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第 5 章 研究 2-ベトナム人日本語学習者の産出文章に見られる視点の表し方

5.4 結果

5.4.1 視座の表し方

5.4.1.2 視点表現の用い方

本節では、対象者群別の視点表現の使用についての結果をまとめる。表5-12は、調 査で全対象者の文章に見られたすべての視点表現とその使用数を表すものである。対象者 群別の各視点表現の使用比率は、表5-13と図5-3に示した。

5-3 対象者群別の視点表現の使用率の比較

12.9 8 5.5 5.1

47.1 14.8

10.9 10.1

0 8

10.9 21.7

14.3 13.6

18.2 11.6

7.1 4.5

10.9 16.7

18.6 51.1

43.6 34.8

JJ VJ上 VJ下

VV

受身表現 授受表現 使役表現 移動表現 主観表現 感情表現

78

5-12 対象者の文章に見られた視点表現の産出数

表現 JJ

(N=22)

VJ上位群

(N=22)

VJ下位群

(N=22)

VV (N=22)

受 身 表現

壊される・故障される 7 3 2 1

叱られる 0 1 1 0

直される・修理される・見られる 1 1 0 5

衝突される 0 1 0 0

当てられる 0 1 0 0

見られる 0 0 0 1

殴られる 1 0 0 0

小計 9 7 3 7

授 受 表現

直してくれる・修理してくれる 17 1 0 0 直してあげる・修理してあげる・入れ

てあげる・組み立ててあげる 2 7 5 9

拾ってくれる 1 0 0 0

見てくれる 1 0 0 0

貸してあげる 12 4 1 4

説明してあげる 0 0 0 1

見せてもらう 0 1 0 0

小計 33 13 6 14

使役 表現

責任を負わせる 0 1 0 3

弁償させる 0 1 1 6

故障させる・壊させる 0 1 2 4

仲直りさせる 0 1 0 1

直させる・修理させる 0 2 3 5

外させる・落とさせる・投げさせる 0 1 0 5

倒させる 0 0 0 1

怒らせる 0 0 0 2

感動させる 0 0 0 1

遊ばせる 0 0 0 2

小計 0 7 6 30

79 移 動

表現

やってくる 4 2 0 0

近寄ってくる 1 1 0 8

飛んでくる 2 1 0 1

飛んでいく 1 0 0 1

聞いてくる 1 0 0 0

歩いてくる 0 1 0 1

来る 1 7 10 5

小計 10 12 10 16

主 観 表現

~と思う 4 2 1 13

~と考える 1 0 0 0

~気がつく 0 0 1 0

わかる/納得する 0 1 0 5

感じる 0 0 3 4

ことにする 0 1 1 1

小計 5 4 6 23

感 情 表現

嬉しい 0 13 7 15

楽しい 0 0 2 1

驚く 1 0 2 0

恥ずかしい 0 2 2 0

好き 0 0 1 0

Vたい 0 0 1 0

(心が)痛い 0 0 0 1

後悔する・反省する 5 8 0 8

許す 0 3 0 4

我慢する 0 1 0 1

怒る 7 18 9 13

戸惑う 0 0 0 3

驚かす(びっくりさせる) 0 0 0 1

心配する 0 0 0 1

小計 13 45 24 48

Total 70 88 55 138

80

5-13 各対象者群における視点表現別の使用頻度と使用率

視点表現 JJ (N=22)

VJ

VV (N=22)

VJ上位群

(N=22)

VJ下位群

(N=22)

(N=44)

受身表現 9 (12.9) 7 (8.0) 3 (5.5) 10(7.0) 7 (5.1) 授受表現 33(47.1) 13 (14.8) 6 (10.9) 19(13.3.) 14 (10.1) 使役表現 0(0.0) 7 (8.0) 6 (10.9) 13(9.0) 30 (21.7) 移動表現 10 (14.3) 12 (13.6) 10 (18.2) 22(15.4) 16 (11.6) 主観表現 5 (7.1) 4 (4.5) 6 (10.9) 10(7.0) 23 (16.7) 感情表現 13 (18.6) 45 (51.1) 24 (43.6) 69(48.3) 48 (34.8) Total 70 (100) 88 (100) 55 (100) 143(100) 138 (100)

( )内の数値は%

(1) 学習者の文章に見られる〈視点表現〉の使用状況

表5-12と表5-13に示したように、VJ下位群55に対して、VJ上位群88と、上位群学習 者は下位群学習者より視点表現を多く使用していることが分かった。

全視点表現の中で、感情表現ではVJ上位群の使用率が51.1%(88表現中45表現)であ り、VJ下位群の使用率が43.6%(55表現中24表現)である。両群間には若干の差がある が、両群とも感情表現が全表現の約半分を占め、最も多く使用している。また、受身表現 と主観表現の使用では、VJ 上位群の使用率がそれぞれ8.0% と4.5%、VJ下位群の使用率 がそれぞれ 5.5% と 10.9%、両群ともに低いという結果となった。感情表現には両学習者 群とも「怒る」(場面2)、「嬉しい」(場面5)、「恥ずかしい」(場面6)を産出したが、産 出数を見ると、VJ上位群のほうが多い(「怒る」:18対9、「嬉しい」:13対7)。特に「後 悔する・反省する」と「許す」など、VJ下位群の文章に見られなかったものも、VJ 上位 群の文章に見られた。また受身表現は、両群ともに産出された比率は低いが、産出項目を 見ると、VJ下位群が「壊される・故障される」(場面2)と「叱られる」(場面2)しか産 出していないのに対し、VJ上位群はこれらの項目以外に、「衝突される」(場面2)、「当て られる」(場面2)、「直される・修理される・見られる」(場面 4)も産出し、VJ下位群よ り産出項目が多い。主観表現は、産出数と産出項目ともに、VJ上位群よりVJ下位群のほ うが多かった。

学習者両群における各視点表現の使用率を比較した結果、受身表現、授受表現において は、VJ上位群の使用率がVJ下位群の使用率を上回っているのに対し、使役表現と移動表 現においては、VJ上位群の使用率がVJ下位群の使用率を下回っているということがわか った。

81 (2) 対象者群別の〈視点表現〉の比較

調査の結果、JJに比べて、VJ上位群は視点表現を多用しているが、VJ下位群はJJより 視点表現の使用数が少ない結果が得られた(表5-13と図5-3)。視点表現の中で、受身 表現、授受表現は、JJがVJ両群に比べて使用率が高いのに対し、感情表現は、VJ両群の 方がJJに比べて使用率が高い。使役表現は、VJ上位群の使用率が8%、VJ下位群の使用

率が10.9%で、VJ両群ともに使役表現の使用が見られたが、JJには使役表現の使用が見ら

れなかった。移動表現、主観表現については、VJ下位群がJJを上回る一方、VJ上位群は JJを下回る結果となった。

VJ両群とVVとでは、図5-3に示したように授受表現と感情表現以外に大きな差がなか った。またVVの感情表現の使用が最も多く(34.8%)、受身表現の使用が少ない(5.1%)

という結果も、VJと似た傾向にあった。授受表現と使役表現も、VJ両群とVVとの3群 の間に、若干の差は見られたが、全体的にほぼ同じ傾向であった。しかし、この二つの表 現は、JJ とは大きな差があった。授受表現の使用率が、JJ は 47.1%で最も高いのに対し、

VJ上位群、VJ下位群、VVは、それぞれ14.8%、10.9%、10.1%であり、JJに比べて低い。

また使役表現は、JJの文章では用いられていなかったのに対し、VJ上位群、VJ下位群、

VVの文章に使用された比率は8.0%、10.9%、21.7%であり、学習者もベトナム語母語話者 も使役表現をよく使用していることがわかった。さらに感情表現についても、VV、VJ 両 群ともにJJ とは違った傾向にあった。VJ上位群(51.1%)、VJ下位群(43.6%)、VV(34.8%) の使用率は、JJの使用率17.3%を上回っている。つまり、学習者もベトナム語母語話者も 日本語母語話者より感情表現を多用する傾向があることがわかった。

全対象者群の産出項目を検討すると、以下のようなことが観察された。

① 授受表現

場面4と場面7の全対象者群の使用状況を見ると、VJ両群に比べて、JJは場面4(お じさんがゲーム機を直す)を伝達するのに、「直してくれた・修理してくれた」と表現 しているのに対し、VJは「直してあげる・修理してあげる」と表現しているのが多い。

また、場面7(ゲーム少年がサッカー少年にゲーム機を貸す)では、JJが「貸してあげ る」を多く使っている(22人中12人)のに対し、VJ両群ともこの表現の使用数が少 なく、「貸す」或いは「遊ばせる」のような表現を多く使用していることがわかった。

VVは、場面4にも場面7にも「Cho」で「与える/あげる/くれる」の意味を表しす 授受表現が産出されていた(「sửa lại cho=直す-与える」と「cho 受け手 mượn=与え る-受け手-貸」など)。

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② 使役表現

VVの文章は、表5-12からもわかる通り「落とさせる・倒させる」「弁償させる」「直 させる」など「Làm-V」という表現の産出が多い。このような表現は、JJの文章には 一例も見られなかったのに対し、VJ両群の文章には見られた。

③ 移動表現

統計上では VJ と JJ との間にあまり差がないが、実際には JJ の文章には「飛んでく る」(場面 2)、「やってくる」/「聞いてくる」(場面4)など「Vてくる」の使用が多 いがVJ両群ともに本動詞の「来る」が多いなどの違いが見られた。

④ 感情表現

日本語母語話者は他の対象者群(VJとVV)に比べて少ない。VJ両群とVVに多用 された「嬉しい」「恥ずかしい」などの感情表現は、日本語母語話者の文章に観察され なかった。

以上ベトナム人学習者の文章における視座の表し方及びその判定手がかりである視点表 現の使用実態について述べた。次項では注視点の表し方について述べる。