第 4 章 中国の百貨店業界における聯営制の合理性
3 百貨店の経営に対する聯営制への擁護および批判の検討
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近年、中国の大型百貨店の低収益問題の所在は聯営制にある、と多くの学者に 指摘され、聯営制に対してデメリットに偏る研究の傾向が強い。その結果 、多く の研究では百貨店が自主経営に回帰すべきとの指摘が強まっている。
聯営制についての擁護派は少数であるが、たとえば、崔馨予(2010)は、百貨 店のコストの回避の面から聯営のメリットを指摘した。彼によれば 、売れ残った 商品または見込み違いに対して百貨店が責任を負う必要がないという経営リスク の回避が可能であると指摘されている。また、自主経営の場合に比べて、少ない 資金にて多額の取引を行うことができると指摘した。李馥佳・李誠(2008)は人 件費と費用の面から「人件費を節約できるし 、聯営の百貨店はディベロッパー業 への転換を促進することもできる」と聯営制のメリットを述べた。また 、李飛(2010)
は「聯営すべきか自主経営すべきか、という経営方式が課題なのではなく、大事 なのは供給業者と百貨店との協業を通じて顧客ニーズに適合することである」と 指摘している。
一方で 、聯 営に つい て の批判 的な 研究 は多 数 存在し てい るが 、そ の 代表は 呉
(2000)と陳(2009)である。呉(2000)によれば、部門別管理は百貨店の重要 な特徴であり、伝統の自主経営から聯営に転換すると、仕入れ、販売、在庫等の 管理権が全部供給業者に移転するため百貨店のもともとの仕入部、販売部の専門 従業員と部門の意味がなくなり、百貨店の基本的な特徴が失われてしまう 。その 結果、百貨店側は仕入れ、販売、在庫管理等の機能を次第に喪失した。百貨店は 長期にわたって貯蓄した特有の技術も次第に弱体化させ、百貨店に低収益性をも たらした。
また、陳(2009)は聯営制の本質とその変遷過程を解明した上で、聯営制が百 貨店に「百貨店の経営能力の喪失」、「小売企業が担うべき社会的責任への疑問」
という経営問題をもたらしたと指摘している。彼によれば「百貨店の経営能力の 喪失」は主に商品の仕入れ・販売にかかわる経営能力の喪失 、サービス機能や能 力の劣化、店舗の同質化などの問題が挙げられている。「小売企業が担うべき社会 的責任への疑問」は、主に“中国製”商品の二重流通構造の形成と商品価格の上 昇、という問題を指している。陳は「まず商品の自主的マーチャンダイジングに より売場支配権を取り戻し、徐々に商品調達や企画・開発を自主的に行う。自主 MD売場を主としながら、テナント経営を併せて行うといった経営方式を模索する
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(陳、2009、97頁)」と自主経営への回帰を主張している。
近年、中国百貨店の低収益性について議論する際に、聯営の問題は百貨 店にお ける最も重要な経営課題として取り扱われている。 自主経営が百貨店の低収益性 を改善できる唯一の処方として、大多数の業界人及び学者たちに指摘された。例 えば、元中国経貿委内貿局局長は百貨店の聯営の弊害について「現在でも、中国 の伝統的な百貨店が優勢を保っている。しかし、百貨店は同質化しつつあり、同 業態間の価格競争もますます激しくなる。もし、自主経営に変わらなければ外資 百貨店が優勢になる可能性がある」3と述べた。また、少数の人が中国の現状から
「自主経営」の回帰の可能性について分析した。つまり、自主経営と自社PBの開 発は百貨店経営の唯一の活路であるが、現状の中国市場からみると 、百貨店は自 主経営するのが難しいという。聯営制の百貨店の経営上の弊害に関する議論が多 いが、従来の議論からもう少し踏み込んだ議論が必要であると考えられる。
4 聯営制の問題点についての検討
先にも述べたように、聯営の百貨店は経営リスクを回避すると同時に経営機能 も変化してきた。商品価格決定権や、売場支配権を失い、直接顧客にサービスを 提供することもなくなり、百貨店の同質化現象を引き起こすことを指摘した。本 節では聯営制が百貨店の経営に与えている問題点について検討する。
4-1 収益構造からみた取引慣行の問題点―経営技術と機能の衰退による収益の 低下
本来の自主経営の百貨店は仕入れ、販売、サービスの提供、在庫管理等の小売 機能を果たしている。聯営制の百貨店は、仕入れ、販売、在庫管理等の機能を次 第に喪失し、長らく貯蓄した特有の技術も次第に弱体化した。
百貨店の本質的特徴に関しては多くの学者達がこれまで指摘して いる4。その共 通点をまとめると、百貨店は多くの異なる商品部門から構成され 、この異なる商 品部門は百貨店の中に独立した売場を持ち、部門別に専門の仕入部と販売員が有 し、それぞれの部門が独立して会計を行う。この「部門別管理」は百貨店特有の 経営方式であり、百貨店にとって極めて重要な本質的特徴である。Pasdermadjian
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(1954)は「部門別管理」について「百貨店は非常に多くの様々な商品系統で構成 されるが、各々の商品系統は店舗内に独立した売場を持ち、それぞれ専門の仕入 係と販売要員を擁し、独立した会計がなされた」(片岡訳、1957、30 頁)と百貨 店の経営原理の一つとして指摘した。
聯営制は百貨店の本質的な特徴である部門別管理を否定する。百貨店は日用品 から流行性の高いアパレル、化粧品、装飾品等国内外の有名なブランド品の品揃 えを通じて、消費者の個性化・高級化の要求に対応することができ 、他業態との 差別化を図った。自主経営の百貨店は自ら商品の計画・開発、仕入れ等を通じて 顧客にサービスを提供する。一方、聯営百貨店においては経営の重点が仕入れ、
販売、在庫管理から「招商」(企業誘致)へと変わった。専門の仕入部と部門の管 理部の存在意義がなくなった。百貨店側からすれば様々なリスクを回避した結果 、 価格決定権の喪失、収益力の低下、販売力の低下、売場の同質化等基本的な能力 を次第に劣化させた。
4-1-1 百貨店の収益力についての検討
2010 年 3 月北京で行われた『第八届中国百貨店高峰論壇』で「北京当代商城」
(百貨店)の代表取締役社長の金玉華は、百貨店の収益性の悪化についてこう説 明した。「……近年たくさんのディベロッパーも百貨店業界へ参入し、小売資源の 供給が急速に増加したことに伴いブランド品の不足現象が起きた。小売業と供給 業の関係が逆になってきて、小売業が弱くなり、収益力が落下した。…近年、百 貨店の経営課題である聯営は収益水準の下落の一つの原因だ」5。近年、百貨店の 経営課題である聯営制は、百貨店の収益性低下の一つの原因として取り上げられ
ている。2004-2009 年の百貨店の売上総利益率は15%から20%まで増えたことに
伴い、当期純利益率も 2004年の1.78%から2009年の 4.01%へと上昇したが、そ
れでも5%に満たないという低収益性が現状である6。
百貨店の収益力とは百貨店が持つ、利益を上げるための力や仕組み等のことを 指す。ただし、単に売上を上げる力ではなく、営業利益を上げるための販売力、
コストの削減力、リスクの回避力等の総合的なことを指す。近年 、多くの大型百 貨店は自身の知名度を高めるため、有名なブランドを競って誘致した結果、小売 業者と供給業者の関係が逆になってきて、小売業が弱くなった。聯営の元で百貨
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店の収益力も変化してきた。周知のように、百貨店はほかの小売業より、商品の 高級化、ファッション性、個性等の特徴を持っているので、売上も高いといわれ ている。しかし、中国の大型百貨店では聯営の比率が 80~100%で高く、聯営控 点による利益を獲得するため収益も一定の範囲内にとどまり 、百貨店は売上利益 率に対するコントロール能力も低下していた。それによって 、収益率は国外の同 水準の百貨店より低く、平均の売上総利益率は20%程度である。
4-1-2 「聯営控点」による収益についての検討
中国の大型百貨店の売場の運営形態は前述したように「自主経営」、「聯営」、「カ ウンターの賃貸」の 3 つがある。自主経営の下で、百貨店は主に仕入と販売の利 鞘を稼ぐことで利潤の確保が実現できる。聯営の下では「聯営控点」(「控率」と も呼ぶ)を通じて利益を得る。「聯営控点」に影響する要因は3つある。1つは商 品の種類である。百貨店では一般的に服飾類の売上比率が大きく 、平均「控率」
も一番高い商品である。生鮮食品、電子機器類は自主経営の比率が小さく、「控率」
も低い(表 4-2 を参照)。二つ目は店舗の成熟度。新規オープンした店舗の場合、
供給業者との聯営が難しいため、「控率」は低く設定され、逆に既存の店舗は「控 率」が高い。三つ目は立地である。大都市では百貨店の立地が重要である。一般 的に不動産の価値が高いところで「控率」が高い。1 級都市では高く、2、3 級都 市では低い。
表4-2 百貨店の各種類商品の控率
商品の種類 「控率」(%) 商品の種類 「控率」(%)
化粧品 22-28 紳士靴 20-26
時計 8-13 紳士鞄 20-26
黄金・宝飾品 8-22 スポーツ 15-18
女性靴 22-26 子供服 16-23
女性鞄 22-28 ベッド用品 22-26
婦人服 22-28 小型家電用品 15-18
肌着 20-25 電子機器類 5-8
カシミヤ 18-26 小物(プレゼント等) 18-25
紳士服 20-26 雑貨 8-12
(出所):『百貨店合同費用標準匯総表』の資料に基づき筆者作成。