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第 6 章 研究 3-視点の指導法―〈気づき〉を重視する指導法の効果

6.4 調査の結果

6.4.3 視点の指導効果②- 効果の持続性(遅延テストの産出から)

6.4.3.2 注視点の表し方について

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6-12 実験群3の視点表現の使用変化

実験群3(結合)では、授受表現と受身表現に大きな変化が見られた。

授受表現は、直後テストより遅延テストの方が増加し、受身表現は、直後テストより遅 延テストの方が減少した。遅延テストで授受表現が増えた理由は、学習者が話者のいる場 所を表すために授受表現を使えそうな場面では使うようになったからであり、一方、受身 表現の使用が過剰だった直後テストに比べて、遅延テストで少なくなったのは、資料の影 響が薄くなってきたからだと考えられる。この結果、直後テストに比べて若干差は見られ るものの、全体的に見ると、遅延テストのほうが母語話者に近い傾向となった。このこと から、気づきと説明の両方を行った結合の指導は、指導直後以上に、時間が経った方がよ り効果が現れると言えよう。ただし、表現の用い方は、視座と注視点に比べてバラつきも 見られた。これは、意識があればすぐに使いこなせるものではなく、上手く応用出来るよ うになるまでは練習などをする必要もあることを示唆している。(図6-12)

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6-28 注視点の一貫性の変化

対象者群 移動の傾向 固定の傾向

Total タイプ① タイプ② 小計 タイプ③ 小計

母語話者 0(0.0) 22(100) 22(100) 0(0.0) 0(0.0) 22(100)

実験群1 直後 3(12.0) 22(88.0) 25(100) 0 (0.0) 0(0.0) 25(100)

遅延 1(4.5) 21(95.5) 22(100) 0(0.0) 0(0.0) 22(100)

実験群2

直後 20(76.9) 6(23.1) 26(100) 0(0.0) 0(0.0) 26(100)

遅延 12(66.7) 6(33.3) 18(100) 0(0.0) 0(0.0) 18(100)

実験群3

直後 1(3.6) 27(96.4) 28(100) 0(0.0) 0(0.0) 28(100)

遅延 4(18.2) 18(81.8) 22(100) 0(0.0) 0(0.0) 22(100)

統制群 35(79.5) 9(20.5) 44(100) 0(0.0) 0(0.0) 44(100)

( )内の数値は% ① 移動の傾向 ②固定の傾向 ③文章全体固定

各実験群の産出に見られる注視点の一貫性の変化は、図6-13、図6-14、図6-15で表 す。

図6-13~図6-15を見ると、実験群1(気づきのみ)と実験群3(結合)がほぼ同じ形

である。この2つの実験群は、直後テストと遅延テストともに、注視点の「固定の傾向」

の割合が高く、「移動の傾向」の割合が低いという母語話者に似た傾向が見られた。このこ とから〈気づき〉は、指導の効果を維持していることがわかるが、〈気づき〉の指導を受け た学習者の遅延テスト後のインタビューからも次のことがわかった。「主語は、前文と後文 の主語が同じであれば、初文だけに明示すればいい。他の文は省略してもいい」「同じ人物 について語るのなら、できれば主語を一々変えないほうがいい」など、日本語母語話者と ベトナム人学習者の文章の違いを分析したり、考えたりする過程を通じて、注視点の一貫 性と明示・非明示の規則の意識が生じていることだといえる。

一方、実験群2(説明のみ)では、直後テストと遅延テストともに、「移動の傾向」が高 く、「固定の傾向」が低いという統制群に似た傾向が見られた。こうした産出の結果と、実 験群2の学習者は、「主語を文に書いたほうがいい」とインタビューに答えたりしているこ とから、教師の明示的介入(説明)のみでは、注視点についての意識が生じないと言えそ うだ。

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6-13 実験群1の注視点の一貫性の変化

6-14 実験群2の注視点一貫性の変化

6-15 実験群3の注視点一貫性の変化

0 20 40 60 80 100

統制群 遅延 直後 母語話者

移動の傾向 固定の傾向

0 20 40 60 80 100

統制群 遅延 直後 母語話者

移動の傾向 固定の傾向

0 20 40 60 80 100

統制群 遅延 直後 母語話者

移動の傾向 固定の傾向

134 (1) 注視点の明示・非明示傾向の変化

表6-29と図6-16~図6-18は、注視点の明示・非明示の変化を示す。

6-29 注視点の明示性の変化

対象者群 移動の傾向 固定の傾向

Total 明示 非明示 小計 明示 非明示 小計

母語話者 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0) 0(0.0) 22(100) 22(100) 22(100) 実験群1 直後 1 (4.0) 0 (0.0) 1(4.0) 5(20.0) 19(76.0) 24(96.0) 25(100) 遅延 1(4.6) 0(0.0) 1(4.6) 5(22.7) 16(72.7) 21(95.4) 22(100) 実験群2 直後 15(65.4) 5 (11.5) 20(76.9) 1(3.9) 5(19.2) 6(23.1) 26(100) 遅延 11(61.1) 0(0.0) 11(61.1) 1(5.6) 6(33.3) 7(38.9) 18(100) 実験群3 直後 2 (7.1) 0 (0.0) 2(7.1) 4(14.3) 22(78.6) 26(92.9) 28(100) 遅延 4(18.2) 1(4.6) 5(22.8) 1(4.5) 16(72.7) 17(77.2) 22(100) 統制群 35(79.5) 0(0.0) 35(79.5) 9(15.9) 2(4.6) 11(20.5) 44(100)

( )内の数値は%

6-16 実験群1の注視点の明示・非明示傾向の変化

実験群 1(気づきのみ)は、直後テストと遅延テストの結果がほぼ同じである。特にタ

イプ①「移動・明示」の割合は、それぞれ4.0%と4.5%であり、79.5%の統制群に比べて大 きく異なり、0%の日本語母語話者に近い傾向が観察された。統計の結果と前述した学習者 のインタビューの答えから、注視点の意識は長期的に維持されていると考えられる。

(図6-16)

0 20 40 60 80 100

統制群 遅延 直後 母語話者

移動・明示 移動・非明示 固定・明示 固定・非明示

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6-17 実験群2の注視点の明示・非明示傾向の変化

実験群 2(説明のみ)は、直後テストと遅延テストともにタイプ①(移動・明示)の割

合が半分以上(65.4%と 61.1%)を占め、79.5%の統制群に似た傾向、0%の日本語母語話 者とは大きく異なる傾向が見られた。日本語母語話者の特徴である「固定・非明示」の割 合は、直後テストも遅延テストも統制群に比べて高いが、日本語母語話者にないタイプ③

(固定・明示)も見られた。実験群2の学習者が、「主語を文に明示したほうが分かりやす い」「どんな時に省略できるか、どんな時に省略できないかはっきりわからない」などとイ ンタビューでも答えていることから、説明だけでは、日本語母語話者とベトナム人学習者 の主語の用い方の違いなど、主語についての意識が生じないことがわかった。(図6-17)

6-18 実験群3の注視点の明示・非明示傾向の変化

実験群 3(結合)は、直後テストと遅延テストともに日本語母語話者の特徴である「固 定・非明示」の割合が高く(78.6%と 72.7%)、統制群に最も多いタイプ①「移動・明示」

の割合が低い。また、学習者へのインタビューでも、実験群1とほぼ同じ結果が得られた。

このことから、気づきと説明の両方の指導を受けた学習者は、注視点の明示・非明示につ いての意識が、長期的に維持されることが分かった。(図6-18)

0 20 40 60 80 100

統制群 遅延 直後 母語話者

移動・明示 移動・非明示 固定・明示 固定・非明示

0 20 40 60 80 100

統制群 遅延 直後 母語話者

移動・明示 移動・非明示 固定・明示 固定・非明示

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