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アメリカにおける証人保護プログラムの現状

第二章 証人保護措置の一考察

第 1 節 アメリカにおける証人保護プログラムの現状

1 立法の経緯

アメリカにおいては、早くも1970年代から組織犯罪規制法(Organized Crime Control Act of 1970)のもとで、証人保護プログラム(The United States Federal Witness Protection Program,以下「WITSEC」と縮写する)の立法作業がなされることがあったとされている。当 時は、犯罪組織内部において、いわゆる内通者の間に「沈黙の掟」という不文律のルール があるため、内通者が報復措置による恐怖から、重要な証人として捜査当局への情報提供 を拒むことや、出頭して証言をしようとしないという事態が生じていた53。現実に、例えば、

1963 年に、犯罪組織の組員とするJoseph Valachiが、組織犯罪グループの内部構成および 犯罪状況を証明したことによって、組織犯罪グループの親分によって追跡され殺害される という事件も発生していた54

53 United Nations Office on Drugs and Crime ,Good Practices for the Protection of Witnesses in Criminal Proceedings Involving Organized Crime.(2008),pp.7.

54 Fred Montanino,Unintended victims of organized crime witness protection,Criminal Justice Policy Review,vol.2,No.4(1987).pp.392-408.

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組織犯罪を始めとする様々な重大な犯罪の取締強化に応えるべく、1967 年に犯罪被害者 に関して、大統領諮問委員会に設置された組織犯罪特別委員会(Task Force on Organized

Crime)の提言を踏まえ、1970年に組織犯罪規制法が制定された。当該プログラムの受け入

れ判断は、アメリカ連邦政府の検察総長の自由裁量に委ねられる。組織犯罪および他の種 類の重罪に対して、真摯に証言をする証人に向けて必要な保護措置を提供することができ る。とりわけ命を狙われる危険がある証人に対して、転居および新しい身分を付与する措 置が採られている。その後も、連邦議会は、1984年、1990年に犯罪被害者法(Victim’s Crime Act)、被害者の権利および被害者賠償法」(Victim’s Rights and Restitution Act)を相 次いで可決し、成立させた。

2 証人保護プログラム(WITSEC)の運営-マシャル・サービス(USMS)

アメリカのマシャル・サービスは、初めての連邦政府の犯罪統制センターとして、連邦 政府の検事総長による統括のもとで犯罪被害者への支援を目指し、重要な役割を果たして いる。だが、司法システムを保障するために、連邦政府は、マシャル・サービスに対して その職務や役割分担、様々な取り組みなどの拡大を続いていたものの、ロナルド・レーガ ン(Ronald Wilson Reagan)大統領の経済政策の関係で、当該組織への司法資源や人員を減 少させるための工夫をしている55

証人保護プログラムは、証人出頭を求めるために、犯罪状況により、証言者が裁判期間 中、もしくは生涯にわたって保護を提供されるものである。その一般的な流れとして、当 該事件による証言者が証人保護プログラムに参加することで、連邦政府の検事総長の最終 判断に委ねられているとされている。証人保護プログラムへの加入するに際し、保護され る証人その成年家族は、覚書(Memorandum of Understanding,以下「MOU」とする)を通知し

55 John J.Twomey & Susan A.Laniewski,The United States Marshals Service Role in the Attorney General’s War on Violent Crime,The Jounral of Criminal Law and Criminology, Vol.73, No.3 (Autumn, 1982),pp.1012.

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て締結することが必要とされる56。その内容は、証人が証言する義務を履行し、出頭証言に よる被告人側からの察知を避けるために必要とされるべき措置を取る一方、当該プログラ ムへ加入するまで債権者との間で契約を取り決めさせ、また従前の住宅や取引などのすべ ての未処理なままの商業協定を、代理人に手配させていることが義務付けられている。そ れだけでなく、証人としての面会権、親権の変更、民事判決に関する債権者の訴状の送達、

後見人の義務の履行なども求められ、その旨は、1984年証人保護改革法に明記されている57。 当該プログラムに加入した後、証言者自身だけではなく、証言を提供する証人の家族も 保護対象に当たるとされている。万が一マシャル・サービスが、証人が被告発者へ不利な 証言をすることで危険な状態に陥らせられると認められれば、あらゆる証人に対して24時 間にわたって保護を提供できる。その上、マシャル・サービスは、証人およびその家族に 対して、名字、生年月日、医療、免許およびそのほか身分証明書を含む新しい身分を付与 し、かつ、移転させて居住用不動産を提供することができる。さらに、移転後の居住地が 証人にとって安全であると認められるならば、証人は、マシャル・サービスから専門の技 能育成や就職支援などの措置を受けて定住することとなる。

最も問題となすべきことの 1 つとなるのは、犯罪を未然に防止し、犯罪の被害者を含む 証人が、被疑者・被告人からの復讐を受けるのを避けるために、証人側にどのような事件 が起きそうな場合に、当該保護プログラムに加入させるべきであるのか、証人側が公判廷 へ冒頭陳述に行かせるまで、どのようなリスクが引き起こされるのか、ということである。

そういった問題もあるにせよ、事件の重大性の差によって、必ずすべての事件で証人保護 措置を講ずるというわけではなく、証人保護プロセスの要否について、事件が惹起される と判断すべき相当な理由があり、かつ犯罪者の意図、動機、告発者が提供する証言の信用 性およびその証言が当該事件に関連する程度などを考慮した上で、事件の重大性・緊急性

56 Karen S. Cooperstein ”Enforcing Judgements against Participants” Standford Law Review Vol 36.

No.4 (Apr.,1984),pp.1021.

57 Joshua M.Levin ”Orgnized Crime and Insulated Violence:Federal Liability for Illegal Conduct in the Witness Protection Program”, The Jounal of Criminal Law and Criminology(1973-) Vol.76, No.1(Spring,1985),pp.242-246.

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に基づいた被保護者の要請に応ずるようあらかじめ評価書が作成されて、保護レベルが決 められるのである58。過去の経験を踏まえると、証人保護措置の採否は各事件における犯罪 状況いかんにかかっているが、本質面で共通する重罪事件に対して、マシャル・サービス の捜査人員がなるべくまだ表面化していない危険を招来する証人に対しても、当該保護プ ログラムへの加入を勧めることが判明している59

これまで、麻薬犯罪、テロ事件、組織犯罪およびその他の重罪などに対応して、マシャ ル・サービスが証人を地理的な移転や新たな身分の付与などの措置を通じて、証人につい

て8,600人以上、加えて証人の親族について約9,900人を保護している60。さらに、当該保

護プログラムに加入し、かつ当該プログラムのガイドラインを遵守する証人について、被 告発者によって傷害または殺害された者は一人もいなかったという実態に鑑みると、当該 保護プログラムは、単に証人やその家族を保護するだけでなく、むしろ、組織犯罪に対抗 する唯一で、最も役に立つ武器の1つであると言っても過言ではないであろう61

3 証人保護プログラム(WITSEC)の不足

アメリカの証人保護プログラムは決して完璧な制度とは言えず、実施面においても、様々 な困難性が生じる。

マシャル・サービスは、証人へ充足な金銭的支援を提供することができるというものの、

58 Debra M.Jenkins”The U.S.Marshals Service’s Threat Analysis Program for the Protection of the Federal Judiciary”,The Annals of the American Academy of Political and Social Science

Vol.576,Courthouse Violence: Protecting the Judical Workplace(Jul.,2001),pp.70.

59 John J.Twomey& Susan A.Laniewski ,The United States Marshals Service Role in the Attorney General’s War on Violent Crime, The Jounral of Criminal Law and Criminology, Vol.73, No.3 (Autumn,1982),pp.1016.

60 http://www.usmarshals.gov/witsec/index.html 最後閲覧日は、2018516日である。

61 John J.Twomey& Susan A.Laniewski “The United States Marshals Service Role in the Attorney General’s War on Violent Crime, The Jounral of Criminal Law and Criminology, Vol.73, No.3 (Autumn,1982),pp.1017.

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証言前と同じ、同様の質を備えたライフスタイルを保障できるわけではないであろう。す なわち、証人が過去に縁もゆかりもなかった地域に移転することになるため、以前の職種 を継続できないし、かつ、長期にわたり世帯が分離することによる苦痛に耐えかねないと いう事態が生じうる。従って、被告発者からの脅威が軽減されたときに、例えば、監禁罪 の犯人が死亡する場合などにおいて、証人保護プログラムを終了させるのかの判断は、被 保護者自らの判断(自主離脱)によるべきであるか、または完全に検事総長の自由裁量に 委ねられることであるか、という争いが繰り広げられているのである62

のみかかわらず、当該プログラムに加入したある証人が、保護観察期間中に、覚書の義 務に反して、意図的な移住および新しい身分の付与などの措置を通じて、民事判決による 法律上の責任を逃れることがある旨が明らかにされているところ、検事総長が、犯罪の未 然防止を図るためであっても、証人に関わるあらゆる情報を開示する要請が拒絶するとい う場面がみられる63。また、証人が覚書違反に当たる場合になると、検事総長が、果たして どのような場面において証人保護プログラムから離脱させるという判断を下すのかという 疑問も生じうる。

ここで言及せざるをえないのは、連邦政府の証人保護プログラムは、何かしら良い点が あることに間違いないことはむろんであるものの、過剰な司法負担をもたらすことが、重 点課題の 1 つとなっている、ということである。つまり、犯罪との闘い、かつ、公正な裁 判を行うためであるとして、余計で、かつ充分な資金が必須である。証人への経済的な補 償を除いたとしても、このような膨大な費用のかかる制度を維持するために、マシャル・

サービス、連邦保安局、麻薬管理局、移民局および刑務所などの諸機関の協力にとどまら ず、当該保護プログラムの執行する人員を養成するために受けさせるべき専門的な訓練の 費用が、負担を要する費用に含まれている64

62 宮木康博「証人保護プログラムの制度設計」『椎橋隆幸先生退職記念論文集』(2017年・中央大学出版会)

349〜350頁を参照。

63 Karen S. Cooperstein ,Enforcing Judgements against Participants, Standford Law Review Vol36. No.

4 (Apr., 1984), pp. 1022-1023.

64 John J.Twomey & Susan A.Laniewski ,The United States Marshals Service Role in the Attorney