeduc〉を有する文は、数量表現がその述語に後続するか否 かという点において二分することができる。また、数量表現が後続することで、否定を伴 う形容詞の意味解釈が異なるという現象も見られる。以下ではこの点に関して、4.4.1.3 節 で提示した述語用法及び連体修飾節用法に関して論じる。

まず、数量表現が〈静態形容詞-不了: -NEG-LIAOdeduc〉に後続する例について考察する。

(195) が述語用法で、(196) が連体修飾節用法である。

(195) …我 的 手劲 比 他 的 小 不 了 多少。(CCL:《福尔摩斯探案集08》)

ASSOC 握力 より 彼 ASSOC 小さい-NEG-LIAOdeduc いくらか

「…私の握力は彼のよりさほど小さいというわけではない。」

(196) 在 他 那 间 堪 称 “斗室” —

で 彼 あのCL するに足る 呼ぶ 『狭い家』

比 斗 大 不 了 多少 的 小 屋 里,沉默 地 然而 全神贯注 地,

より 一斗升 大きい-NEG-LIAOdeducいくらか NOM 小さい 部屋 の中 沈黙するDE しかし 一心不乱になる DE

用 破 木头 或 废石材 记录 了 他 对 生活 的 特殊 感受。

用いる 壊れた 木材 或いは 廃材 記録 PERF 対する 生活 ASSOC 特殊な 感情

(CCL:《读书》vol.37)

「あの『狭い家』、一斗升よりさほど大きいとは言えないような小さな部屋で、沈黙を守 り集中して、ぼろぼろの木材と廃材で彼の生活の特別な感情を記録した。」

(195) 及び (196) ともに、述語〈小不了: 小さいはずはない〉、〈大不了: 大きいはずはない〉

の後に〈多少: いくらか〉という不定の数量表現が付加されている。このように、述語に後

90 副詞化した形式は、認識的モダリティに大きく関わるものの、〈静態形容詞-不了〉全体 で一つのイディオムと見做すべきであり、本研究の分析対象である〈-不了: -NEG-LIAO〉の 一例ではないため、考察からは除外する。

続するのは主に不定の数量表現であり、その例としてCCLコーパスからは以下のような表 現が観察された。

(197) 〈多少: いくつか〉, 〈几分钟: 数分間〉, 〈许多: 多い〉, 〈几天: 数日〉, 〈太多:

非常に多い〉, 〈很多: とても多い〉, 〈几个钱: いくらか〉 等

更に、数量表現が付加される際、比較マーカー〈比: より〉を用いた比較表現となりやすい。

再度、(195) 及び (196) を観察すると、(195) では彼の握力と私の握力、(196) では家と一 斗升という大きさを比べた比較表現となっており、比較マーカー〈比: より〉でマークされ ていることが分かる。しかし、たとえ比較形式を用いなくとも、述語に数量表現が付加さ れた場合には、必ず二者間の比較を行った表現となる。

(198) 市民 手 上 缺 零钞,企事业单位 和 金融机构 也 好 不 了 多少。

市民 手 の上 不足する お金 事業団体 と 金融機関 も 良い-NEG-LIAOdeduc いくらか

(CCL:《1994年报刊精选12》)

「市民にはお金が不足しているが、事業団体や金融機関もさほど良い状況ではない。」

(198) は、数量表現〈多少: いくらか〉が用いられているにもかかわらず、比較マーカー〈比:

より〉を用いた比較構文とはなっていない。しかし、事業団体や金融機関は、市民と比べ て「さほど良い状況とは言えない」というように、意味的には二者間の比較となっている ことが窺える。逆に言うと、比較構文を用いた〈静態形容詞-不了: -NEG-LIAOdeduc〉は、〈多 少: いくらか〉、〈许多: 多い〉等の数量表現が、必ず後続する必要がある。(199) から分か るように数量表現がない場合は、比較形式での〈静態形容詞-不了: -NEG-LIAOdeduc〉は成立 し難い。

(199) ??我 的 手劲 比 他 的 小 不 了。

ASSOC 握力 より 彼 ASSOC小さい-NEG-LIAOdeduc

「私の握力は、彼のより弱いはずはない。」

次に、数量表現が後続しない〈静態形容詞-不了: -NEG-LIAOdeduc〉の用例を考察する。数

量表現が後続しない〈静態形容詞-不了: -NEG-LIAOdeduc〉は、述語用法は存在するが、連体 修飾用法の用例は今回の調査からは見つからなかった(4.4.2.2節にて詳述)。以下 (200) は 述語用法の例である。

(200) 周伯通 呵呵 笑 道: “那 就 好 啦,一个 女孩儿 若是 浓 眉 大 眼,

周伯通 ハハハ 笑う 言う それ 正に 良い SFP 1 CL 女性 もし 濃い 眉 大きい 目

黑黑 的 脸蛋,像 我 郭兄弟 一般, 那 自然 是 美 不 了。”

黒い NOM みたいだ 私 郭兄弟 同様 それじゃ 自然に COP 美しい-NEG-LIAOdeduc

(CCL:金庸《神雕侠侣》)

「周伯通は笑って言った『女が濃い眉で大きな目、黒い頬、まるで郭兄弟のようで、そ れじゃ、美しいはずはない。』」

〈静態形容詞-不了: -NEG-LIAOdeduc〉は数量表現が後続するか否かという特徴が窺え、数 量表現が後続する際には、比較構文、或いは比較形式が明示されていなくとも意味的には 比較を表すことが分かった。更に、数量表現の有無という特徴において二分類する根拠と して、否定を受ける形容詞の意味解釈が異なる点が挙げられる。この点を以下で詳述する。

以上観察した数量表現が現れるか否かという特徴は、次に示すように否定を伴う形容詞 の 意 味解 釈が 異な るとい う 点を 同時 に反 映して い る。(201) は 、〈 静態 形 容詞-不 了:

-NEG-LIAOdeduc〉に数量表現が付加されない例であり、(202) は数量表現〈多少: いくらか〉

が付加された例である。両者に関して、以下に示すような意味的な違いが現れる。

(201) 张三 的 工资 高 不 了。

張三 ASSOC 給料 高い-NEG-LIAOdeduc

「張三の給料は高いはずはない。」

(202) 张三 的 工资 高 不 了 多少。

張三 ASSOC 給料 高い-NEG-LIAOdeducいくらか

「張三の給料はそれほど高いというわけではない。」

(201) が表す事態は「張三の給料は高くない」ということを意味し、主要述語として用いら

れている形容詞〈高: 高い〉を否定している。つまり、先行する形容詞の語彙的意味を否定 していると言える。それに対して、数量表現を有する (202) は、「張三の給料は(誰か/何か と比べて)それほど高いというわけではない」という事態を表している。これは、「張三の 給料は(誰か/何かより)少し高い」が、その程度は「それほど高くはない」というように、

先行する形容詞と後続する数量表現が表す程度の全体を否定している91 (三宅登之先生か らの私信による)92

以上より、数量表現の有無によって、両者を明確に分類する意義があると言える。そこ で、これまでの議論を簡略に図示すると(図1)のようになる。

[+数量表現]:「先行形容詞+数量表現(程度)」を否定

述語用法 / 連体修飾節用法

[−数量表現]: 先行形容詞を否定

副詞用法 [−数量表現]

(図1)各用法と数量表現の付加に伴う否定

(図1)に沿う形でCCLコーパスから収集した用例をまとめると(表23)のようになる。

(表24)性質・状態形容詞における各用法と意味の連動: CCLより

述語用法 連体修飾節用法 副詞的用法

合計

[−数量] [+数量] [−数量] [+数量] [−数量]

静態 形容詞

性質形容詞 196例 245例 0例 38例 163例 642例 状態形容詞 28例 3例 0例 0例 0例 31例

91 〈高不了多少: それほど高くない〉は、〈高得多: ずっと高い〉に可能補語の否定形〈-不 了: -NEG-LIAOdeduc〉がかかり、「それほど高いというわけではない」という意味が現れると 考察し得る。この現象をもってここでは先行する形容詞と後続する数量表現が表す程度表 現全体を否定していると捉える。〈-得多〉は肯定の意味にしか使用できないため、否定表現 となると〈多少: いくらか〉のような語彙に変わる。

92 ここで述べた「否定が及ぶ範囲」における分析は、2010年11月6日に頂いた三宅登之先 生からの私信によって、ご指摘及びご助言頂いた。しかし、内容に関する一切の責任は筆 者にある。

〈静態形容詞-不了: -NEG-LIAOdeduc〉の CCLコーパスでの使用頻度を不定の数量表現が 述語に後続するか否かという観点から観察すると、述語用法での頻度は、[−数量]が 224 例、[+数量]が 248 例と差はそれ程大きくないのに対して、連体修飾節用法では[−数 量]が0例、[+数量]が38例と数量表現が付加される例しか観察されなかった。柯理思

(2000:75) では、〈性質形容詞-不了: -NEG-LIAOdeduc〉は名詞(句)を修飾し難い、つまり連

体修飾節としては機能しにくいとしており、数量表現が後続しない〈性質形容詞-不了:

-NEG-LIAOdeduc〉に関しては、本研究の CCL コーパスを用いた調査でも同様の結果が得ら

れた。しかし、数量表現が後続する〈性質形容詞-不了: -NEG-LIAOdeduc〉は38例と少数で はあるが、連体修飾節での使用が確認された。

4.4.1.節の議論は、〈静態形容詞-不了: -NEG-LIAOdeduc〉を有する文における諸特徴につい

て論じた。そこで、以上の議論を簡潔にまとめると、〈静態形容詞-不了: -NEG-LIAOdeduc〉 は、主題-評言を基本とし、述語用法、連体修飾節用法、副詞用法があり、前二者は数量表 現の有無という特徴によって、否定を受ける形容詞の意味解釈が変わるとなる。

ドキュメント内 ― 可能とモダリティ ― (ページ 166-170)