第 1 章 流通チャネル論の研究系譜
4 政治経済アプローチ
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軽視しやすい。また、環境的要因を軽視すればするほど、チャネル関係や管理が歴 史的にどう変化するかを説明できない。1980 年代以降、チャネルにおけるコスト や成果、利益配分といった経済的側面や、経済的および政治的な環境要因を 分析枠 組みに取り込む政治経済アプローチが注目されるようになった。
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れている。第 3 に、従来の実証研究は特定産業内における単一的なチャネル分析 に領域が限定されており、系統的な検証や関連理論分析にも限界がある。今後様々 な環境条件のもとにおける多様な流通ネットワークの体系的 なチャネル分析の必 要性を提案している(渡辺、1997、39 頁)。以上の指摘と相対の提案によって、
Stern & Reve(1980)は、外部の経済と政治力が相互に関係しながら社会システム を構成するという観点に基づき、全体を内部政治経済(internal political economy)
と外部政治経済(external political economy)という2つに分類し、 図1-3のよう な流通チャネルの分析枠組みを提示した。内部政治経済は、チャネル内部における 政治経済構造や諸機能全般を指し、例えば個々のチャネルメンバー間の取引構造 によってチャネル全体の経済効果やチャネルメンバーの経済調整が決定される状 況を指す。外部政治経済はチャネルを取り巻く政治、経済、文化、技術、関連企業 などチャネル外部者によるパワー資源の配分及びチャネル構成に及ぼす外部環境 諸要素を指している。Stern & Reveの研究は、社会的諸力だけでなく、経済環境も 分析の対象としたことや、チャネル内部のみならずそれと外部環境との相互作用 も分析した点が評価されている。
Ⅰ 内部政治経済 Ⅱ 外部政治経済
流通チャネル
① 内部経済
-内部経済構造
-内部経済過程
② 内部政治
-内部社会政治構造 ー内部社会政治過程
チャネル環境
① 外部経済
-外部経済環境
② 外部政治
-外部社会政治環境
図1-3 流通チャネル分析の政治経済フレームワーク
(注):矢印は相互作用の関係を示している。
(出所):Stern & Reve(1980)、54頁。
4-2 Arndt(1983)の研究
Arndt(1983)はStern & Reve(1980)の問題提起を受けながら、チャネルをマ
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ク ロ 的 な 視 点 か ら 捉 え る 政 治 経 済 フ レ ー ム ワ ー ク の 構 築 を 行 っ て い る 。Arndt
(1983)はこれまでの政治経済アプローチ研究の「政治と経済」、「外部と内部」
という基本概念に「環境」を新たな概念として加えて、表1-2のフレームワークを 提示している。Arndt(1983)の政治経済フレームワークは社会構成単位の政治経 済的な内部構造と過程、環境との関係、環境という 3 つの分野から構成されてい る。その環境の諸要素として市場への接近性と適応性、環境の異質性・複雑性、環 境への集中化と拡散化、および環境の急激な変化という指標を明示した。そして市 場への接近性を除いた他の 4 つの指標のレベルが上がる場合、市場の不確実性が 増大することを指摘している。
表1-2 政治経済アプローチにおける主要の構成要素
政治
経済
環境 環境との関係 内部構造と過程
<政治的関係> <内部政治>
·社会構成単位の目標
·パワー分布
·パワー資源
·境界把握ポジション
·コンフリクト管理機構
·依存関係
·組織間形態
·コントロール・メカニズム
<環境の諸要素>
<経済的関係> <内部経済>
·競争市場
·準統合システム
·垂直的マーケティングシステム
·社会構成単位の構造
·内部交換過程
·配分規則
·インセンティブシステム
·市場への接近性
·市場への適応性
·環境の異質性・複雑性
·環境への集中化と拡散化
·環境の急激な変化
(出所):Arndt(1983)、48頁。
4-3 Dwyer & Welsh(1985)の研究
Dwyer & Welsh(1985)は、戦略形成におけるマーケティング・チャネル決定の 重要度は個々の企業間の長期的な関係によって強まる点を主張している。さらに チャネルネットワークにおける製造業者の変更は、価格や販売促進戦略の変更よ りも困難である点をその一例として挙げている。よってチャネル決定に向けた戦 略の重要性について、環境与件としての不確実性に注目し、不確実な環境下におけ るチャネルの形成過程のモデルを提示した(図 1-4を参照)。これは、チャネルメ ンバー間の配置を通して、環境要素が直接または間接にチャネル内部の政治構造 やプロセスに影響を及ぼすことによって、段階的にチャネルが形成されることを
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表しており、環境特性――チャネル構成――内部政治構造と過程という流れに し たがって段階的に企業間ネットワークが形成される過程を示している。そして(1)
外部環境はチャネル形成に影響を及ぼす、(2)高い不確実性環境下では垂直統合 チャネルの形成が促進される、(3)政治経済アプローチにおいて企業間のパワー システム等に関するチャネル内部の政治力はチャネル内部の経済力を補完する、
(4)企業の事業規模、事業経験、特殊技術などの環境要因がチャネル形成に影響 を及ぼすという独自の見解を提示した。
<環境特性>
1.情報源泉としての環境
-不確実性、異質性
2.資源ストックとしての環境
-依存関係
<内部政治構造と過程>
1.チャネル決定構造
-集中化
-関係性
-形式化
-特殊化
2.チャネル決定の影響
<チャネルの構成>
図1-4 不確実な環境下におけるチャネル形成の流れ
(出所):Dwyer & Welsh(1985)、399頁。
政治経済アプローチは、従来のチャネル研究における企業間のチャネルダイア ドからの視点のみならず、外部環境としての経済的および政治的の諸要素を組み 入れることで、チャネル全体の包括的な説明を試みるとともに、取引コスト経済学 や条件適合理論(contingency theory)の適用が図られた20。しかしながら、正確性 を探求するミクロ経済学の分析アプローチとの比較 において、政治経済アプロー チの曖昧さと不完全性を残すという理論的限界が指摘されている 。そもそもミク ロ経済学と政治経済アプローチとは相互補完的な関係にあるべきであるが、それ をどのように統合しようとしているのかが問題として残されている。結局のとこ ろ、政治経済アプローチは従来のパワー・コンフリクト論に、取引コスト経済学を 外的に接木したようなものであり、経済的側面のうち最も重視されるべき市場競 争要因のチャネル関係に対する影響を考量したモデルとは言いがたく、パワー・コ
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ンフリクト論が抱える問題を基本的に受け継ぐことにな った(渡辺、1997、42頁)
という理論的な限界が見られる。このように、政治経済アプローチにおけるチャネ ル関係の捉え方は、パワー・コンフリクト論とのチャネル関係の捉え方とあまり変 わっていないため、1980年の政治経済アプローチはパワーに代えて影響力といっ た用語を用いることが多かった。