• 検索結果がありません。

第三章 日中におけるビデオリンク方式による裁判の比較

第 1 節 立法の経緯

1 民事訴訟法におけるビデオリンク方式による証人尋問の創設

2001年12月6日に、『最高人民法院による民事訴訟の証拠に関する若干の規定』が最高 人民法院裁判委員会第1201回会議で可決され、翌年4月1日から施行された。

同規定55条、56条によれば、民事訴訟活動においては、原則として証人が出頭して証言 する義務を負うべきであるが、特別の事由がある限り、証人を出頭証言させることが困難 であることが確実である場合には、人民法院の許可によって、書面証拠、または視聴資料 を提供し、ビデオリンク方式による証人尋問を行うことができると規定することとされた。

具体的な情況として、①高齢であるために衰え、または動作が不自由であるため、出頭証 言することができない者、②特別の職場に駆けつけるため、その職場を離れることはでき ない者、③遠隔地で、交通が不便であることによって、出頭証言することができない者、

④自然災害などの不可抗力の原因によって、出頭証言することができない者、⑤その他の 特別の情況により、出頭証言することができない者など、が含まれている106

法院は、裁判の情報化を巡り、8つの省(市)で実施的に行うようになった。近年来、こういった方法は、

全国に普及が進み、それによって、中級人民法院以上の裁判所は、情報化の施工を完了した。基層人民法 院のうち、ビデオリンク方式を通じて裁判を行うことができるのは、3分の1を超える、という実態があ る。

106 2012年民事訴訟法73条は、ほぼ同じ条文を付け加える。

84

2 司法領域におけるビデオリンク技術の運用

このような司法領域におけるビデオリンク技術の初運用は、民事訴訟活動において行わ れた。証人が、遠隔地に居住していることなどを理由として、ライブ映像を送りながら証 言することが、許されることとなった。それをきっかけとして、刑事訴訟活動、民事訴訟 活動、知的財産権訴訟活動などの諸活動において、広く、弾力性に富んだ運用がされるよ うになる。

メディアの報道に基づき、ビデオリンク方式を採用した裁判例の一部を挙げると、以下 のとおり(表Ⅰ)である107

(表Ⅰ)ビデオリンク方式を用いる裁判事件

時間 地区 管轄法院 審判等級 事由 1 2006年年末 福建省 沙県人民法院 民事一審 離婚調停108 2 2007年2月 福建省 沙県人民法院 民事一審 民間貸借109 3 2007年4月 江蘇省 蘇州工業園区法院 民事一審 離婚調停110 4 2007年11月 江蘇省 江蘇省高級人民法院 行政二審 国家賠償111 5 2007年11月 上海市 第一中級人民法院 刑事二審 窃盗112 6 2008年4月 北京市 最高人民法院 死刑照合 麻薬販売113

107 謝欣「遠程審判:伝統与現実的碰撞」(華東政法大学2009年修士論文)この表の作成については、その

一部は、謝欣(氏)の論文の10頁を参照し、それ以外の事例は、独自で収集されて作成した。

108 蒋秀娟=牛昊天「網絡法廷到底能不能審案」『科技日報』200743日第4版。当該事件の双方は、

遠距離でビデオリンク方式を用いて裁判を行うようになった。

109 蒋ほか・前掲(108)。当該事件の証人は、遠隔地に住むとして、ビデオリンク方式による証人尋問を行

うようになった。

110 「応用RADVISION視頻会議系統—江蘇法院成功進行首例遠程審案」『計算機与網絡』200712期。離婚 調停の一方は、海外に住んでいることから、テレビ会議で裁判を行うことが許された。

111 李劼=衛建萍「網絡視頻完成廷審、便利便民百姓受益—上海一中院遠程審判提昇効率」『人民法院報』2007

1128日第1版。

112 胡国強=来羽「西湖法院試水遠程審判」『民主与法制』200816期。

85

7 2008年6月 浙江省 杭州西湖人民法院 刑事一審 強盗114

8 2009年8月 北京市 豊台区人民法院 民事一審 小運送によるト ラブル115

9 2010年2月 浙江省 寧波海曙区人民法院 刑事一審 交通事犯116

まとめて言うと、ビデオリンク方式による裁判の背景にあるのは、近年来、人民法院の 業務が日増しに加重なものとなり、同一時間帯において複数の事件があった場合などには、

一時的に対応のための人手が回らなくなり、人員が足りない場面が多く生ずるという事態 である。

それだけではなく、多くの場合、ビデオリンク方式が適用される刑事事件は、上訴審法 院での審理におけるものである。すなわち、刑事留置施設が、上訴裁判所から遠く離れて いるような場合、被告人を裁判所に護送することには、かなり時間を要することから、万 が一交通渋滞であるとか、被告人が逃走するなどといったことがあると、そういった原因 により、刑事裁判が滞ってしまうことになる。

民事訴訟などの諸活動においては、重大な災害で被害を受け、重い病気またはケガなど のやむをえない理由があって、出頭することができない場合において、当事者や証人など の出頭を強制することは困難だと考えられる。さらに、証人の立場に立てば、出頭証言す ることに要する時間や金銭的負担などを考慮するならば、「不出頭」をという選択をするこ とにになりやすい。

したがって、遠隔地で行われる裁判で、ビデオリンク、テレビ会議などを活用すること

113 張・前掲(105)記事。2008425日に、最高人民法院は、留置場にいる麻薬販売罪の被告人である

蒋氏に対して、再審理を行うとして、ビデオリンク方式を用いることにした。

114 衛建萍「上海遠程審理、有技術更有規則」『人民法院報』2008116日第1版。

115 孫文曄「法院首次採用網絡視頻作証」北京日報2009827日。事件の概要は、北京に住んでいる王

氏は、携帯電話の運送をするために、ある物流会社に依頼した。しかし、受取人は当該荷物を受け取る際 にして、小包内にデータケーブルしかなく、携帯電話がなかった。当該事件に関する証人はすべて、はる か遠くの上海に住んでいることから、裁判官の許可によって、ビデオリンク方式を用いて審理が行われた。

116 何蒋勇「浙江寧波一法院首次利用数字法廷開展遠程審判」中国新聞網2010226日。

http://www.chinanews.com/it/news/2010/02-26/2141444.shtml最終閲覧日は、201888日である。

86

は、司法資源の不足という問題状況を軽減し、時間やコストなどの省力化につながり、大 変有益であると考えられる(表Ⅱ)117

上海市第一中級人民法院は上訴事件を審理する費用118 伝統的な裁判方

ビデオリンクによる裁 判方式

差額

警察人数(人数) 358.7 111 247.7 パトカー(台数) 90.1 27 63.1 距離(キロメートル) 27,030 8,100 18,930 油消耗量(リットル) 3,513.9 972 2,541.9 燃料費(元) 21,188.82 5,862 15,326.82

この時点では、ビデオリンク方式が適用される事件としては、主に民事裁判、刑事控訴 審などにおける訴訟活動が対象とされるようになっていた。しかしながら、2012 年刑事訴 訟法が成立する前は、刑事訴訟活動におけるビデオリンク方式による証人尋問(裁判)に ついては、法的な根拠が曖昧なままであった。だからこそ、このような措置を採用する裁 判官は、海外の先進的な経験を参照し、そこで採用されている方式を用いるようになった。

3 2012 年の法改正

2012年に改正された現行刑訴法62条の2によれば、国家の安全に危害を及ぼす犯罪、テ

117 李佳「遠程視頻審判—以刑事訴訟為中心」(西南政法大学2013年修士論文)12頁。

118 潘福仁『審判機制的構建与完善』(2009年・上海交通大学出版会)39頁。統計によれば、200812 まで、上海第一中級人民法院は、ビデオリンク技術を用いて処理した審理は85件であった。そのうち、被 告人は179人であり、平均で1つの事件あたり被告人が2.11人であった。一般的に、被告人を護送するた めに、少なくとも警察人員3名、パトカー1台が必要とされる。被告人専用護送車の利用は、原則として 被告人2名を超えてはならない。危険人物を護送する場合には、少なくとも警察人員7〜8名、パトカー2 台が必要とされる。

87

ロ犯罪、組織犯罪または薬物犯罪等の事件の訴訟を行う場合に、証人、鑑定人または被害 者が出廷して証言する際に、本人の容姿または音声等を識別できないようにすると規定さ れている。それから、ビデオリンク方式による証人尋問という措置については、明文では 言及していないが、その正当化根拠にとして、同法62条の5にいう「その他の必要な措置」

の1つとして講ずることができるとする理解が妥当である。

しかし、ビデオリンク方式による証人尋問を行うとしても、どのような証人に、このよ うな方式での出頭証言を許容するのか、どのような事件でこの方式が認められるかという 問題が残されている。他方で、ビデオリンク方式で裁判を行う場合において、証拠を識別 する際にして、証拠の信用性への疑いが生じ、その証明力が損なわれるという状況の存在 が指摘されるようになる119