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第 5 章 数学教師の省察に関する基礎的考察

第 3 節 行為についての省察の分析観点

5.3.4. 教師を取り巻く社会・文化的文脈

開発途上国における数学教師研究において, 教師を取り巻く社会・文化的文脈を無視す ることはできない。そこで, 開発途上国の教師を取り巻く文脈に関する先行研究として,

UNESCO(2004)の「教育の質の枠組み」とTIMSSの「文脈に関する枠組み」(Ina et al.,

2003)に注目し, そこで議論された文脈の内容を概観する。

(1) UNESCO(2004)の「教育の質の枠組み」における「文脈」

UNESCO(2004)は, 教育と社会のつながりについて次のように述べ, 教育が社会の変化

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試み(Trial)

行為(Action)

本質的な 諸相への 気づき

(Awareness of essential as-pects)

行為の振り返り

(Looking back on the action)

行為の選択肢の拡大

(Creating alternative methods of action)

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を促すことができると同時に, その教育自体は, 社会の価値観や考え方を大きく反映して いることを指摘した。

《教育と社会とのつながりは強固なものであり, 互いに影響を及ぼし合っている。教育は, 技能・

価値観・コミュニケーション・社会的移動(個人の機会と成功とのつながり)・社会的成功・自由を 改善・向上させることで, 社会の変化を促すことができる。しかしながら, 短期的には, 教育は通常, 社会をかなり強く反映する。つまり, 教育を特徴付ける価値観や考 え方は, 社会全体のものであ る。》(UNESCO, 2004, p.35)

そして UNESCO(2004)は, 開発途上国における教育と社会のつながりについて, 次の

ように述べ, 開発途上国においては, 制約された資源(人的・物的・経済的), 教育政策, さ らには国際援助(国際教育協力)といった社会的要因が, 教育の質に大きく影響すること を指摘した。

《同様に重要なことは, 教育が営まれる文脈が, 裕福な社会なのか, それとも貧困が蔓延する社会 なのかである。後者の場合, 教育のための資源を増やす機会は制約されるであろう。国家の教育政 策もまた, より直接的に, 影響力の大きい文脈を与える。例えば, 教育目標やその基準, カリキュラ ムや教師に関する政策は, 教育実践を制限する条件を設定する。こうした文脈上の状況は, 教育の 質に対して, 重要な潜在的影響を有している。国際援助の戦略もまた, 多くの開発途上国において 大きな影響を及ぼすものである。》(UNESCO, 2004, pp.35-36)

こうした教育と社会とのつながりを鑑み, UNESCO(2004)は, 「教育の質の理解・評価・

改善にむけた枠組み」を提示し, その中で, 「文脈(context)」にあたる様々な要因を表 5-13のように設定した。

表 5-13:教育の質の枠組みにおける「文脈」の内容

その共同体における 経済や労働市場の 情勢

社会文化的要因や宗 教的要因

(援助戦略)

教育的知識や必要な インフラ

教育のために利用可 能な公的資源

労働市場における教 職の競争力

国家の統治・経営戦略

教師や学習者の哲学 的観点

同僚間の影響

保護者の支援

学校教育やその宿題 のための時間

国家基準

国民の期待

労働市場の需要

国際化

(UNESCO, 2004, p.36より筆者作成)

この枠組みは, 教育の質を総合的に理解する上で役立つものであり, これまで十分配慮 することのできなかった, 教育の質に影響を及ぼす文脈に関する課題を顕在化する可能性 を有している。

(2) TIMSS の「文脈に関する枠組み」

TIMSSで提案された「文脈に関する枠組み(contextual framework)」を考察するため

に, ここではIna et al.(2003)に注目する。1959年から実施されてきた国際数学・理科教 育動向調査(TIMSS)の目的は, ①数学・理科の教育到達度(とその変化)の測定, ②児

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童・生徒の学習環境条件等の調査, ③教育到達度と諸要因との関係の分析, の 3 つにまと めることができる。

《国際数学・理科教育動向調査の目的は, 初等中等教育段階における児童・生徒の算数・数学及び 理科の教育到達度を国際的な尺度によって測定し, 児童・生徒の学習環境条件等の諸要因との関係 を参加国間におけるそれらの違いを利用して組織的に研究することにある。》(文部科学省HPより)

このなかで, 第2の調査である児童・生徒の学習環境条件等の調査の意義に関して, Ina et al.(2003)は, 測定した数学・理科の教育到達度をよりよく解釈し, 教育政策や教育実践 の改善につながる課題の提起に役立つと述べており, その調査は, 生徒・教師・学校長に 対する質問紙調査の形式で実施されている。

《それぞれの参加国に, 教育到達度の結果を解釈するための豊富な情報を提供し, 教育実践の変化 を追跡するために, TIMSS では, 生徒・教師・学校長に対して, 理科・数学の学習のための文脈に 関する質問紙への回答を求めている。この調査から得られた, 動向に関するデータは, 教育政策や 教育実践の実現における変化に関する動的な全体像を提供し, 改善努力に適した新たな課題の提起 に役立つ。》(Ina et al., 2003, p.3)

こうした調査を行うに際し, 文脈を理解することの意義について, Ina et al.(2003)は次 のように述べている。

《TIMSS の到達度調査の結果が, 何を意味し, 生徒の数学・理科の学習を向上するために, どのよ うに利用することができるのかを, よりよく理解するために, 生徒の学習に関する文脈を理解する ことは重要である。》(Ina et al., 2003, p.73)

そして, その文脈を理解するために, Ina et al.(2003)は「文脈に関する枠組み」を, 表 5-14のように提起した。

表 5-14:TIMSS2003 の「文脈に関する枠組み」

カリキュラム 学校 教師とその養成 教室の活動や特徴 生徒 1) カリキュラム

の構想 2) カリキュラム

の領域と内容 3) カリキュラム

の組織 4) 実施されたカ

リキュラムの 評価

5) 教科書類やカ リキュラム実 施の支援

1) 学校組織 2) 学校目標 3) 学校長の役割 4) 数学・理科の学

習のための資

5) 保護者の関与 6) 統制のとれた

学校環境

1) 教員養成と教 員資格 2) 教員採用 3) 職務 4) 初任者研修 5) 教師経験 6) 教授スタイル 7) 職能形成

1) 教えられるカ リキュラム内

2) 時間 3) 宿題 4) 評価 5) 教室環境 6) 情報技術 7) 計算機の使用 8) 調査活動の強

調

9) 一学級あたり の生徒数

1) 家庭環境 2) これまでの経

3) 態度

(Ina et al., 2003, pp.73-81より筆者作成)

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この枠組みの役割について, Ina et al.(2003)は次のように説明する。

《文脈に関する枠組みは, 生徒の学習の改善を目的とし研究される, 教育的・社会的文脈に関する 主要な特徴を特定するものである。》(Ina et al., 2003, p.73)

つまり, TIMSSが目指すものとして, 理数科教育における生徒の学習の実態を明らかに することはもちろん, その改善の方策をも想定しており, そのためには, 生徒の学習に関 する文脈の理解が不可欠であると指摘する。そして, その文脈を理解するために, この文 脈に関する枠組みが提起されたのである。

この枠組みが包含する領域として, Ina et al.(2003)は「カリキュラム」, 「学校」, 「教 師とその養成」, 「教室の活動や特徴」, 「生徒」の5つを挙げ, それぞれの内容を表5-14 のように示したのである。