第 6 章 中国の家電流通システムの変遷過程と取引慣行
4 中国の家電量販店における取引慣行にかかわる問題
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チェーン小売業売上高の上位10社をまとめた表6-1によれば、トップ2社は家電 量販店の国美と蘇寧、3位と4位は大型スーパーの華潤万家と康成投資である。ま た、売上総額と店舗数からみても、国美と蘇寧の差は極めて小さい。国美は2002 年の64店から2014 年には1,698店に増加し、12年間で約 26倍も増えた。一方 で、蘇寧は2002年の134店から2014年には1,696店へ増加した。国美の年間売 上高も2002年の109億元から2014年の 1,435億元へと大幅に伸び、蘇寧の年間 売上高も2002年の 61億元から2014年の 1,428億元に大幅に増えた21。
表6-1 中国の小売チェーンストア上位企業の売上高と店舗数(2014 年)
順番 企業名 売上総額(億元) 業態 店舗数(店)
1 国美電器有限公司 1,435 家電量販店 1,698
2 蘇寧曇商股份有限公司 1,428 家電量販店 1,696
3 華潤万家有限公司 1,040 総合スーパー 4,127
4 康成投資(中国)有限公司 857 スーパー 304
5 ウォルマート(中国) 724 スーパー 411
6 山東省商業集団有限公司 639 百貨店等 638
7 聯華超市股份有限公司 618 スーパー 4,325
8 重慶商社(集団)有限公司 615 百貨店等 335
9 上海百聯集団股份有限公司 599 百貨店等 4,400
10 百勝餐飲集団中国事業部 507 スーパー 6,600
(出所):中国連鎖経営協会『2014年中国連鎖百強』、2015年版より筆者作成。
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効率化の実行という「組織能力(organizational capabilities)」を基盤として、圧倒 的なバイイング・パワーを発揮し、家電メーカーに対して商品調達面で圧倒的な 優越性を持つようになった(矢作編著、2011、225-228頁)。
それに対して、1990年代後半から、国美と蘇寧はヤマダ電機と同じように、多 店舗化により売上高の規模を拡大し、一級と二級の大都市で圧倒的なシェアを占 め、家電メーカーに対して圧倒的な優位な地位を持ち、家電流通チャネルでリー ダーシップを発揮している。しかしながら、第 2 節で述べたように、中国の家電 量販店業態は日本の家電量販店に近いカテゴリーの小売業態ではあるが、実はテ ナント管理が中心業務である。家電メーカーが店員を派遣して店頭で販売活動を 行っており、量販店の店員は一切販売の業務を行わない。中国の家電メーカーが 自らの派遣店員が販売価格の決定や在庫管理などの販売業務を行っているので、
家電量販店側には価格決定裁量の余地が小さく、このこ とがメーカーにとっては 価格の安定をもたらすとともに、ブランド・エクイティの維持と高揚に寄与して いる(関根、2014、208頁)。しかし、派遣店員制のもとで、各メーカーから派遣 された販売員は自社の収益のみに関心をもち、家電量販店全体の経営を気に掛け ないため、チェーンストアとしての組織能力の形成が困難であると考えられる。
したがって、中国の家電量販店は、ヤマダ電機のように、本来の意味でチェーン・
オペレーションの組織能力の卓越性によって急成長を遂げたとは言えない22。では、
中国の家電量販店が短期間でこれほどまで発展したのはなぜだろうか。この節で は、チャネルの垂直方向の問題をとらえる視角から、つまり、家電供給業者と量 販店との取引関係に焦点を当てて中国の家電量販店の急成長 の要因について分析 する。
近年、中国の家電量販店の発展は、供給業者に対する種々の利益圧迫によって 外部資金を獲得したことによってもたらされたことがいくつかの論文の中で指摘 されている23。すなわち、多くの大手家電量販店は、供給業者との取引関係を利用 して買掛金を延長させる方式と通道費を徴収する方式を通じて、その急成長に必 要な資金を調達し急成長を遂げた。以下では、国美と蘇寧を事例として、中国の 家電量販店がいかにこの 2 つの収益方式を活用して資金調達を実現したか論証す る。
4-1 買掛金を延長させる方式による経営資源の獲得
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中国では、そもそも計画経済の時代から売掛金の回収が大きな問題であったが、
計画経済から漸進的に市場経済へと移行するとともに、代金を支払わないという 現象が拡大し、社会問題になった。1980年代の流通体制改革により、企業を巡る 制度は激変した。それまでは計画にしたがってものを生産していればよかった企 業が、自ら価格の設定、商品の販売、そして代金の回収を行うような環境の中で、
商品を売ってもその代金が確保できないという状況が頻発していた。特に 1990年 代から、市場経済化の進展に対し、市場をサポートする制度が整備されず、経済 活動の急激な拡大に必要な資金が絶対的に不足したため、代金の回収が混乱する 状況に陥った。加えて、社会と企業、企業と企業の間の信用に関する共通認識が 全くできていなかった。家電産業においても、メーカーが乱立していた1990年代 において、販売が悪化し資金が足りなくなる と、部品メーカーへの支払いにも影 響した24。2000 年代以降、家電量販店は大量仕入れ・低価格販売により急速な発 展を遂げるため、供給業者への買掛金を延期させることで、必要な資金を確保す るようになった。中国では、商品代金の支払いは最長でも商品納入後 60日後に設 定されているが、多くの大手小売業者は自分のバイイング・パワーを行使し、期 日になっても支払サイトをさらに延長したり、場合によっては踏み倒したりする ことがよくある。中国の家電業界では、代金の支払い問題は従来から今日に至る までチャネルコンフリクトの一因である。
従来の家電小売業は主に売買差益によって収益を獲得する経営方式を採用して おり、供給業者との値段の掛け合いや費用の節約などを通じて、利潤の最大化を 実現した。近年、国美と蘇寧は規模の拡大と消費者への低価格の提供の市場戦略 を通じて、市場シェアを獲得すると同時にチャネル・パワーを獲得した。それに 加えて、売上規模の拡大に伴い、膨大な仕入れ量を背景に供給業者に支払いサイ トの延期を要求し、実質的に供給業者から短期融資をうけるような取引形態をと っている。中国の学術界ではこの取引形態は「類金融方式」(financial model)と呼 ばれている(姚・魏、2012、148頁)。国美と蘇寧はこの取引形態によって、店舗 拡大のための資金を無利息で調達している。実は国美と蘇寧の財務 諸表によると、
両会社とも資金調達の問題が次第に表面化している。図 6-7 と図 6-8 からわかる ように、両家電量販店の負債は流動負債を主としており、固定負債の比率が非常 に小さい。そして流動負債の中でも買掛金と支払手形の比率が非常に高いことか ら、両企業は供給業者の資金を長期間占有していることがわかる。しかし、供給
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業者の資金を長期間にわたって占有することで、企業内部の流動負債の増加や固 定負債の縮小という融資問題が発生するリスクが潜在している。つまり、外部資 金に過度に依存するリスクは極めて大きい。万一外部資金の供給チェーンが途絶 すると、資金調達がたちどころに行き詰まる可能性が大きい。なお、中国の商業 部が公布した『小売業者と供給業者における公平取引管理弁法』では、代金支払 い期限は最長でも商品受領後60日を超えてはならないと規定されているが、国美 は最長でも90日まで延長することが普通である。このことは、近年、家電供給業 者との関係を一層悪化させている。
図6-7 国美と蘇寧の流動負債と総負債の比率の推移(%)
(出所):国美と蘇寧の年次報告書各年版をもとに、筆者作成。
95.54% 93.85%
80.59%
91.04%
99.54% 99.19%
100% 99.94% 99.76% 97.89%
87.84%
79.98%
0.00%
20.00%
40.00%
60.00%
80.00%
100.00%
120.00%
2004年 2006年 2008年 2010年 2012年 2014年
国美電器 蘇寧曇商
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図6-8 国美と蘇寧の買掛金および支払手形と総負債の比率の推移
(出所):同上。
4-2 通道費の徴収による経営資源の獲得
1990 年代半ば頃に家電量販店が導入した通道費という取引慣行が 2000 年代以 降、一種の普遍的な収益方式へと変質したことで、大きな問題が生じた。近年、
中国の学術界やビジネス界では国美と蘇寧の収益方式は既に「異常な状況」に陥 っていることがよく指摘されている。つまり、国美と蘇寧は売れ残りのリスクを 負いながら、売れ筋・死に筋を把握することで品揃えを改善するといった意欲や、
様々な費用引き下げによって経営効率化を図ろうとする意欲によって収益を改善 するのではなく、多くの費用を供給業者から徴収するという意欲で収益を改善し ようとしている。
2005年国美の営業外収益構成から見れば、供給業者から徴収した販売促進費が 50.7%を占めており、ほかに、商品管理費や入場費などの通道費も高い比率を占 めている(図6-9)。
85.32%
79.16%
68.73%
78.67% 78.49% 76.15%
76.91%
90.22%
85.80% 84.26%
72.67%
58.62%
0.00%
10.00%
20.00%
30.00%
40.00%
50.00%
60.00%
70.00%
80.00%
90.00%
100.00%
2004年 2006年 2008年 2010年 2012年 2014年
国美電器 蘇寧曇商
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図6-9 2005年国美の営業外収益構成
(出所):「国美・蘇寧類金融生存」『新財富』2005年第9期。
2006 年、北京市内にある国美の 34 店舗は売上高と関係なく、契約以外の費用 を1.1万元、うち祝賀行事手数料が0.01万元、販売雑費0.191万元、クレジット カード(蓝卡)費用が 0.054万元、広告費が 4.92万元など様々な名目で費用を徴 収した。福建省の福州国美中亭店では2006年の売上高が 94.98万元に達したにも かかわらず、契約以外の費用が 10.7 万元もあり、うち通道費が 10.5 万元を占め た。国美が徴収した通道費は陳列スペースの費用が大きな比率を占めていた。2007 年 3 月、国美は黒竜江省ハルビン市に出店した際、開業当日、多くの供給業者が 陳列スペースを確保するために当該ブランドの前年度の売上の 10%に当たる高額 の入場費を出していたという。南京市の国美店における通道費の徴収は最も高く、
陳列スペース費が 6 万元、販売の手数料が 1.896万元、販促費が 1.1 万元に達し ていた(呉・李、2005、32頁)。
2002年から、蘇寧のその他の業務利益は営業収益の増加に伴って急速に増えて きた。蘇寧の通道費の徴収は一般的に売上、商品の種類などによって異なる。浙 江省工商局の調査資料によれば、2002 年1 月から 2003年6 月まで、杭州雅各電 子有限公司と廈門夏新電子股份有限公司(杭州子会社)は蘇寧にそれぞれ 43.29
万元と31.80万元の電子製品を販売した一方で、蘇寧が雅各公司と夏新公司から、
リベート、販促陳列費等の通道費をそれぞれ13.81万元と7.96万元徴収した。2005 50.70%
13.10%
8.20%
6.20%
4.70%
9.10%
1.40%
6.70%
販売促進費
商品管理費 入場費
新製品の陳列手数料 供給業者側販促人員管理費 エアコンの設置費
加盟料 その他