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胃瘻造設後

ドキュメント内 JAIST Repository https://dspace.jaist.ac.jp/ (ページ 100-103)

5.3 調査結果

5.3.4 胃瘻造設後

調査期間中、A2が19日間のショートステイを利用すると聞き、出掛ける朝の様子 をフィールドワークするため、7:30から協力者宅を訪問した。W2は、ナイキの半袖 トレーニングシャツにパンツとアスリートそのものの身なりで、ルーチンとなってい る介護を次々にこなしており、訪ねたときには出掛けるための荷物はすでに玄関に準 備され、胃瘻の栄養滴下が丁度終わるところだった。筆者がA2に挨拶し、天気のこ

とや今日訪ねた理由について話すと、「ああ」と少し頷き、表情は変わらないが、わ かっていると答えているのではないかと感じさせるような眼差しを返してくれた。

W2 は胃瘻の用具を片付け、おむつを交換し、車椅子への移乗介助をし、A2 の協力 を得ながら着替えの介助をする。続いて口腔ケア用のコップ、歯ブラシ、鏡の乗った サイドテーブルを A2の前に置き、鏡を A2に見えるように立てて歯ブラシを麻痺の ない右手に持たせ、形だけ自分で歯磨きし、後はケアスポンジでW2が仕上げをする。

W2 が髪を梳かすと、A2 は見違えるようにきれいになった。流れるような手順で 8 時20 分頃には出掛ける準備を終え、A2の車椅子をテレビの見える位置に直す。W2 は、玄関の段差に車椅子を降ろすスロープを設置し、玄関を開け放ってショートステ イの迎えの電話を待つ。迎えがきて、W2の介助する車椅子で後ろ向きに外へ出るA2 と筆者は向かい合わせになり、室内から見送るかたちになった。ベッドにいるときに は想像できないほど凛としているA2の姿に驚き、思わず「わー、おきれいです」と 声を上げると、A2 はにっこりと微笑んで会釈し、車椅子ごと迎えの車に乗り込んで 出発した。

A2 を送り出すまでの W2の一連の作業は、どうすれば効率的かを考えるパズルを 楽しんでいるかのようにさえ見える。A2 の髪がきれいな栗色なのは、W2 がヘルパ ー講座で学んだベッド上の洗髪を応用して、2,3か月に1回ベッド上で染めているか らだという。リハビリ、入浴など、任せられることは専門職に任せ、一緒に家に居る ときは、A2 とともに楽しめることをやる。M2 はこうした W2 の介護を「半分趣味 でやってる」[2012.10.06,IC]と笑う。

W2: 介護って凄い長丁場じゃないですか。(中略)やっぱりゴールが見えないから、

毎日頑張ってても、こっちが倒れちゃう。体力が持たないんですよ。で、そう するとかなり手を抜く、家にいるときは。とりあえずリハビリに行ってるから

[2012.9.4,IC]。

胃瘻は、介護の負担を軽減する在宅介護の用具のひとつに組み込まれており、介護 において取り立てて意識されることはまったくない。しかし、それをA2がどう思っ ているかわからないというのがW2のジレンマになっている。

W2: あの年齢で強制的にオムツでしょ、おまけに口からは何も食べられない状態 で、(中略)周りは確かに、家族だったり友人だったりにすれば命が助かった って聞けば、生きていてよかったっていうのは当たり前なんですけど、でも、

本人にとって、仰向いたら仰向いたまんまで、人に動かしてもらわないと体が 動かない、寝返りひとつうてないわけだから、そういう状態になって、果たし て心の中で、どうなのかなと[2012.9.14,IC]。

W2: もしかすると倒れた時に、その、引き止めるんじゃなくて向こうへ送ってあ げ た 方 が ば あ ち ゃ ん に と っ て 、 も し か し た ら 幸 せ だ っ た か も し れ な い 。

[2012.9.14,IC]。

W2は、A2が「死んだ方がまし」「こんなになってまで生きていたくない」と思っ ているに違いないと推察しているが、それは、W2 自身の思いを A2に重ね合わせて いると解釈されるものでもあった。

W2: ばあちゃんが倒れたあとに、一応自分の意志をハッキリさせるために、救命 いらないって一筆書いて持ち歩いてます。(中略)排泄介助してもらうぐらい なら死んだ方がまし、胃瘻なんか付けて欲しくない」[2012.10.06,IC]

一方M2は、W2の主張に対し、自分自身が寝たきりになり全介護が必要になったと きどうして欲しいかについて、自分は「何も考えてない」と笑い、

M2: なんかなっちゃえば、本人の意思関係ないから(笑)結局、残った側の意思で すからお任せですね、その日の気分で(笑)。結局、金と手間の計算だから、

その段階にいくと本当に本人の都合じゃない。残る方の都合だから、残る方の 都合で判断してくれればいい[2012.10.06,IC]。

と語り、胃瘻についても、本人のためというよりは、介護する側のためにしてもらう という選択肢もある訳で、それを考えると、「下手に予め答えを出しておくような問 題じゃない」[2012.10.06,IC]というのがM2の主張であった。

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