第三章 日中におけるビデオリンク方式による裁判の比較
第 2 節 ビデオリンク方式による裁判の実施
3 ビデオリンク方式および遮へい措置の併用
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小括一
概括的な評価を加えると、寧波規定は、遠隔地で裁判を行うとした場合、適用事件、適 用対象などの諸点、また、証拠を識別すること、不具合が発生する時の救済などの場合に おいて、それらの多少の不備を補うことを肯定する意味合いをもつものと理解すべきであ る。目下のところ、この規定を実施した結果として、被告人を護送するために要する時間 やコスト等の負担が軽減されるということがあり、そのことは、訴訟経済の実現に貢献す るとともに、司法の効率化等の向上にもつながるものと考えられる。
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るために、ビデオリンク方式および遮へい措置を併用することを決めた。以上が、この事 件の概要である。
⑵ 弁護士の反対意見
被告人の弁護人の1人として、、刑事弁護士である翟建(氏)は、警察官が証人として出 頭証言をすることは、法的な根拠が曖昧であり、その上、当該事件の捜査を担当する王(氏)
警察官が証人の役割を果たすのは、公正な裁判に反するものであることを理由として、出 頭証言することは当然回避すべきという指摘をするに至った。
⑶ 裁判官の見解を支える理由
裁判官は、1996年中華人民共和国刑事訴訟法42条1項によれば、事件の状況を知る者は、
すべて、証言する義務を負うというべきであることを指摘した。それを前提として、麻薬 販売事件の秘密性、捜査の緊急性および証拠の隠滅可能性などの諸点を勘案すれば、王(氏)
警察官らは、本件における唯一の目撃者として考えられるため、出頭義務を負うことは当 然であるという解釈が妥当であることになる。
また、本件において、被告人である王(氏)は、罪を終始一貫否認したことから、取調 べによる供述調書の作成などが困難となっており、かつ、本件の捜査を担当する王(氏)
警察官の出頭証言を求めることは、直接主義を徹底的に実行し、事案の真相を明らかにし、
公正な裁判が害されないという趣旨を踏襲するものでもある。
引き続き、警察官の回避理由について、1996年中華人民共和国28条に基づくと、(一)
当該事件の当事者または当事者の近親者であるとき、(二)本人またはその近親者が当該事 件と利害関係を有するとき、(三)当該事件について証人、鑑定人、弁護人または訴訟代理 人となったとき、(四)当該事件の当事者とその他の関係を有し、事件の公正な処理に影響 を与える可能性のあるとき、以上いずれかの事由の 1 つに該当する場合には、裁判員、検 察員および捜査員は自ら回避すべきか、もしくはその法定代理人の要求によって、出頭証 言を回避すると定めている。当該事件の状況を踏まえると、本件における証人である王(氏)
警察官を回避させるという事由は、上述のいずれの場合も満たすことはなく、手続法定主
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義という原則に照らせば、回避は成立しないとすべきである。
最後に、ビデオリンク方式および遮へい措置を採用することについては、2012年刑事訴 訟法の改正以前には、明確な根拠がなかったと認めせざるをえない。だが、それらの措置 を講ずる理由は、証人の出頭を確保するために、かつ麻薬販売事件の重大性、捜査人員の 身分の秘密性、捜査人員およびその家族の要保護性などの諸点から総合的に考慮したもの である。
⑷ 出頭証言のモデル
裁判を開始の30分以前に、当該事件を担当する麻薬捜査官である王(氏)警察官は、係 員の案内のもとで、上海市第一中級人民法院にようやく到着し、当該人民法院のビデオリ ンク専門室に入室した。それから、証言をする際には、証人の容貌にモザイクをかけて、
長さ52寸のディスプレイスクリンーに映像を送った。証人としての王(氏)は、出頭証言 をした後、ひそかに人民法院を離れた。王(氏)の個人情報については、上海市第一中級 人民法院の少数の係員を除いて、他人に知らせないようにされていた。
⑸ 各関係者の見解
① 証人として王(氏)の見解
王(氏)は警察官として、長期にわたり犯罪者と接触する。証人として出頭証言をす ることによって、捜査官の身分や情報などが外部に漏らされるという懸念がある以上、
将来の業務に支障をきたすという可能性がある。ビデオリンク方式と遮へい措置を併用 することは、人身の安全を保障することができるというだけでなく、将来の仕事に専念 できる措置であると感じる。
② 裁判官の見解
上海第一中級人民法院の統計によると、従来の刑事事件を審理する場合において、確実 な証人が存する事件は、80%を超える。しかし、裁判を行うにあたり、証人が出頭証言す る事件は、5%未満である。証人の不出頭は、ある事件における鍵となる問題がはっきりし
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なくなるという結果をもたらす。実務においては、書面証拠を用いる場合がしばしば見ら れる。こうしたやり方は、その一方では、直接主義に反するものと認められ、真実の究明 に役に立たないというべきである。もう一方では、書面証拠に載せられている証人の証言 は、多くの場合において、公訴提起側の証拠となり、むしろ、被告人への実質的な弁護権 を剥奪するものになると言わざるをえないであろう。
捜査人員の出頭証言を求めることに関して、上海第一中級人民法院の副院長である黄祥 青(氏)は、裁判段階における警察官の冒頭陳述をするにあたり、警察官は、証人を同一 視すべきであると指摘している。
③ 弁護士の見解
北京の弁護士である田文昌(氏)は、記者の取材を受けるにあたり、裁判官とほぼ同じ ような憂慮を抱いている。当事者主義のもとで平等な法の担い手を手続に従って解決する という視点に立脚すると、中国の司法の現状は、書面証拠をもって証人の出頭証言に代え る場合が多いため、弁護士の役割を大いに弱める結果となっている。この問題を解決でき ないと、法廷での弁護権の実施を含む制度の構築は、実現することができないと考える。
判決が下された後で、被告人の弁護人である翟建(氏)は裁判廷外で記者の取材を受け た。翟建(氏)は、被告人の弁護人を担当したが、ビデオリンク方式および遮へい措置の 併用は、証人保護に資するものの1つとして認めせざるをえないとした。
④ 学界の見解
華東政法大学の叶青教授は、中国の既存の法律上の条文からみれば、遮へい措置に関し て正当化根拠がないとする124。もっとも、国外の先進的な経験を中国の司法実務に導入する ことは、中国における裁判制度の改革・整備などにおいて積極的な意義を持つと述べてい る。
当日、傍聴に来ていた華東政法大学の王俊民教授は、ビデオリンク方式および遮へい措
124 遮蔽措置は、2012年刑事訴訟法を契機として、明文化されている。
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置を併用的に講ずることは、証人の出頭証言を求めることができるため、直接主義という 原則を徹底していくに資するものといえようとの見解を示している。
⑹ 証人の同一性への疑い
ビデオリンク方式および遮へい措置を併用的に用いつつ、証人尋問を実施する際の留意 点は、証人の容貌にモザイクをかけるという形で行うため、被告人と証人は、相互に相手 の状態を直接見えないようになるということである。それによって、学者や法律専門人員 の一部は、証人の同一性への疑念が生ずると指摘する。すなわち、証人の身分や容貌など を確定することができないため、裁判官は、勝手に 1 人に呼びかけて、証言させることが できることが懸念されるのである。
これに応じて、余剣(氏)裁判官は、裁判を行う際にして、証人の身分を確認すること はなったものの、証人の出頭証言を求める前に、証人の身分や証人適格などをあらかじめ 確認していた。それに加えて、上海第一中級人民法院のやり方によれば、証人が出頭証言 をする前に、保証書への署名を要求することとしている。
小括二
筆者は、ビデオリンク方式および遮へい措置の併用は、証人出頭の確保に関して解決策 の 1 つになりうるものとして考えている。しかし、上海第一中級人民法院のやり方では、
証人の容貌、振る舞いなどを観察することができないため、自由心証主義に反するものと して、被告人の弁護権、また証人審問権への侵害という問題が生じうるように思われる。