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第 6 章 研究 3-視点の指導法―〈気づき〉を重視する指導法の効果

6.5 考察

6.5.2 視点の産出及び意識変化への〈気づき〉の効果

実験を行った結果、以下のようなことが明らかになった。

主語の明示・非明示の違い、

視点表現の違いなど

言語形式的違い 学習者一人で

認識し、気づく

学習者自身で認識し気づいた ことを気づいていない学習者、

つまりクラス全員に共有する 学 習 者 一 人 で 認 識

し、気づいたことを グループ全員に共有 する

視点表現使用の意味、

主語の明示・非明示の意味など 意味的な違い

主語の明示・非明示の違い、視 点表現の違いなど

言語形式的違い

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6-31 実験群別の指導効果

対象者 直後産出

視座 注視点 視点表現

実験群1

(気づきのみ)

直後産出 × ◎ 〇

遅延産出 △ 〇 〇

記憶66 △ 〇 〇

実験群2

(説明のみ)

直後産出 △ × ×

遅延産出 △ × ×

記憶 △ × ×

実験群3

(結合)

直後産出 〇 ◎ ◎

遅延産出 〇 〇 〇

記憶 〇 〇 〇

◎〇 効果がある/〇より◎のほうが効果が大きい △ある程度効果がある ×効果がない

〈説明〉とは、先行研究でも行われている教師の明示的説明を取り入れた指導法である。

視点についての重要な内容(視座の一貫性及び視点表現の用い方、注視点の一貫性及び明 示・非明示の傾向)が書かれている資料を学習者に配布し、資料の内容及び例文を一緒に 見ながら説明を行った。指導後の直後テストと遅延テストから以下のことがわかった。

〈説明のみ〉を受けた学習者は、直後テストで、話者が一貫した視座で語る文章は、〈気 づきのみ〉群より多かったが、その多くは、一人称で書かれたものであった。〈日本人は、

物語描写の文章を書くときに、視点を一貫する傾向がある。〉、〈話者の立場は、最初から最 後まで変わらない〉という特徴を聞いた学習者は、自分自身を〈話者〉の立場におかなけ ればならないと思い、一人称で語ったものと思われる。本調査の結果は、魏(2010a,b;2012)

による調査の結果と一致している。魏が〈登場人物になったつもり書く〉という指示で書 かせたところ、中国語母語話者学習者は、〈私〉で語っていた。このことから、中国語、ベ トナム語など、〈主観的事態把握〉をしない言語母語話者に視点を指導する場合、必ず一人 称にするのではなく、〈登場人物と同じ体験をしながら語るように〉という視座の表し方の 特徴を提供する必要があると考えられる。従来の明示的な説明では、この日本語の特徴を きちんと学習者に伝えることは難しいことがわかった。また、一人称を使うことで視座を 一貫させた文章は、遅延テストでは殆ど見られなかったことから、教師の説明だけでは、

時間とともに、視座の意識は消えてしまうと思われる。

66ここで扱う記憶とは、指導の内容(視点という概念、視点表現と視座と視座との関係、

主語の一貫性など)について覚えているかどうか、をいう。インタビュー中に学習者が 自分で言いだしたり、聞かれて思い出したりしたことの中で、正しい情報を〈〇〉、聞か れて思い出したが正しくない情報を〈△〉、全く思い出さない情報を〈×〉と付けた。

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〈気づきのみ〉では、学習者自身が気づいた〈注視点〉と〈視点表現〉は産出できたが、

教師の非明示的介入により気づくことができた〈視座〉は産出できなかった。学習者自身 が気づくことができた〈注視点〉と〈視点表現〉は、既知のものであり、教師の説明がな くても、過去の経験から自分なりに理解することができ、それが産出にもつながったと考 えられる。しかし学習者自身で気づくことができなかった〈視座〉は、視覚的にも認知が 難しく、学習者にとっても未知なものであるため、教師の非明示的介入で初めて気づいた と思われる。そのため過去の経験をもとに自ら理解することは難しく、明示的な説明が必 要になる。〈結合〉は、学習者自身が気づくことができなかった〈視座〉も、教師の非明示 的介入により注目を向けさせた後、それについて説明することで理解を促している。その 結果、直後テストで最も日本語母語話者に近い視点の表し方ができたと思われる。

〈気づき〉は、学習者の記憶や興味・関心にも関係することがわかった。第二言語習得 の第一段階である〈気づき〉を行った実験群の遅延テストの結果は、直後テストの結果と ほぼ同じだったことから、学習者の意識は維持されていることがわかる。また〈気づき〉

のみの実験群で、視座が、直後テストより遅延テストの方が良かったのは、自らの調べが 理解につながったのだろう。

一方、〈説明〉だけでも、視座の一貫性がある文章の産出はある程度可能である。しかし、

〈気づき〉の段階による記憶保持ができていないため、遅延テストでは、視点問題に対す る意識が消えてしまっていた。〈気づき〉の段階を踏まないで、第二言語習得のプロセスの 第2段階である〈理解〉へと進むと、意識が定着しないことがわかる。

以下の図6-20 は、指導の各段階における効果を表すものである。

144 一人 グループディスカッション 教師の非明示的介入(Q&Aによるフィードバック) 教師の明示的介入(説明)

学習者個人の認識をクラス全員で共有する 学習者の認識を深める

既知の言語項目の意味的相違を認識・理解する

(主語の明示・非明示の理由、話者のいる場所、

話者の感情など)

未知の言語項目の形式的相違に注意を向 け、認識する

認識したことを共有する

(視点表現、主語の明示・非明示)

既知の言語項目の理解を深める 未知の言語項目を認識・理解する

(視点表現、注視点、視座の用い方 とその意味)

気づいたこと:産出可能

(視点表現、主語の明示・非明示)

既知の概念:産出可能

(主語の一貫性・明示・非明示)

未知の概念:産出不可能 (視座)

未知だった概念(視座): ある程度産出可能

持続的効果がない

図6-20 視点の指導効果-気づき重視の指導法の効果

持続的効果がある

持続的効果がある 意識化できる

145 6.6.まとめ

本研究は、視点の問題を抱えている中上級ベトナム人日本語学習者を対象に視点指導 の実験を行った。実験は、学習者のインプットを促進する〈気づき〉、先行研究で行った明 示的〈説明〉、〈気づき〉と〈説明〉の結合という3つの指導方法で行った。気づきでは、

Schmidt(1990)の捉え方〈知覚・認知〉→〈気づき〉→〈理解〉の3つのレベルで促進する

ために、〈一人での気づき〉→〈グループディスカッション〉→〈教師による介入〉の 3 つの段階を取り入れた。その結果、〈気づきのみ〉の実験群においては、視点表現と注視点 について効果が見られ、この効果が持続されることが確認できた。一方、〈説明のみ〉の実 験群においては、直後テストで視座のみに効果はあったが、この効果は持続されないこと が明らかになった。また、それぞれの実験群の学習者にインタビューを行った結果、〈気づ き〉有りの実験群では、視点についての意識が学習者の記憶にも残り、指導を受けること によって興味を持つようになることがわかった。しかし気づき無しの実験群では、視点に ついての記憶も残らず、視点についてもほとんど興味を持っていないこともわかった。こ れらの結果から、視点の指導において、〈説明〉よりも〈気づき〉の方が重要であることが 示唆された。また、理解にまで繋がる〈気づき〉を引き起こすためには、学習者自身の考 えだけではなく、他者の刺激である教師のフィードバック(介入)も必要であることがわ かった。産出の面で、学習者の意識変化で最も効果があった〈気づき+説明〉の〈結合〉

群の結果から、視点の指導においては、学習者自身の気づきと理解ができた後に、教師の 説明によりその理解を深化させると、産出にも長期記憶にも結びつき、より効果があるこ とが示唆された。