第 6 章 研究 3-視点の指導法―〈気づき〉を重視する指導法の効果
6.4 調査の結果
6.4.4 視点指導の効果③-記憶と意識の変化
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表6-30 フォローアップ・インタビューの主な結果
対象者群 視座についての記憶 注視点についての記憶 その他
実験群1
(気づきの み)
・同じ場所で描いたほうがいい こと
・視座を一貫させるために移動 表現・授受表現・主観表現な どが使えること
・主語を一々変えないほうがい い。同じ主語の場面を複文で書 いたほうが読みやすいこと
・主語が同じ場合、全て明示し なくてもいいこと
・指導の内容について興味があるので授業の後も 自分で資料を見る
・学習者自身で産出文章における視点表現と主語の 誤用が視座の一貫性から考えて修正できる
実験群2
(説明のみ)
・日本語に視点という概念があることは憶えているが、視点とは 何かは、覚えていない
・難しいから、覚えられない
・資料を見た場合でも、難しくてわからない
・文章作成の際に視点のことを思い出せない
・漫画の内容を自分の理解した通りに書く
実験群3
(結合)
・描写の際に話者のいる場所を 決める必要があること
・同じ場所で語る日本語の特徴
・授受表現・移動授受表現など で話者の気持ちを表すこと
・主語の一貫性、 ・視座を一貫させるつもりだったが、表現の誤用で 移動してもたった。
・興味があるから、資料を見る
・物語描写文章だけではくメールなど他の種類の文 章を書く時も視点の制約を考慮して書くことが 必要だと意識する
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実験群 1(気づきのみ)では、「同じ場所で描いた方がいい」、「視座を一貫させるために
移動表現・授受表現・主観表現などが使える」「主語を一々変えないほうがいい。同じ主語 の場面を複文で書いたほうが読みやすい」などと上手く産出ができていた学習者64は答え た。また視点の説明を行わなかったにも関わらず、なぜ視点について知っていたかについ ては、「なんか、興味があって、もっと知りたいので、授業の後に資料をよく見た。何回も 見た」とのことだった。直後テストのみが日本語母語話者に近い学習者65も、視座につい ては「話者が同じ場所で語ったほうがいいと思う」との答えだった。また遅延テストの新 登場人物場面で、授受表現の〈~てあげる〉と〈~てくれる〉の分析を間違えたことを学 習者自身が気づき、「あっ、間違えた。ここは〈~てあげる〉じゃなくて〈~てくれる〉を 使うべきだ」と答えていた。学習者は、視座を移動させるつもりはなくても、視点表現の 誤用で視座が移動してしまったケースもあったようだ。直後テストも遅延テストも視座の 表し方が日本語母語話者と異なっている学習者は、視座の表し方について「同じ場所から 書いたほうがいいことは憶えている」と答えたが、「どうやってそう表すか」については覚 えていないとのことだった。主語の用い方については、3 名とも「主語が同じ場合は、い ちいち明示しないほうがいい」と答えた。以上のインタビュー結果から、〈気づきのみ〉の 実験群は、視座の表し方が出来なくても〈話者のいる場所〉が学習者の記憶に残っている と考えられる。また、学習者の声から、視点表現の用い方をきちんと指導することで、視 座を意識に残すだけでなく文章表現に表すことも可能になると言えよう。
実験群 2(説明のみ)では、①よい文章を書いた学習者、②直後テストより遅延テスト
であまり良くない文章を書いた学習者、③直後テストも遅延テストも日本語母語話者と異 なる文章を書いた学習者を選び、インタビューした。3 名とも「視点があることは憶えて いるが、はっきりと覚えていない」と答えた。また、「資料を指導後に見たか」という質問 に対して、良い文章を書いた学習者は、指導後に「説明の資料をみた」と答えた。その他 の学習者は「難しくて、見なかった」、「書いたときに何も視点のことを思い出せなくて、
漫画の内容を自分の理解した通りに書いた」と答えた。どうやって視点を表すかは全然覚 えていないとも答えた。インタビューの結果から、〈説明のみ〉群は、「視点」という指導 があったことを覚えてはいるが、殆ど説明の内容は記憶残っていないことが明らかになっ た。〈説明のみ〉群は、〈気づきのみ〉群とは異なり、視座と注視点の概念とその手掛かり である主語の一貫性や表現の用い方なども記憶から消えていた。
64直後テストの文章も遅延テストの文章も日本語母語話者の文章に近い
(視座:タイプ④、注視点:タイプ④、視点表現が使うべき場面に視点表現を用いた文章)
65直後テスト:視座:タイプ④、注視点:タイプ④、適切な視点表現を用いた 遅延テスト:視座:タイプ②、注視点:タイプ④、不適切な視点表現有り
139 実験群 3〈結合〉では、3 名とも〈話者のいる場所〉、〈主語の一貫性〉、〈授受表現・
移動授受表現などで話者の気持ちを表す〉〈日本人は物語を語るときに同じ場所で語る〉な どは覚えていることが確認できた。移動視座で遅延テストの文章を描いた学習者も、「視座 を一貫するつもりだったが、間違えた」と答えた。資料を指導後に見たかどうかについて は、「興味があったから、授業の後に見た」、「メールとか普通の文章を書くときにも重要だ と思うから資料をよく見た」という答えも出た。このことから、〈結合〉群は、〈説明のみ〉
群よりも〈視点の記憶〉が残っていることがわかった。
以上の結果から、次のことが明らかになった。
〈気づき〉有りの学習者は、物語描写の文章を書く際に、授受表現が出そうな場面に対 して、話者がどこにいるかということをよく考え、表現を選ぼうとしている。また、主語 の用い方についても、いちいち文章に明示せず、複文で場面をまとめようとしている。さ らに、よく理解できなかったところは、もう一度資料を見て、自分なりに理解しようと努 力するなど、〈気づき〉は、学習者の関心を高める効果もありそうだ。一方、教師の明示的 な説明だけでは、視点の意識はその場だけのもので、しばらく時間が経てば消えてしまう。
つまり、視点の指導において、学習者が自分で気づくという段階を通らなければ、視点の 意識は長期的記憶として残らないのではないかと思われる。
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