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観光ガイドを取り扱う修士・博士論文の概要

第 2 章 中国観光ガイドの育成を対象にした先行研究のレビュー

第 3 節 観光ガイドを取り扱う修士・博士論文の概要

前節では,観光ガイドをテーマとして定期刊行物文献に掲載された先行研究の概要をま とめた.そこで,本節では,観光ガイドを取り扱う合計

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件の修士・博士学位論文の概要 を紹介する.

これら研究の内訳をみると,観光ガイドの給与(例えば,孫帷韬:2013など),コンピテン シー(例えば,呉剛:2007など),職業倦怠(例えば,彭姣飛:2009など),職業満足度(例えば,

郭燕:2006など),職業倫理(例えば,史颹:2013など)や人材管理(例えば,黄慶紅:2006など)

などが研究の主流であることがわかる.

(1) 観光ガイドの給与に関連する研究(7件)

観光ガイドの給与に関連する先行研究としては,以下の

7

件がある(表2-12参照)

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2-11 観光ガイドの給与に関連する先行研究一覧

1.安剛強(2007) 2.樊 飛(2009) 3.李小佳(2009) 4.李鵬学(2011)

5.苑暁赫(2010) 6.孫帷韬(2013) 7. 亮(2010) ―――

このうち安剛強(2007)は,「観光客が買い物活動を行っているとき,ガイドはリベートを 受け取り,観光客を欺き,誘惑し,強引的に買い物させている.この行為は公然と行われ,

観光業界に普遍的に存在している」と指摘している.

そして,安は,この問題を生み出した原因として,①観光ガイド自身の倫理感の低さ,② 観光業界全体の激しい競争,悪質な価格競争やコスト削減傾向の存在,③観光ガイドの待遇 の悪さ,④観光客に提供する買い物情報の偏り,⑤政府の監督と管理の欠如などを指摘する.

他方,樊飛(2009)は,「観光ガイドのリベート問題は,社会の焦点になっている.観光ガ イドのリベート問題の直接的な原因は,不合理的な給料メカニズムである.ガイドの給料は 保証されておらず,観光ガイドは,生活のためリベートを取らなければならない」といい,

このリベート問題の解決するためには,観光ガイドの給与問題を抜本的に改善する必要が あると主張した

また,李小佳(2009)は,「現在の観光ガイドは合法的な収入が低く,基本的な生活水準を 確保するのが困難である.また,その収入では,仕事の過程で費やされた精神および肉体労 働に報いることはできない.この状況は,観光ガイドの仕事への熱意とサービス品質を低下 させ,リベートを取るため,観光客を説得し,買い物させる行動を強いる.これは中国観光 業の健全な発展に影響を与えている」と述べている.

さらに,李鵬学(2011)は,「観光ガイドは,相応する報酬を得られず,買い物ガイドにな り下がっている.そして,それは,現在中国の観光ガイドの給与制度と関連している」とい う.そして,李は,観光ガイドの給与システムに内在する問題を,次のように指摘する.

①ガイドの収入構造が不合理である.

②ガイドの収入が極端に不安定である.

③ガイドの給与インセンティブメカニズムが十分ではない.

④ガイドの社会保障制度が不完全である.

⑤ガイドの所定外給与が著しく不足している.

これに対して,苑暁赫(2010)は,「改革開放以来,中国の観光業の急速な発展とともに,

観光ガイドの数も増えつつある.しかし,地元の観光資源と経済発展の影響を受け,観光ガ イドの収入も異なり,多くの問題に直面している」と指摘した.

そして,苑は,深圳と長春の観光ガイドの収入を比較検討し,それぞれの問題点を分析し

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た.さらに,観光ガイドの不合理な給与構造の形成理由として,①旅行社間の過当な競争,

②旅行社の観光ガイドに対する不適切な指導監督,③観光ガイド等級評定システムとその 給与制度との不一致などを指摘する.

他方,孫帷韬(2013)は,「中国旅行社間の団体ツアー価格の激しい競争が繰り広げられ ており,旅行社は観光ガイドのコストを下げることによって団体ツアーの価格を引き下げ ているため,観光ガイドの収入は観光客の観光消費に過度に依存し,観光ガイドと観光客 との間に矛盾が多発している」と述べ,「観光ガイドの所得の中で,固定給与は時間賃金 に属し,団体ツアー補助金は件別賃金に属し,委託代理契約の報酬,割戻しは違法な商業 賄賂に属し,チップは贈り物である」と述べている.

加えて,孔亮(2010)は,吉林省国際旅行社の観光ガイドとその給与制度には,①観光ガ イドの知識は狭く,全体的な質は低く,経験が不足している,②旅行社の観光ガイドは基本 給与がなく,社会保険がない.③観光ガイドは生活でのストレスが高く,サービスの質は低 いことが問題であるという.

(2) 観光ガイドのコンピテンシーに関連する研究(5

件)

観光ガイドのコンピテンシーに関連する先行研究を

5

件見出すことができた(表2-11 照)

2-12 観光ガイドのコンピテンシーに関連する先行研究一覧

1.呉 剛(2007) 2.朱 (2011) 3. 好(2012) 4.陳芬潔(2013) 5.蘭佳蓓(2011)

これらのうち呉剛(2007)は,現代の人的資源管理の概念に基づき,「SD旅行社」37の観 光ガイドを対象に,インタビュー調査とアンケート調査法を利用し,観光ガイドが有すべき 仕事への自信や対人関係の理解力などの

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個のコンピテンシー(能力)を抽出し,それら の有効性を他の観光企業で確認しながら,普遍的なコンピテンシーモデルを模索している.

そのなかで,呉は,「理想を抱き,高い道徳性をもち,かつ不断に変革を求め職務を遂行 しながら,体と精神が健康で,自律性,自信,人間関係の理解力,チームワーク,サービス 意識をもつことが,良い実績を挙げるために重要である」と結論付けていた.

そして,朱瑾(2011)は,資質の高い観光ガイドの特徴と観光ガイドの品質モデルの確立 が

LC

旅行社38の人材管理に占める重要性を分析した.

それを踏まえて,経営,サービス,技術,マーケティング担当者のコンピテンシーの特性 に基づき,

LC

旅行社の企業開発の戦略目標と人材管理計画の組み合わせを考慮し,実証的

37 河南省鄭州市に所在する旅行社

38 山東省臨沂市に所在する旅行社

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な調査手法を用いて,LC旅行社の観光ガイドの適任力モデルを確立した.

他方,李好(2012)は,「観光ガイドのコンピテンシー研究により,優れたパフォーマンス と平凡なそれと効果的に区別することができるようになり,観光ガイドの人材管理が効率 的・効果的に実施できるようになった」と指摘した.

そして,既存研究をレビューすることで,観光ガイドのコンピテンシー要素を収集し,イ ンタビュー法を用いて,この要素を取捨選択し,精緻化している.その結果,ガイド個人が 有する専門知識と教養,専門技術,職業倫理,個人のパーソナリティ,イニシアチブ,スト レス管理,紛争管理など

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個の因子によって,このコンピテンシーが構成されていると述 べている.

これに対して,陳芬潔(2013)は,観光ガイドのコンピテンシーには,

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個の要素がある といい,それらを因子分析により品質特性,文化特性,管理能力特性,広報技能,専門的な 態度特性,自己開発特性,人格特性といった

7

つのカテゴリーに分類する.そのうえで,観 光ガイドの能力評価指標システムを構築している.

さらに,蘭佳蓓(2011)は観光ガイドのコンピテンシーと職務成績との関係を考察してお り,そこから,①観光ガイドのコンピテンシーには,性格道徳,コミュニケーション技能,

サービス意識,専門知識,ストレス忍耐技巧,学習とイノベーション,団結と協力および思 考能力といった

8

つの要素がある,②コンピテンシーは職務成果と強い正の相関があるも のの,各コンピテンシー要素が職務成果のさまざまな次元に及ぼす影響度は大きく異なる ことを示した.

(3) 観光ガイドの離職に関連する研究(6

件)

観光ガイドの離職に関連する先行研究には,以下の

6

件がある(表2-13参照)

2-13 観光ガイドの離職に関連する先行研究一覧

1.王文傑(2010) 2.盧毓蓉(2010) 3.聂方園(2011)

4.毕迎春(2011) 5.李 森(2013) 6.彭雯娟(2014)

王文傑(2010)は,「観光ガイドの離職行動は,旅行社の人材の安定性に直接影響し,旅 行社の人的資源管理のコストを増加させる可能性がある.したがって,観光ガイドの離職行 動に対する研究は,観光ガイド管理分野において非常に重要な課題である」と指摘している.

そして,王は,山東省済寧市と青島市の観光ガイドを事例にして,その仕事満足度を高め,

離職率を減らすための以下の試案を提示した.

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①ガイドごとに異なる効果的なインセンティブを策定する.

②観光ガイド管理の法律と規制を改善し,その管理の仕組みを構築する.

③合理的な給与制度を確立し,観光ガイドの仕事への熱意を向上させる.

④観光企業を啓蒙し,観光ガイドの管理レベルを向上させる.

⑤世論の肯定的な評価を創出し,観光ガイドとしての誇りを高める.

また,聂方園(2011)は,「旅行社の観光ガイドは,ロイヤリティが低く,離職率が高いと いう現象があるため,いかに観光ガイドの流失を抑制するかは,旅行社の発展にとって非常 に重要で,長期的に意義のある問題である」と述べている.そして,聂は,旅行社の観光ガ イド離職の原因として,①旅行社と観光客との観光契約の不完全さによる観光ガイドが旅 行社と観光客との信頼関係の破壊,②観光ガイドという職業の性質,③観光ガイドとして再 就職の簡単さなどがあると述べている.

さらに,毕迎春(2011)は,「観光ガイドの質の不安定さと,それに起因する観光ガイドの 質向上の難しさは,観光開発を制限する長期的なボトルネックになっている」と指摘する.

そして,安徽省合肥市の観光ガイドを対象に行った調査を通じて,離職意向と,①仕事と 家庭生活の両立困難さは正の相関関係にある,②給与満足度は負の相関関係にあり,③職業 倦怠がこの相関関係の仲介役を果たしていることを明らかにした.

そのうえで,毕は,観光ガイドの離職を改善するために,①昇進システムの改善,②雇用 条件の改善,③家族生活と両立が可能になる人事政策の導入,④トレーニングの強化などを 提案している.

他方,李森(2013)は,山東省の

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都市にある旅行社で働く観光ガイドを対象に離職意向 を聴取している.その結果,全体的な離職意向が高いことに加え,かつ以下が分かった.

①離職意向は,観光ガイドの使用言語,勤務年数,資格等級,年齢との関係が強い.その なかでも,離職意向は,中国語観光ガイドは外国語観光ガイドより強く,勤務年数が

2

年以下のガイドは

2

年以上

5

年以下のガイドより高い,初級ガイドは中級ガイドより高 い,25歳以下のガイドは

26

以上のガイドより高いことが分かった.

②観光ガイドの離職意向は,観光ガイドの性別,結婚状況,雇用状況,仕事の種類,学歴,

年収との関係が弱い.

また李は,①ガイドという職業の特徴,②ガイド資格進級制度と旅行社内での昇進制度,

③旅行社の人事管理制度の不備,④旅行社へのガイドの低い帰属感,⑤人間関係が,ガイド の離職意向に影響を与えているという.

そして,李は,ガイドの離職を減らすために,①合理的で魅力的な給与と福利厚生制度を 導入する,②観光ガイドのキャリア開発を支援する,③トレーニングを強化する,④ガイド という仕事への正しい理解と正しい職業観を確立することが重要であると主張した.