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第三章 日中におけるビデオリンク方式による裁判の比較

第 2 節 事件後に証人保護の措置

1 犯罪被害者給付金制度

⑴ 問題意識

1985年の第7回国連会議の第3議題で犯罪被害者の問題が取り上げられ、「犯罪および権

力の濫用の被害者のための司法の基本原則の宣言」が決議された。当該宣言第12条に基づ き、重大な犯罪の結果により、身体や精神にかなりの被害を受けた者、もしくは、被害者 が死亡したものまたは身体的および精神的不能になったその遺族、被扶養者などは、犯罪 者またはそれ以外から十分な賠償を得られない場合には、国家から経済的補償を求める権 利を有すると定められていた。当該宣言が決議される前に、ニュウージーランド、イギリ ス、フランス、アメリカ、スイス、およびカナダなどの発達国は、相次いで当該制度を確 立した。こうした動きに合わせて、フィリピン、インドなどの発展途上国も被害者補償制 度を成立した172

刑事裁判における被害者の地位を確保することは、世界的に共通認識となっていると言 えよう。中国では、1990 年代から人権保障の問題は立法府に重視されている173。例えば、

1996年刑事訴訟法82条2項(現行法106条2項)に基づき、被害者を「当事者」の地位に 位置づけられている174。被疑者は、当事者として、訴訟代理人に委任する権利(現行法 44 条1項)175、通報・告訴権(同法108条2項)176、立件しない事件に対する申し出の権利(同

172 尹伊君「建立適合中国国情的被害人補償制度」人民検察(20069月〔上〕)13頁。

173 孫謙「建立刑事被害人国家補償制度的実践異議及其理論基礎」人民検察(20069月〔上〕)7頁。

174 1996年刑事訴訟法822項も、現行法1062項も、“当事者”は、被害者、自訴人、被疑者、被告 人並びに附帯民事訴訟の原告および被告をいう」という条文を規定する。

175 現行法441項は、「公訴事件の被害者、その法定代理人もしくは近親者または附帯民事訴訟の当事者 もしくはその法定代理人は、事件が起訴審査に移送された日から、訴訟代理人を依頼する権利を有する。

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法110条)177、および意見陳述権(同法170条)178などの諸権利を有することが明記されて いる。

しかし、中国における司法実務においては、被害者等の権利を保障することには、以下 の問題がある。一方では、司法効率の考慮から、刑事裁判と附帯民事訴訟と併せて裁判を 行うものであるから、刑事裁判を担当する裁判官は、民事訴訟を担当する経験が薄く、民 事裁判をするのに適任であるか、適任ではないのではないかという懸念が残されていると 言えよう179。もう一方では、目下のところ、中国で刑事事件が多発していることを背景に、

数多くの被害者等が加害者から賠償を獲得することは実際には困難である、という実態で ある180

⑵ 日本の犯罪給付金制度

日本では、昭和55(1980)年から犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律181(以下「犯 給法」と略称する)、「犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法 律施行規則」(以下「施行規則」と略称する)、および「犯罪被害者等給付金の支給等によ 自訴事件の自訴人もしくはその法定代理人または附帯民事訴訟の当事者もしくはその法定代理人は、いつ でも訴訟代理人を依頼することができる」旨を定めている。

176 現行法1082項は、「被害者は、その身体または財産の権利を侵害する犯罪事実ないし被疑者につい て、警察、検察または裁判所に通報または告訴する権利を有する」旨を定めている。

177 現行法110条後段は、「犯罪事実が存在しないかまたは犯罪事実が著しく軽微で、刑事責任を追及する 必要がないと認めるときは、事件を立件せず、立件をしない理由を告訴人に通知するものとする。告訴人 は、不服があるときは、再議を請求することができる」旨を定めている。

178 現行法170条は、「検察は、事件の審査に当たって、被疑者を取調べなければならず、また、弁護人、

被害者およびその訴訟代理人の意見を聴くとともに、これを調書に記載しなければならない。弁護人は、

被害者またはその訴訟代理人が書面で意見を提出したときは、これを調書に添付しなければならない」と されている。

179 董士曇「犯罪被害人補償制度及其建構」『東岳論叢』20057月第26巻第4148頁。

180 杜萌「刑事被害人補償救助呼喚国家立法提速」法制日報2009615日(4)。当該報告によれば、2005 年から、中国における犯罪を受ける被害者および近親者らは、加害者から賠償を獲得できない者は、年間 300万人ぐらいであることが指摘されている。

181 平成20年の犯給法の大改正に伴い、正式名称は、「犯罪者等給付金等に関する法律」から、「犯罪被害 者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律」に改められた。

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る犯罪被害者等の支援に関する法律施行令(以下「施行令」と略称する)を制定し、現在 までに、数度の改正が行われている。いわゆる被害者等の遺族の犯罪被害等を早期に軽減 するとともに、これらの者が再び平穏な生活を暮らせることができるために、被害者等に 対して犯罪被害者給付金を支給し、または当該犯罪行為の発生後速やかに、かつ継続的に 被害者等を援助することを通じて、それらの権利利益の保護をすることを目的とする(犯 給法1条)。

① 犯罪給付金制度の対象者

日本で行われた犯罪により、人の生命または身体を害するまでの罪に該当するところ、

当該犯罪により被害者の死亡、重傷、もしくは後遺障害などの被害を引き起こす場合には、

犯罪給付金等給付金の支給する対象となる。日本国籍を有せず、かつ、日本国内に住所を 有しない者は考慮の対象外である。

ただし、過失犯(結果的加重犯は除く)、正当行為、正当防衛による被害は除外されうる。

もっとも、緊急避難による被害、責任無能力者による被害、刑事未成年による被害は対象 者に含まれる182

② 犯罪被害者等給付金の種類

犯罪被害者等給付金の支給について、遺族給付金、重傷給付金、および障害給付金、3種 類が含まれている(犯給法4条)。

a.遺族給付金

いわゆる遺族給付金は、犯罪行為により被害者が死亡した場合に、遺族に対し、死亡一 時金を給付するという措置である。支給を受けられる対象および順位は、以下の通りであ る。

ア)1)事実婚を含む配偶者(同法5条1項1号)、

イ)被害者の収入によって成型を維持していた被害者の、2)子、3)父母、4)孫、5)

祖父母、6)兄弟姉妹(同法5条1項2号)、

ウ)被害者の収入によって生計を維持しているものではない被害者の、7)子、8)父母、

182 岡村ほか・前掲(77)書308頁。

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9)孫、10)祖父母、11)兄弟姉妹(同法5条1項3号)

通常は、1)が第1順位である。1)が存在しないとき、2)が第1順位となる。1)も2)

も不存在のときは、3)が第1順位になる。以下は同じである(同法5条3項)。

注目に値すべきであるのは、遺族給付金を支給する場合に、養父母および胎児のことも 配慮することである。父母においては、養父母を優先して実父母を後にするとされている

(同法5条3項)。胎児は、出生すれば、子とみなす(同法5条2項)。

給付金の算定方法として、扶養者の数、年齢によって決められているものである(施行 令5条)。

b.重傷給付金

重傷給付金とは、犯罪行為によって被害者を重傷させる場合に、被害者に対して、医療 費や休業損害を一定限度で給付されるものである。

支給を受けられる人は、犯罪行為によって重傷者を負った被害者本人である。具体的に は、当該負傷または疾病の療養の期間が1か月以上で、かつ、3日以上病院に入院すること を要した。当該疾病が精神疾病である場合にあっては、その症状の程度が給付期間内に 3 日以上労務に服することができない程度であったこととする(同法2条5項、施行令1条、

7条)。

重傷病給付金の給付額は、負傷・疾病から 3 年間の保険診療による医療費の自分負担部 分と休業損害を考慮した額を加算して、最大 120 万円まで支給されるものである(同法 9 条2項ないし4項、施行令13条)。

c.障害給付金

障害給付金は、犯罪行為により障害が残った被害者本人に対して、後遺障害の等級の程 度に応じて一時金を支給する措置である(同法4条3号)。

給付額は、医師の診断書により、給付されることなる。等級の程度と年齢により、給付 額が異なっている(同法9条7項、施行令4条、15条)。

③ 不支給となる場合

当該制度を設立したときは、被害者と加害者の親族関係(密接関係者)、犯罪誘発の程度 を考慮し、全部不支給、もしくはある程度の減額することができる。または、犯給法 9 条

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の規定による支給することが社会通念に合わないと認められるときは、犯罪被害者等給付 金の全部または一部を支給しないとされている。

④ 給付金に関する手続

被害に遭ったことで給付金を申請する場合、申請者の所在地を管轄する都道府県公安委 員会に申請し、その裁定を受けなければならない(同法 10条 1 項)。当該犯罪行為による 死亡、重傷病もしくは障害の発生を知った日から 2 年を経過したとき、または当該死亡、

重傷病もしくは障害が発生した日から7年を経過したときは、申請することができない(同 法10 条 2 項)。当該犯罪行為の加害者により身体の自由を不当に拘束されていたことその 他のやむを得ない理由により、期間を超えて申請をすることができなくなる場合には、そ の理由のやんだ日から6月に限り、申請することができるとされている(同法10条3項)。 犯罪被害者等給付金の支給を受ける権利は、2年間行わないときは、時効により消滅するこ とになる(同法16条)。

犯罪行為の加害者を知ることができず、または犯罪被害者の障害の程度が明らかでない 等当該犯罪被害に係る事実関係に関し、速やかに裁定をすることができない事情があると きは、当該給付金の申請をした者は、給付金相当額の3文の1を上限としている(同法12 条)。

被害者は、国家公安委員会の裁定に不服であれば、審査請求の権利を享有し、また裁判 所へ裁定の取消訴訟を求めることができる(同法21条)。

小括一

中国の犯罪被害者給付金制度の取り組みは、その立法の基本構造から見れば、対象者、

給付金の種類、不支給となる場合、および支給の手続などの諸点において、日本の犯罪給 付金制度の一部を導入することが可能である。当該制度を導入する際に、もっとも、補償