第 6 章 研究 3-視点の指導法―〈気づき〉を重視する指導法の効果
6.3 実験の概要
6.3.2 調査資料
実験では、〈気づき〉指導用(資料①)、〈説明〉指導用(資料②)、直後テスト用(資料
③)、遅延テスト用(資料④)の4種類の資料を用いた。
6.3.2.1 〈気づき〉指導用の資料
〈気づき〉の指導に用いた資料(資料①)には、同じ漫画を見て書いた日本語母語話者 の文章(A)とベトナム人学習者の文章(B)が載せてあり、この二つの文章を比較する質 問が書かれている。漫画を作成するにあたっては、研究2の漫画と同様に視点表現(授受 表現・受身表現・移動表現・感情表現)を使用すべき(産出されやすい)場面があること、
登場人物が3人であり、その中の2人がどちらでも主人公になりうることを条件にした。
また学習者が視点に気づくことができる基準を以下の3点とし、その違いがはっきりとわ かる文章をそれぞれ選んだ。
① 主語の明示・非明示の傾向
② 視座の表し方
③ 視点表現の用い方
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表6-2 〈気づき〉指導用の資料-資料①
A B
太郎は、学校から家に帰ってきた。冷蔵庫を 開けて、アイスを探したが、なかった。おも ちゃで遊んでいる妹に食べられたと思って、
妹を怒った。お母さんが買い物から帰ってき て、子供たちが喧嘩しているのを見た。理由 を聞いたお母さんは「私が食べたのよ」と言 って、買ってきたばかりのアイスをあげた。
太郎は、妹に謝って、本を読んであげること にした。
太郎は、学校から家に帰った。太郎は冷蔵庫 を開けて、アイスを探したが、アイスがなか った。太郎はおもちゃで遊んでいる妹が食べ たと思って、妹を怒った。その時、お母さん は買い物から家に帰った。お母さんは子供た ちが喧嘩しているのを見て、理由を聞いた。
お母さんは「お母さんが食べたよ」と言った。
それから、お母さんは買ったばかりのアイス を2人にあげた。太郎は、妹に「ごめんなさ い」と言って、妹に本を読んだ。
質問1:AとBのどちらが良い文章だと思いますか。その理由も書いてください。
質問2:AとBの文章の違いは何ですか。以下に書いてください。
6.3.2.2 〈説明〉指導用の資料
〈説明〉の指導に用いた資料(資料②)には、日本語の視点の問題の特徴についての説 明と、それに関係する例文が取り上げられている。資料の内容は、学習者の視点習得の問 題を探った先行研究の結果を参考に、以下の項目を中心とした。
視点とその所属概念である視座・注視点の説明 視座を表す手がかり(視点表現)
注視点を表す手がかり(能動文での動作主、受身文での非動作主=主語)
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表6-3〈説明〉指導用の資料-資料②
視点の問題
日本人の文章とベトナム人の文章の違いの一つに、視点の問題がある。
日本人は、物語描写の文章を書くときに、視点を一貫する傾向がある。この視点は、〈視 座〉と〈注視点〉(主語)を意味している。〈視座〉とは、書き手(話者)はだれの立場か ら描いているか、のことである。注視点とは、書き手(話者)は何(誰)を描いているの か、のことである。書き手の視座は、授受表現、主観表現、移動表現、感情表現などの用 い方でわかる。注視点は主語の用い方でわかる。
以下は、ベトナム人と日本人の文章の違いの具体例である。
★VN:花子は学校帰りにお財布を拾った。花子は財布を交番に届けて、お巡りさんは花 子を褒めた。
★JP:花子は学校帰りにお財布を拾った。(花子は)お財布を交番に届けた。(花子は)
お巡りさんに褒められた。
分析:視座の一貫性と主語の明示・非明示との関係 VNの文章:
視座:花子→花子→お巡りさん 主語:花子→【花子→お巡りさん】
JPの文章:
視座:花子→花子→花子
主語:花子→(花子)→(花子)
→花子は学校帰りにお財布を拾ったので、交番に届けた。お巡りさんに褒められた。
6.3.2.3 直後テスト用の資料
指導の直後に行う直後テストに用いた資料(資料③)は、研究2で用いた漫画描写用紙 である(図5-1)。
6.3.2.4 遅延テスト用の資料
指導を実施した3か月後に行う遅延テストに用いた資料(資料④)は、漫画と描写のた めの指示文が書かれており、漫画の構成なども資料③とほぼ同じである。ただし、漫画の ストーリーは異なる。
104 図6-1 遅延テスト用の資料-資料④