第 4 章 中国の百貨店業界における聯営制の合理性
5 聯営制の継続性問題についての分析
近年、中国では多くの大型百貨店は聯営制の取引制度へと切り替わった。 聯営 は確実に百貨店側に経営リスクの回避、コストの削減、市場への対応等のメリッ トをもたらした。聯営のおかげで百貨店はこれまで大きな発展を遂げたといって も言い過言でない。しかし同時に、聯営の弊害も顕在化し、価格決定権の喪失、
収益力の低下、販売力の低下、売場の同質化等のデメリットも百貨店の経営面に 深刻な影響を与えている。聯営制は百貨店に良い影響をもたらす側面もあれば悪 い影響を与える側面もあるというのが現実である。そこで、今後、中国の百貨店 はどのような方向に向かうべきかについて、事例を挙げながら検討する。
5-1 百貨店の自主経営
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聯営制についての議論は、実業界でも学術界でも数多くの人がデメリットの指 摘に偏る傾向にある。聯営制が百貨店に経営上の弊害を及ぼしたことで、批判が 続々と出てきた。他方、百貨店の聯営制は、少なくとも20年近くにわたって機能 してきたことも事実である。実は自主経営にしろ、聯営にしろ、一定の歴史背景 の下で生成され、特定な経済状況の中で発展してきた。欧米でも 自主経営で苦し んでいる百貨店もあれば、中国では自主経営で成功した百貨店もある。以下、中 国の自主経営百貨店の成功例と失敗例を挙げ、取引慣行 の問題をさらに分析・検 討する。
5-1-1 自主経営の失敗例
中国の百貨店業界では「欧米型」と「日本型」という売場経営方式が存在して いると言われている。「欧米型」の百貨店は自ら商品の仕入れ・販売・在庫管理を 行い、売れ残りのリスクを負う自主経営方式を採用している。「日本型」の 売場経 営方式は委託仕入れと、それに伴う派遣店員制であり、百貨店が 売れ残りのリス クを持たない。「日本型」の売場経営方式はアジアで一般的に採用されている。「日 本型」の売場経営方式より「欧米型」の方はリスクが高い。百貨店 の自主経営の 比率はアメリカ80%、欧州50%、日本と韓国が20%を占めている8。しかし、欧・日・
韓の自主経営の百貨店が全部成功したとも言えず、失敗の百貨店も少なくない。
例えば、アメリカの大型百貨店 Neiman Marcus は自主経営を採用している百貨店 の一つであるが、依然として低迷の状態が続いている。1993年、マレーシアの大 型百貨店「百盛」は中国市場に参入した際に自主経営を行った が、年間 3,000 万 元程度の売上でしか達成できず経営不振になった。1995年、経営の内部調整で聯 営制に変わった。売上が 1.8 億元に達し、次第に不況の中から抜け出した。1995 年 9 月、大型百貨店「北京当代商城実業有限公司」(以下、北京当代商城と略記)
は北京市の中心「海淀区中関村」で開業した。当時は多くの百貨店が聯営制へ転 換する時期であった。北京当代商城は“統一仕入、統一会計、統一管理”等の聯 営の経営理念を徹底的に改革した。百貨店は仕入部、市場部、物流部、招商部等 部門を設立し、商品の仕入れ、販売、在庫管理を一貫してコントロールする。開 業当初、自主経営の比率が50%を超えた。しかし、このような徹底的な経営改革は 百貨店に著しい業績をもたらさないばかりか、厳格な制度は管理効率の低下をも
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たらした、また、ファッション・ブランドの単一化は集客力の低下を招いた。2000 年、自主経営の方式は市場への適応ができないため、「北京翠微集団」に買収され た。その後、「北京当代商城」は内部改革を実施し、聯営へと転換した。転換後の 北京当代商城は2008 年の売上は 11.8 億元に達し、2009 年は 12.5億元、前年比
で5.67%増加した。現在、自主経営の比率は 10%以下、聯営の比率は 90%以上を占
めている。10 年間、北京市大型百貨店の売上ランキング 10 位以内を保ち続けて いる(李、2010、10-11頁)。
5-1-2 自主経営の成功例
周知の通り、百貨店は数万種の商品を取り扱うので、経営能力が弱い場合、 自 主経営は百貨店に大きなリスクを与える可能性が極めて高い。しかし、中国では 自主経営を採用した百貨店の成功例もいくつかが挙げられる。
「北京菜市口百貨商場」(以下、菜百と略記)は自主経営を採用する大型百貨店 の成功例の一つである。菜百は1985年、北京で開業し、主に黄金、銀、プラチナ、
ダイヤモンド等の真珠や宝石類の装飾品を主に販売する小売業の1つである。現 在、菜百の取り扱う宝飾品は10万種あり、北京では最大の宝飾品の百貨店である。
菜百では宝飾品はすべて自主経営の商品であり、その比率が全商品の80%以上を占 めている。2008年、単体店舗の売上は34.51億元に達し、中で宝飾品が34.00億 元もあり、全売上の 98%を占めている。2009 年の売上は 45 億元に達し、北京百 貨店のランキングの1位に名を連ねる9。一般的に宝飾品は消費目的の品でもあり、
投資目的の品でもある。菜百は宝飾品の社会消費品と社会投資品のあいまいな点 を掴んで集中的にこの商品カテゴリーの自主経営を発展させた。20年間、宝飾品 の売上は連続で 1 位を占めている。一品目の商品が店舗売上の大部分を占めると 百貨店の特徴である「多様な商品の扱い」は失われ、専門店の特徴を帯びるよう になった。菜百自主経営の成功例から、百貨店側がある品目の商品を自主経営し、
成功を遂げることができることが分かる。
香港の「連卡佛」、「邢台家楽園」と「黄驊信誉楼」は自主経営の成功例として あげられる。香港の連卡佛は中国に進出した時、自主経営を採用し、商品の 90%
が自己仕入である。連卡佛はブランドの仕入れについて「二八原則」に従い、す なわち、20%のブランドは 80%の収益を出す、80%のブランドは 20%の顧客を満
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足させるという原則である。ブランドの面も差別化を重視し、高利潤化を実現し た。
邢台市の家楽園と黄驊市の信誉楼は中国の 2 級都市河北省にあり、近年は自主 経営への転換で全国に名を上げた。家楽園は百貨店を 2つの子業態に細分した、1 つは「平価10の自主経営」百貨店。もう1つは「精品11の聯営」。いわば、1・2 級 都市の「聯営」百貨店である。このような細分は「平価の自主経営」と「精品の 聯営」が市場で調和して発展することを目的としている。2009年まで3店の「平 価」を持ち、将来も増加の傾向が大きい。信誉楼は「自主経営、仕入と販売の一 体化、正札付き、割引なし」を基本方針として中国の伝統百貨店の経営を続けて いる12。2009 年まで直営店、加盟店(FC)に合わせて 12 店舗を持っている。自 主経営のもとで、以下の戦略を実施している13。戦略①:報酬は能力と業績を基準 とする。信誉楼では各級マネージャと導購員(商品仕入れをする人 )の報酬は直 接百貨店の営業利益と関係なく、公平な考査と試験があり、従業員の能力と業績 を基準に昇進と報酬が決定される。この戦略を通じて従業員の意欲を高めてきた。
戦略②:2 つの経営系統による権限の委譲と監督の均衡。信誉楼には 2 つの経営系 統、「前勤」(主経営勤務)と「後勤」(後方勤務)がある。「前勤」では商品経営 の権限を「柜組主任」に委譲する。百貨店は各フロアーで経理を設置し、当該フ ロアーの「整体企画」(テナントについての調整等の企画)を実行する。各フロア ーでは商品の経営項目によっていくつかの商品部の経理を設置し、 本商品部の経 営管理を実施する。次に各商品部では商品のカテゴリーによっていくつかの「柜 組」に分けて、商品の仕入れ、販売、在庫、陳列の全体の流れを管理し、供給業 者の選択と従業員管理を行う。「柜組主任」は売場の最新情報を把握することがで きるので、迅速に顧客に満足する商品を導入することができる。「後勤」には「支 援部」と「財務管理室」が設置されており、「支援部」は主に「柜組」の業務を支 援する。たとえば、年末の「柜組」従業員の奨励(油、小麦粉、米等)配分や、
従業員のお昼弁当の予約等が挙げられる。「財務管理室」は主に「柜 組」の財務(売 価、在庫等)についての監督をする。「柜組」が仕入れの過程中でリベートの受け 取りや原価の虚偽報告等がないように監督の役割を果たしている。戦略③:独特の ストックオプション。2002年信誉楼は新公司規定を実施した。その枠組みは会社 での職務により株権を授与し、職務が変われば株権も変わる。また、定年また退
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職の場合は株権が定年時の価値に換算され、百貨店側が回収することになる。こ のように、株権が永遠に企業内に残ることが確保でき、従業員はより多くの株権 収益を獲得するために主要な職務に全力を尽くし、そして、人材を集められる(図 4-2を参照)。
柜組主任:
〇仕入れ・販売・在庫・陳列 全体の管理
財務管理室:
〇柜組の財務の審 査
〇売価と在庫の価 格管理
〇仕入れのリベート と偽原価の防止 経営システム 前勤
フロアーマネージャー:
〇各フロアーの全体企画
商品部門マネージャー:
〇各商品の全体企画
後勤
支援部
〇柜組管理へ の支援業務
図4-2 信誉楼の二大経営システム
(出所):筆者作成。
5-2 聯営制の継続性についての分析
以上、自主経営の成功例と失敗例を挙げたが、成功する例があるから自主経営 すべき、失敗例があるから聯営すべきとは一概に言えない。では、ここで視角を かえて聯営の発展環境から再検討したい。厳密に言えば、聯営の発展は百貨店の 不況期の1990年代半ば以降である。当時では、新規出店や既存店の改造・増床ラ ッシュ等が大都市のオーバーストア現象を作りだしていた。その結果、当時消費 市場の受け入れる範囲を超え、市場への適応が出来なかった。また、政府の流通 開放政策による新しい国内小売業の出現や、外資企業の参入等によって競争環境 が急速に変わった。このような環境の中で、販売不振や業績悪化の店舗や、倒産 した店舗もあった。この時期の百貨店は利益が次第に減少した結果、経営のリス クが増えた。一方、多くの大型百貨店を建設したデ ィベロッパーは百貨店の経営 に長けていない。この状況の中で、百貨店は新しい収益方式に変えざるを得ない。
しかも、聯営制は百貨店にとって自ら経営せず、リスクを回避できるので、全