第三章 日中におけるビデオリンク方式による裁判の比較
第 2 節 ビデオリンク方式による裁判の実施
4 証人出頭措置の新展開―ウィーチャットでの出頭証言
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置を併用的に講ずることは、証人の出頭証言を求めることができるため、直接主義という 原則を徹底していくに資するものといえようとの見解を示している。
⑹ 証人の同一性への疑い
ビデオリンク方式および遮へい措置を併用的に用いつつ、証人尋問を実施する際の留意 点は、証人の容貌にモザイクをかけるという形で行うため、被告人と証人は、相互に相手 の状態を直接見えないようになるということである。それによって、学者や法律専門人員 の一部は、証人の同一性への疑念が生ずると指摘する。すなわち、証人の身分や容貌など を確定することができないため、裁判官は、勝手に 1 人に呼びかけて、証言させることが できることが懸念されるのである。
これに応じて、余剣(氏)裁判官は、裁判を行う際にして、証人の身分を確認すること はなったものの、証人の出頭証言を求める前に、証人の身分や証人適格などをあらかじめ 確認していた。それに加えて、上海第一中級人民法院のやり方によれば、証人が出頭証言 をする前に、保証書への署名を要求することとしている。
小括二
筆者は、ビデオリンク方式および遮へい措置の併用は、証人出頭の確保に関して解決策 の 1 つになりうるものとして考えている。しかし、上海第一中級人民法院のやり方では、
証人の容貌、振る舞いなどを観察することができないため、自由心証主義に反するものと して、被告人の弁護権、また証人審問権への侵害という問題が生じうるように思われる。
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すとともに、生活スタイルやコミュニケーションなどに様々な変化を生じさせつつある。
こうした状況のもと、2011年に、騰訊会社(Tencent)が、ウィーチャット(WeChat)という チャット・メディア(通信アプリケーション)をリリースした。ウィーチャットは、文字 や音声、メッセージ、グループチャット、さらに音声・動画呼び出しなどの機能ができる 無料メッセージアプリだけではなく、アイパット・パソコンでも利用可能であるため、全 国的にスピーディーに範囲を広げて、中国で一番人気を呼ぶソーシャル・メディア(SNS)
の1つとなっている。
ウィーチャットの利用状況について、ウェブ上での統計によると、2017年9月まで、月 間アクディブユーザーは9億人以上となり、日間音声・動画呼び出しの回数は、2億回以上 であり、月間人当たりの音声・動画呼び出しの回数は19回であった125。
このようなコミュニケーション方法の大きな変化を背景として、ウィーチャットを通じ てビデオリンク方式による証人尋問方式が登場してきた。証人が裁判所へ行く必要がなく、
ウィーチャットを利用した出頭証言に関して、2017 年に注目されたものとして、広東省広 州市越秀区人民法院の例があげられる126。越秀区人民法院は、ウィーチャットを通じて、証 人を出頭証言させるための管理用ネットワークを設置した。これは、従来の出頭証言手段 や電子裁判所での出頭証言手段などの代替として、全く新しい出頭証言の形態であるとい う側面を持つものである。このような出頭措置の普及が広範に進むにつれて、ウィーチャ ットなどのソーシャルメディアの利用は、証人出頭措置の変革を本格化させていくものと 考えられる。
共有や交流を促進する機能を提供するとともに、ウィーチャットは新たな機能を拡充さ せている。社会の発展や経済の活躍に伴い、国民経済の利便性に向けて、ソーシャルメデ ィア関連業務は、電子決済にまで拡大している。インターネット詐欺やサイバー犯罪など を防ぐために、利用者が初めて登録するときに、実名登録制を実施する。それに加えて、
ウィーチャットは顔認証システムをも導入した。したがって、証人の同一性また信用性が
125 「2017年微信数据報告発布」http://www.sohu.com/a/203492754_481775 最終閲覧日は、2018年8月 21日である。
126 郭元鵬「微信視頻提昇司法顔値」『証券時報』2017年10月19日第A03版。
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確保されることを前提として、遠隔地で出頭証言をすることができるようになる。
ウィーチャトで証人尋問を導入することで、刑事事件の一部における「証人出頭」とい う問題をめぐって、適切な解決が得られるようになるかもしれない。その制度を導入する 背景は、3つの観点で考えることができる127。
第1に、従来の出頭措置では、証人に裁判所への出頭求めることによって、かなり時間 がかかることが予想される。万が一証人に別の事由があるため、出頭証言の期日と他の予 定とが衝突する場合においては、出頭義務を果たさない可能性が高い。ウィーチャトで証 人尋問であれば、裁判所へ赴く必要がなく、遠隔地で出頭証言をすることが可能となり、
証人の大切な時間を節約できるという利点がある。
第2に、証人は、裁判所へ出頭して証言をすると、被告人側の近親者、友人からの悪口、
殴打などのハラスメントに直面する恐れがある。ウィーチャットによる出頭証言を認める ことは、なるべく裁判の現場において証人の出頭証言により表面に現れてこない危険を取 り除くことができると考えられる。
第 3 に、近年来、中国の経済の発展につれて、犯罪率が徐々に上昇していく一方で、警 察官数は不足している、という状況がある。警察官が時間を割いて出頭証言をすると、業 務全体にとって差し支えとなることが判明している。それゆえ、ウィーチャットを通じて 証人尋問を行うことは、人手不足や業務のプレッシャーを緩和させることができると同時 に、証人証言が必要である場合に、随時に証言することできるという点が肯定的に評価で きるものである。
小括三
科学が発展するにつれて、ビデオリンク技術の運用がなされるようになり、中国では、
ビデオリンクによる証人尋問は、早くも数十年前から現れてきて、特に目新しいものでは ないという状況にあると思われる。ビデオリンク方式による証人尋問には、それに固有の
127 郭・前掲(126)報道を参照。
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優れた側面があるが、完璧な証人保護制度方式というわけではないであろう。とりわけ、
物証を識別する場合において、様々な不便が生じうる。
中国における当該技術の訴訟活動での活用は、わずか十年ほどしか経過していないとは いえ、時代に沿って、中国の現状を踏まえて、革新的でユニークな工夫が加えられており、
一定の役割を果たすものと評すべきである。ただし、目下のところ、中国におけるビデオ リンク方式は、ただ技術の運用そのものを重視しているだけであり、理論・実践の両側面 において、まだ検討の余地がある。また、すでに紹介したとおり、中国のビデオリンク方 式と遮へい措置の併用は、証人の容貌にモザイクをかけることによって、あらゆる訴訟関 係者が、証人の容貌や振る舞いを観察することができない形で行われており、むしろ、通 信による証人尋問と言わざるをえないものである。最後に、ウィーチャットにおける実名 制や顔認証などの技術の導入は、確かに証人の同一性また信用性を実質に担保するに資す るものと言われている。ただし、これらの技術の運用は、個人情報やプライバシーへの侵 害など、他の社会問題を引き起こす恐れがあるため、それらの状況を踏まえて、立法当局 や司法人員、さらに学者などによる不断の検討が求められていくように思われる。
筆者は、被告人の弁護権、自由心証主義の考え方から出発し、中国の状況を踏まえつつ も、日本のビデオリンク方式の導入を考慮すべきであると考えている。そこで、以下では、
日本のビデオリンクによる証人尋問制度について検討することにする。