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ビデオリンク方式・遮へい措置に関する判例の検討

第三章 日中におけるビデオリンク方式による裁判の比較

第 3 節 日本における遮へい措置およびビデオリンクによる証人尋問

4 ビデオリンク方式・遮へい措置に関する判例の検討

被害者等の証人に対する遮へい措置およびビデオリンク方式による証人尋問の実施は、

被害者、証人の保護策として積極的な評価をもって論じられている。前者は、①被告人と 証人との間の遮へいは、証人が被告人の面前で証言する際の精神的負担を軽減することが できると認められる。他方、②傍聴人と証人との間の遮へいについては、証人の精神的負 担だけの考慮要因ではなく、証人に対する名誉権の考慮をも入れると指摘される132。後者で は、証人保護のために的確な訴訟指揮が可能だという前提に、裁判官、検察官、被告人、

弁護人は公判廷に在席し、証人が別室で在席するという形で証人尋問が行われている133。 しかし、遮へい措置およびビデオリンク方式を併用して証人尋問を行うことには、憲法 上の裁判の公開原則、被告人の公開裁判を受ける権利と被告人の証人審問権・喚問権との 関係で、その合憲性に関する懸念が生じうる。これらの懸念を払拭されることを示すため に、実際に称した傷害、強姦〔当時、以下すべて同じ〕被告事件での公判審理(最判平成 17年4月14日刑集59巻3号259頁)をめぐって検討をすることにしたい。

⑴ 事件の概要

本件は、傷害、強姦被告事件の公判審理について、被告人側は、被害者に対する証人尋 問の際、遮へい措置(刑事訴訟法157条の3)およびビデオリンク方式が第一審公判で併せ て用いられたことから、被告人から証人の状態を認識できないため、憲法82条1項、同法 37条1項の定める公開審理の規定に違反し、憲法37条2項前段に定めた被告人の証人審問 権を侵害するなどと主張し、それが争点となったという事案である。

⑵ 裁判の経過

第1審(名古屋地一宮支判平成16年2 月25日)は、公判事実について有罪を認定し、

132 椎橋隆幸「証人保護措置の新展開」田口守一=井上正仁=井田良=椎橋隆幸(編)『犯罪の多角的検討

渥美東洋先生古稀記念』(2006年・有斐閣)188頁。

133 椎橋・前掲(132)論文189頁。

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被告人に懲役4年10月を言い渡した。これに対して、被告人側は、上記証人尋問の際の措 置は、憲法82条1項、37条1項の裁判の公開規定に違反し、また憲法37条2項の被告人 の反対尋問権を侵害する違法なものである旨主張して控訴した。しかし、第2審判決(名 古屋高判平成16年2月25日)は、被告人側の控訴を棄却した。

これに対して、被告人側が上記を理由として上告した。

⑶ 判旨

上告棄却。最高裁は以下のように判示した。

「刑訴法157条の3は、証人尋問の際に、証人が被告人から見られていることによって 圧迫を受け精神の平穏が著しく害される場合があることから、その負担を軽減するために、

そのようなおそれがあって相当と認められる時には、裁判所が、被告人と証人との間で、

一方からまたは相互に相手の状態を認識することができないようにするための措置を採る ことができる(以下、これらの措置を「遮へい措置」という。)とするものである。また、

同法157 条の4 は、いわゆる性犯罪の被害者等の証人尋問について、裁判官および訴訟関 係人の在席する場所において証言を求められることによって証人が受ける精神的圧迫を回 避するために、同一構内の別の場所に証人を在席させ、映像と音声の送受信により相手の 状態を相互に認識しながら通話することができる方法によって尋問することができる(以 下、このような方法を『ビデオリンク方式』という。)ものである。

証人尋問が公判期日において行われる場合、傍聴人と証人との間で遮へい措置が採られ、

あるいはビデオリンク方式によるとされ、さらには、ビデオリンク方式によった上で傍聴 人と証人との間で遮へい措置が採られても、審理が公開されていることに変わりないから、

これらの規定は、憲法82条1項、37条1項に違反するものではない。

また、証人尋問の際、被告人から証人の状態を認識できなくする遮へい措置が採られた 場合、被告人は、証人の姿を見ることはできないけれども、供述を聞くことができ、自ら 尋問することもでき、さらに、この措置は、弁護人が出頭している場合に限り採ることが できるのであって、弁護人による証人の供述態度等の観察は妨げられないのであるから、

前記のとおりの制度の趣旨にかんがみ、被告人の証人審問権は侵害されていないというべ

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きである。ビデオリンク方式によることとされた場合には、被告人は、映像と音声の送受 信を通じてであれ、証人の姿を見ながら供述を聞き、自ら尋問することができるのである から、被告人の証人審問権は侵害されていないというべきである。さらには、ビデオリン ク方式によった上で被告人から証人の状態を認識できなくする遮へい措置が採られても、

映像と音声の送受信を通じてであれ、弁護人による証人の供述態度等の観察は妨げられな いのであるから、やはり被告人の証人審問権は侵害されていないというべきことは同様で ある。

したがって、刑訴法157条の3、157条の4は、憲法37条2項前段に違反するものでも ない。」

⑷ 争点の整理

上記事件について検討すべき争点として、①被害者保護の憲法上の位置づけ、②被告人 の公開裁判を受ける権利、および③被告人の証人審問権利、以上の 3 点を考えることがで きる。順次検討することにする。

① 被害者保護の憲法上の位置づけ

遮へい措置・ビデオリンク方式による証人尋問は、犯罪被害者を主たる目的として新設 された制度であるが、これらの規定の対象は、被害者が証人となった場合に限定されてい ない134。その理由は、証人資格という点にかんがみると、「特別の場合を除いては、何人で も証人としてこれを尋問することができる」(刑事訴訟法143条)ためである

しかし、被害者の権利をその者の人権論としてとらえた場合、日本では、従来の研究は、

十分ではなく、憲法の具体的規定にその根拠を求めることは難しいかもしれない135。ただそ の点に関して、近時では、日本国憲法13条(個人の尊重、人間の尊厳)にその根拠が求め

134 堀江慎司「証人尋問における遮へい措置およびビデオリンク方式の合憲性」刑事法ジャーナル2号(2006

年)168頁。

135 水谷規男「犯罪被害者の人間の尊厳と刑事手続」水谷規男=上田信太郎=山口直也=本庄武(編)『刑

事法における人権の諸相 福田雅章先生古稀祝賀論文集』(2010年・成文堂)8頁。

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られるべきであるとする考え方が有力になっている136。その趣旨を徹底的に実現することに なる措置は、平成12年改正により、以下の形態で導入された。すなわち、裁判所の許可に より、ア).証人が著しく不安または緊張を覚えるおそれがあると認められる場合に、証人 尋問の間に付添人を付き添わせる、イ).証人が被告人と直面することによって圧迫を受け て精神の平穏を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認められる場合に、被告 人と証人の間で、一方からまたは相互に見せない措置をとる、ウ).同じ裁判所構内の別室 に証人を在席させて、ビデオリンクを通じて証言させる、およびエ).証人が被告人の面前 において圧迫を受け充分な供述をすることができないと認めるときは、被告人が退廷した りをし、併せて用いる、である。いずれも、それらの措置により、証言するために証人の 精神的負担の軽減を図るという点で共通する137

それゆえ、本件の犯罪の性質、被害者の心身状態などの諸点を踏まえた上で、裁判所が、

遮へい・ビデオリンクによる証人尋問を併せて用いることは、被害者が受ける名誉・プラ イバシー等の人格的生存に不可欠な権利の侵害を保護し、被害者の二次被害を防止するに 資するものであるから、憲法上許容されるというべきである。しかし、立法によって被害 者を保護するためにどのような保護措置を講ずることであっても、憲法の定める被告人の 権利を侵害してはならない。

②憲法上の裁判の公開原則

憲法上の裁判の公開原則違反の点について、弁護人の上告趣旨に基づく示唆は、裁判の 公開の意義および裁判官の心証形成という、2つの観点が挙げられている。

公開原則の意義については、憲法 82条 1 項は、「裁判の対審および判決は、公開法廷で これを行ふ。」と規定し、また、憲法37条1項は、「すべて刑事事件においては、被告人は、

迅速な公開裁判を受ける権利を有する。」と規定する。その意味は、公開の裁判は、手続が 一般に公開され、その審判が国民の監視のもとで行われなければならないことになり、こ

136 河北洋介「刑事裁判における遮へい措置・ビデオリンク方式による証人尋問の合憲性」『東北法学』(2007

3月)3頁。

137 前田雅英=星周一郎『刑事訴訟法判例ノート〔第2版〕(2014年・弘文堂)233頁。